ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 15 "Welcome new baby girl"
Action10 −発電−
融合戦艦ニル・ヴァーナを襲う、激しい衝撃。船の故障とは明らかに異なる揺れは、クルー全員にとってお馴染みのものだった。
コンピュータールームにいたブザムも最悪を予期していただけに、衝撃の原因が何であるか察していた。
疑問の余地を挟む事もなく、手元の作業を一時中断してメインブリッジへ連絡を取る。
マグノ海賊団副長からの通信に応えたのは、停電中も業務に務めていたアマローネだった。
『システムダウンでレーダーが使えず、発見が遅れました! 敵戦力、接近してきます!?』
(……やはり来たか……)
敵の発見が遅れるとはブリッジクルーにあるまじき失態だが、非常事態なら仕方がない。ブザムは報告を聞いて、嘆息する。
全システムがダウンしている最悪のタイミングでの、敵の襲来。船内にスパイがいるのか疑いたくなるほど、手痛い状況で責めてくる。
そこまで考えて、苦笑する。仲間に裏切り者がいる――自分の胸に聞いてみろと、言いたくなる。
「パルフェ、ペークシスの状態はどうなっている」
『ペークシスの不調により、ニル・ヴァーナのシールドが使えません!』
機関部からの報告も、芳しくない。機関部クルーの新人であるソラも頑張ってくれているようだが、復旧には至っていないようだ。
無理も無いと思う。原因であるウイルスを除去出来ていないのだ。完全停止だけは食い止めてくれている分、まだマシだ。
空調施設が破壊されれば、クルー達が窒息死する。生命維持が行えている間に、ウイルスを除去しなければならない。
となれば、メインブリッジへ戻って指揮を取っている暇はない。同権限のある人間に、指揮権を委ねる必要がある。
「ガスコーニュ、ドレッドは使えるか?」
『勿論さ。外野はこっちに任せて、アンタは早いところウイルスを片付けておくれよ』
「……努力はしているよ」
何も言わずとも、ガスコーニュは察して引き受けてくれた。彼女の先見の明には、昔から助けられている。
敵勢力がどれほどのものか判明していないが、彼女に任せておけば問題はないだろう。
地球母艦での戦闘と状況は似ているが、全く同じではない。今は、仲間達が一致団結している。
「ピョロ、我々はウイルスの除去に全力を尽くす。お前も集中しろ」
「了解ピョロ! じゃあ、あの子に連絡を取ってみるピョロ?」
「ああ、医務室に通信を繋げてみる。応答があればいいのだが――」
気掛かりな点がある、エズラだ。ウイルス発症の原因は自分達にあるが、事の起こりはエズラの出産の号外だった。
ニル・ヴァーナの船医であるドゥエロは名医だが、出産経験も知識もない。その上、停電により医療機器が使えない。
医務室は今頃エズラが運び込まれ、出産に向けてバタバタしている頃だろう。自分達と連絡を取る余裕があるかどうか――
ブザムの懸念は、全く別の形で的中してしまう。
「エズラがエレベーターの中に!?」
『医務室へ運び込む途中エレベーターに乗り、この停電が起きたのです。不測の事故により、予期せぬ事態にあります』
最悪のタイミングで、最悪の事態が起きている。どうしてここまで重なって起きるのか、頭が痛くなる。
偶然という名の必然。エズラが懐妊間近と聞いて気が緩み、ピョロの軽率な行動を防げず停電となり、今の事態が起きている。
世の中の理不尽のせいにしてはいけない。ヒューマンエラーを起こしたのは、自分達なのだ。
まだ突破口はある。ウイルスさえ除去出来ればシステムは回復し、敵にも対抗出来る。
「そちらの状況は、分かった。ミスティと今、話せるか? 彼女に聞きたい事がある」
『ミスティは今患者と共にエレベーターの中にいて、連絡が取れません』
「どうしてエズラと一緒にいる!?」
『医務室を訪れて、ミスティの話し相手をしてくれていました。
冷凍睡眠から覚めたばかりで気が動転している彼女の為に、船の中も案内してくれていたのです』
