VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 3 −Community life−





Action3 −急発進−




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 ディータとガスコーニュ。

合体した鳥形の機体はピロシキ本体を消滅させたものの、幸か不幸か一部だけ残骸が残されていた。

敵の調査に出向いた二人は、そんな残骸の内部へと辿り着いていた。


「これはまたすごい内部構造だね。宇宙船というよりは、一種の工場に近いよ・・・」


 防護服で全身を覆ったガスコーニュは、ピロシキ内部を一目見るなりそう評した。

あちらこちらに小さな破片を中を漂わせつつも、残骸内は傷のない箇所が多々そのままとなっていた。

蜂の巣のように無数に格納されているキューブが内部において格納されており、精密に設計されているのか、

見渡す限り残骸とは思えない程の広大で壮観な光景であった。

そして多数格納されているキューブの倉庫の奥に、自動修復システムが設置されていた。

メジェール、タラークの科学技術とは異なる目まぐるしい機材を搭載されたそのシステムには、

さすがのガスコーニュもどうしようもない様子であった。


「下手にいじくるとどうなるか分かったもんじゃないね。さてどうするか・・・・」

「わ〜、すごいすごい!ディータ、こんなの見たことがない♪」


 真剣に調査しているガスコーニュの傍らで、ディータは内部をウロウロ周りながらはしゃいでいた。

先程まで苛烈なまでの攻撃を繰り返していた敵であれ、壊れてしまえば彼女にとっては有害ではないらしい。

自分の好奇心を満たすべく、ディータは歓声を上げて見回っていた。

ガスコーニュは呆れた様にため息を吐いて、自分に頼んだメイアの判断が正しかった事を知った。

ディータに任せていれば、殆ど何も分からずに終わっていただろう。

ガスコーニュは一通りの点検を済ませ、船へのアクセスを開始する。


『こちらマグノ。ガスコーニュ、敵の手掛かりは掴めそうかい?』


 艦長席をスライドした先に位置するブリーフィングルームより、マグノは通信をオンにした。

通信画面の向こう側で、ガスコーニュは防護服越しに険しい顔をして首を振る。


『こうでかいと、どこから手をつけていいか迷うね。
データベースさえ分かれば敵さんの情報が掴めるんだけど・・・』


 150名を超える海賊団のお頭であるマグノに対しても、ガスコーニュはあけすけな態度を崩さない。

お頭も彼女のそんな態度には慣れているのか、あえて咎めようともしなかった。

二人は元々海賊団発足よりの繋がりで、娘と母親のような関係なのだ。


『なかなか情報を掴ませないとは嫌な敵だね・・・・
残骸に乗組員は残ってなかったのかい?』


 高いポテンシャルを有する敵であれ、本体である以上クルーがいるはず。

そう踏んでいたマグノに、ガスコーニュの後ろからにゅっとディータが顔を出す。


『お頭〜、宇宙人さん一人も乗っていません』

『乗っていない?』


 どこか残念そうなディータの言葉に、マグノは訝しげな表情をする。


『どうやら無人の攻撃兵器だったようだ。
本体も所詮敵にとっては、所詮駒の一つに過ぎないって事かもね・・・』


 あれほど融合戦艦やカイ達を苦しめた敵の本体も、まだまだ尖兵に過ぎない。

その事実を認識したマグノは疲労を隠せない程にため息を吐いた。


『これで終わりって訳にはいかない様だね・・・・』


 マグノの沈痛な表情を察したガスコーニュは、快活な笑顔で明るい声を出した。


『ま、手がかりさえつかめれば何とかなるでしょ。こっちも懸命に引き続き調査・・・』

『ねえねえ、ガスコさん!あっちも見に行っていい?』


 ガスコーニュの励ましの言葉に割り込むように、ディータは目をキラキラさせて彼女に頼み込む。

