VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 3 −Community life−
Action5 −脱獄−
「カイ、助けてくれぴょろ!殺されるぴょろよ!」
「だあーー、落ち着け!言ってる事がさっぱり分からん」
小刻みに揺れる船体に煽られる様に振動を繰り返す監房内において、カイは疲れた様に手を扇ぐ。
監房と通路の間を遮断するレーザーシールドを隔てて、六号とカイは向き合っていた。
「まず殺されるって何がだよ。お前、何かしたのか?」
「何もしていないぴょろ!
やる事がなかったからウロウロしてたら、眼鏡をかけた女の子達に囲まれたんだぴょろ!
力づくで連行されたんだぴょろよ!!」
卵形の胴体部分にあるモニターに映された二つの瞳を怒らせて、六号は話を続ける。
「それで僕をあちこち弄リはじめたんだぴょろ!
あれは絶対僕をバラバラにして、スクラップか何かにしようとしてたんだぴょろよ!!」
「スクラップね・・・・大方、お前が邪魔になったんじゃねえの?
うろうろしていたから、目障りになったとかよ」
「何てひどい事をいうんだぴょろ!
僕はいつでも愛想良く人に接してきたぴょろ」
「どこの口から愛想なんぞという言葉が出るんだ、お前に・・・・」
呆れた様に呟くカイに、一転して涙目になって六号はレーザーシールド越しにカイに詰め寄った。
「ようやくここまで全力で逃げてきたんだぴょろ!
でも、このままじゃまた捕まってしまうぴょろよ。助けてほしいぴょろ」
「俺が〜?やなこった」
そのまま監房内の荷物にもたれ掛かると、カイはくつろいだ体勢で六号を睥睨する。
「主人をほっておいて、一人でぶらぶらうろついた報いだ。
ま、死んだら祈ってやるから安心しろ」
「嬉しくないぴょろ!!そんな冷たいこと言わないで、助けてほしいぴょろ〜〜!
イカヅチの時も、さっきの戦闘の時もちゃんと補佐したぴょろよ!
僕はちゃんと役に立ってるぴょろ!」
必死で自分の価値を口に出す六号。
その姿にバートの必死な姿を連想したカイは、口元を緩める。
「うーん、どうしようかな〜?ボク、色々と忙しいし〜」
「すごく暇そうに見えるぴょろ!やる事ないようにしか見えないぴょろ」
人間、図星を指されるとあまりいい気持ちはしないものである。
カイは身体を起こすと、眼を尖らせて六号に反論した。
「やる事がないんじゃなくて、できねえんだよ!
この忌々しい牢獄がだな・・・・・・あ、
そうだ!君がいるじゃないか〜〜〜〜」
「う・・・何だぴょろ・・・?」
うって変わってやさしい笑顔になったカイに、不信な視線で見やる六号。
「お前、このシールド解除できるか?」
「え・・・・?」
「だからこのシールドを解除できるかって聞いてるんだ」
「それは僕はこの船のナビだからそれくらい・・・・
って駄目だぴょろ!」
「まだ何も頼んでないだろう」
「出してくれっていうつもりだぴょろ!」
「はっはっは、よく分かってるじゃないか。さ、早く出してくれ」
「駄目だぴょろ!
そんな事したら、間違いなく僕がスクラップされるぴょろよ!」
今の所、カイの立場は海賊側からすれば捕虜にあたる。
ブザムやマグノの評価はともかく、メイア達や他のクルー達の男への嫌悪感は根強く心に住み着いている。
マグノ達がカイ達を監房へ押し止めたのもクルーへの妥協案の一つでもあった。
もしも六号がカイを監房から出してしまえば、確かに六号の立場は悪化する可能性は十分にある。
「大丈夫だって。俺が守ってやるから」
「信用できないぴょろ!それにカイは捕虜だぴょろ。
庇う権利もなければ、女達と交渉できる権利もないぴょろよ」
「う・・・・・」
このまま脱獄しても捕まればそれで終わりである。
もしもここがメジェール本星であったならば、即刻処刑されてもおかしくはない身の上なのだ。
メジェールの「女」側からの「男」は、それほどに忌むべき対象とされている。
先の戦闘で貢献したとはいえ、今だ敵同士の立場である。
クルー達の反感を買えば、即座に船から放り出される危険性もあった。
痛い所を突かれカイは一歩たじろいだものの、バートやドゥエロが連行された事を思い出し、
表情を引き締めて、ガードシールドを掴み掛からんばかりに近寄った。
「・・・バートとドゥエロがどこかに連れ出されたんだ・・・」
「え?二人がぴょろ?」
「ああ。ブザムとかいう奴が連れて行った。
何もしていないとは言っていたが、どうも信用できねえ。
あいつらの安全を確認したいんだ。協力してくれ」
「う〜ん、でも・・・・」
二人の安否を気遣うカイの気持ちに迷いを見せるものの、六号は意思決定が曖昧であった。
そんな六号の様子に、カイは再び六号に背中を向けて床に寝ころがった。
「まあ別に俺はいいよ。
君がとっ捕まろうが、解体してスクラップにされようが俺の知った事じゃないし」
「ああ、ちょ、ちょっと待つぴょろ!!」
「じゃあ解除するか?」
顔だけひょいと六号の方へ向けて、カイはニヤニヤ笑いながら尋ねる。
六号はうぬぬと悩みながら、監房外の通路をふよふよ浮いている。
「う〜ん、う〜ん・・・・」
理性と生存の可能性を苦慮して、普段は理知的なロボットであるはずの六号が答えを出せずにいる。
まるで人間のように悩むその姿に、もしタラーク本星の軍人辺りがその光景を見ていたら、
常識を超えた行動に腰を抜かすかもしれない程のインパクトがあった。
カイ自身は機械についての知識がないので、その辺りについては把握せずに六号と付き合えているのだが。
「そろそろこっちにいる事に感づいてやってくるんじゃないかな〜?
