VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 3 −Community life−





Action8 −義理−




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 バート搭乗後ネビゲーション者の意思に無関係に走り続ける戦艦は、星雲の中を真っ直ぐに走り続ける。

惑う事なき流れるように進み続けるその動きは、故障や暴走ではない明らかな力強さを感じさせた。

星雲内には大小問わず漂う激しい氷塊群の流れが跋扈しており、荒れ狂っている。

突き進む融合戦艦はやがて氷塊の流れに突入し、流れとは正反対に船の航路を取った。

当然氷塊は船を避けてくれる訳もなく、機体の表面にまともにぶつかり合う。


「あいたっ!?ちょ、ちょっとま・・・・あだだだだだ!?
もう!蛮型撲滅機くらい出してくれよ!」


 船と直結にリンクし、船そのものと化しているバートは氷塊からのショックにまともに晒されていた。

クリスタル空間内の中央に裸で浮いている彼の身体に、徐々に損傷の痕が刻まれる。

全身を苛む痛みに、バートが泣き言を上げるのは無理もなかった。

だが彼の意思を聞き入れようとしない船は、いまだ荒れ狂う氷塊の流れに立ち向かっていった。

やがてぶつかり合う氷塊は機体の表面をえぐり、融合した際のクリスタルをも削り取っていく。

まるで脱皮をするかのようにめくられ続ける表面の隔壁。

ごわごわだった結晶が削れ落ちていくかと思うと、なんと新たな装甲が内側より顔をのぞかせた。

綺麗に磨き上げられたかのごとく透明感のある新装甲は範囲を広げ、やがて船の表面に完全に姿を見せる。

それすなわち、二つの船の融合という奇跡を成し遂げた新しい船の誕生を意味していた。















「これで良し!さあ六号君、よろしくお願いね!」

「合点承知だぴょろ!お役に立って見せるぴょろよ」

「現金な奴だな、お前って・・・・・」


 カイとパルフェの話し合いが成立し、いよいよ六号を設置する事による船とのリンクが行われた。

専門的な知識を持ち合わせていないカイとメイアは、パルフェの仕事を静観する形となっている。

最も神経を尖らせて監視しているメイアに比べ、カイは椅子に座ってのんびりと構えてはいるのだが。

作業台にてコードを引き寄せて六号の頭上に繋げたパルフェは、コンソールを立ち上げて操作を行う。

先ほどまで表示されていた六号の瞳はふっと消え、代わりに六号のモニターには数値的データが表示される。


「リンクはオッケーね。後はここを・・・」


 作業が万事うまくいっている事に気を良くしたパルフェは、操作に没頭していく。

傍らでやる事がないカイは、作業を横目にしながら呟いた。


「女にもああいう奴がいるんだな・・・・・」

「どういう事だ?」


 カイの独り言を聞きとがめたメイアは、ポツリと尋ねる。


「やな奴ばっかじゃねえなって事だよ。
男にああいう態度で接してくれるってのは悪い気分じゃないからな」


 正直にカイはコメントする。

今まで彼が出会った女達はその殆どが敵意・嫌悪を剥き出しにぶつけてきた。

対立しているタラーク・メジェ−ルという立場上仕方がない事ではあるが、

負の感情をぶつけられるのはやはり気持ちがいいものではない。


「あくまでも今は状況が切迫しているからだ。
お前達男と敵対しているのに変わりはない」

「け、相変わらずやな奴。少しは彼女や赤髪を見習えっての」

「赤髪?ディータの事か」


 髪の色で女性を選別するカイに戸惑いながら、メイアは答えた。


「名前はよく覚えてないが、多分そいつ。
そうそう、あいつは元気にしてるか?監房にぶち込まれてから会ってないけど」


 初戦終了後、カイとディータは少しやり取りがあった。

戦闘後メイアと合体した事やコックピット内の密着に立腹したディータは、さんざんカイを問い詰めたのだ。

どうして二人が合体したのか?や、自分ともしてくれ、等大いに疲れさせたのだが、

それでも自分に慕ってくれる女性が一人でもいるというのは、悪い気分ではなかった。

ディータについてを質問され、メイアは押し黙った。


「・・・何だよ。
