VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 2 −The good and wrong−





Action9 −合体−




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「うしっ!ぱぱっと片付けてやるか!」


 今までマグノ達との通信を行っていたディスプレイより顔を上げて、カイは威勢良く叫んだ。

その表情には気力と闘志が満ち溢れており、ひたむきな強さを宿した瞳が輝いている。


「・・迷いは吹っ切れたようだな」


 今まで黙ってカイの告白を聞いていたドゥエロは、小さく口元をほころばせる。

カイはそんな彼にビシッと親指を立てる。


「おうよ。もう、いちいちうじうじ悩むのはやめだ。俺は俺らしく暴れてやるぜ!」


 先程までの深刻さとはうって変わって、すっきりした顔でカイは答えた。

彼は彼なりに自分と他人との差を悩み、そして現状で出せる答えを出したのだ。

最早カイの行動を妨げるものは存在しなかった。

カイはそのまま勢いに乗って風呂場を出て行こうとするが、出入り口で六号が立ちはだかる。


「ちょっと待つぴょろ!せっかちな奴だぴょろ」

「何だと!?てめえ、邪魔する気か!」

「どうせ、さっきの蛮型に乗って戦うつもりぴょろ?」

「当たり前だろう。あいつは俺の相棒なんだからよ。戦うときは常に一緒だ」


 何故か威張って話すカイを、馬鹿を見つめる目つきで六号は怒鳴りつけた。


「お前の頭はところてん並!あの蛮型はとても動かせる状態じゃないぴょろ!
さっきそれで脱出もできなくなったのを忘れたぴょろか!」

「げっ!?そうだった・・・・・・・・・」


 六号の言う通り、カイの蛮型はほぼ大破に近い状態だった。

メイアとの一戦で酷使したために、動力系統に致命的なダメージを与えてしまったのだ。

これはメイアのドレッドの腕が超一流である事も一因に値するが、

何よりアタッカーとしてのカイの腕前が素人過ぎた事が原因であった。

兎にも角にも、このままでは戦う所か出撃もままならない。

高揚する気分が萎えて、カイはしばしウロウロと足取りを惑わして考え込んでいたが、

ふと六号の方に視線を向け、にやりと笑みを浮かべる。


「そ〜う〜だ〜、お前がいるじゃないか」


 指をワキワキさせてにじり寄るカイに、流れるはずのない汗を流して六号は後ずさる。


「な、何ぴょろ・・?」

「どうせ修理しようとした所だ。お前も俺の家来なら手伝え。知識くらいあるだろう」

「誰が家来ぴょろ!?お前みたいな無茶な奴に付き合うつもりはないぴょろ」


 小さなメカニカルな腕をぶんぶん振って抗議するが、カイは揺るがなかった。


「ふ・・・・お前に選択権などないわーーー!!!」

「うわああああっ!?何するぴょろ!!話すぴょろ〜〜〜〜!!」


 意地悪な笑顔を表面に表せて、カイは脇の下に六号を無理やり担ぎ上げた。

六号はばたばたと暴れて抵抗するが、所詮体格の違いには全てが無意味だった。


「ええいっ!暴れるでない!!
スクラップにされたくなければ、俺の言う事を聞くのじゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