安心しろ。お前の事は明日位までは覚えててやるから」
「分かった、分かったぴょろ!背に腹はかえられないぴょろ・・・・」
六号はため息を吐くような姿勢で少々頼りなげにフワリと床に降り立つと、監房の脇に寄っていく。
レーザーシールドが張り巡らされている一角に設置されている外側の装置に手を添えると、
胴体のモニターにさまざまな男文字の混じったデータが表示され、アクセスが開始される。
六号の添えた手からは若干の発光が起きて、レーザーシールドにも歪みが生じる。
カイが驚いた様に見つめる中作業は進み、やがてモニターに六号の瞳が戻ったと同時に、
レーザーシールドはあっさりと消え失せて、ついでとばかりにカイの手錠が力なく取れて落ちる。
「おおお!!手錠まで取れた!?」
「装置にアクセスをかけて設定を変更したんだぴょろ。
手錠つけたままじゃ不便だぴょろ?」
「さっすが我が家来!便りになるじゃねーか!」
ようやく自由の身になれた事に喜び、カイはそのまま勢いよく六号に抱きついた。
「く、苦しいぴょろ〜〜〜!!」
モニターの瞳を点滅させて、六号はじたばたと手足を暴れさせて抵抗する。
カイはそのまま六号を肩に担いで、不敵な笑みを見せる。
「うっしゃ!ほんじゃあ、ここから離れよう。
お前が追っていた奴って、どういう奴等だ?
ドゥエロとバートも探しに行かないといけないし、鉢合わせするとまずい事になる」
「僕が追っていた女の子達は機関部の連中だぴょろ。
眼鏡をかけているからすぐに分かるぴょろ」
六号から詳細を聞き、カイはしっかりと頷いた。
「分かった、連中を見かけたら隠れる事にしよう。
とにかく二人の安否を確認できるまでは騒ぎを起こさない事が第一鉄則だ。いいな?」
「それはむしろカイに言いたいぴょろ・・・・」
今日一日でカイの性格を身近で知り尽くした六号が、呆れた様な目でそう言った。
「うるさいな!とにかく行くぞ!」
「了解だぴょろ!」
二人は互いにがしっと手を握り合って、監房を飛び出して通路を走り抜けていく。
融合戦艦の突然の発進からエズラの急なる失神。
次々と起こるトラブルを尻目に、カイと六号は船内を暗躍し始めた・・・・・
二人の暗黙の敵扱いをされている機関部だったが、六号を追いかけていなくなったクルー半数を除き、
現在もパルフェを中心に船の制御に全力をかけて勤しんでいた。
「結晶反応、さらに45%ダウン!」
「艦内温度も三度上昇しました!」
機関室に設置されている小型コンピューターのモニターには、船の全体像が映し出されていた。
イカヅチと海賊母船のそれぞれの空調ならびにペークシスの結晶反応を汲み取って、
算出されたデータ数から対処していっているのだ。
だがクルー達の懸命な努力もあまり報われていないのか、なかなか艦全体の正常値には戻りそうにない。
基準値にまで戻れば船は正常に動くのだが、何らかの要素が絡んでいるのか復旧にはまだまだ遠いようだ。
「ふう〜、そっちはどう?こっちはもうへとへとよ」
機関室のドアが自動開閉し、機関部のリーダーであるパルフェが中に入ってくる。
よたよたと歩きながらも、彼女は着ていた防護服を脱ぎ始める。
服の下よりタンクトップ越しの見事なスタイルをのぞかせつつも、彼女の表情は冴えなかった。
先程まで行っていたペークシスプラズマの点検もあまりいい結果が出なかった事もあってであろう。
「もうどこから手をつければいいのか、全然分からないわよ!」
パルフェの問いに苛立たしげに、クルーの一人が答えた。
暑さと作業効率の悪さに、クルー一人一人に余裕がなくなってきているのだ。
「無理もないわよね・・・船の融合にシステムのダウンときちゃあ・・・」
傍から見るパルフェもシステムの状況をいち早く察知してか、そうコメントした。
作業を開始してから最早数時間が経過している。
このまま突破口も見出せないままである場合、次が敵が来襲した場合耐えれるかどうかは怪しい所であった。
パルフェもそれは十分承知しており、復旧作業に余念はない。
彼女は着ていた防護服を完全に脱ぎ捨てて、その足で隣の作業室へ向かった。
「こっちはどう。あの子、見つかった?」
「まだです!逃げたまま行方不明になりました〜〜〜!」
若干泣き声をまじえ、作業員はパルフェにしがみ付いた。
パルフェはやれやれとばかりにため息をついて、虚空を見やった。
六号は解体されると心配していたが、パルフェ自身はそんな事をするつもりはなかった。
むしろ機械への愛情は、彼女が海賊達の中でも一番強いのだ。