余暇を誰と何処で過ごそうがクルーの自由だが、エズラは出産前で身重だ。自分も、少しは勞ってもらいたいものだった。
ミスティが心身共に不安定なのを気にして、連れ出したのだろう。彼女らしい優しさが今、自分を追い詰めてしまっている。
エレベーターの非常回線は、外来者のミスティには使用出来ない。エズラは連絡が取れる状態では――
「待て。ドクターはどうやってエレベーターの中の状況を確認している?」
『カイも同行していたので、通信機で向こうから直接連絡がありました』
「何故、カイも一緒にいる!?」
『同行していました。本人なりに、ミスティを案じていたのでしょう』
結局、こうだ。トラブルの原因を突き詰めると、最後に必ずカイに辿り着く。本人に悪気がないので、余計に性質が悪い。
カイが一緒だったから連絡が取れたのだが、ブザムにはカイが居たからトラブルが発生したように思えてならなかった。
被害妄想かつ、八つ当たり気味な責任転嫁なのは分かっている。だがこうも偶然が続くと、因果関係を疑いたくなる。
ブザムには珍しく渋面な顔をして、疲れた口調でお願いをする。
「……カイの通信機には、こちらから連絡が取れない。次に連絡があれば、すぐに知らせてくれ」
『分かりました。この状況です、すぐに連絡が来るでしょう』
ドゥエロの話によると先程まで連絡を取り合っていたらしいが、船内を襲う衝撃で通信が途絶えたらしい。
カイはまだ半年間の戦闘経験しか積んでいない未熟なパイロットだが、最前線で戦い抜いた強者でもある。
船全体を襲った衝撃を敵の襲来と察したに違いない。状況を見極めてから、判断を仰ぎに来るだろう。
指示を出さなければならないが、カイは停電中のエレベーターの中だ。身動き一つ取れない。
「全システムはダウン、ヴァンドレッドは使用不能。シールドは張れず、ブリッジクルーの一人が出産前。
そして、ペークシス・プラグマも不安定。戦場とは恐ろしいものだ、一つのミスでここまで追い詰められるとは」
ニル・ヴァーナ全体の状況を確認して、己が犯したミスの代償を思い知らされる。
自分一人の責任で済めばいいのだが、今回のような場合だとクルー全員の命に関わる。間違えました、では済まされない。
だからこそ、迅速な対応が求められる。緊急時に待ちの状態に陥ってしまう時ほど、歯痒いものはない。
「……カイの連絡を待つ余裕はないな……こちらでもパスワードの解析を行う。ピョロ、手伝ってくれ」
「パスワードの打ち間違いは許されないピョロよ!?」
「憶測で入力するつもりはない。システム分析をして、一つでも多くの情報を手に入れる。
パスワードと一口に言っても、どのようなキーワードを入力すればいいのか調査する」
副長として必要な指示は全て出した。自分一人で何もかも行うつもりはない。
此処は戦場、そして戦争は一人では出来ない。戦いに勝つ為には、仲間と協力し合わなければならない。
状況を楽観視はしていないが、悲観もしていない。どれほど困難であっても、かつてのような不安はない。
男と女――勝利の鍵は、全て揃っている。
「このタイミングでの敵の襲来、間違いなく狙いはこのカプセルとミスティだ。どちらも、必ず死守する」
「赤ちゃんも守るピョロ!」
「ふっ……そうだな、新しい命も我々が守らなければな」
ニル・ヴァーナは、私達が必ず守る。だからエズラとエズラの赤ん坊はお前に任せたぞ、カイ。
心配なんて、していない。男でも女でも、あの男が――命を見捨てるはずがない。
かつてカイがニル・ヴァーナから出て行った時、ペークシス・プラグマが突如停止する事態が生じた。
ペークシス・プラグマは船の動力源、この結晶体が停止すると全システムが機能しなくなり、停電に等しい状況に陥る。
事態を重く見たマグノ海賊団幹部達は原因究明と、今後同様の事態に陥った時の対策会議を行った。
調査も進められたが結局原因は不明、機関部主任パルフェ・バルブレアの開発案が採用されて新設備がレジシステムに導入された。