自分に不本意なあだ名で呼ばれた事、自分なりの精一杯の励ましの言葉を台無しにされたガスコーニュは、

目を三角にして、きつく咎めた。


『だーめ!まだ調査中だろう。それにガスコーニュ!』


 そのまま防護服の顔の部分に位置する仮面をちょんと押すと、

無重力下にある空間にひとたまりもなく、ディータはそのままふわふわと飛ばされていった。


『うえーん、止めて〜〜〜〜〜!』

『しばらくあんたはそうやって反省してなさい』

『ごめんなさい〜〜、止めて下さい〜〜〜』


 微笑ましい二人のやり取りを画面越しに見つめ、マグノは緊張が和らいだように薄く口元を緩める。

クルー達のこうした元気なやり取りも、彼女の力の源なのである。

しばしそうして通信を取り合っていると、マグノの手元で新たな通信コールが点滅した。

怪訝な顔をし、マグノは通信回線をオンにした。


『何だ?何か用かい』

『お頭。ご命令通り、ナビゲーターを連れて来ました』


 通信先の発信者はブザムからで、バートを連れてきた事をマグノに報告した。

やれやれとばかりに肩を叩くと、マグノは短く返事を返した。


『分かった、今行く。
ガスコーニュ、引き続き調査を頼むよ。それとディータもしっかり頑張るように』

『あいよ。また何か分かったら連絡するよ』

『私も頑張りますね!』


 二人の頼もしい言葉に苦笑しつつ、マグノはそのまま回線を打ち切った。

手元のパネルに素早く操作すると座っていた艦長席は動き始め、ルームのゲートが左右に開かれる。

そのまま一定速度でスライドして、マグノは席に乗ったままブリッジへと移動していった・・・・・・・

















 ブザムより促され、ブリッジへと連れて来させられたバートは、不安の極みにあった。

海賊達から船を取り返そうという勢いだけの言葉ではあったが、それを監房でブザムに聞かれたのだ。

タラーク軍部より女の恐ろしさを骨の髄まで叩き込まれている彼は処刑されるのか、

もしくは肝でも食われるのではないかと、恐ろしい想像で頭がいっぱいであった。

そこへブリーフィングルームより出てきたマグノがこちらへせり下りてきた時、

バートは密かに覚悟を決めつつ、恐る恐るマグノに尋ねる。


「あ、あの〜、僕に何かお話があるとか?」

「ああ、あれだよ。ほら」


 バートの恐縮した態度をやんわりと制して、マグノはある一点を団扇越しに指した。

バートは理解できないとばかりに首を傾げながら、のっそり背後を振り向いた。

マグノが指している先、そこはナビゲーション席であった。


「あの装置、あれからアタシらが何度かいじくったんだが、まったく動きはしないんだ。
あんた、どうやって動かしたんだい?」


 バートは驚いた顔で傍らのブザムを見ると、彼女は話はその事だとばかりに頷いた。

バートはようやく理解した。

自分は咎められる為に呼ばれたのではなく、必要とされているから呼ばれたのだと。

心の底から安堵するバートだったが、同時に自分が更なる局地に立たされていると悟り、

マグノ達に背を向けている形なので彼女達には分からないが、バートは今青ざめていた。


(ど、どうしよう・・・・)


 バートがここへ呼ばれたのは、ナビゲーション席を稼動できたのが彼一人だったからである。

海賊達が恐らく懸命に動かせないかどうかを念密にチェックし、

結果として動かす事ができずお手上げ状態となり、男のバートが呼ばれたのだ。

その点でバートは頼られている立場であり、有利ともいえた。

だが、ここで問題点が一つあった。

融合戦艦を動かしたバート自身が、ナビゲーションルームの起動の仕方をまったく分からないのである。

操舵手の腕を見込まれて一度は船を動かした彼であったが、偶然の要素が強かった。

彼自身がどうやって船が動いたのか、今も理解できないのだ。


(困った・・・・全く分からない。だけど・・・)


