VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 3 −Community life−





Action2 −協力−




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 現状を打開するための会議は半ば終了し、会議室にはブザムとマグノのみが残っていた。

メイアは報告と今後の対策案を提案した後に、再び現場へと戻っている。

マグノは先ほどの戦いもあり小休止を薦めたのだが、彼女は責任感ゆえか聞き入れなかった。

相変わらずの頑なさには、マグノもため息を吐かずにはいられない様子である。

心中を察したブザムは次の懸案事項へと、今マグノにある映像を見せている。


「さて、こいつらをどうするかだね・・・・」


 モニタリングされた映像には、監房室にいる男三人の様子が映し出されていた。


『ぶわあっ!?ちょ、ちょっといきなりーー!』

『て、てめえら!命の恩人になんて事・・・・ごおおお!?』

『何が命の恩人よ!アルコールをかけられた恨み、今こそ晴らしてやるわ!』

『根に持つなよ、そんな事!のおおおおおおお!!!!』


 映像からは派手に騒いでいるバードとカイ、そしてじっと立ち尽くしているドゥエロの姿が見える。

彼らは下着一枚にさせられた上で、保安クルーにより消毒液入りのシャワーを浴びせられていた。

メジェール国家特有の価値観である『男はばい菌』という価値観が、

海賊とはいえメジェール国民であった彼女達に根強く植え付けられているゆえの処置であった。

シャワーとはいえホースから直接ダイレクトに消毒液をかけられたのでは、カイ達もたまったものではない。

しきりに抵抗する素振りを見せるが、今の所効果はない様子であった。

マグノとブザムは彼らの様子を見ながら、今後の処理について話し合っている。


「今現在も監房へ収監しています。自由にさせると、クルー達に影響が出ますので」

「適切な処置だね。だが、いつまでもこのままってわけにもね・・・・
特にあの坊やは黙っていそうにないよ」


 顔面にシャワーを浴びせられ四苦八苦しているカイを見て、マグノは苦笑気味のため息を吐く。

ブザムはマグノの様子をじっと見つめ、ひっそりとその瞳を光らせる。


「・・・・融合されたこの艦システムはまだまだ不安定です。
きちんとした目処が立つまでは、私はあの者達を利用すべきだと思います。
程度の違いはあれ、先の緊急時あの三人の働きは大きかったです」

