VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 4 −Men-women relations−
Action2 −慢心−
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艦内に敵の襲撃を告げる禍々しいアラートが緊張を煽るかのように響き渡る。
旧艦区格納庫内と呼ばれる一画においては、壁際に一列に並んでいる赤色灯がリズム良く点滅していた。
赤色灯はタラークでは緊急事態発生と出撃の激励をかねた合図となっており、
戦いに出向く戦士達の精神を引き締める効果も担っていた。
良くも悪くも、戦場では心構えの違いが生死を穿つ結果になりかねないからだ。
「うっしゃ、一番乗り!へへ、幸先がいいぜ」
指の関節を握ってポキポキ鳴らしながら、カイは相棒である自分の蛮型に乗り込んでいた。
マグノの一存で格納庫の出入りと戦いへの出撃を許されたカイは、自由気ままに行動していた。
敵キューブの苛烈な攻撃により船体は揺れ、格納庫にも衝撃は伝わっているが、
コックピット内のシートに鎮座するカイは余裕綽々であった。
全システムの出撃前の事前チェックも終わり、短時間で情報演算を終了。
手馴れた手つきで出撃待ちモードへの完了を済ませたカイは、そのまま出撃モードへと移行する。
操縦席の中央に位置するメインモニターが外部情報を知らせ、機体のカメラアイが赤く輝く。
同時に射出口が開き、カイの蛮型が少しずつ下へとスライドを始める。
後はコックピット内のスロットルレバーを引けば、いつでも出撃可能であった。
「いよいよ戦いの開始か・・・」
カイは自らの内より生まれる戦いへの昂揚感と戦場への緊張に、身体を奮わせる。
操縦レバーを握る手は熱く、表情に浮かぶのは例えようのない荒々しい喜びであった。
イカヅチでのメイア達との初戦で感じていた恐怖は、もう既にカイの心にはない。
「青髪や赤髪はまだ来ていないみたいだな・・・・?
家来もパルフェの手伝いをするってどこかに行ったきりだしよ。
ま、俺一人で充分か。あいつら、いまいち頼りにならないし」
経験は人に自信と誇りを与える。
初戦からのメイア達ドレッドチームとの交戦、本体ピロシキ型とキューブ型百数十体との攻防戦。
タラークにとっても、メジェールに照らし合わせてみても、カイのデビュー戦はあまりに苦難であった。
ましてやカイは軍人ではなければ、海賊でもない。
戦いに出向く前は壮大な夢を持っている、それでもただの一般人であった。
且つ可能性はおろか生き残る可能性も低すぎた戦い。
そんな二戦の生死を賭けた熾烈な状況を奇跡的に乗り越えた事は、カイに大きな自信を与えていた。
憧れの彼方であった宇宙、夢の舞台。
憧れと羨望を持っていたあの頃の自分はもういない。
今存在しているのは自由に宇宙を駆け抜けて敵を蹴散らし、女達の危機を何度も救った強い自分だった。
「どんな奴だろうと、俺の行く手を阻む奴は蹴散らしてやるぜ」
勢いのままにスロットルレバーを引くと、カタパルトが強い圧力を持ったエネルギーを生み出す
。
ペークシスに改良された新しい蛮型も全身に力が漲り、宇宙へと飛び出していった。
「宇宙一への道、俺とお前で突っ走っていこうぜ!」
経験は人に自信と誇りを与える。
だが自信は時に別のマイナスへの因子に繋がる事を、カイはまだ理解してはいなかった・・・・
融合戦艦より射出されたカイの蛮型が、宇宙空間へ踊り出る。
さながら舞うような滑らかな半回転を行い、カイは操縦レバーを巧みに操る。
操縦の仕方には淀みはなく、実践で鍛えられた基本テクニックを完全に身に付けていた。
カタパルトより抑制された勢いの流れを完全に止めて、カイは戦艦を襲う敵を把握する。
「敵さんは以前の雑魚が六体か。親玉はいないみたいだな・・・・」
メインモニターにより映し出される敵影は、キューブ型ばかりでピロシキ型はない。
キューブ型が前回の戦闘で尖兵の役割を担っているのはすでに承知済みであったが、
独立した行動を行っているのはいさかか不可思議ではあった。
敵側の領域を侵入する戦艦の戦力を把握できていないのか、様子見のみで別の狙いがあるのか。
どちらにしても、カイには関係はなかった。
「ちゃっちゃと片付けてやるか。来やがれ、雑魚供!」
にやりと不敵な笑みを浮かべて威勢のいい声を投げかけるカイ。
無論コックピット内の声がキューブに届くはずもないのだが偶然の産物か、
キューブ型数体が蛮型の存在を探知し、一目散に向かって来る。