 頼られているという事は、まだ自分は海賊達に価値があるという事。

ここで『実は知らないんです』等と言えば、船からあっさり追い出される可能性もある。

バートは数秒の間苦悩と未来への観測に頭の中で四苦八苦するが、やがて結論に至る。

このまま騙し続けるしかないと。

彼自身の才能なのか動揺を隠してコホンと咳払いしたかと思うと、彼自身から得意げな雰囲気が漂う。


「無理もない。あれはきわめて複雑なシステムですからね・・・・コホン。
仕方ない!僕が見せてあげましょう」


 すらすらと弁舌を発揮すると手元の手錠をぐいぐい引っ張り、ブザムに見せ付ける。

操作に邪魔だと態度で示しているバートに仕方がないとばかりに、手元の開錠スイッチを押す。

ようやく手錠が外れた事に気を良くしながら、バートは力強く一歩一歩歩き始める。


「いいですか?そもそもこの船は男の船です。
となると、男にしか取り扱えなくて当然ではありませんか」


 ナビゲーション席に勿体つけるかのようにゆっくり歩きながらも、マグノ達をちらりと見る事は忘れない。

バートなりのアピールの仕方であった。

マグノ達はバートの態度に特に何も感じ入る事はなく、ただ淡々と事の成り行きを見つめていた。


「まあ幸い、この船には僕がいたからこそ何とかなりましたけどね・・・・」


 そのままナビゲーション席にたどり着いたバートは、前回と同じように足をゆっくりと降ろし始める。

どうすれば起動できるか分からない以上、彼も前回と同じ行動に出るしかなかった。

内心どきどきしながらも、余裕たっぷりの態度を崩さないのは大したものかもしれない。


「お分かりですか?すなわち、僕こそが皆さんにとって必要不可欠なそん・・・・
うおうわっ!?」


 ブリッジクルー一同が見つめる中、バートがナビゲーション席に片足をかけようとしたその時、

クリスタルより光の柱が立ち、バートを包み込んで内部へと強制的に招き入れた。


「やっぱりよく分からないね、このシステム・・・・・」


 クルー達が懸命に動かそうとしてもピクリとも動かなかった筈が、バートが来て反応した。

まるでナビゲーターを船自身で選んでいるようなその動作に、マグノは複雑な表情をする。















 一方、引きずり込まれたバートはというと、意外にも冷静だった。

青緑色に輝くクリスタルの空間はバートの周囲を宇宙空間で満たし、モニター化している。

前回と同様空間の中央で裸になっている彼は周りを見つめ、嬉しそうに笑った。


「へへ、ざっとこんなもんよ」


 結果論であるとはいえ、自分の力でシステムは作動したのだ。

これはもう偶然とはいい難く、明らかに何らかの要素がバートに秘められているようだ。

そしてバートもそんな自分の状況に気がつき、自分が船に不可欠な存在であると改めて確信した。


「よしよし。これで僕は安泰だ・・・・なあああああああああっ!!?」


 安堵したのもつかの間、突然バートの目の前がめまぐるしく変化し始める。

船そのものとなっているバートにさまざまな情報が荒れ狂い、データとして表示される。

緊急の事態にバートが対処する間もなくクリスタル空間は輝き、船は突如前方に急加速発進する。

驚いたのは船の内部のクル−達であった。

六号を追い掛け回している機関部クルー達は通路で派手に転倒し、

仮設エレベーターによりクリスタルの洞窟へと追い込まれたジュラとバーネットも、
急激な圧力により洞窟は激しく振動し、二人は崩れ落ちたクリスタルに巻き込まれた。





そして・・・・・















「キュウ・・・・」


監房に閉じ込められながらも脱獄を計画していたカイは壁にぶつかって頭を打ち、目を回していた。















 当然、メインブリッジは騒ぎの最たる場所であった。


「ど、どうしたんだい、急に!?」


 ブーストが過熱してグングン前方へ進み続ける船の様子に、さしものマグノも度肝を抜かれる。

バランスを崩してよろけながらも、ブザムは素早く対応へと移った。


「何事だ!船が進んでいるぞ!」

「と、突然システムが立ち上がりました!停止できません!!」

「すぐに船の進む座標を調べます!」


 緊急事態にも手を休める事無く、原因究明に乗り出すアマローネとベルヴェデール。

ブリッジクルーの一員に選ばれた彼女達も伊達ではないのだ。

マグノは持っていた団扇も放り出して、事態の原因に怒鳴った。


「アンタ、一体何をしたんだい!誰が船を動かせっていったんだ!」


 するとブリッジのメインモニターにノイズが走り、ナビゲーションルームのバートが映し出される。


「す、少しお待ちください!!えーと、こうして、ああして・・・・」


 先ほどの余裕は一転し、心底慌てた態度であちこちをいじり始めるバート。

船を止めようと躍起になっているのだが、彼の操作はまるで通用しなかった。

