VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <後編>






Action23 −代案−






カイ・ピュアウインドの生還――それは確かな形で伝えられた。

ヴァンドレッド・メイア、白亜の翼を持つ機体。

鮮烈な戦場で優雅に舞い、白鳥は暗黒の宇宙に光の軌跡を描く。

ヴァンドレッドは蛮型とドレッドが合体して、新しく誕生する奇跡の機体――

この意味を理解出来ない人間など、一人も居なかった。


『カイ、ちょっとアンタ! 生きていたの!?』

『しぶとい男よね……でも、無事で良かった』

『心配してたんだよ。本当にごめんね、今まで』


 コックピットを埋め尽くす、通信モニターの数々――パイロット達の歓声。

威風堂々と参上したカイに向けて、パイロット達が歓喜と歓迎の嵐で迎える。

最早、邪険にする者は皆無。

中にはこれまでの事を謝る人間もいて、生じていた深い溝は埋められていった。


「皆、今は戦闘中だぞ。気を引き締めろ」

『リーダーこそ、今何をやろうとしてたのよ!』

『そうですよ。カイじゃああるまいし、特攻なんて!?』

『ここのところ様子が変だったから、心配してたんですよ』

「そ、そうか……すまない……」

「ははは、部下に怒られてやんの」

「一番無鉄砲で、迷惑ばかりかけている人間に言われたくはない!」


 在るがままとは、とても大切だ。

見慣れた光景は刺激こそ与えないが、安心を生み出してくれる。

パイロット達は誰もが皆酷い傷を負っているが、血がこびりついた顔で笑う今の彼女達はとても綺麗だった。


「メラナスの連中とはうまくやっていたみたいだが……やっぱり苦戦しているようだな。
くそっ、母艦も当然のように健在か」

『アンタのニセモノも出てきて、結構やばいんだよアタシ達。何かいい方法ない?』


 戦場を埋め尽くす無人兵器、強大な戦力と無類の再生力を持つ地球母艦。

三機のヴァンドレッドに、SP蛮型の能力を宿した模倣――

傷つき疲れ果てた味方の陣営と比較して、カイが出した結論は一つだった。


「あるぞ。今の戦況にピッタリな作戦が」

「本当か!? 聞かせてくれ。事は一刻を争う」


 後部シートから身を乗り出すメイアに、カイは面食らった。

まさかこれほど素直に期待を寄せられるとは思わなかった。

よくよく見れば、他のパイロット達も瞳を輝かしてこちらを見つめている。

今までは仕方なく聞いてやるといった態度だったのに……この変わりようは何なのだろう?

内心首を傾げながらも、カイは明後日の方向を指差して高らかに叫ぶ。



「当然、逃げる!」

『……』



 恐ろしいほどの沈黙が、宇宙を支配する。

やる気に漲っていた乙女達の気力を奪う一言――

この瞬間、全世界の女性の心は一つとなった。


『アホかーーーーーー!!!!』


 英雄の生還で高鳴っていた乙女心が、一瞬で冷める。

同時に思い出す。ああ、そういえばこういう男だ。

カイ・ピュアウインドは非常識で、宇宙一の大馬鹿野郎だったと――


「アホとは何だ、てめえら!?
ここまで追い詰められて、まだ戦えると思っているお前らの方がおかしいだろう!」

『だからって、今更敵に背を向けて逃げろって言うの!? この臆病者!』

『保身に走る男ってサイテー!』

「いつからそんなに熱血正義軍団になったんだ!? これ以上戦ったら死人が出るぞ!

――いいか、俺達は今負けているの。

本陣を攻められて、大将が今まさに討ち取られようとしているんだ。
攻めるなんてとんでもない。今すぐトンズラしないと、全滅しちまう。

残りの弾薬は勝つためじゃない、生き残るために使い切るんだ!」


 ――マグノ海賊団は無能の集まりではない。国すら脅かす、歴戦の戦士達が集っている。

奪った物資を難民に分け与える義賊だが、決して正義の味方ではない。

私情や正義感に惑わされず、引くべき時は引く。

状況に機敏だからこそ、時代の荒波を超える事が出来たのだ。


『胸張って言う事か、そんなこと!』

『分かりきっている事じゃない!』

『カイはやっぱりどこかぬけているよねー』

「何でここまで言われなければならんのだ、俺は!?」

「日頃の行いだろう」


 ――皆の表情が見違えるように明るくなってきた、メイアは口元を緩める。

鬼のような顔で敵と戦っていた先程までの彼女達は、まるで余裕がなかった。

自分を含め道連れ覚悟で敵に挑み、心身共に追い詰められていたのだ。

逃走という選択肢にしても、指揮官が命令しても聞き入れなかっただろう。


――信頼しているのだ、カイという男を。


この人がいれば大丈夫――それほどの存在として、カイはもう認められている。


「たく……青髪、連中の指揮は任せた。
ニル・ヴァーナがやばいから、ドレッドチームを連れて救援に向かってくれ。
敵を攻める必要は一切ない。とにかく守る事と、逃げる事に集中してくれ」