「人権無視だぴょろ!!訴えてやるぴょろぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


 六号の非難を笑って流して、カイはそのまま大浴場を飛び出していった。

後に残されたのは高鳴りを続ける船の悲鳴と、遠くから響く二人のそれぞれの叫びのみだった。

残されたドゥエロ達はしばし呆然としていたが、やがて彼は顔を引き締める。


「さて、我々も彼女の本格的な治療を行おう。医療室は使えそうか?」


 真摯な視線で見つめられ、保安クルーはうろたえながらも答えた。


「恐らくまだだと・・・・ずいぶんシステムが使われていなかったみたいなので」


 海賊母船の医療システムはペークシスの暴走で機能停止しているのは任意の事実だが、

男側、つまりイカヅチの医療室もまた問題があった。

そもそも旧艦区はマグノの話通り昔の移民船団の一つであり、長年使われていなかった船であった。

それをタラーク軍部が改造し、新しいシステム増加による巨大戦艦を建造したのである。

だが時代の流れを一掃するのにはまだまだ問題も山積みであったため、

システム復旧にまでこぎつける事は不可能だった。

現在は機関エンジニアのリーダーであるパルフェも忙しなく作業を続けるものの、目処は立っていない。

保安クルーの言葉にドゥエロはどこか嬉しそうに笑って、指をぽきぽき鳴らした。


「なるほど、それは仕方がない。では、私のやり方でやるとしよう」


 怪我をしているクルーを無遠慮に抱き上げて、ドゥエロは走り去っていく。

その光景を一瞬ぼんやりと見ていた保安クルーだったが、やがて慌てて通信を取り始める。


「パイ!ちょっとこっちを何とかしてよ!男が怖いのよ!」


 パイウェイもパイウェイで大変な状況なのだが、そうとは知らない保安クルーは叫び続ける。

一時的とはいえ、男女が互いに助け合うというのも大変なようだ。

















 一方、キューブ達とやりあうメイア達も膠着状態にあった。

無論互いに止まり合っているのではなく、動するがゆえの戦力の拮抗である。
メイア達がバージョンアップしたそれぞれの自機の機能を駆使してキューブを破壊していくものの、

