VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 4 −Men-women relations−





Action7 −職場−




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 結局、カイの申し出は正式に受理される事となった。

一時は船からの追放とまで断言していたアマローネ達だったが、カイなりの反省もあって受諾した。


「いい?今度問題起こしたら、容赦なく追放するからね!」


 ずいっとカイに身を乗り出して念押しするベルヴェデールに、親指を立てて頷いた。


「任せろ。男カイ、一度犯した過ちは二度も繰り返さないぜ」

「限りなく嘘臭いわね」

「おいっ!?やらないって!」


 睥睨して言うアマローネに、カイは焦った様に言葉を重ねる。

良くも悪くも自分に嘘がつけないのだろう。

一言一言に面白いように反応するカイに、アマローネは今初めて不信感が薄らいだ。


「艦内各セッションのリーダーにはアタシから話をつけておこう。
お前さんの立場は見習い、いわゆる一番下っ端さ」


 ようやく険悪な雰囲気が解消されたとあってか、マグノも一安心していた。

コンソールよりそれぞれの部署のリーダーを任されている者に事情を話し、カイの申し出を説明する。


「下っ端か・・・まあ、仕方がないか。
何度も無茶いって悪いな、ばあさ・・・いや、えーと・・・」

「いいさね。あんたにマグノ殿なんて言われたら痒くて仕方がないよ。
それにどう見ても敬語に慣れているようには見えないからね。ばあさんでかまわないよ」


 敬称に目を白黒させているカイがおかしくて、マグノは始終笑みを絶やさない。

そこへ聞いていたアマローネ達も思い出した様にクスクス笑った。


「そういえばさっきも舌噛んでたよね」

「どう見ても上品には見えないもん。今までごろつき相手にしか話してなさそう」

「やかましいわ!さっさと仕事するぞ、仕事!!」


 周囲にからかわれているのが気に入らないのか、やや顔を赤くしてブリッジ内を歩く。

アマローネ達も悪戯っぽい笑顔を口元に浮かべつつ、自分のシートへ座った。


「えーと、俺はどこへ座ったらいいんだ?」


 融合により新しく生まれ変わったメインブリッジ内は、主に七つのシートで構成されている。

まず中央に艦長席。

艦長席の前方にマグノを補佐するように二つのシートが設置。

それぞれに副長のブザム、オペレータークルーであるエズラのシートである。

せり上がった状態でのマグノ達のシートの周囲を囲む形で、四つのシートが設置されている形となっている。

その四つのシートの内、現在は一つが空席であった。


「お、いい席発見。俺はここでいいぜ」


 仕事をする気満々で腕まくりをしながらシートに座ろうとしたカイを、マグノが止める。


「どこに座る気だい、兄ちゃん。そこはドクターの席だよ」

「ドクター?ドゥエロの事か。あいつは医務室の担当だろう?」


 カイが不思議そうに首を傾げていると、アマローネが口添えをする。


「いざ戦闘となったら、パイロット達の心理状態や怪我の状態を確認しておかないといけないでしょう。
無理に戦わせて怪我でもしたら大変だし、ドクターの判断で出撃をストップしないといけない時があるの。
パイロットの人達の中には無茶する人がいるから」