蛮型へと照準を合わせ、キューブ型はビームを乱射して放った。
カイは蛮型より背中から二十徳ナイフを引き抜き、ブレードタイプへとモードチェンジさせる。
「やる気満々みたいだな。おもしれえ、死に花を咲かせてやんぜ!」
惨烈するビームを垂直に飛んで逃れると、そのまま一直線に攻撃を放つキューブ型に接近する。
対するキューブも多角的に動きながらビームを放つが、カイの蛮型の起動能力には一歩及ばなかった。
縦に、横にと軌道を変えて接近させ、カイはキューブ型一体を通り抜けざまに一閃する。
ブレードの切れ味をまともに浴びたキューブ一体はピシっと一文字に亀裂が走ったかと思うと、
青白い火花を発生させ、後に宇宙にオレンジ色の華を咲かせて四散する。
「まずは一体!」
そのまま勢いを殺す事無く慣性に従って、カイはブースターを加熱させる。
前方へと加速的に進む蛮型の性能と機動力に、別の二体が歪曲に左右より接近を試みる。
蛮型がブレードという接近戦タイプの武器である事を考慮に入れた戦い方の変化であろう。
「なかなか頭がいいな、こいつら」
右から襲いかかるキューブ型を斬り付けると、がら空きになった背後よりもう一体が攻めてくる。
逆にまた然り、どちらを選んでもダメージを食らう事になってしまう。
メインモニターより表示される二体の予測進路を確認したカイは、敵ながら感嘆のうめきを漏らした。
だが、キューブ型二体は一つだけ考慮に入れていないデータがあった。
敵の蛮型の搭乗者は教科書通りの試合派ではなく、実戦を潜り抜けた戦闘派スタイルである事を。
二体のキューブが左右より急速接近しながら発射する飛来弾を上昇してかわしながら、
カイは持っていたブレードをランスタイプへと組替えた。
元々蛮型に標準装備されている十得ナイフでは変化不可能なパターンであるが、
ペークシスに取り込まれた改良型、いわゆる『SP蛮型』標準装備の二十徳ナイフなら可能である。
「わざわざお前らの接近を待っててやる義理はない・・・・ねっ!!」
蛮型を反射したブースターで急停止し、持っていたランスを振りかぶって一直線に飛ばす。
右から歪曲して襲い掛かろうとしていたキューブ型は目標が自分である事を察知するものの間に合わず、
結果頭上より中央軸に突き刺さったランスに強制的に機能停止させられ、爆発する。
予想だにしない蛮型の攻撃に対応しきれないのか、左方キューブ型が戸惑いを見せる動きをする。
何しろ目標であった敵が近距離戦を試みず、遠距離より味方を仕留めたのだ。
時間にして数秒の動きの乱れではあったが、それを見逃すカイではない。
輝ける軌跡を残して、一目散に宇宙空間に浮かぶランスを手に持つ。
そして惰性的にビームを掃射する左方のキューブ型まで一気に操縦して、正面からランスで貫いた。
背中部分より飛び出した槍先より黒色上の液体が流れ、真空に消える。
致命的なダメージを食らったキューブ型はエネルギーを内部から破裂させて、塵と化した・・・・
「敵キューブ二体撃破。ヴァンガード、なおも接近」
「残り三体、本艦への攻撃を中止。ヴァンガードへと向かっています!」
メインブリッジにて、アマローネとベルヴェデールの透き通る声が響く。
中央メインモニターより融合戦艦を中心としたカイの蛮型とキューブ型数体の戦いぶりが映し出されている。
艦長席より戦況を見つめるマグノに、副長としての傍らの位置にいるブザムが話し掛ける。
「期せずして、敵の注意がカイに逸れましたね」
「ああ。もっとも、坊やがそこまで計算していたとは考えにくいけどね」
カイの独断の出撃により、敵キューブ型は蛮型のみ注意を向けている形となった。
突然の奇襲に対応が遅れていたマグノ達にしてみれば、カイのお陰で立て直す事ができたといえる。
「敵の動きを見ると、丹念に戦い方を学習しているようにとれます。
この交戦は我々の戦力データを把握するためなのかもしれません」
冷静にキューブ型の動きを見つめ、ブザムは厳しい表情を見せる。
頭脳優秀さではクルー達の間では群を抜くブザムの意見に、マグノもまた鋭い視線をモニターに向ける。
「あんたの考えが正しいのだとしたら、敵さんは想像以上に厄介だね」
「・・・はい。我々のこれからは楽観視はできないでしょう」
故郷の壊滅をもくろむ敵の謎のポテンシャルに戦慄を禁じえない二人。
重苦しい沈黙が二人の間に流れたその時、視界に閃光が一筋飛び込んでくる。
中央モニターよりホログラム化されて飛び込む映像は、キューブ型がまた一体消失した瞬間であった。