「ああ、特に坊やの戦い振りには久方ぶりに肝を冷やしたよ。
まさかヴァンガードとドレッドが合体するとはね・・・・・」


 本体ピロシキとキューブ百数を超える敵と戦い抜いたカイの蛮型。

ピロシキの攻撃によりやられたかと思いきや、炎に包まれ生まれ出でた新しい白亜の鳥。

優美さと気高さを兼ね備えて輝く機体の姿は、今もマグノの目に焼きついていた。


「その後の船の動きにも、私は常識を超えた何かを感じられました」


 敵本体が消滅しカイがベルヴェデールと言い争っていた時、ナビゲーションが突然光の柱が放出した。

一同が固唾を飲んで見守る中、何と光よりバートが排出されたのだ。

意識を失った彼が横たわったと同時に、カイ機とメイア機もそれぞれ分離された・・・・・

その一連の現象にはマグノも同じように感じたのか、そっと頷いた。


「まるでこの船に意思があるようだ。考えただけでぞっとするよ」

「まだまだ解明すべき点は多いですね・・・・」


 今後を憂う二人の心中を察するように、小窓からの宇宙の星々の光が瞬いた・・・・・・・・・















 融合戦艦内の作業はいまだ続行されており、クルー達は着々と工程を積み重ねている。

主な作業はレジシステムと機関部の復旧が優先されているが、さりとてそこばかりではない。

二つの間が融合された事により船の外見も劇的な変化を伴っており、

イカヅチ旧艦区と海賊母船を繋いでいたクリスタルも今は枯れ落ちて崩壊していた。

崩壊した部分は両艦の隔たりを砕くかのように完全に一つとなっており、

巨大な通風孔のごとく、高さ数十メートルに及ぶ広大な盾筒の空間を製造していた。

このままでは今後に支障が出ると判断した現場のリーダーにより、空間内にエレベーターの設置を計画。

男と女の船を結ぶ一本の糸のように、急ピッチで工事を開始していた。


「かくして男の船を乗っ取りつつも、マグノ一家は新しいピンチを迎えたのである、と」


 クルー達がそれぞれに汗水流して作業に励む傍らで、鼻歌を歌いながら何やらメモっている少女がいる。

完成されるまでの繋ぎにと仮設されたエレベータに乗っているその少女は、パイウェイであった。

口ではピンチと言いながらもどこか楽しそうに見えるのは、彼女なりの前向きな明るさなのかもしれない。

もっとも一生懸命に作業しているクルーにしてみれば、遊んでいるようにしか見えないのだが・・・・


「ちょっとパイウェイ!遊んでいるなら手伝ってよ。
こっちはまだ山ほど作業が残っているのよ」


 エレベータ建築に携わっている作業員の一人が、彼女を見咎めて声をかける。

だが彼女は知らない振りをして、そっけなく答えた。


「暇じゃないもん。忙しいもん」


 パイウェイの答えに、作業員はため息を吐いて作業に戻る。

彼女のこれ以上何も言っても無駄だと知っているからだ。

イウェイについては、その性格のほとんどは皆に知られている様子である。

とはいえ、彼女も本当に遊んでいるわけではない。

本来の仕事はナースである彼女の務めとして、怪我をした者や体調を崩した者等の治療をする。

そのために作業を行っている各区域を一つ一つ点検しているのだ。

態度に反映されていないがために、そのような素振りはまるで見えないのが欠点であるかもしれない。


「ちょっと待って!乗る乗る!」


 再びメモ書きに集中するパイウェイの乗るエレベータに、走りくる二人の影が飛び乗った。


「ちょっとあんた!また遊んでいるの!」

「暇なら、荷物運ぶのを手伝ってよ〜」


 メモから顔をあげて横を向くパイウェイの瞳に、大量の荷物を運ぶジュラとバーネットの姿が映った。

ジュラの持つ荷物は着替え等が主のようだが、バーネットの荷物には銃身がいくつか飛び出している。

その荷物から二人が何をしているのか察知した彼女はにんまりと笑って、手元に目をやる。

そこにはカイとの対立時にも使用された彼女の相棒と言えるカエルの人形があった。


「お引越し〜、お引越し〜♪よかったね、私達のお部屋は無事で♪
今日もゆっくり安眠ができるよ、うふふ」


 パイウェイの言葉通り、船が融合した際の影響で部屋を破壊されてしまったクルーが何人かいるのだ。

天井に大穴があいた、壁が壊れてしまった等原因はさまざまだが、

居住区の移り変わりを求めて、住み慣れた部屋を破棄せざるをえないのだ。

ジュラやバーネットもその悲劇にぶつかった者達であった。

一方無事だったらしいパイウェイのるんるんとした言葉に、二人は眉間に皺を寄せる。


「何かむかつくわ、こいつ・・・・」

「あー、もう!いらいらして余計暑くなるじゃ・・・何これ?」


 詰め寄ろうとしたバーネットは、パイウェイの背中に結ばれている一本のロープに気がついた。

ロープの先を辿って見ると、天井上の別区域に繋がっていた。

訝しげな表情で問うバーネットに、パイウェイは楽しそうに手元のカエルを突き出した。


「このエレベータは仮設ケロ〜、落っこちても知らないよ〜?
てなわけで、バッハッハイ〜♪」


 にこやかに手を振るとロープは稼動し始めて、パイウェイをそのまま上部へと運んでいった。

とり残された二人は呆然と上っていく彼女を見やって、慌てたように互いを見やる。


「ちょ、ちょっと冗談でしょう!」

「このエレベーター、どうやって降りるのよ!?」


 一度移動を開始したエレベーターは、通常スイッチの繰り替えにより停止等の手動を行える。

だがあくまで完成までの予備として仮説設置されたエレベーターに、複雑な機能をつける余裕はなかった。

ただ上がるか下がるか、それだけである。

右往左往する二人を嘲笑うかのごとく、工事もろくに済んでいないクリスタルの空間へと、

エレベーターは二人を乗せて登り続ける・・・・・・















「・・・で、僕は緊急避難したわけだ!何しろ、多勢に無勢だからね。
女共を影から偵察し、然るべき時に飛び出そうとそう考えたわけだ。
だが、しかし!女はあまりにも無情だった。
次々と仲間は捕らえられ、一人、また一人と戦友達が散っていった・・・・」