まさかあいつ、何かあったのか?」


 目を臥せて何も言わなくなったメイアに不穏を感じ、カイは彼女に詰め寄った。

とその時、泣き声交じりのパルフェの声が二人に飛び込んでくる。


「あれっ!?困ったな、これじゃあデータが把握できないよ〜」

「あん?どういうこった、それは」


 椅子から立ち上がり、カイは設置されている作業台をパルフェ越しに覗き込みながら尋ねると、


「文字よ、文字。こんな文字、私には読めないわよ」

「文字だぁ?・・・・なんだよ、これただの男文字じゃねーか」

「あ、そうか!あんたがいるじゃん!」


 一転して満面の笑顔になり、パルフェはカイの肩をばしばし叩いた。


「という事でサポートよろしく頼むわね、カイ君♪」

「いや、そんな上機嫌で当たり前のように頼まれても困るんだけど・・・・
大体ドゥエロやバートと話をさせるっていう件はどうなったんだ」


 カイの不信げな質問にも動揺する事なく、パルフェはあっけらかんと答えた。


「大丈夫よ。お頭や副長は無闇に人を殺したりする人じゃないわ。
それに話がしたいからって連れて行ったんでしょう?
きっと何か助けが必要になったから呼ばれたんだと思うな」


 長年付き合っているパルフェらしい意見だった。

根拠があるわけではなく、ただの信頼だけではある。

だが彼女が笑顔で大丈夫だと断言すると、どこか言葉に説得力が生まれる。

疑ってばかりでは仕方がないと判断したカイは、顔をあげてパルフェを見る。


「分かった、あんたを信じるよ」

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいわ。
あ、後一つ!」


 ずびし!と人差し指を一本立てて、パルフェはカイの眼前に突きつけた。


「あ、あんだよ?」


 彼女の独特の雰囲気に押されて怯むカイに、彼女が眼鏡越しに悪戯っぽい視線を向ける。

「私はパルフェって呼んでくれていいわよ。
あんたとか呼ばれると、他人行儀で話しづらいわ。私もカイ君って呼ぶからさ」


 男と女が互いに名前で呼び合う。

メジェール・タラーク双方の戒律では罰せられ、両市民のほとんどが嫌悪するであろう習慣。

だが常識に囚われない二人にとっては、些細な問題にしか過ぎなかった。

カイは太い笑みを浮かべて頷き、親指を立てる。


「パルフェ、だな。じゃあパルフェ、こいつのデータを見せてもらうぞ」

「オッケー。これよ」


 画面上にずらりと文字を浮かべる六号を見つめ、カイは一つ一つ単語で区切り読み始める。


「えーとな・・・・
内圧・・・結晶体・・・不純構成分発生・・・・パターン増殖・・・回避困難・・・」

「結晶体に不純物?なるほど・・・」

「何かわかったのか?」


 データ表示されている単語を読んだカイに反応して、パルフェは考え込んでいた。

羅列している文字の内容が分からないカイは、正直に専門家に尋ねる。


「簡単に言うと、艦内の結晶体内に不純物が生じているのよ。
多分これのせいで、今の数々の障害が巻き起こされているんだわ」

「なる。うーんと・・・
反発現象ってのが起きているみたいだな。しきりにその文字が浮かんでくる」


 通訳はカイ、翻訳はパルフェといった感じで二人の作業は続いていた。

背後から見つめるメイアはまるで友人同士が語らっている様な二人の様子に、

奇妙な感覚と苛ただしさが胸の奥でせめぎあっていた。


「きっと船の融合やら何やらの急激な変化が原因ね」

「ま、いきなり色々と訳の分からん事態が起こって、船に影響がないのも変だからな。
相棒が変わったのもひょっとしたらそのせいか?」

「相棒?この子の事?」


 パルフェは今やリンクによるデータ出力状態と化している六号を指差す。

カイは即座にブンブン首を振って、断固とした態度でパルフェに詰め寄る。


「違う、違う!こいつはただの家来。
相棒ってのは・・・あんたは見てないかもしれないけど、さっき敵を見事壊滅した俺の機体の事だ」

「ああ!あのメイアとがった・・・むぐぐっ!」

「?私がどうした?」

「い、いや、何でもない何でもない!」 


 咄嗟に素早くパルフェの口をふさぎながら、カイは愛想笑いを浮かべてメイアに手を振った。


(こいつに知られたら、どれだけ揉めるか分からん)


