VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action10 −懐疑−
今日のメインブリッジは比較的平和だった。
午前過ぎに艦外の索敵を行い、異常がない事を確認。
執拗な刈り取りの魔の手は、お昼を迎えた今も伸びてくる気配はない。
艦内の全持ち場の定時報告を聞き、同じく業務に問題がない事をチェックした。
全ての確認が終えた時には、業務時間をやや過ぎてしまっていた。
メインブリッジは艦の司令塔であり、厳重確認作業が必要とはいえ、休みが少なくなるのには抵抗はある。
ようやく仕事を終えて、ブザム以外の皆はほっと一息吐いた顔をしていた。
「やっと終わった・・・
もう、パルフェがなかなか応答してくれなくて大変だったわ」
「ペークシスの調子が悪いって言ってたわね。
問題なければいいんだけど・・・」
ベルヴェデールのぼやきに、アマロ−ネの苦笑気味の声が重なる。
ブリッジの仕事は艦の安全を預かる最前線での職務であるがゆえに、残務や残業が多い。
アンパトス出航後刈り取りの襲撃はなく平和であろうと、毎日の入念な警戒は欠かせられない。
細かで念入りに、最小な時間で最大の成果を求められる職務――
彼女達は職務を誇りとしながらも、年齢相応の女の子としてのプライベートも大切にしたかった。
午前仕事の残業の理由は、機関部のパルフェからの報告にある。
艦の動力部であり、心臓とも呼べるペークシス・プラグマ――そのエネルギーが、極端に弱まったのである。
毎日強い蒼の光を放っている結晶が、一時間ほど前に突如として光を失った。
蛍のように小さく、消える寸前の蝋燭のように儚い光――
顔色を変えたパルフェは原因究明に乗り出し、定時報告を忘れて没頭していたのである。
困ったのはアマローネ達。
職務遂行には人一倍煩いブザムも、理由を聞いて原因の調査を依頼。
報告義務を後回しにされてパルフェは喜び、アマローネ達は大層待たされてしまう。
報告を聞かずに休憩に行くのも憚られて、今の時間まで待機させられたのだ。
十五分後ようやくパルフェが連絡をし、ペークシスの今の状態を報告。
鋭意調査中――
結論のみで言えば、何も分からなかったのだ。
現在出力はギリギリ、艦の運行に全てのエネルギーを回さなければいけない状態。
シールドを張るのはおろか、このまま衰退すれば艦内の施設が稼動出来なくなってしまう。
空調設備が停止した時点で、艦内の人間は全滅である。
パルフェは今も休憩時間を無視して調査に乗り出し、ブザムもマグノと真剣な顔を話し合っている。
そんな状態で休憩に出るのは少し気が引けるが、彼女たちが今出来る事は何もなかった。
互いに嘆息して、コンソールをスタンバイの状態にする。
座り込んでいたシートから立って、伸びをする。
「今日は何食べる? もう私、お腹ぺこぺこ」
「あたしはシーフードサラダにしようかな」
「それだけ?」
「・・・近頃運動不足だから」
他愛無い会話に華を咲かせる二人。
ブリッジを出ようとして、同僚に止められる。
「――待って、二人とも」
「? どうしたのよ、セル」
ようやく休憩が訪れたのに、制止の声。
悪気があるのではないのだろうが、ベルヴェデールは渋い顔を向ける。
今日のセルティックは着包みを着ていない。
正確に言えば顔を覆っていないだけで、未発達な身体や手足は毛皮で覆われている。
午前中は脱いでいたのだが、バートの乱入で着直したのである。
――後々旅の笑い話になりそうな、彼の女装。
厚化粧のドレス姿で、自信満々で女言葉を話していたバートを思い出すとまた笑ってしまいそうだった。
ブザムでさえ表情を緩め、マグノは大はしゃぎだった。
セルティックだけが呆れた顔をして、関わり合いになるまいと着ぐるみを着直したのである。
「これを――見て」
そんな彼女が今、真剣な顔で自分のコンソールの画面を指し示す。
茶化すのも許されないほどの、緊迫感。
アマローネとベルヴェデールは顔を見合わせて、恐る恐る覗き込んだ。