 そう言って、じっとカイを見るアマローネ。


「その眼は一体何が言いたいのかな?黒肌君」

「身体的特徴で人を呼ぶのはやめなさいよ。悪口に聞こえるわよ」

「いや、別に他意はないぞ。それに言いやすいだろう」

「あたしが嫌なの!」

「へいへい、じゃあすだれ飾り君という事で」

「もっと悪いじゃない!」


 特徴的な服装を着こなしているアマローネは制服姿ではないものの、半分黙認で許可はとれている。

表面上はしっかりとした大人びた容貌をしている彼女であるが、胸元から腕を覆うようにしている飾りは、

アマローネ本来の魅力を際立たせるようによく似合っていた。

が、タラークで育ったカイには、そんな女性の細かな気遣いには鈍感であった。


「贅沢な奴だな。どうやって呼べばいいんだよ」


 座りかけていたドゥエロのシートを渋々立って、カイは頭を掻きながら唸った。

さすがに頭はもう冷えているのか、突っかかるような真似はしない。

逆に思わぬ質問されて、アマローネが戸惑いを見せる。


「どう呼べばって・・・・・え〜と・・・」


 身体的な特徴で呼ばれるのは無論死んでも嫌である。

かと言って敵であるカイに名前で呼ばれるのには、かなりの抵抗感があった。

なにしろ友人どころか、先程までは毛嫌いさえしていた男である。

悪い奴ではないにしても、男という嫌悪すべき対象の属側にいるカイとは仲良くできる訳もない。

結果、アマローネは思考の螺旋に陥ってしまった。

彼女が思い悩むのを楽しそうに横目で見ながら、カイは自分の座るべきシートを探す。

艦長席の前方に位置するシートも二つ空席となっている。

現在ブザムはタラーク・メジェールへの通信ポットを再設定中、エズラは検査のために医務室へ。

さすがに元来のシートの主人が誰であるか分からないカイでも、

その二つの席がブリッジ内での位の高い人が座るのだと直感で理解できた。

となると、消去法である。

残された席は四つで、ドゥエロの席で使用禁止。

最前方の二つのシートは左にベルヴェデール、右のシートにアマローネが座っている。

となると、残されたシートはたった一つ。

結論に至ったカイが最後のシートを確認して、目を剥いた。


「ク、クマぁっ?!」


 ブリッジ後方左手にあたるシートにて、何と一体のクマが鎮座していた。

カイは自分の眼が信じられない様にゴシゴシこすってもう一度確認するが、しっかりクマである。

遠くからでも分かる茶色のシルエットに可愛らしい顔つきをしている。


「何で!?何でブリッジ内にクマなんぞいるんだっ!?」


 カイが物珍しそうに何度も唸って、クマが座っているシートへと向かう。

好奇心に目を輝かせて自分の元へ向かってくるカイを、クマは初めて認識したように顔を向ける。

そして、ビクッと身を振るわせた。


「おお、本当にクマが座ってるじゃないか!!ばあさんのペットか何かか」


 クマをペットにしたり、ブリッジにペットを持ち込む艦長がどこにいるのだろうか?