ピロシキは悠々と新しいキューブを戦場に発進させてくる。

その上で本体がバートによる融合戦艦の移動を追尾しているのが現状だった。

だが唯一違う点は、致命的な攻撃を食らえばメイア側には後がないという事であろうか。


「敵のレスポンスが徐々に上がっています!」

「メイア機、ディータ機に被弾!ジュラ機も防御に精一杯です!」


 ブリッジクルーであるアマローネ、ベルヴェデールがそれぞれに報告する。

苦しい戦いを弱音を吐かずに続けるディータ達に、マグノはメインモニターを通じて三人を呼び出した。


「もう少し頑張っておくれ。今、そっちに援軍が向かった」

『援軍、ですか・・?』


 モニター先のメイアが敵状況を確認しながらも、戸惑った顔を見せる。

普段の冷静な彼女にしてみれば珍しい表情だった。


「聞いていたんだろう?さっきの通信を・・・・」

『・・・・・・・・・・・・』


 黙したまま、メイアは目を背けた。

その仕草が何よりの証拠となる事も気がつかずに。


『お頭!!宇宙人さんが来てくれるんですか!!』 


 メイアとは裏腹に、ディータは期待と嬉しさに満面の笑顔で尋ねる。

どこか微笑ましい仕草に傍らのブザムは苦笑し、マグノは大らかに頷いた。


「あの坊やはやるといったらやるよ。そういう男さね」


 カイの告白を聞き終えて、改めて彼がどういう男であるのかをマグノは知った。

経験も考え方もまだまだな未熟さはあるものの、自分を見つめるまっすぐさがある。

海賊である自分達を上辺や見た目で裁くのではなく、敵であれ一歩近づいて理解しようとする姿勢。

マグノはそこにカイの将来性を見据えた。


『もぉ〜、ディータ!!ぼんやりしないでよ!!
ジュラが一人で頑張っているのよ!!』


 言葉通り、一番防御力の高いジュラ機がキューブの攻撃の前線に立っている形であった。

自分一人に押し付けられてはたまらないと、ジュラは不満をディータにぶつける。

根が純粋なディータは言葉を間に受けて、慌てて攻撃を再開し始める。

そんな二人に危機的ながらも余裕を生まれていると感じたマグノは、腰を席に深々と沈めメイアを見つめる。


『ま、何をしでかすかは分からない奴だがね。もう少ししたらそっちへ加勢に行くよ』

『・・・私は私でやらせていただきます。男に頼るつもりはありません』


 メイアはそのまま有無を言わさずに、通信を強制的に切断する。

画面に残ったノイズを暫し見つめた後、ブザムはそっとお頭を視線を移す。


「メイアはカイをあてにはしない様子ですね」

「別にあの男が特別ってわけじゃない。あの娘はいつも一人で乗り越えようと懸命になる。
ずっと一人でね・・・・・」


 そう言って目尻の皺を深めるマグノに、ブザムはマグノの苦悩の一端を垣間見た気がした。

ブザム自身もメイアについては感じ入る所がある。

メイアは戦闘中ではリーダーとしての勤めとしてチーム行動を主にするが、あくまでも仕事としてである。

それ以外ではプライベートであれ、彼女は誰ともふれあおうとはしない。

むしろ頑ななまでに他人との接触を拒絶する傾向にあった。

お陰で他のクルー達からの信頼は高いものの、メイアはいつも一人だった。

憐憫に近い感情で、ブザムは戦い続ける白きドレッドの姿を見つめる・・・・・・・・・















 マグノ達の話題の中心となっているカイだったが、ようやく収められている蛮型を発見していた。

カイは監房に閉じ込められるまでは意識を失っていた状態であったために、

強引に同行させられた六号が渋々案内をし、カイを相棒の居場所まで着かせたのだ。


「はあ・・はあ・・・待たせたな、あいぼ・・・・え?・・・・・ええっ!?」


 格納庫へと一歩中へ踏み入れたカイは、目の前の光景に我が目を疑った。

そして何度も自分の目をこすり、怒気を露にして傍らの六号に詰め寄る。


「おい、こら!俺は相棒の下へ案内してくれって言ったんだぞ!!