暫しじっと見つめるマグノが、少し表情を和らげて口を開いた。
「あの坊やも戦い方が様になってきたじゃないか」
「命さながらの戦いをあの男は潜り抜けました。
男は時に命をさらす事により、心が絞まってくるものです」
傍らのブザムも冷静な表情ではあるものの、口元は若干緩んでいる。
「ずいぶん男に詳しいじゃないか、BC」
「一般論です、お頭」
揶揄するように話し掛けるマグノに、すんなり答えるプザム。
言葉の応酬に何か違う意味が込められている様な二人の会話ではあったが、気にする者はいなかった。
そしてしばらくの間ブリッジ内に戦いのリズム音のみが通っていたが、
少し考え込むような仕草でブザムは口を開いた。
「この戦い、カイの勝ちは決定的ですね」
「そうだね・・・・
坊やの力、というよりあのヴァンガードの性能が敵を上回っているようだ」
「はい。だからこそ不安はあります」
「ほう・・・というと?」
探るような視線を法衣の下より向けて、マグノは尋ねる。
ブザムは中央モニターに視線を向けながら、とつとつと答える。
「カイとクルー達の間で大きな溝を抱えています。とりわけ・・・」
「・・・メイア、だね」
「はい。カイは男女の違いをあまり気にしない、別け隔てのない行動をとっています。
自由気ままともいえますが、その行動がメイアには許せないようです。
カイのこの出撃がもしかすると・・・・」
「火種になる可能性がある、とそういう事だね」
マグノは輝きを瞳に称え確認すると、ブザムは小さく頷いた。
マグノにしても二人の間柄には、いやカイとクル−達との一つ一つの諍いには気がついてはいた。
むしろ男女共同を宣言した時から避ける事のできない問題でもあった。
いくら頭ごなしに男との協力関係を結べと命令しても、個人的な感情まで揺るがす事はできない。
タラークとメジェール、両星の男と女の対立関係はそれほどまでに根強いからだ。
差別意識や倫理観の誤差はちょっとやそっとでは決して揺るがない厚き壁であった。
そんな両星出身の男女の根本的対立の具体的な例がカイとメイアであった。
男と女の差別意識も含まれてはいるものの、それ以上に二人は仲が悪い。
最悪といっていいかもしれない。
夢を持って自立した行動をとるカイに、自らの強さを括弧すべく一人突き詰めた道を進むメイア。
協力はすれど、自意識が特別に高い二人の間には相容れない何かが溝を作っていた。
「必然的な問題なのかもしれないね、これは・・・・」
これからも続いていく一つの船の中での男女生活。
その先を思いやってか、マグノはじっと艦長席より遠くを見つめていた。
「くそっ!ちんたらかわしやがって!きりがねえな、こりゃ・・・」
四体目のキューブ型を破壊して、敵側は残る二体。
そのまま決着かと思いきや、二体のキューブ型は新たな動きを見せたのだ。
カイの蛮型に急加速でランダムな動きを見せながらビームを掃射。
蛮型が反撃を試みようとした一瞬に半回転し、蛮型の間合い外へと逃れる。
攻撃に転じて離脱、そして攻撃と短いサイクル内での動きを繰り返す。
敵が展開するこの戦い方では、近距離戦を得意とする蛮型では不利であった。
先程の様に遠距離でのランス投げも、こう動き回られては狙いが定まらないからだ。
ダメージとしては攻撃の時間が短い上に狙いが半端なので回避する事は可能だが、
キューブ型は半永久的に自律行動ができるのに対し、搭乗者であるカイはあくまでも人間。
長時間戦えば限界はやがて訪れ、集中力や疲労が圧し掛かってくる。
「奴等の動きと俺の動きでは若干俺が有利。
なら、来る方向さえ分かれば・・・くそ、家来がいれば計算させるんだが」
今頃パルフェと行動しているであろうピョロを思い浮かべ、口惜しげにカイはそう言った。
が、ふと自分の甘さに気がついて首を振った。
「これから宇宙一へ昇る男がいつまでも他人を頼ってどうする。
男なら自力で切り開くものだろう、俺」
他人に頼る事など己の甘えに過ぎない。
本当に強い男なら、ましてや宇宙一のヒーローになる男なら自分で困難を乗り越えなければならない。
ここまで来たのも自分の力なら、これから先もまた自分の力で突き進む。
それができて初めてかっこいい男となる。
「そうだよな、親父」
最後の最後まで叱咤激励をかけてくれた育ての親マーカスを思い出し、カイは不敵な笑みを浮かべる。
メインホログラムに表示されている二体のキューブ型。
共に異なるサイクルで攻めて来るがゆえに、一方に寄れば一方にやられてしまう。
ならば、どうするか?