本来ならあっさり気がつくのだが、すっかり興味しんしんになっているカイには気がつかなかった。

カイは元々好奇心が旺盛で、自分の思った事を即実行する行動型である。

そのままシートの傍に足を運び、間近でクマを覗き込んだ。

逆にクマは何故かカイを近づくのを拒んでいるのか、しきりにあっちへ行けと手を振る。


「まあまあ、そんなに邪険にするなよ。仲良く・・・うん?
これ、ぬいぐるみ?中に誰かいるのか」


 必死に拒絶の意を示すクマの手をそっと触ると、見た目とか違うごわごわしさにカイは眉をひそめる。

手触りと間近での印象から察するに、どうやらクマのぬいぐるみであった様だ。

一瞬戸惑いを見せたカイだったが、その隙をクマのぬいぐるみは見逃さなかった。


「嫌〜〜〜!!近づかないでよ!!」

「おうわっ!?」


 両手で派手に押され、カイは避ける事もできずに吹っ飛んだ。

畳み掛けるように自分の席を立って、クマはぽてぽてと足音を立ててカイから離れる。

そして離れた位置に立ったクマはすっぽりと頭の部分を脱いだ。


「へ・・・?って女!?」


 透明度の高い可憐な瞳を潤ませて、カイを見つめているのは一人の女の子だった。

ショートのグリーン色の髪に童顔ではあるが、可愛さと瞳の純粋な輝きを有した美少女である。

だが、可愛い容貌に映るのはカイへの嫌悪と明らかな恐怖であった。

そのまま逃げるようにカイから離れると、立ち上がったベルヴェデールの後ろに隠れる。

小刻みに震わせてそっとベルヴェデールの背後から顔を覗かせるその少女は、

胴体のクマの部分とミスマッチして、微笑ましいかぎりの光景だった。

だが、当人にはたまらない。


「あんた・・・問題起こしたわね」

「ちょっと待てよ!俺は別に・・・」


 制服に包まれた豊満な胸の前に腕を組み、カイをじっと見つめるベルヴェデール。

何とか誤解を解こうとするが、隣のアマローネも黙ってはいなかった。


「はあ〜、短い付き合いだったわね・・・・・」

「おーい!!俺は何もしてないって!!」

「犯罪者は皆そう言うのよ」

「犯罪者って人聞き悪いし!?」


 先程まで険悪な喧嘩をしたカイだが、本当に悪意はなかった。

ただ純粋に珍しかったので、純粋にクマに近づいただけである。

だがクマの中身は女の子、しかも涙すら浮かべてカイを怖がっている。

言い訳が全く通じそうにないほど、状況はカイに不利だった。


「だからだな、俺はただクマがいたから珍しく近づいて・・・」

「あわよくば危害を加えようとした、と」

「脚色するなよ、金髪!!」

「うう・・・そんな事をしようとしたんですか・・・・」

「あっさり信じるな、そこ!」


 女性三人の冷たい視線を一同に食らって、カイは仰け反りそうになる。

何とか誤解を解こうと口を開きかけたその時、聞いていたマグノが横槍を入れた。


「早いね、十分もたなかったじゃないか」

「だから待てや!俺はちゃんと仕事をしようと思ってて、席をだな・・・・」

「男の言い訳は見苦しいね。素直に認めたらどうだい?」

「何がだぁぁぁぁ!!」


 地団太を踏んで、カイはあらん限り叫んだ。

自分で行った行為でならともかく、冤罪で船から追い出されたらたまらない。

ヒーローを目指す身としては、最低に分類される去り方であった。

怒鳴ってばかりで息が切れたのかカイは呼吸を荒げていると、厳しい強面だったマグノの表情が崩れる。


「やれやれ、あしらわれている様じゃまだまだだね」

「はあ?」


 言っている意味が分からず、カイは訝しげにマグノに視線を向ける。

マグノは心底楽しそうに笑みを浮かべながら、前を顎でしゃくった。
ばっと弾かれた様に前を見ると、怯える女の子とは対照的にベルヴェデール達は笑いを必死で堪えている。

二人の様子に全てを察したカイは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「お前ら、俺をからかってやがったな!!」