システムダウンが起きた際に、敵が攻めてきた時の対策――人力による、自家発電である。
「さあ皆、気張っておくれ。日頃の運動不足解消のチャンスだよ!」
自転車、エアロバイク、フィットネスマシン、エルゴサイザー等の人力自家発電機が、レジクルー総出でフル稼働している。
無論、通常の人力自家発電機でレジシステム全般を動かす電力は賄えない。パルフェが改良化した、緊急用の新設備である。
機関部に赤いペークシス・プラグマの破片が設置されたのと同様、レジシステムにもこうした緊急設備が導入されたのだ。
レジチーフであるガスコーニュもまさか、これほど早く使用する事になるとは思っていなかった。
「余った予備のエネルギーは全部、トッピングに回さないとね!」
チーフであるガスコーニュ自身も、呑気に部下を見守っているだけではない。蓄えられた電力を、効果的に活用している。
人力で稼動しているレジシステムを利用して、ドレッドの兵装を行わなければならない。敵がすぐそこまで、迫っている。
ただ、この人力自家発電機にも改良されているとはいえ、限界はあった。すぐに、その報告が上がる。
「ガスコさん、今の電力だとドレッドのカスタマイズ装備は無理だわ」
「そうかい、となると通常装備で出てもらわないといけないねえ……キツい戦いになりそうだ」
地球母艦戦後パイロットを引退したバーネット、今ではレジクルーの一員となって働いている。
彼女の報告を受けて、ガスコーニュは口に咥えた長楊枝を揺らす。予想していたが、良くない報告だった。
ドレッドは通常兵装に加えて、カスタマイズによる改造が可能である。個人に合わせた改造を行い、100%以上の力が発揮出来る。
そのカスタマイズ装備が出来ないとなれば、通常装備のみで出撃しなければならなくなる。戦力が落ちてしまうのだ。
「パイロットの皆はもう来ているわ。オーダーはもう通しているけど、どうしよう?」
「こっちも手一杯なんだ。各自で出てもらうように言っておくれ」
「この際、仕方ないか……分かった!」
一つ頷いて、パイロット達の元へ走るバーネット。その後姿を一瞥し、ガスコーニュは複雑な表情を浮かべる。
新人としてレジクルーに加わった彼女、実績は申し分ない。やる気もあり、他のクルーとも連携が取れている。
パイロット時代ジュラの影に隠れていたが、彼女自身レジクルーとは交流は取れていた。人間関係は決して悪くない。
ただ、このままでいいのかも思う。彼女を過去パイロットに推薦したのは、他ならぬ自分なのだ。
「人間関係ってのは、なかなか難しいもんだね……男と女となれば、特に」
仲直りはしたらしいが、バーネットはどうも――カイと距離を置いているように、見える。
パイロットを引退したのも、カイとの私闘で敗北した為だ。その後色々な経緯があって和解はしたが、関係を深めていないようだ。
バーネットを見ているとカイと距離を置きたくて、パイロットを辞めたように思える。一緒に戦う事を、怖がっている。
それが意味するところは、一つだった。
「ジュラは恋に憧れ、バーネットは恋を怖がるか……太陽と月のような関係とは、よく言ったもんだ」
好きだから一緒にいたい。好きだから一緒にいるのが怖い。正反対だが、どちらも同じ感情からの行動だ。
相手が男となれば、メジェールの常識があれば怯んで当然。同時にありえない関係に憧れるのも、女性としての感覚ならではだ。
同じ女性として、そして彼女達の上司として、応援はしてやりたいが――
「どっちを応援したものかね……これは難儀な問題だ」
システムダウンは解決出来ても、人間関係の問題はそう簡単には解決出来ない。
当人同士の問題は、結局当人が解決するしかないのだが、全員共に自分の気持ちに気付かず、問題として捉えていない。
この関係がどうなっていくのか、人生経験が豊富なガスコーニュにも分からなかった。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.