カイはじっと腕を組み、思案する事数秒。
その間もキューブ型一体が蛮型へと猛加速で接近してくる。
肉眼ですら確認出来る程の距離まで来たその時、カイは克目した。
片手に掲げているランスを直線上に位置したキューブに、そのまま投げつけた。
ランダムで攻めて来るキューブ型は素早くランスを回避して、そのまま蛮型へと肉薄を試みる。―が、
「俺の狙いはお前じゃねえよ、と!」
ランスを回避したキューブ型が体勢を立て直していたその時に、カイは既に針路変更をしていた。
狙いはもう一つのキューブ型。
ブラスターを最大加速で発射して、弾丸の如く迫る蛮型にパターンを狂わされたキューブ。
サイクルで効率よく攻撃を行えるのも、あくまで蛮型が奔走されているがゆえであるた。
だがまったく同一時間でのランスと蛮型による二体への同時攻撃。
データより予測される範囲を超えた行動に、さしもの二体のキューブもなす術がなかった。
「これで終わりだ。あばよ!」
右スイングからの蛮型による猛烈な素手のパンチを食らって、機体がばらばらになるキューブ型。
機を逃さずにそのままもう一体に接近後、再び加速と慣性を伴ったパンチは本体にめり込んだ。
ビームすら撃つ暇もない早業に、力なく崩れ落ちて爆発するもう一体のキューブ型。
「はあ・・・はあ・・・・勝った・・・・」
戦闘は文句のつけようのないカイの完勝だった。
融合戦艦の空域にもはやキューブ型は存在せず、破片のみが散らばっているだけであった。
メインモニターにも何も表示はされておらず、映るのは暗き宇宙だけである。
「へ、へへ・・・・俺も結構やるじゃねーか・・・・」
今回の戦いでは誰の手も借りず、自分の力のみで乗り切った。
命をかけた戦いの後に沸き起こる安心感と勝利の実感。
疲れと興奮がひいて行くにしたがって、ゾクゾクする程の震えが全身に広がっていく。
「いける、いけるぜ・・・・俺は宇宙一になれる・・・・
こいつがいる限り、俺は誰にも負けねえ!」
宇宙に出て初めて実感できた生の感覚。
記憶のないカイがタラークで過ごして来たぼんやりとした日常にはない熱情。
「どんな奴が相手でも、俺はそいつを倒して進んでいく。俺が宇宙一だ!」
拳を震わせて、高々とカイはコックピット内で宣言した。
まるで広大に展開する宇宙に挑むかのように。
そこへブリッジからの通信が、コックピット内によせられた。
『ご苦労さん。敵は全て片付いたようだね』
通信モニターに映し出されるブリッジ内のマグノの映像に、カイは親指を立てて答えた。
「おう、全部片付けたぜ。大した奴等じゃなかったぜ。
余裕の勝利よ、余裕の」
『何が余裕よ。囲まれて苦戦したくせに』
ぱっと別の通信映像が開かれて、口を尖らせて文句をつけるベルヴェデール。
カイはベルヴェデールの言い分にむっときて怒鳴る。
「何だと、金髪!もういっぺん言ってみろ、こら!」
『何度でも言ってあげるわよ。あんたなんてただの猿よ、猿。
品も何もないがむしゃらじゃない!』
「戦いもしない奴が偉そうに言うな!