「あははははは!!あんまり素直に信じるから、ついね」

「もう、そんなに目くじら立てないでよ。えへ」


 お腹を抱えて笑うアマローネに可愛く舌を出して誤魔化すベルヴェデール。

わなわなと身を震わすと、カイは感情のままに猛突進を開始する。


「許さんぞ、お前ら!性根を叩き直してくれるわ!!
そこへなおれ!!」

「やだ〜、冗談よ冗談♪」

「ヒーローが些細な事で怒ったらいけませんわ」

「やかましいわ!人が大人しくしていればつけあがりやがって・・・・・・・・
根性を叩きのめしてやる!
ああ、こら!逃げるんじゃねえ!!」


 ブリッジ内を駆け巡り、カイとベルヴェデール達は鬼ごっこを開始する。

脚力はカイが上なものの、身軽な二人と合わせてほぼ同等だった。

残されてしまった緑の髪の女の子は呆然としながら、カイ達の様子を取り残された形で観察している。


「ふふ、BCが見ていたら怒鳴り散らしているだろうね・・・」


 規律に厳しいブザムが暴れまわっている三人を叱責する光景が目に浮かぶ。

マグノ自身は今のカイ達を止める気はないようだ。

ぶつかり合いながらも少しずつ歩み寄り始めている三人の様子を、マグノはどこか満足げに見つめていた。















「じゃあ改めて紹介するわね。
私はベルヴェデール・ココ。艦内コンディションと近距離レンジのセンサーを担当しているわ。
で、こっちが・・・・・・」

「アマローネ・フランシーバよ。あたしは長距離レンジのセンサーを担当しているの」


 どたばた劇も何とか鳴りを収め、カイ達は再び艦長席前にて集っていた。


「知っていると思うけど、俺はカイ=ピュアウインドだ。呼び名は自由でいいぜ」

「じゃあはみ出し者君で」

「何でそんな嫌な呼び方なんだよ、金髪!」


 今のカイの境遇にはぴったりと言えばぴったりではあったが、本人はお気に召さないようだ。

カイが異議を唱えると、ベルヴェデールは口を尖らせて反論した。


「あんたがその呼び方やめたら、考えてやってもいいわよ」


 高飛車な言い方に言い返したくもあったが、また火種になれば元も子もないのでカイは渋々了承した。


「えーと、その・・・」

「うんうん」

「あーと・・・・・・」

「早く聞きたいな、あたし」


 二人に焦らされて、言い様のない感情にほだされつつもカイはようやく小声で呼びかけた。


「べ、ベルヴェデール、アマローネ・・・」

「はい、よろしい。今度からはちゃんとそう呼びなさいよ、カイ」


 若干ながらも嬉しそうなベルヴェデールに、アマローネも苦笑しつつそっけなく答えた。


「しょうがないわね。
馴れ合うつもりはないけど呼び名くらいは普通に呼んでいいよ、カイ」

「はいはい、光栄に思います。で、いつは?」


 カイが視線を向けるその先には、自席に座って黙々と作業をしているクマのぬいぐるみ。

すっかり頭も被さり、カイがいる事を意識して無視しているようだ。

紹介を促されたアマローネは一瞥して、淡々と述べる。


「あの娘はセルティック・ミドリ。
元々少し引っ込み思案な所があるんだけど、大の男嫌いなのよ。
と言っても、私達メジェール人にすれば男は多かれ少なかれ嫌いではあるけど」 


 メジェールではばい菌扱いされているのが「男」である。

セルティックが特別という訳ではない。

無論艦内百五十名のクルー達も、今だ男には強い不信感が根づいている。


「なるほど、俺の故郷のタラークの面々も女は鬼畜同然とか言っているからな。
あの娘を責めるつもりはねえよ。
何でクマのヌイグルミなんぞ着ているのかが気になって仕方がないけどな」


 艦内の空調は過ごし易くされているとはいえ、暑くはないのだろうか?