「まさか、このまま分離するつもりか!? 指揮はこの機体からでも出来る!」

「殿――足止め役がいる」


 メイアは、息を呑んだ。

危険と知りながらも、仲間の生き残る確率を少しでも高める為にカイが申し出る。

愚考であり悪手、だが効率だけは良い戦術――

敵は強大で無数、最前線で多面的な戦闘を行うには相手が悪すぎる。

ニル・ヴァーナは現在敵の侵攻を受けており、非戦闘員も多く取り残されている。

「守り」と「逃走」、怪我人も多数出ている戦況で露払い役は絶対に必要だ。


『だったら、私も一緒に残るよ。一人だと危ないでしょう』

『私も怪我は少ないし、まだまだ戦えるよ!』

『あ、あたしも戦う!』

「駄目だ。お前らも一度戻って補給してこい。ボロボロのドレッドでは逃げられない」

「お前も逃げられなくなる! 拾った命をみすみす捨てるつもりか!」


 悲劇の繰り返しは、もうご免だった。

男達の死は今も重く圧し掛かり、強い後悔が残っている。

カイが一人で残れば同じ事が繰り返されて――今度は、助からない。

それでも何とかしようとする男だからこそ、仲間達は慌てて参戦を名乗り出ている。

現実問題として、蛮型の足の遅さでは逃げられない。

殿など務めては、取り残されて死ぬのがオチだった。


「……私を助けてくれた事は感謝している。だから、お前が先に皆と逃げてくれ。
お前ならきっと、私の仲間を守ってくれると信じている」

「信用されているんだか、ないんだか――
何の勝算もなく、一人残るとか言わねえよ。
母艦に特攻したお前に追いついて・・・・・、助けたのは誰だと思ってるんだ」


 ――ハッとさせられた。

"カミカゼセット"を搭載したドレッドはあの時、地球母艦に最高速度で突撃していた。

カイの蛮型はペークシスによる改良を受けた特別製だが、それでもドレッドには到底追いつけない。

だが現実に、カイは見事に合体に成功している――

目を丸くするメイアに、カイは不敵に笑う。


「誰も死なせない――その為に、俺達・・は地獄から戻って来た」













 ――感動も何もない、あんまりな再会だった。

肉を突き破る生々しい感触、流れていく血と共に凍てつく感覚――

覚えているのはそこまでだった。

現実と悪夢の間を何度も漂い、自分だけを必死で保ち、死の誘惑に抗う。

苦しみの果てに訪れたのは安らぎ――ではなく、猛烈な平手打ちだった。


『起きろ、仕事だ』


 死んだ友達が、生きていた。感動より先に、殴られた怒りが勝った。

お互いの無事を喜び合う暇もなく、子供じみた口喧嘩。

挙句の果てに無理やり移動させられて……気がつけば、此処に居た。


「少しは休ませて欲しいよな……撃たれたんだぞ、僕は。
あいつだって怪我人のはずなのにピンピンしてたし――納得いかないな……!」


 カイ・ピュアウインドの友、バート・ガルサス。

警備チーフに撃たれて生死の境を彷徨っていた彼を、身体ごと回収したのはソラだった。

ペークシス・プラグマの力で肉体の回復、精神の安定を施す――

言葉にすると簡単だが、実際はそれほど容易くはない。

ペークシスはエネルギー結晶体であり、医療装置ではない。

自然治癒効果を最大限促進する事は出来ても、死者の蘇生は行えない。

バートが生き残る事が出来たのは……本人すら気がついていない、彼自身の精神力。

この半年間味わった不遇が、皮肉にも臆病だった彼を鍛え上げたのだ。

温室育ちでは養えない、雑草の粘り強さ――彼もまた、一人の男となっていた。


『――説明は以上です。ご質問があればお答えします』

「君が何者なのか、まず聞きたいんだけどさ……ハァ。此処が操舵席というのは本当?
とてもそうは見えないんだけど――真っ暗で」

『現在、ニル・ヴァーナは殆どのシステムがダウンしています。操舵手が不在で、リンクも遮断。
緊急維持装置が稼動していますが、時間の問題です。
システム稼働率がこれ以上下回ると、船内が限りなく真空に近付きます』

「やばいじゃん、それ!? どうやって動かせばいいの!」

『操舵手はアナタです、バート・ガルサス』

「うおおお、そうだったぁぁぁぁーーー!!」


 メインブリッジの操舵席――光を失ったクリスタル空間に、バートは戻っていた。

正規のルートではない。

目覚めた時と同じく、気がつけば此処へ放り込まれていたのだ。

ペークシス・プラグマとこの操舵席は繋がっているらしい。

ニル・ヴァーナの運行はペークシスの制御の元で行われている、操舵席の特質を考えればありえない話ではない。

船が傷付けば操舵手のバート本人も傷を負う、両者は密接に繋がっている。

これまで何の問題もなく動かせていたのは、ペークシス・プラグマのおかげだった。


『では――宜しくお願いします』

「うう、どうしよう……」


 ゆえにペークシスが機能しなければ、彼自身の技量で船を動かすしかない。

今こそ、償いの時。

最初についた決定的な偽証――偽りの操舵手は今、己の嘘で岐路に立たされていた。





























<to be continued>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]