ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






LastAction −ミスティ−






 クリスマスパーティが行われた会場にて、『宇宙人』お披露目会が急遽イベントクルー主催の下で行なわれる事になった。

地球の魔の手から奪還した救命ポット、その中で一人の人間が冷凍睡眠されている。要は解凍作業なのだが、思いのほか人が集まったのだ。

故郷へ向けての長い旅路で、彼らは娯楽に飢えている。男女共同生活に慣れてしまえば、新しい刺激が欲しくなるというものだ。


会場には戦闘員、非戦闘員問わず多くの男女が集まり、解凍される瞬間を今か今かと見守っている。


「やっと起きたのね、このねぼすけ。人が忙しく働いてきたというのに、呑気なんだから」

「俺は今日休暇をもらったの、文句言われる筋合いはねえ。お前らこそ、仕事を放り出してきたのかよ」

「逆、仕事を終わらせてきたの。普段サボってばかりのアンタと一緒にしないでよ」

「――」

「怠け者は死ねとまで言うか!? 毎日一生懸命戦ってるんだからたまには休ませてくれよ、クマちゃん」


 アマローネ、ベルヴェデール、セルティック。お馴染みのブリッジクルー三人娘が、検査を終えたばかりのカイに話しかける。

お互い既に苦労を分かち合える関係になっているのだが、口を開けばこうした軽口の応酬になってしまう。

とはいえ相手にはその真意は伝わっているので殺気立たず、文句を言われても笑っていられる。


セルティックもカイの顔を見た瞬間クマの顔を着けるあたり、彼を如実に意識した形だ。


「世界を救う英雄様なのでしたら、か弱き女性の為に身を粉にして働くべきではなくて?」

「どの口が言うか。男勝りの海賊のくせに――何その、マスコット」

「友達になった。マイフレンド」

「仕事の途中だったのに、無理やり連れてこさせられたのですわ! 貴方、この子を引き取りなさい!」

「取り憑かれそうなので断る。女同士、仲良くやってくれ」


 仕事熱心なエステチーフと、仕事不真面目なクリーニングチーフ。この二人の関係も、地球母艦戦から始まったものだ。

カイに強烈なライバル意識を燃やす女性と、カイに強い仲間意識を持つ女の子のコンビ。二人揃って、本人に声をかける。

地球母艦戦以後もちょくちょく顔を合わせては、言葉を交える。日常茶飯事に意識し合う事はないが、気にはなる。そんな関係だった。


友達、仲間、恋人、家族。どの言葉も、しっくり来ない。そんな関係も、男と女ならありえるのかもしれない。


「聞きました、カイさん。中で眠ってらっしゃるのは、私達と同じ人間だそうですよ。
簡単な食事を用意したのですけれど、食べて下さるかしら」

「油断は禁物だ。敵となる可能性もある。遠巻きではあるが、私の部下にも警戒させている」

「二人とも、お疲れさん。相変わらず、仕事熱心だな」


 人の安全と食を管理する任務、警備とキッチン。珍しい取り合わせのチーフ二人が、カイに話しかける。

交代制勤務の彼女達に決まった業務終了時間は無く、特に職務意識の強い二人はこの場にも仕事で訪れていた。

『宇宙人』への食事と、警護。気遣いと警戒を忘れない二人がいれば、何があっても大丈夫だと安心させられる。


この二人との関係は、事件の前後でも特に変化はない。話す度に理解し合い、仲良くなる。健全な関係だった。


「みなさーん、間もなくセキュリティチェックが終わりまーす。
その後いよいよドクター立ち会いの下、パルフェ主任による解凍作業が行われます。

今世紀初の宇宙人が、皆様の前に姿を表すのです!