他人事ながらに珍妙なスタイルをしているセルティックが気になっているカイであった。


「お頭が男との共存生活を決めてからああなのよ。
ここには男の操舵手が頻繁に来るから、毛嫌いしているのだと思う」


 つまりは男と接触するのはおろか、同じ空気を吸うのも嫌だという表れなのだろう。

カイとて仲良くなりたいという訳ではないのだが、忌み嫌われ続けるのには気分はよくない。

事実、それが原因で今日女たちと派手にぶつかり合ったのだ。

とは言え、一朝一夕でどうにかなる問題でもない。

メジェールの徹底した男蔑視に、カイはため息を吐くしかなかった。

と、カイはふと思い立ち二人を見つめる。


「そう言えば、俺にはベルヴェデールやアマローネも普通に接しているよな」


 カイの疑問に、少し思い悩む仕草でベルヴェデールは答える。


「そう?初対面から喧嘩ばかりしてたじゃない。
実際今もまだ信用している訳じゃないし、男は私も嫌いよ」

「そうか。あんまり気にした事はなかったけどな・・・・・」

「そういうカイはどうなのよ。私達と普通に話してるあんたも相当変よ」


 アマローネの指摘が意外だったのか、カイは目をぱちくりする。

話を聞いていたマグノも付け足す形で口を開いた。


「確かにタラークの男にしちゃ変だね。喧嘩したかと思えば、謝りにわざわざ来ている。
ましてや、女の仕事を知りたいだなんて普通は思わない筈さね」

「そ、そういうもんなのか?!」


 小さく頷くマグノに、しきりに首をひねるカイ。

タラークでは女は鬼と断定づけられており、マグノ達は海賊ゆえに一層嫌われている。

タラーク国民の九割は今のカイの立場に置かれれば自殺するか、徹底交戦を行うかどちらかだろう。

少なくとも共存などもっての外の筈である。

カイが今回の騒動で吐いた暴言にしても、わざわざ謝る必要はない。

女は敵だという意識をもっていれば、カイが女と揉め合っていた時の方がタラークよりであった。

ところが今はマグノ達に理解を示す事はおろか、自分の罵倒を恥じて認識を改めようとしている。

これではまるで対等の人間として扱っているのと変わりはない。

これまでさした認識をもっていなかったのか、カイは愕然とした。


「確かにカイって変わり者かもしれないね。私達の事なんてほっておいていいのに」

「う・・い、いいんだよ!俺は俺だ。
自分の好きに行動して何が悪い。俺が自分で決めたから、こうしているだけだ。
タラークは関係ない」


 タラーク上層部が耳にすれば死刑にされてもおかしくない事を、カイは言ってのけた。

奔放なマーカスの元で育ったのと記憶喪失が関係しているとはいえ、カイの考え方は変わっている。

だが、ベルヴェデール達にとってはいい意味での今まで敵対したタラークの男との違いを感じていた。


「ふ〜ん、あんたってやっぱり変わってるわね・・・」

「べ、別にいいだろう!それより仕事のほう教えてくれよ。
一時間足らずの見習いだけど、やる事はきっちりやるぜ」


 マグノの案により、カイは全部署の見習を今日一日だけの体験として行う事となっている。

とはいえ専門的な分野も数多くあり、仕事の種類も枝分かれしているので、

各セッションによる時間配分が決められていた。

その事を思い出したアマローネは三人のクルーの中での年長者という事もあって、率先して指導を行う。


「オッケー。カイは素人だし知識もないから、仕事に関しては見学してもらうわ」

「見学かよ。俺も何かやってみたいんだけどな」


 やる気が殺げたのか、カイは不満顔で反論する。

そんなカイに隣にいたベルヴェデールは冷めたつっこみをする。


「何かって言うけど、あんたコンソールの使い方知ってるの?」

「コンソール?何それ」


 問題外だった。

あからさまに呆れ顔でため息を吐いて、二人は自席に座って、コンソールを立ち上げる。

ちなみにコンソールとは作業を行う上での総合コンピューターであり、

手元に常に位置させる事により、全面的な作業を行う装置であった。

カイに一通りの基本を教えたアマローネは、自分の手元にカイを案内する。


「さっきも言ったけど、私は長距離担当でベルは近距離担当なの。
常に船の外部の様子をチェックして、何かあればすぐに索敵に取り掛かるのよ」

「常にって、まさかずっとチェックしているのか!?」

「そうよ。でないと、奇襲して襲い掛かってこられたら命取りになるじゃない」


 未知の敵が襲い掛かって来た時、すぐに非常警報が艦内全域に行き渡るのはブリッジクルーあっての事だ。

自分はいつも何気なく聞いて、ただ出撃していれば良かった。

だがアマローネ達はカイが休息を取っている間にも、周囲に気を配っているのだ。

単純なようで気の滅入る仕事を当然のように話すアマローネに、カイはまじまじと見つめるしかなかった。


「で、艦内の仕事はベルが主な担当なの。
何か艦内でトラブルがあったり、事故があったりしたら直に知らせるのよ。
この場合は最優先にお頭に、非常警戒レベルが高ければクルー全員を優先して知らせるのよ」

「ベルヴェデールが担当か。トラブルって言うと、どういう種類のがあるんだ?」 


 ちらりとカイが一瞥すると、ベルヴェデールは少し照れたように言った。


「小さい事ならクルー達の騒動、大きな事なら艦システムの異常がそうね。
船が融合した時もシステム不備があったでしょう?
あの時も私達がバックアップして、システム復旧を行ったのよ」

「えっ!?パルフェがやったんじゃ・・・・」

「パルフェは機関全域でしょう。システムの細かなセットアップや点検は全部私達がやったのよ。
知らなかったの?」


 カイには今初めて聞いた事実だった。

てっきり機械の専門はパルフェが行っており、システム関連も担当だと思っていた。

いや、思い込んでいたというのが正しいだろう。

でも、違っていた。実際はベルヴェデール達の貢献があってこそだったのだ。

今まで最前線で戦う自分の仕事が一番重要で、一番苦労しているとばかり思っていた。

だがベルヴェデール達の仕事をやってみろと言われて、根気強くやれるだろうか?

