VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action4 −起点−
全人類の母なる惑星地球による刈り取りは人災なのか、それとも天災なのか。
偉大なる神の決定だと受け入れるのか、神を気取る人の傲慢だと抗うのか。
運命を与えるのは神、それを決めるのは人――
彼女達は今こそ、人として生まれ変わろうとしていた。
「っ……ハァ、ハァ……ゲホ、ゲホ! まったく、不愉快極まりないですわ!
私の神聖な職場をこれほど荒らされて、おめおめと撤退するなんて……!!」
「命あってのものだね」
バート・ガルサスの復帰で何とか立て直した戦艦だが、主要施設の細部にまで奇跡は及ばなかった。
崩れた壁や落ちた天井、壊れた機器類は見事な再現を見せたのだが、瓦礫などが野晒しになっている。
棚や机などは倒れて無残な姿を晒しており、床は足の踏み場も無いほどだった。
人間の美しさを追及する職場――エステのチーフとして、断じて許してはおけない所業だった。
怒りに震える女性に、大きな瓦礫に乗っかる少女がなだめる。
「確かにそうですけど……これは貴女の分野でしょう? きっちり職務を果たして頂きますわよ」
「ん。宜しく頼む」
「――汚れた顔をこっちに向けるのは止めてくださいな!
もう……分かりましたわよ。貴女の雑巾臭い肌もつやつやにして差し上げますわ」
エステチーフ/ミレル・ブランデール、クリーニングチーフ/ルカ・エネルベーラ。
本来は前線で戦う立場ではないのだが、誇りある海賊として彼女達は苦難に抗う道を選んだ。
艦内に侵入した無人兵器に我が物顔をされるのを良しとせず、非戦闘員でありながら懸命に抵抗したのだ。
とはいえ非力な女性二人、無残に華を散らされるのは時間の問題だった。
けれども、彼女達は笑っていた。悪魔を目の前にして、大胆不敵に微笑んだ――
――その微笑みが勝利の女神を導き、奇跡を起こしたのだ。
バート・ガルサスによる光は悪魔を消し去り、彼女達の聖域を蘇らせた。
九死に一生とも言える瞬間だったが、戦う事を止めなかった彼女達は最後の最後まで戦い続けた。
自分達の誇りを守り、自由を奪わせなかった。
マグノ海賊団で在り続けた――カイ・ピュアウインドの好敵手として、胸を張っていた。
そう……彼女達にとって、地球など眼中に無い。遠い昔の祖先なんぞ知った事ではない。
彼女達は見つめるのは、今目の前にある輝く若き星――
美を追求する者、美を磨き続ける者。二人は美しい女として、男の前に立つ決意をした。
それが敵であるか、味方であるかの違いはあれど、今二人は確実に絆を深めていた。
「あー、やっぱり此処に居た!? 心配したのよ、二人とも!
エステクルーやクリーニングスタッフの皆が、職場に残ったままだと言うから――」
「大きなお世話ですわ、ミカさん。私の自由でしょう」
「――セレナさんが泣きながら、二人を探しに飛び出したのよ」
「ミレルさ〜〜〜ん、ルカさ〜〜〜〜〜ん! どうか、どうか無事で居てくださ〜〜〜い!!」
「……わ、私が悪かったですから、そんなに泣き叫ばないで下さいな!?」
イベントチーフ/ミカ・オーセンティックに、キッチンチーフ/セレナ・ノンルコール。
明るい笑顔の似合う女の子と温厚でのんびりな女性――同じ幹部の同僚が、ミレル達を必死で捜索してくれたのだ。
彼女達は部下達を連れて安全な場所へ避難していたが、決して戦う事を諦めたのではない。
ミレル達の覚悟は百も承知の上で、彼女達は仲間を守る道を選んだ。
無関係な人達から略奪し、多くの同胞を救った罪深き義賊――ゆえに、決して超えてはいけない一線がある。
仲間を守るという事。単純ではあるが、複雑難題な世界ではその盟約すら守るのも難しい。
犠牲を払ってでも、自分と仲間だけは助けて来た。その事実だけが彼女達の誇りであり、胸を張れる真実。
自分の大事な仲間を守る為なら、卑怯の謗りくらいは平気で受け止めて見せよう。
どれほど惨めでも、生きていれば明日がある。彼女達は経験で知っている、身体で覚えている。
故郷を敵にしても、祖先を敵にしても――カイを敵にしたとしても、絶対に譲れない想いがそこに在る。
だからこそ、海賊すら守らんとする少年を尊敬する。少年の友に敬意を払う。
