ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 17 "The rule of a battlefield"
Action3 −教育−
同じ職場にいても、全員と仲良くなれる訳ではない。仲違いとまではいかなくても、接点が少ない者達もいる。
バート・ガルサスとエズラ・ヴィエーユ、この二人はその典型例であった。操舵手とオペレーター、近いようで意外と遠い関係。
人間的には何の問題もない。コミュニケーション能力もあり、誰とでも話せる。対人関係についてもこれまで大きな問題を起こせなかった。
何となく、と言うしかない。二人はプライベートで話す機会がなく、何となく自分から話そうともしなかった。ただ、それだけ。
だから、きっかけさえあれば二人はすぐに仲良くなれる。
「駄目です」
「で、でも、シャーリーはまだ病気が治ったばかりで――」
「だからといって毎日寝かしつけているだけでは、余計に身体を駄目にしちゃうわ」
カフェテリア、楽しいお昼御飯の一時に一組の男女が揉めていた。二人分の食事を持つバートを引き止めて、エズラが仁王立ちしている。
会話の内容で察した女の子達は、見物気分。口喧嘩にも見える光景を見ながら、誰も止めようともしない。
同じくお昼御飯を食べに来たミスティは彼らの様子を一瞥して、何事かと足を止めた。
「ねえ、どうしちゃったのアレ?」
「過保護な馬鹿兄貴を、母親が叱っている」
「あー、シャーリーちゃんの事か。何度も怒られているのに懲りないわね、あいつ」
サラダを齧りながらカイが面倒臭そうに説明すると、ミスティも呆れた顔をして同じテーブル席に座った。
先日滞在した星で病から救った少女を、バートが一大決心をして引き取った。故郷へ連れて帰り、家族に迎え入れるつもりだ。
シャーリーもバートを友達として、そして今では本当の兄のように慕っている。自分の故郷を出るのも躊躇いはなかった。
それはいいのだが――
「もう病気は治っているのに寝かせているんでしょう? 食事までわざわざ部屋まで運んで食べさせて」
「歓迎会で一度ふらついたのを、今だに気にしているみたいだな」
一時は危篤にまで陥ったのが災いして、バートはすっかり心配性になってしまった。義務感もここまで来るとありがた迷惑である。
確かにシャーリーは長い入院生活で体力がなく、歩くだけで息切れする。だからこそ運動が必要なのだが――
医者のドゥエロまでリハビリを進めているのに、バートは首を縦に振らない。
物には限度というよりも子育てのさじ加減というものが、バートには分かっていなかった。
見かねたエズラが口を出すようになり、こうして顔を合わせてはママさん対決が勃発してしまっている。
「僕にはシャーリーを元気に育てる義務があるんです!」
「だったら、たまには外で遊ばせないとダメよ!」
「外で何かあったらどうするんですか!?」
「……一生懸命甘やかしているわね、あいつ」
「俺だったらグーで殴ってる」
シャーリーが元気になったのは、カイにとっても嬉しいニュースだ。あの星では失敗も多くあったが、救いもまたあった。
旅を通じて多くの人と出会い、常に悩まされてきたが、出会いそのものを後悔した事は一度もない。
この少女、ミスティとも――今もこうして一緒に食事をするくらいには、関係は進展している。
「そういえばあの親馬鹿、あの子と一緒に住める広い部屋を探しているみたいじゃない。あんたはもう申請したの?」
「セキュリティレベル0だからな、俺。居住区に入れるかどうかで、揉めてる」
「……あたしも海賊になるの断ったからお客様扱いなのよね、今も」
育ち盛りのカイがサラダを齧っているのも好み以前に、注文できるメニューが限られているからである。
無論昔とは違って、今は冷遇されていない。ご飯も料理長や仲間達がご馳走してくれるし、彼を出禁にする部署もない。
ただ海賊を否定しているのは事実であり、マグノ海賊団側も立場の扱いに困っているのが現状だ。ミスティも同じくである。
「でもお前、イベントクルーになったんだろう」
「まだ見習いよ。それにあたし、フリージャーナリストとして活動するつもりだから」
「またよく分からん単語を……そんなんで取材とか出来るのか?」
「言葉もそうだけど、文化の違いもあるわね。その辺も認識合わせておきたいかな」
カイがパイロットなら、ミスティはジャーナリスト。彼女なりに見出した、自分のこれからの生き方である。
冥王星生まれの宇宙人である事を生かして、文化や価値観の壁を突破するべく日夜取材を敢行している。
特にタラーク・メジェールの国の在り方を疑問視し、ニル・ヴァーナにいる間にも勉強に取り組んでいた。
海賊ではないが、明るい性格の頑張り屋さん。同性であることも手伝って、クルーの間でミスティの評判はなかなかいい。
「大体あんた、色んな女の子友達の部屋に寝泊まりしているでしょう。そういうの不潔よ」
「青髪の部屋に押しかけているお前に言われたくない」
渡り鳥生活を罵り合う不毛さに、二人は揃って溜息を吐いた。カロリーの無駄遣いである。
生活が安定してくれば、 日常面の問題が浮き彫りになってくる。忙しいふたりも、ようやく自分の生活に目を向け始めていた。
バートがシャーリーを引き取ったのも、大きな影響を与えている。少なくとも彼は、自分の未来を決めたのだから。
「でもさ」
「あん?」
「あの子とバートが故郷で本当の家族となれるように、あたし達も頑張らないといけないね」
「全くだ」
シャーリーとバートが家族となるには、タラークとメジェールを隔てる男女の垣根を取り除かなければならない。
二人はまだ将来を明確に決めていないが、やるべき事は分かっている。お互いに、頷き合った。
「イベントチーフに頼まれたんだけど、今度あたし講演会をやる事になったの」
「講演……? 自分の人生でも語るのか」
「違うわよ。ある意味間違えてはいないけど――男と女の、本当なところ」
「男嫌いのあいつらが、そんなもん聞きたがるか〜?」
「それが今から予約殺到なのよね、ふふふ。やっぱ星は違っても、女の子はそういうのに興味津々なのよ」
「おのれ、あいつら……俺には以前銃を向けたくせに!」
――そんな二人に呼び出しがかかったのは、三十分後の事。お仕事の、時間である。
<END>
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