戦いだけじゃない。常に全体を把握するがために、毎日毎時間を懸命に頑張っているのだ。

船を維持するために、仲間を助けるするために。


「船の全区域だけじゃなく、外もずっと見張っているのか?」

「そうよ。だって・・・・・・・・」


 手元の作業を止めて、上から見つめているカイをそっと笑顔でアマローネは見つめて言った。


「皆の力になりたいから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 

「地味な作業かもしれないけど、お頭や皆が少しでも安心して自分の仕事ができるように、
あたし達はいつも頑張っているのよ。
セルティックはそんな私達の全体的な補佐として頑張ってくれているわ」


 この時、初めてカイは・・・・・

自分がどれだけベルヴェデール達を軽はずみで馬鹿にしていたかを思い知った。

敵が接近してきた時、自分はどうしてすぐに敵の存在を察知できたのか?

艦に異常が起きた時、何故自分はその事実にいち早く直面できたのか?

その全てが目の前の女の子達の地道な働きの賜物なのだ・・・・・・・


「どうだい、カイ」


 声のする方向へ視線を向けると、マグノは穏やかにカイを見つめていた。


「『実況』だけの仕事もなかなか捨てたもんじゃないだろう」

「・・・・・・・・ああ、そうだな・・・・」


 少し前に自分が言いのけた言葉。

改めて聞くと、どれだけ無知で悪意がこもっていることか。

マグノから聞かされた自分の言葉に、カイは自分自身に腹ただしさすらを感じた。


「カイもちょっとやってみる?」

「・・・えっ!?」


 考え込んでいたせいか聞き取れずにいると、アマローネが反復する。

「艦内放送よ。今ちょうど全域の見張りが終わったから、安全をクルー全員に教えないといけないのよ。
どう?」


 カイが倒したキューブ型が全て掃討を終えたのか、そして追撃がこないか索敵が終わったのだ。

今だ不安にしているかもしれないクルー達にその事実を教えないといけない。

その役目を、カイにやらせようと言うのだ。

戸惑いこそあったが、カイは喜んで承諾した。


「やらせてくれ!お前らの仕事、やってみたくなった!」


 自分達の仕事を理解してくれたカイのやる気のある態度に、アマローネは嬉しくなった。

両者の行き違いが少しずつ埋まりつつあるのだ。


「ふふ、そう?そ・れ・じゃ・あ」


 アマローネがベルヴェデールに目配せすると、彼女はぱっと喜色満面の笑顔を浮かべた。

二人の意味ありげな行動に嫌な予感を感じるカイ。

そして、ばっちりその予感は的中する事となった。


「私達の仕事をするんだから、当然身なりもそれらしくしてもらわないとね」

「はあ?」

「分からないの?仮にもブリッジクル−の一員なんだから、当然・・・」

「・・・待て。まさか・・・・・・・」


 カイが恐る恐る伺いを立てると、二人はそうだとばかりに力強く頷いた。


「やっぱり制服を着てもらわないと。ね、ベル」

「勿論よ、アマロ」

「ふざけんなーーーー!!!!!」


 仮にも女性専用の制服を、男である自分に着せようと言うのである。

珍事どころか、カイにとっては屈辱以外の何者でもない。


「何で俺が女の制服を着ないといけないんだ!?」

「あんた、今日は私達の仕事の見習いでしょう」

「それとこれと話は・・・・・・」

「お頭、この意見間違っていますか?」


 半ば確信をこめてベルヴェデールが尋ねると、マグノは真面目くさった顔で首を振る。

いかにも威厳を出そうとはしている様子ではあるが、その実、笑いを堪えるのに必死だった。


「あんた、今日は見習いだろう?先輩の意見が最優先だよ」

「本当にそう思ってるのか、てめえ!
面白がってるだろう!そうに決まってる!」

「そうさね・・・・せっかくだから、各部署ではそれぞれの制服を着用づけてもらうとしよう」

「やめろぉぉぉぉーーーーー!!!!!!!!」


 男の悲痛な叫びがブリッジに木霊する・・・・・・・





そして、数分後――





ブリッジ内では、ベルヴェデール達の黄色い歓声と明るい笑い声が響き渡った。


















<続く>

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