偉大なる男達を偏見で罵る仲間達を、心を鬼にして罵倒する。
「我ながら良いアイデアだったわ。この艦にまで攻め込まれたのも不幸中の幸いだったのかも。
おかげで臨場感溢れる説得が出来たもの、ふっふっふ……」
「――皆さん、泣いてましたのよ。少し可哀想になりましたわ……」
無事な顔が揃ったら、再会を喜び合うだけではなく情報交換。まだまだ苦境は続いている、決して安心は出来ない。
平和な時分は普通の女の子でも、彼女達は海賊。こうした修羅場を潜って来れたからこそ、タフな精神が備わっている。
ミレルとルカは職場での篭城戦、ミカとセレナは避難所での説得劇と、互いの戦況を熱く語った。
「本当に、馬鹿馬鹿しいですわね。彼らが敵ではない事なんて、今更じゃありませんの。
今頃になって言い争うなんて、何と愚かな人達なんでしょうね」
「よっ、男の敵!」
「私は個人的に嫌いなだけですわ!? メジェールの教えなんて、もうどうでもいいですもの。
貴方達にも言っておきますけど――たとえ頼りになる味方であっても、私はカイを屈服させるつもりですのでお忘れなく」
「くー」
「聞いてすらいませんの、貴女!?」
鼻提灯を膨らませる少女に、ミレルはやっきになって肩を揺さぶっている。
エステチーフの人間らしい変化に驚きつつも、ミカやセレナは笑みを零す。
カイに妙な敵対心を抱いているようだが、その気持ちは決して邪なものではない。
ミレルらしい気高さが感じられて、二人は反論したりはしなかった。それこそ邪推というものだろう。
馴れ合うだけが、仲間ではない。競い合う事もまた、友情の糧となる――
「喧嘩はやめましょう。折角仲良くなったんじゃないですか……!
今は皆さんで力を合わせる時だと思います」
「あたしもセレナさんに賛成。もういい加減さ、意地張って言い争うのをやめようよ。
楽しくも何ともないし、カイもバートもドゥエロも皆いい奴じゃん。分かってるでしょう、そんなの?」
一部の人間の贔屓ではない。男達の人柄は、彼らの行動が如実に物語っている。
カイはジュラ達を逃がす為に命を懸けて、バートはメイアを庇って重傷を負った。ドクターのドゥエロなど、実績すら残している。
男達は行動で自分を証明した。ならば、女は? 女性はただ存在しているだけで正義なのか?
――その傲慢が、自分達をこれほど追い込んだというのに。
幹部達だけではない。もはや男女問題は、この艦に居る全員が解決しなければならない。
「男と女が力を合わせなければ生き残れない――貴女達はそう仰りたいのね? 結構、私やルカさんが同意したとしましょう。
他の皆さんはどうなさるつもりですの?
まだ反感を抱いている人達は居ると思います」
「避難して来た人達は叱り付けたから、ちゃんと考えてくれているとは思う。少なくとも半年前ほどじゃないよ。
今あたし達がこうしてまだ無事で居られるのは、カイ達のおかげだもん。それは皆が分かってる」
「わ、私も皆さんとお話しましたけど……カイさん達に謝りたいと言ってくれている人は多くいました。
もう一度向き合って話し合えば、皆さんきっと理解してくださると思います」
「……人間、そんな前向きになれるのかしら? 今は命が危ういからこそ、男達を頼っていますのよ。
嵐が去ればどうなるのか、分かったものじゃありませんわ」
不思議な事に、ミレルの言葉は自分の仲間達を非難している様子だった。
彼女は男に痛烈な態度を向けるが、本来は聡明で理知的な女性である。
美しいものに目がない分、人間の醜悪な部分に嫌悪を示しているのかもしれない。
喉元過ぎれば熱さを忘れる――危機感のみで団結する仲間の危うさを、彼女は問うているのだ。
今までの繰り返しでは、いつか本当に崩壊する。男達も神様ではない、一方的な善意など成り立つはずが無い。
「――決着を、つけよう」
「ルカさん……?」
「男と女のすれ違いに、決着をつけるの」
丸ほっぺの女の子からの、提案。その趣旨は明快にして、単純。
男が行動で示すのなら、女は――
男達の信念に、女達の情熱。男と女の想いと、それぞれの想い。
その全てを飲み込んで、男と女の艦ニル・ヴァーナはガス惑星へと突入する。
<to be continued>
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