「だから、その目の前の蛮型がお前の相棒だぴょろ!」 


 了見違いも甚だしいとばかりに、六号は瞳を三角にする。


「お前、もう動かないほどぼろぼろだって言ってたじゃねーか!
俺だって脱出前に乗り込む時見てたんだぞ!」


 カイが怒鳴り散らすのも無理はなかった。

ペークシスの暴走により白濁したクリスタルに覆われている格納庫内にてカイという主人を待っていたのは、

見事なまでにメタリックに輝く蛮型だった。

しかも主格納庫内に並んでいた九十九式蛮型の量産タイプではなく、

これまでにないまったく新しいボディを有する機体だった。


「本当にこれがお前の機体だぴょろ。賭けてもいいぴょろ!」


 何を賭けるのか意味不明だが、卵形の機体をいからせて六号は断言した。

六号の真剣さに嘘はないと感じたカイは、執り付かれた様にまじまじとその蛮型を見つめる。

自分の相棒であるそれは先程までのぼろぼろに打ちひしがれた様子は微塵も見られなかった。

メイアとの攻防で傷ついたはずの胴体は傷一つない滑らかな柔和を称えており、

頭部の中央に位置する瞳も二つになっており、人間を思わせる深遠の深さがあった。

全体的な骨格パーツも完全にタラーク軍部での基準とは逸脱し、一つ一つに複雑さが増していた。

どうやらペークシスの暴走によるメイア達ドレッドの既存改良と同じコーディネートが、

カイの相棒にもなされているようだ。


「お前・・・・・こんなにも変わっちまったのか・・・・」


 やや呆然と呟き、カイはゆっくり機体の表面を撫でて行く。

そしてふと蛮型の足元部分にうっすらと癒されていない傷に気がついた。

見過ごしかねない程の細かな跡ではあるが、気がついたカイは素早い動作で傷を見やった。

そこには二人が交わした証である文字が刻まれていた・・・・・


「『HERO』・・・・そうか、お前も俺と同じなんだな。
どれだけ変わっても、どれだけ成長しても、志は変わらねえ!そうだよな!!」


 パワーアップし故障も修復されたとはいえ、変わってしまった相棒に複雑な心境だったカイ。

だが何の因果か最初に刻まれた彼の文字だけはそのままとなっていた。

その偶然に、カイは自分自身を重ねた。

マグノとの、ブザムとのやり取りにずいぶん悩みながらも出した答えは、あくまで自分らしくだった。

そして目の前の自分の相棒もまた大切な部分は同様に残している。

あくまで偶然か、運命が起こした必然なのかは分からないし、カイは興味もなかった。

ただ純粋に根元で繋がっている相棒との結び付きが嬉しかった。

「相棒、馬鹿な俺のせいでお前には迷惑をかけちまったな・・・・・・・
でもよ、俺は決めたんだ。俺はもう絶対に立ち止まらない。
広大なこの宇宙へ出た以上、思いっきり立ち向かって俺は強くなる。今のお前みたいにな!」