 戦闘後コックピット内で無意識に行った彼女への行為を思い出して、カイは顔を赤くする。


「ぷっは!もう、何するのよカイ君」

「そ、その話はやめてくれ。こいつに聞かれたらどうなるか分かるだろう?」

「あ、そっか。納得」


 ひそひそ声で注意するカイに、パルフェも大きく頷いた。

メイアの海賊内での他者への態度を知っているパルフェには、カイの言葉は心底理解できるものだった。


「こほん、話を戻そう。
その反発現象ってのはよく起こったりするものなのか?」

「うーん・・・・
元々ペークシスプラジマっていうのは、結晶体から生じるエネルギーを利用するシステムなのよ。
不安定さはあるにせよ、そのエネルギー率は極めて効率的に扱えるの」

「じゃあ今の事態はどうなんだ?」

「それが分からないのよ。だから、こうして調べてるんだけど・・・・」


 現在の暴走の原因が少しずつだが明らかにされていっている。

しかしながら根本的な打開策が見出せない二人にとっては、今だ先行きの見通しは立たなかった。

行き止まりに達した二人は悩んでいたが、やがてカイはぽんと手を打って顔をあげた。


「よし!安心しろ。俺が何とかしてやる」

「えっ!?何かわかったの?」


 パルフェの言葉にふっと笑顔を見せ、カイは背後にたたずむメイアに近づいた。

「青髪。お前、確か通信機持ってるだろう?貸してくれ」

「何をする気だ」


 深遠の青き瞳をのぞかせて、カイに厳しい姿勢を見せるメイア。


「今こそ約束を果たしてもらおう。あいつに助っ人を頼む」

「あいつ?」

 カイは悪巧みを思いついた子供のような表情で、メイアに手を差し出した。

















 氷塊の流れを逆行しながら機体表面を削り取っていく船は、やがて星雲の中央部へと辿り着いた。

氷塊流の中心ともいえるそのポイントは青緑色に輝いた光のスポットであった。

仄かに輝くガス雲が漂うその場所を目指して、船はより一層の加速を展開する。

表面の全てを新しい装甲で一新した船は中央部へと突き進んでいき、その直後加速を緩めていく。

まるでそこが目的地であったとばかりに船は速度を落としていき、やがてスポット内にて急停止した。


「全艦、急停止しました・・・」


 突然の停止に戸惑いを隠せない様子で、アマローネはやや呆然と報告する。

報告を聞いたマグノは茹だる様な暑さにぼんやりとしながら、独り言の様に呟いた。


「ようやく止まったと思ったら、こんな所かい。
いったいどうなっているのやら・・・・・・」


 不可解な現象ばかり起こす船の行動に、さすがのマグノもお手上げの様子である。

そこへまだ終わってないとばかりに船は小刻みに振動し、クルーの一人ベルヴェデールが声を張り上げた。


「お頭!艦の一部が変形を始めました!急速に広がっていっています!」

「やれやれ、少しは落ち着かせてはくれないのかね・・・」


 内輪を扇ぎながら、マグノは深くため息を吐いた。
















 ガス雲を纏わりつかせる船は左右に広がるアーム部分を展開し、白銀のクリスタル柱を発生させる。

六角形に美しく光るクリスタルは筒状に変化を成し遂げ、内部から噴煙を吐き出し始めた。

まるで煙突のような役割を発揮するクリスタル柱は周囲に向かって、淡々と煙を広げていく・・・


「あ!データがまた変動をはじめたわ!」

「何だって!?たく、次から次へと・・・・あ、もしもしドゥエロか?」

『カイ?なぜ君が回線に繋がる』


 カイの要求を断りきれなかったメイアは渋々通信機を渡した。

嬉々として受け取った彼はドゥエロが今どこにいるかを尋ね、連絡を取り合っていた。


「ちょっと色々あってな。そっちはどうだ。
女達に何かされたりしてないだろうな?」


 カイの言葉に心配している響きを感じ取り、通信先のドゥエロは苦笑ぎみにて答えた。


『私は治療を頼まれただけだ』