その画面には――
「――これ」
「・・・あいつ、またやったのね・・・」
映し出された映像に、ベルヴェデールとアマローネは露骨に嘆息して、やれやれといった顔をする。
「・・・? どうした」
その様子を何気なく見ていたのはブザム。
休憩時間にまで干渉する気はないにしても、騒ぎ立てれば不思議にも思う。
話し合いに応じていたマグノや、同じく休憩していたエズラも視線を向ける。
ブザムの問い掛けは無視出来ない。
ベルヴェデールは少し怒ったような顔をして、言った。
「ディータが、カイに泣かされているんです・・・!」
セルティックが見せた映像は、問題の二人の場面。
告発するベルヴェデールに、ブザムは一瞬唖然とした顔をして、すぐに憮然とした表情に戻した。
「――騒ぎ立てるほどの事ではないだろう・・・」
何かと思えばそんな事か、とブザムは呆れて言い返す。
エズラも微笑ましい様子でクスクス笑っている。
「あの坊やも意外と将来、女泣かせになりそうだね」
子供の喧騒を見つめる優しい眼差しで、マグノはしみじみと呟いた。
ディータがカイをどれだけ慕っているかは皆が知っている。
カイがディータに危害を加えるような男ではない事も。
ディータがカイに泣かされたのも痴話喧嘩か、二人のどちらかが何かしたのだろう。
男女共同生活始まりの時ならともかく、現時点で艦全体の問題にする意味はない。
結局、すぐ仲直りするだろう。
それは、
「そ、それはそうですけど・・・」
ベルヴェデールも思っている。
ただ――何となく、気に入らなかった。
喧嘩するほどの仲。
毎日ではないにせよ、よく一緒にする二人。
女の子を泣かせているのに、問題にもされない。
二人の仲は、皆が信頼しているほどなのだ。
――それが、とても引っかかる。
どの辺がと聞かれれば答えようがないのだが、胸の中で刺を感じている。
ここまで皆に容認されているカイが、とても気に入らない。
カイの事が嫌いではないから、余計にそう思えてならない。
矛盾した感覚にもやもやするベルヴェデールに比べ、アマローネはあまり気にしていなかった。
二人の喧嘩は日常茶飯事ではないが、一度や二度ではない。
ディータの積極的な行動に問題があるのか、カイの対応が冷たいのか。
その辺の匙加減は微妙であり、結局のところ当事者がどうにかするしかない。
大方、カイがまたディータにキツイ言い方でもしたのだろう。
その程度に、アマローネも考えている。
彼女はカイを全面的に信用していた。
暖かい雰囲気が緩慢に広がるブリッジ――
――セルティックだけが、冷めていた。
「――ディータは、大怪我を負いました・・・」
きょとんとする一同。
何を言っているのかと、その場にいる誰もが一瞬思ってしまう。
セルティックは続ける。
「命に関わる怪我です。
――やったのは、あの男」
「う、嘘・・・な、何言ってるの・・・セル・・・」
淡々と告げるセルティックに、アマローネは背筋が凍る。
冗談にしては性質が悪いし、カイを陥れるならやりすぎだ。
個人的な確執を彼に抱いているのは、アマローネも知っている。
クリスマスの一件で、カイに拗ねた気持ちを抱いているのも。
だからといって、そんな嘘を――
「・・・本当だよ、アマロ。ほら――」
――悪夢のような光景。
白い床に真っ赤な華を咲かせて、ディータが倒れている。
見下ろしているのは、カイ。
表情は隠れて見えないが、ディータが力のない瞳をたたえて横たわっているのをただ見ている。
彼女の頭を押しつぶしているのは、間違いなく先程の映像でカイが持っていたボックス。
「・・・う・・・そ・・・」
「な・・・何なのよ・・・
何なのよ、これ!?」
惨事は目の前に。
真実は、ただ冷酷に――
唖然棒全とする一同を目の当たりにして、
(・・・)
セルティックは無言で――その場を後にした。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
|