元々知らないのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。

マグノはバートの様子に今の事態は彼が引き起こした物ではないと分かり、呆れた視線を向ける。


「あんた、これからは本音で話したほうがいいよ。こういう痛い目を見る事になる」

「は、はは、ぜ、善処します・・・・」


 冷や汗を垂らしながら、バートはモニター越しに情けなく敬礼した。















「これでよしっと。やれやれ、データを取るのにも一苦労だよ」


 マグノへの報告の後も調査を続けていたガスコーニュは、データベースを奥でようやく発見していた。

残念ながらその場での解析は不可能ではあったが、ガスコーニュはディスクにデータをDLする。

解析機との連動で手早くDL完了となった時は、さしもの彼女もほっと一息吐いた。

ようやく危険な調査も終わったのだ。


「ディータ!データ収集は終わったよ。早い所ここから出よう」

「あ、はい!お疲れ様でした!」


 殆ど何もできなかったディータは、ガスコーニュの言いつけを守ってでの簡単な点検しかできなかった。

しかしながら元来前向きな明るさを持つ彼女は、あまり気にしてはいないようだ。

純粋に調査が成功した事に喜んでいた。


「宇宙人さんの事、何か分かったんですか?」

「うーん、あたしは専門外だから・・・・解析してそれからって所だね」

「そうなんだ・・・・・」


 人差し指を頬に当てて可愛く首をかしげるディータに、ガスコーニュは苦笑して尋ねる。


「なんだい、そんなに気になるのかい?」

「え?」

「宇宙人・・・いや、確かカイって言ったっけ?
宇宙人好きなあんたが気にかけている男だよ」


 カイの名前を聞いた途端、ディータは瞳を輝かせる。


「うん、すごく気になるよ・・・・・・・
宇宙人さんはディータが初めて出会えた宇宙人さんだから!」


 言葉としてはおかしな感じではあるが、意味的にガスコーニュは理解できていた。

ふと真面目な顔付きになって、ガスコーニュはディータをのぞき込む。


「あいつは男だよ。敵かもしれない奴を気にかけるのかい?」

「・・・・・宇宙人さんは・・・・」


 ガスコーニュの真面目な声色をこめた質問に、ディータは精一杯考えた上で答える。


「宇宙人さんは・・・優しかったから。
ディータにも、リーダーにも、ジュラにも・・・それと、それと・・・・」


 言葉がまとまらないのか、焦った様に口をパクパクさせているディータの様子に、

ガスコーニュは面白そうに笑って、もういいとばかりに手を振る。


「ま、男にしては変り種のようだね、確かに。興味があるのはあたしも同じだよ」


 出撃前のカイの告白は艦内全てに伝わっていた。

無論レジシステムの復旧作業を行っていたガスコーニュにも・・・・・・

彼女自身も、カイに対してはメジェールの常識でははかれない何かを感じているのかもしれない。

話を打ち切ってディスクを抜き出したガスコーニュは、そのまま通信機をオンにする。


「データ、コピー完了したよ。お頭・・・・お頭?」


 何度呼びかけてもマグノからの応答はなく、

通信機より伝わってくるのは不吉なノイズのみであった・・・・・・・・・・・・・















 無論、通信が途絶えているのは船が加速しているブリッジ内も同じであった。


「ガスコさん、ディータ!応答してください!!」


 オペレータを務めるエズラが必死で呼びかけているが、まるで応答はなかった。

通信モニターも映像は映らずノイズが走るばかりで、より一層の不安がつのる。

しきりに汗を流しながら、呼びかけ続けるエズラは顔色を真っ青にしていた。


「駄目です。システムにアクセスできません」

「止むをえん。とにかくマーカーをうて」


 ベルヴェデールの悲壮な報告に、傍らに立つブザムは険しい表情で対応する。

調査に向かった二人よりぐんぐん離れていっているのだ。

このままでは彼女達は宇宙の迷子となりかねなかった。

緊迫した事態を迎える中で、さらに状況が切迫する事柄が起きた。


「応答してください!
ガス・・・コ・・・さ・・・・」


 必死で通信を続けていたエズラが、コンソールにもたれ掛かる様に倒れこんだのだ。

数時間前ディータと宇宙観測していた時もふらついてはいたが、今はもう・・・・・

彼女の様子にいち早く気がついたブザムは、顔色を変えて駆け寄った。


「エズラ、どうした!?エズラ、エズラっ!!」


 ブザムの必死の呼びかけにも反応せず、ただ息を荒げて苦しそうにするエズラ。

新しい旅の前途は先行きが見通せない程に、困難を極めそうであった・・・・・・
























<Chapter 3 −Community life− Action4に続く>

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