 女達の強制的消毒が済み、カイ達は再び監房へと押し込められていた。

不平や不満は山ほどあったが、バートやドゥエロは自分の立場を認識しているので大人しく、

カイはある理由で弱みを握られてしまったため、渋々監房入りを了承した。

三人は当初互いの無事を確認しあい、連続して起こった異常事態に疲れ、心身を休まさせていた。

特にカイはイカヅチに搭乗して以来、独断行動による蛮型の初戦闘から海賊達との二度に渡る対立、

ペークシスの暴走に巻き込まれてからの急な要請によるキューブ達との戦闘と、

目まぐるしい戦いの連続で疲れきっていたのだ。

三人ともじっと壁にもたれ掛かる事数十分、突如バートが立ち上がり、今の名演説となっている。


「けど、僕は思ったね。ここで死ぬのは簡単だ。
だけど生き延びて、いつの日か女達からこの船を取り戻すのが僕の義務ではないかとね!」

「おお、なかなかいい事言うじゃねえか。俺もその意見に賛成だぜ!」


 休息をとりながらじっと耳を傾けていたカイが体を起こし、熱い拍手をする。

何しろ彼自身がその考えで行動し、メイア達相手に戦い抜いてきたからだ。


「分かってくれるか、同志!」

「勿論だぜ、同志!」


 カイとバートはそのままがしっと固い握手を交わした。

横で座っているドゥエロはあまり興味はなさそうに、虚空に瞳を向けている。

そんな彼をよそに、バートの演説はさらに熱を帯びていく。


「幸いにも僕は二人の仲間と出会えた。
どうだい?ここは一つ三人の力でこの船を取り戻さないか」

「取り戻すってたって、どうやってやるんだ?こっちは三人、あいつらは大勢だぞ」


 思案下に首を傾げるカイに、ぐぐっとバートは詰め寄った。


「大丈夫だ!僕にいい考えがある」

「ほう、何か策があるのか?」


 黙って聞いていたドゥエロも少しは興味がわいたのか、バートに視線を向ける。

士官候補生の中ではトップクラスに位置するドゥエロに聞かれ、バートは舞い上がった。


「もちろんさ。何しろ、僕はこの船を操縦する事が可能だ!
奪い返そうと思えばいつでも自在に取り返せる」


 彼の言葉には若干嘘が混じっていた。

確かに融合化された船を初めて操縦できたのはバートである。

だが、自在に操縦できるかといえばそうではない。

操舵手としての経験は今までなかった上に、ペークシスの影響より変化したナビゲーションは、

タラークには存在しない全くの未知数の技術が加わっているのだ。

数時間前の初めての宇宙の航海も偶発的な要素がまだまだ強いといえよう。


「ふむ・・・カイも蛮型を乗りこなして戦ったな」

「そうそう、それが聞きたかったんだ。お前、どうして蛮型に乗れるんだ?
訓練していないんだろう?」


 バートに疑問視されて、若干当惑しながらもカイは答えた。


「俺の家来に聞いたんだよ。さすがに操縦は気合じゃどうしようもないからな・・・って、
そういえばあの野郎、主人の俺をほってどこに行きやがったんだ!?
あいつのせいで俺はこんな窮屈な場所に押しやられたのによ・・・・」


 戦闘後コックピットから解放して以来、カイは六号とは会ってはいない。

不自由な自分とは裏腹にのびのびとしている六号の様子を想像し、歯軋りをするカイであった。

実際は六号は今、機関部のクルーに血眼で追われているのだが。


「あいつのせい?はっは〜ん・・・・あの青い髪の女の一件だな。疑いかけられるのも無理はないだろう。
同じコックピットに乗っていたんだし」

「だ・か・ら!俺はあいつには何もしていないって言っているだろう!」


 戦闘後、コックピットにメイアが気絶して乗っていた事にブリッジ内がにわかに騒がしくなった。

ベルヴェデールがカイを非難し、六号やディータの言葉で誤解が増したのだ。

一騒ぎを収拾すべく、ブザムはカイを一時的措置として監房行きを促した。

反論する言い分を持たないカイは受け入れるしかなかったのだ。


「でも証拠がないしな、お前〜」


 気軽な調子でそう言い、バートはその場に腰を下ろした。

女の言い分を口にするバートに、カイは睨み付ける。


「お前、俺を疑っているのか!」

「怒らない、怒らない。気楽にかまえなって。
だけど、実際あの蛮型は何なんだ?どうして女の船と合体した?」

「・・・俺もわからねえよ。無我夢中だったからな、あの時は・・・・」


 カイは再び壁にもたれ掛かり、あの時の状況を思い返してみる。

ピロシキに真正面から突撃し捕まってしまった自分。

攻撃はおろか動きすらままず、敵からの攻撃を防御する事もかわす事も不可能な状況。

されど逃げる事を選択できず、自分は最後の最後まで諦めない事を選んだ。

その一瞬後眩い光に満ち溢れ、女の影がちらついてかと思うと、そのまま気を失った。

目覚めた時は戦いはすでに終わっており、背後より伝わる暖かい感触に目がさめ・・・・・


「顔が赤くなっている」


 ドゥエロの冷静な指摘に、カイははっと我に返った。


「べ、べべ、別に何も考えてないぞ、何も!!ああ、何も考えていないさ!」

「?・・・特に問いただすつもりはない」

「あ・・・・は、はは・・・そりゃどうも」


 まさか女の事を考えていましたとはいえず、曖昧に誤魔化すカイ。

(あの女、ああいう顔もできるんだな・・・・)