 快活にそう叫んで、カイは六号を抱きかかえて飛び上がった。


「ちょ、ちょっと待つぴょろ!?どうして僕も連れて行こうとするぴょろ!?」

「ついでだ。それに操縦の仕方をちゃんと習ってなかったからな」


 枯れ落ちた結晶を割りながらひょいひょいと身軽に飛び越えていき、カイはコックピットへと乗り込んだ。

動作もまさに完璧で、蛮型は着々と発進準備を整えていく。

カイが乗り込んだ後にコックピットは静かに閉じられて、内部の照明が輝き始める。

メインモニターは初めての出撃とは比べ物にならないほどの情報演算能力を発揮し、

みるみるうちに全パーツのスキャンニングを終えて、待機モードへと移行する。

後は主人であるカイの操縦を待つばかりだった。


「どうやら中はそれほど変わってないみたいだな。これなら出撃も可能だ」

「今度は無茶しないようにするぴょろ。機体がもたないぴょろよ」

「分かってる、分かってる」


 きっちりと釘をさす六号に、カイは苦笑して頷いた。

メイア達との攻防の際もアシストに徹してくれた六号だったが、今では人間味も帯びている。

それが戦いにどう影響するかは分からなかったが、今のカイは緊張をほぐされていた。


「さてと・・・そんじゃあ行こうか!」


 カイはコンソールを巧みに操り、相棒を操縦し始めた。

格納庫内のほとんどのシステムが機能を停止している中で、無事だったカタパルトへと移行する。

初めて乗り込んだ際はほぼ無理やり搭乗した為に止める間もなく発進してしまい、

結果メイア機との衝突という情けない形になってしまった。

よって今回は六号の指導の元微細に機体を駆使して、射出完了にまで持っていった。


「ふう・・・結構気を使うよな」

「整備員もいないんじゃ無理はないぴょろ」

「確かにあの時はもう発射完了になっていたからな。
お陰で不幸中の幸いか、初心者の俺でもスタートできる形になったけど」


 何気ない会話をしながらも、カイの表情は真剣だった。

準備も、舞台も整った。後は全て自分次第。

メイア達との時には無様な戦いを攻してしまい、結果連中を突破させてしまい、相棒を壊してしまった。

そして今、再び自分は戦場へと向かおうとしている。

自分の夢を果たすために、懸命に戦い続けるあの女達を助けに行くために。

今度こそ・・・・・・失敗は許されない。


「酒屋の息子改め宇宙一のヒーローになる男、カイ=ピュアウインド。
俺は立ち止まらない。今度こそ・・・・・走り続ける!!!」


 高らかに叫びカタパルトを点火して、カイは勢いよくスロットルレバーを引いた。

するとカイの機体は全身のエネルギーを満ち溢れさせて、結晶体の残骸を跳ね飛ばし、

猛烈なる加速で戦いの舞台へと踊り上がっていった・・・・・・・・・・・・















「ふんぐぐぐぐぐぐっ!?負けるかっ!!」

 前方への急速なる加速からの反動に身体を締め付けながらも、カイはしっかりとレバーを握り締める。

そのまま宇宙空間へと解放されて、ようやく圧迫感が消失した。

カイが一心地ついていると、傍らの六号が緊急コールを促した。


「ピー!ピー!!ボーとしている場合じゃないぴょろ!!右、右!!」

「へ・・?うどあぁぁっ!?」


 融合戦艦より飛び出した蛮型をいち早く発見したキューブ数体が、猛烈な光の柱をぶつけてくる。

メイア達ドレッドと同じく強化されている装甲にダメージは少なかったものの、

着弾の際に生まれる衝撃は相殺できず、蛮型は体勢を崩し見事なまでに舞った。


「く、くそう・・・あいつら、いきなり攻撃しやがってぇぇ〜〜!!
あの変な形をしている奴等がそうか」

「そうぴょろ。キューブ型百数十体にピロシキ型一体だぴょろ」

「上等だ、この野郎!!」


 レバーを巧みに操作して体制を通常ポジションに戻し、カイは素早く敵へと接近を試みる。

さすがに二度目という事と機能がバージョンアップしているという事もあってか、

前回よりも遥かに操縦に淀みがなかった。


「よーく覚えておけ。俺は一度やられたら百倍でやり返す!!」


 カイは間合いの範囲へキューブを招き入れると、そのまま攻撃すべく繰り出そうとする。

と、カイはある事に気がついて思わずレバーを急停止させた。


「何しているぴょろ!?早く攻撃しないとこっちがやられるぴょろ!

「い、いや、あの・・・・・こ、攻撃ってどうやればいいんだっけ・・・?」


 口からポツリと出たカイの発言に、傍らの六号は思わずずっこける。

思えば初めて出撃した際もろくに操作の仕方もわからず、苦戦する羽目になったのだ。

ましてや機体の構造はおろか、戦いの全てにおいて初心者なカイにいきなり実戦というのも無茶な話だった。

だが、敵はそんな事情も知らないし、待ってくれるはずもない。

のこのこ射程内に入り込んだ蛮型に向けて一斉放火を浴びせ掛ける。















 カイの様子を近くから見ていたディータ達はそれぞれ一様の反応を見せる。


「な、何よあいつ!?戦い方も知らないの!?」


 あたふたと敵の総攻撃を食らい続けるカイに、心底呆れ果てたという表情をするジュラ。


『リーダー、リーダー!!見てますか!!
宇宙人さんがディータ達を助けにきてくれたんですよ』


 カイの決死の突撃が自分達の助けだと信じるディータは、嬉しさに胸が弾む。

もどかしいほどの感情の流れは、そのままメイアにぶつける程であった。


「助けに来ただと・・・・あんな腕前で・・・・」 


 キューブの苛烈な嵐の光に飲み込まれる蛮型を見つめ、メイアは呆然とつぶやいた。

信じられなかった、が一番心に生まれ出でた感情。

誰にでも分るほどに、カイの技量は素人のそれだった。

戦法も何もあったものではない考えなしの突撃。

命まで賭けて、戦いの場へと参戦する理由がどこにあるというのだろうか・・・・?