彼女が六号を機関部へ連れてきたのには、もっと別の理由があったからだ。
「せめてちゃんと事情を説明すればよかったな・・・・」
機関部クルー達と六号でトラブルが起きないか不安になりながら、彼女は力なく椅子に座った。
一方保安クルー達に連行されたドゥエロはいうと、カイの心配をよそに旧艦区の医療室へと来ていた。
先のピロシキ型襲撃時に負傷したクルーを運んだ際にも、一度訪れている場所である。
無論、ドゥエロとて途中で連行先をしっかりと認知していた。
同時に自分が呼ばれた理由も悟り、彼は堂々と医療室内へと足を踏み入れる。
そこには彼が予想していたとおりの光景が広がっていた。
「彼女が私の患者か?」
医療室内は広さ的にそれほど大きく面積を有してはおらず、メインブリッジの半分ほどでしかない。
置かれている医療施設は稼動はしていないのか電気信号も発しておらず、
十台ほど並んでいる介護ベットの一つに一人の女性が寝かされていた。
バートによる突如の緊急発進後、ブリッジで熱に浮かされた様に倒れたエズラであった。
ドゥエロの質問に、傍らのブザムも重々しく頷いた。
「作業中に突然倒れて以来、気を失ったままだ。
微熱が続いているようなので、診てやってほしい」
ブザムの言葉にドゥエロがゆっくり視線を向けると、寝ているエズラは息を荒げ頬を赤くしていた。
素人目で見ても分るほどに苦しげな様子は、見る者の心を締めつける。
痛々しい視線で見つめる保安クルー達を尻目に、ドゥエロは冷静にブザムに問い掛けた。
「どういう事だ?
私に頼まずとも、メジェールの医療技術は我々タラークより進んでいると聞いている」
鋭い視線で問いただすドゥエロに、妖艶な微笑をもってブザムは接してくる。
「・・・ふふ、流石はエリート。会話の端々に探りを入れてくる・・・」
ドゥエロの質問の裏を看破したブザムは、しばらく沈黙を守ったままであった。
だがドゥエロ相手に些細な戯言は通じないと悟った彼女は、事情を説明し始める。
「現在、我々のシステムはペークシスの影響で90%近くが制御不能となっており、
医療施設も含まれている。これでどうだ?」
つまり、治療を施すメインシステムそのものが稼動しない状況であるという事である。
ブザムの言葉から唯一のナースであるパイウェイをのぞいて、
海賊達は医療に関してのほとんどは施設に頼っていたのが分かる。
事情を把握したドゥエロは小さく口元を歪めて、淡々とこう述べた。
「・・・・患者を診よう」
着ている白衣から診療器具を取り出すと、ゆっくりドゥエロは寝かされているエズラの元へと歩み寄った。
「あれぇ〜、おかしいな・・・・?」
ピロシキの調査を完了したガスコーニュとディータだったが、
母船との連絡が取れない事で、ろくに動けないままピロシキ内で待機していた。
今はディータがスコープを使った周囲の見定めを行っていた。
「どうだい、何か見えたかい?」
浮遊する残骸を跳ね除けて、ガスコーニュは外を必死で見つめるディータに声をかける。
だが状況は芳しくないのかディータはスコープを覗き込んだまま、小さく首を振った。
「全然見えないよ〜、マーカーだけ残ってる・・・」
スコープから見えるピロシキの外の様子は、ただ宇宙が広がっているばかりであった。
調査まで停留していた融合戦艦は影も形も見当たらず、
先行く跡を残すかのように、転々とマーカーが宇宙にポツリと置かれているのみ。
ディータの報告に、ガスコーニュは防護服に包まれた顔の表情を険しくする。
「こりゃあ何かあったね・・・すぐにここを出たほうがいい。
ディータ、出るよ」
状況判断を素早く行い、的確な動きを見せるガスコーニュ。
マグノ海賊旗揚げから培われてきた彼女の信頼の厚さの理由は、このような場面でも見受けられる。
「はい、分かりました!」
ディータも素直に応答し、背中に背負っていた移動用のバーニナーに点火する。
力強い火力が二人の背中で燃え上がり、移動を開始しようとしたその時!
「うん・・・?!くあぁっ!!」
二人が異常に気がついたと同時に、ピロシキ内部の残骸郡より細長い物体が弾け飛ぶ。
それは、カイが戦いの最後の時に吹き飛ばした筈の触手であった。
飛び出そうと不安定な体勢であったガスコーニュはひとたまりもなく巻き込まれ、
蠢く触手にその身体もろとも取り込まれてしまった……
<Chapter 3 −Community life− Action6に続く>
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