安全なブリッジで様子見ているだけの奴のくせに」
へっと嘲りのこもった笑みでカイは言いのけると、ベルヴェデールの表情が一転する。
怒りではない、憎しみでもない、例え様のない無表情。
ただじっと声を震わせて、ベルヴェデールは静かに一言こう言った。
『・・・・・最低』
えっ?とカイが疑問の声をあげる間もなく、ベルヴェデールの個人回線が切られる。
いつもの憎まれ口がくるかと思いきや意外な反応に出たベルヴェデールに、カイは動揺を隠せなかった。
「お、おい!突然回線を切るなよ!
こら、聞いてるのか金髪!!」
メインモニターでのブリッジへの回線から呼びかけるが、ベルヴェデールは反応を見せない。
代わりにブリッジクルーの一人、黒色の肌が魅力的なアマローネがカイの通信に答えた。
『・・・あんたって本当にどうしようもないわね。男ってこんな奴ばっかりなのね』
『何だと!?どういう意味だよ、黒肌』
『!?そういう無神経な所よ!』
ブチンっと耳鳴りがする程の音を立てて、アマローネも回線を強引に切った。
怒りに満ちた剣幕にやや呆然としている所へ、マグノがゆっくりと言葉を述べる。
『坊や、もう格納庫に戻っていいよ。
戦いが終わったんだ、ヴァンガードを収納して休みな』
「ちょっと待てよ、ばあさん!あいつらにまだ話が・・・・・」
『やめときな。こじれるだけだよ』
半ば諭すように話かけるマグノに、子ども扱いされている様で苛立つカイ。
「あいつ等が訳わかんねえ事できれやがったんだぞ。
何にもしてねえのに偉そうに言いやがったくせに、きれられちゃたまんねえよ」
自分はしっかりと命を懸けて戦いに挑み、勝利した。
船も、そして船にいる人間全てを守りきった。
それに引き換え、ただブリッジにいてのんびり観戦しているだけのベルヴェデールとアマローネ。
自分と比べて呑気にしか見えない二人に、文句をつけたくなるのはカイには当然だった。
吐き捨てるようにそう言ったカイにブリッジ内に険悪な気配が広がっていく。
マグノは大きくため息を吐いて、中央モニター内のカイを見つめる。
『人を守り、助ける事だけがヒーローの仕事かい?』
「ど、どういう意味だよ・・・・?」
荘厳な雰囲気を漂わせるマグノにカイがひるむと、マグノは黙って首を振った。
『話はこれで終わりだよ。もう戻りな』
コックピット内のメインモニターへの回線も切れ、静寂が戻った。
カイは胸の奥にもやもやした物が残り、暴れ出したいほどの凶暴な感情が沸き立ってくる。
「ばあさんといい、あいつらといい・・・・なんだってんだ!
せっかく助けてやったのに、偉そうに言いやがって」
完全勝利をして気分が高揚していたのにもかかわらず、一瞬で冷め切ってしまっていた。
賛辞も何もない冷たい扱いに、カイは苛々を抑えながら格納庫へ帰還した。
自分の相棒を定位置に納め、全ての機能を停止させた後に胸部装甲部分より飛び出した。
「たく、何だってんだ・・・・ん?」
おさまらぬ気持ちからの愚痴が口から零れそうになったその時、蛮型の足元に人の姿を見つけるカイ。
カイが飛び出した後に遅れて来たメイア、ディータ、ジュラの三人であった。
「お前ら、今ごろ来てたのか。もうとっくに終わったぜ」
荒れた気持ちからか突き放した様にそう言うカイに、メイアは一歩前に出る。
「・・・話がある。降りて来い」
「ああっ!?何をえらそうに・・・・」
その時ようやくカイは理解した。
ディータがメイアを困った様に見つめている事に。
ジュラが美しい顔立ちに憎々しいまでの感情を浮かべている事に。
そして、
「降りて来いと言っている!」
日頃は冷静なメイアの瞳に露になっている怒りの感情に・・・・・・
敵からの襲撃の危機を脱したクルー達。
だが今は一人の男を中心に、内部から問題が発生しつつあった。
<続く>
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