静かに眠っていたメイアの表情を思い出して、カイは物思いに浸った。

話題がそのまま止まったのを見透かしたように、バートは口を開いた。


「幸いにも時間はまだある。その間にこれからの打開策を考えようではないか。
なに、三人集まれば文殊の知恵。いいアイデアは出る」


 あくまでも空元気なのだが、それでも前向きな意見にカイは苦笑する。


「あんた、バートだっけ?元気がいいよな。
そこまでベラベラ喋って暑くならないか」


 艦全体の空調がまだ回復に至っていないゆえ、当然薄暗い監房内も蒸している。

しかも閉じ込められているがゆえにその暑さもじめじめとしており、不快感すら沸いて来る程であった。

カイの言葉に、ドゥエロは静かにこう言った。


「不安なのさ、彼は・・・・・・
女に、しかも悪名高い海賊団に捕らえられているんだ。
右も左も分からない現状ではじっとしていても不安は募っていくばかりだからな」


 ドゥエロの冷静な指摘は的を射ていた。

タラークでの教育により、女性への蔑視と恐怖が心の奥底に刻み込まれているのだ。

人一倍保守的なバートでは特に無理もないかもしれない。


「こうして喋る事で気を紛らわしているんだ・・・許してやれ」


 ドゥエロの鋭い洞察力と深い智謀に、バートは驚きと羨望の目でドゥエロを見る。

その説得力のある言葉にはカイも納得したのか、しきりに頷く。


「そっか・・・・そうだよな。あの女どもも何するかわからねえし・・・・」


 カイ自身も不安がない訳でなかった。

知り合って一日も経っていない内に、女の全てを知ろうとするのも無理な話だ。

だがそれ以上に、今のカイには海賊達への好奇心と興味が上回っていた。

頭から何でも否定するのではなく、まずは理解しようと考えたのだ。

闇雲に突っ走っていた出立時に比べれば、より一歩成長したといえよう。


「ま、だが心配するな。いざとなったら俺が何とかしてやるよ。
なんてたって、宇宙一のヒーローを目指しているからな。海賊なんぞにびびってられねえ」


 胸を張って語るカイに、バートは呆れた様に睥睨する。


「お前のその自信がそこから沸いて出るのかも僕は気になるよ・・・・
だが、まあここに有力な特待生と期待のアタッカーが揃っているんだ。
僕達の力で女達を・・・・」 

「どうするつもりなのかな?」


 はっと口を開いたまま固まるバートに、冷ややかな女性の声が響く。


「随分と楽しそうに話しているじゃないか。私もぜひ聞いてみたいな」


 恐る恐るバートが振り返ると、レーザーシールドの向こう側にブザムが立っていた。

彼女の鋭い視線に、バートは恐怖心のあまり顔を引きつらせる。


「い、いえ、たいした話ではないので・・・・」

「いや、興味深い。一緒にきてもらおうか。話を聞かせてほしい」


 バートの言い訳をぴしゃりと遮って、ブザムは取り付く間もなくバートを促した。

がちがちに身を固めるバートの隣で、カイが座ったままブザムを見上げる。


「こいつをどうするつもりだ、お前」

「なに、話を聞かせてもらうだけだ。時間はかけんよ」

「嘘くせ〜、本当かよ」


 まだまだ信頼をおけるほどの関係ではない両者に、緊張感が生まれる。

ただじっと言葉を一言も発せずにぶつかり合う視線。

数秒か数十秒か、やがてブザムが口元をふっと緩める。


「心配しなくてもいい。話を聞くだけだ」

「ふーん、話ね・・・・・
って言っているけど、どうするバート」


 カイが隣の張本人を見上げると、バートはやや腰をひきつつこう言った。


「は、はは・・・お話だけなら喜んで」


 保安クルーに寄り添われ、バートはそのまま監房から連れ出されて行った。

彼が大人しく連行されて行くのを見ていたカイは、面白くなさそうな顔でドゥエロを見やる。


「・・・・どう思う?」


 その一言で何が聞きたいのか察知したドウェロは、重々しく口を開いた。


「我々が育った環境で意見を言うならば、彼の身は安心とはいいがたいな」

「何もないとは思うけど、気にはなるよな・・・・」


 ブザムの言葉を疑っている訳ではないが、彼女は何をするか曖昧に言葉を濁していた。

カイは暫し考えたかと思うと、面白い事を思いついたように、にやっと口元を歪める。


「よし、決めた!」

「どうするつもりだ?」


 ドゥエロの疑問に、どこか得意げにカイは人差し指をピッと立てて答えた。


「あいつの様子を見に行こう。そのために・・・・・ここから脱獄する」


 どうやらカイの行動力はまだまだ衰えてはいない様子である。
  























<Chapter 3 −Community life− Action3に続く>

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