おーい、そこの旧宇宙じーん!」


「……何故俺の顔を、直視する」


「あんた以外に誰がいるのよ、前に出て。このイベントの目玉なんだから」


「嫌な予感しかしないんだが……?」


「宇宙人同士の、ファーストコンタクト! 世紀の瞬間でーす!!」


『おおっ!!』

「こんな事で盛り上がるのか、女ってのは!」


 イベントチーフによる音頭取りで、会場に集まった女性全員からの拍手と歓声。大人気だが、完全に珍獣扱いだった。

アマローネ達に囃し立てられ、ミレル達に笑われ、ヘレン達に背中を押され、女性陣に押し出されて、観衆の前に連れだされる。

会場のど真ん中には、救命ポット。カイ機専属エンジニアであるアイとパルフェが解凍作業を行っている。


「救命ポットに関しては、何の問題もないね。そっちはどう?」

「生命維持装置も正常に働いておる。コールドスリープ機能を解除しても問題はなかろう。
やれやれ、専門外じゃというのに儂を担ぎ出しおって」

「あはは、ごめんね。ソラちゃんがいればよかったんだけど、あの子にはペークシス君の面倒を見てもらってるから」

「何やら不調のようじゃのう……儂も、此奴の機体の面倒を見なければならぬのじゃが」

「何時出番があるか分からないからな、相棒の事よろしく頼むよ」

「ふふ、任せておけ。何時でも最高の状態で出撃出来るようにしてある」


 ツナギ姿の天才機関士に、着物姿の天才エンジニア。二人の作業は実に正確で、素早い。

救命ポットに異常や罠がない事を確認した上で、冷凍睡眠状態の解除とポット内の人間の蘇生作業を同時に行う。

作業をしながらも雑談する余裕のある、二人。最高のメカニック達が、カイやメイア達パイロットの今日を支えている。


そんな彼女たちの手により――救命ポットが今、展開された。



「中に居るのは……女、か」



 救命ポットの中で眠っていたのは、青い髪をした一人の女の子。身体にフィットした救命着をつけて、眠っていた。

ディータと同じ年頃の、少女。瞳は閉じられているが、静かな寝顔から可愛らしさを覗かせている。


自分達の知らない世界からやって来た、宇宙人。彼女はカイ達と同じ、人間であった。


見守る一同に驚きこそあるが、畏怖はない。未知に遭遇して恐怖するには、少女はあまりにも可憐だった。

呼吸さえ聞こえてきそうな、顔色の良さ。生命維持装置に守られて、女の子は息づいていた。

同じ生命を持っているのならば、分かり合えるかもしれない――分かり合いたいと思うその気持ちこそ、半年間で生まれた共存の意思。

女性陣は皆黙って、カイを見つめる。期待されている役割に、少年は力強く頷いて歩み寄る。その背後に、



「カイ、一応警戒はしておけ」

「分かってる――おい、聞こえるか」



 リングガンを手にしたメイアが、膝をついて話しかけるカイの背に立つ。ラバットの一件もある、外来の人間には注意して損はない。

ドゥエロが念の為簡単に検査をするが、異常はない。生命維持装置は停止して、冷凍睡眠が解除される。


艦内の新しい空気と、少年の声に誘われるように――少女はゆっくりと、目を開いた。


「……あなた、が……」

「大丈夫だ、俺達は敵じゃない」

貴女・・が、救ってくれたのね」

「いや俺じゃなく、こっちの――」



「ありがとう、わたしのお姉様・・・!」



 少女は目を輝かせて、カイ――の背後に立つメイアに・・・・抱き着いた。

リングガンを発射する間もない、一瞬の早業。本人は目を白黒させて、行き場のない両手をあわあわさせている。

突然の抱擁劇に、女性陣一同が大歓声。黄色い声援が木霊する中、立場のない男が吠える。


「こらこらこら、てめえは起きるなり何してやがる!」

「誰よ、あんた。まさか――お姉様の恋人!?」


「違うもん! 宇宙人さんは、ディータの宇宙人さんだもん!!」

「ドサクサに紛れて何言ってるのよ、あんた! カイは、ジュラの可愛い子供の父親になるのよ!」

「どういう事だ、カイ!? お前、ジュラをファーマにするつもりか!」


「お姉様、そんな男にかまっちゃ駄目です!!」

「てめえこそ青髪から離れろ!!」


 新しい宇宙人、少女の名前はミスティ・コーンウェル。タラーク人でも、メジェール人でもない、新しい星の人間。

その独特の価値観は正常か、異常か。はたまた、まるで異なる何かか。


安定しつつあった男と女の関係は再び乱れ、新たな修羅場へと誘っていく。



タラーク、メジェール――祖国への道のりは遠く、険しい。 





























<END>







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