「そっか・・・・そっちにバートはいるか?」

『いや、彼は恐らく別の区域にいるはずだ。私同様何かを請われて、手伝っているのだろう』


 事実はすんなり話すほど気楽な状況ではないバートなのだが、二人には知る由もなかった。

ドゥエロが無事である事に安堵したカイは、すぐさま本題に入る。


「ドゥエロ、そっちは今忙しいか?」

『忙しいかどうかと尋ねられるとNOだ。どうにもならんというのが現状だが』

「よ、よく分からんが、ようするに暇なんだな。悪いけど、こっち手伝ってくれないか?」

『お前が今いる所はどこだ?
場所が分からなければ、私も動きようがない』

「機関室って所だ。船の変動の原因を調べているんだが、ちょっと困ってる。
お前、頭いいだろう?力をかりたいんだ」


 真摯に頼むカイに暫し沈黙が続き、やがて通信外に何やら話し合う声が聞こえてくる。 


『すまないが、機関室から要請が来ている。そちらへ行きたいのだが?』

『駄目だ。副長がお帰りになるまでここにいてもらおう』

『彼女の治療には医療室への電力供給が必要だ。
その際たる機関室へ助力に向かうのが、一番の早道ではないのか』

『く・・・・』


 話の内容が見えないカイが返答がない事に焦りを感じながら待っていると、


『待たせてすまない。今、そちらへ向かう』

「そうか!ありがとうよ。もうてんやわんやなんだよ」

『礼を言われる程ではない。事情を細かく説明してくれ』

「分かった。パルフェ、事情説明頼む」


 通信機をパルフェに渡したカイは一息ついて、椅子に座り込んだ。


「後はあいつに任せれば何とかなるだろう。知識面はあいつがピカ一だ」

「ほう、ずいぶん信頼をしているのだな」 

「当然だろう。仲間を信じなくてどうする」

「・・・あの男とお前は面識が薄いと聞いているが?」


 カイを見下ろしながらメイアがそう言うと、カイは当たり前のように答えた。


「バーカ。気に入ったら、それでダチ同然じゃねーか。
人の付き合いに時間なんざ関係ねえよ。お前だってそうだろう?
人を好きになった瞬間、そいつとは仲間だ」


 単純明快なカイの台詞に、メイアは瞳を閉じて答えた。


「・・・私はお前は違う・・・・
他人に他人に頼る程、私は弱くはない」

「お前・・・?」


 どこかいつもとは違う彼女の様子に眉を潜めると、パルフェがテクテクとこちらへやって来る。


「連絡取れたよ。すぐにこっちに来るって」

「そっか。後の打開策はあいつに任せるとして、俺はどうしようかな・・・・・」


 手伝うにしても、カイは機械的知識はほとんど持ち合わせてはいなかった。

ついこないだまで記憶を失ったまま、酒場で働いていた身の上である。

勉学の類はほとんどマーカスにしか教えられてはいなかった。

じっとできる性分ではない彼が悩んでいると、機関室へ直結して通信映像が入る。

モニター画面にノイズが一瞬走ったかと思うと一人の女性の姿が映り、カイは顔色を変えた。


『パルフェ、こちらブザム。そちらに男が一人来ていないか?』

(やべ・・・よりによって・・・・)


 端整な顔立ちを映像化したブザムを見て、カイはメイアの陰に隠れた。


  「え、えーと・・・・」


 パルフェが返答に困っていると、カイが必死に『いないって言え』と合図を送った。


「こ、ここにはいませんよ、副長」

『そうか・・・・人男が脱走して行方をくらませた。
あの男にしかできない頼みたい事があったのだが・・・・・』

「俺にしかできない!?って、あ・・・・・」


 ブザムの言葉に身を乗り出してしまい、まともに映像の向こうのブザムと視線がぶつかり合った。 





















<Chapter 3 −Community life− Action9に続く>

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