メイアは分からぬままに、カイの蛮型を見つめ続けていた・・・・・・・・・・















「のおおおおおおおっ!あで、あでででで!?」


 四方八方から降り注ぐ敵の攻撃には流石にまともに回避する事もままならず、

カイの機体は木の葉のように左へ右へと舞うがままだった。

メインモニターも眩い閃光に染まり視界は遮られ、カイは目を覆いながらも負けん気の強さは変わらない。


「おのれ〜・・・・宇宙一のヒーローになる俺にリンチなんぞかましやがって〜〜!!
絶対にぶっ殺してやる!!海賊より性質悪いぞ、あいつら!!」

「強がりはいいから早く何とかしてほしいぴょろ!!」


 六号にしてみれば無理やり乗せられて、大ピンチの状態に巻き込まれた被害者の気分であった。


「何とかするって言ったって・・・・どうやって攻撃すればいいんだ!?」

「蛮型の背中部分に標準装備として『十得ナイフ』が搭載されているはずだぴょろ!
それを使って攻撃すればいいんだぴょろよ」

「武器!?背中にあるんだな!」


 絶え間なく襲い掛かる攻撃に必死で耐えながら、カイは歯を食いしばって機体を立て直す。

そして背中へとごつい腕を伸ばすと同時に、盾型のブレードタイプの武器を引き抜いた。

六号のいう「十得ナイフ」も自己改良されており、より高性能に変換される便利なタイプへとなっている。


「いつまでも調子に・・・乗ってるんじゃねえ!!」


 引き抜いたブレードを素早く投げると、水平線上にいたキューブに突き刺さり四散する。

戦列が崩れたその一瞬を見逃さずにブレードをキャッチし、カイの機体はそのまま突撃して敵を切り飛ばす。

その威力は絶大で、立ちはだかるキューブも物ともせずに続けざまに破壊していった。


「よっしゃ!!このまま一気に叩きのめすぞ!!」
「あの機体ぴょろ!!あいつが全部操っているんだぴょろ!!
あいつを倒せば、この戦いは勝利したも同然だぴょろ」
「そうか・・・親玉はあいつか!!」


 ホログラムに映し出されるピロシキ型を見つめ、カイはにやりとした。
















「ヴァンガード、敵本体に接近しています。本体も迎え撃つつもりのようです!」


 アマローネの報告がブリッジ内に響く中で、マグノとブザムはカイの戦い振りを見ていた。

攻撃を食らい続けたかと思えば、すぐさまに反撃を見せる。

強いのか弱いのか、その判断は別にしても二人の意見は一致していた。


「あの坊や、長生きできるタイプじゃないね」

「同感です」


 危険を承知の上で敵に立ち向かうカイに、頼もしさと危なっかしさを感じるマグノだった。

とはいえカイの行動理念はあくまで自分だけではなく、他人のためでもある。

力任せな戦い振りを展開しているが、本人にとっては全力で必死に戦っているのだろう。

その事を理解している二人はどこか苦笑気味だった。


「お前さんはどう思う?あの男はやってくれそうかい」


 何かを期待してか、マグノはどこか楽しげにブザムへと視線を向ける。


「・・・・・今のままでは到底生き残れないでしょう。
ですが、あの男が本物であるならば・・・・・・」


 少し考え込んだ後、ブザムはモニターに映るカイの蛮型を見つめながら口を開いた。


「我々メジェールの常識そのものが覆されるかもしれません」


 ブザムはまるで確信があるかのように、自信に溢れた微笑を浮かべてそう断言した。

マグノはその答えに満足したように、再び視線をカイへと向ける・・・・・・















「すごい、すごい、すごいーー!!宇宙人さん、すごく強い!!」


 激しい集中攻撃にもう駄目かと思われたその時に、一転して反撃を見せたカイの蛮型に、

戦いの最中であるという事も忘れて、ディータがはしゃいでいた。


『リーダー、宇宙人さんがやってくれますよ!!ほら、見てください!!』


 メイア機のモニターに映し出される光景は、襲い掛かるキューブをなぎ倒して進むカイの勇姿だった。

確かに快進撃ではあったが、ディータとは違ってメイアはあくまで冷静だった。


『あの機体・・・我々と同じ改良がされているようだ。だが、あんな戦い方は危険すぎる』


 マグノ達と同様の意見をもって、メイアは状況を見ていた。

一直線にピロシキ型へと突撃しているカイの観点は正しいが、やり方が危なすぎた。

このままでは百体を超えるキューブに囲まれた後に本体に撃沈される危険性が高い。

メイアが考えあぐねていると通信回線が開き、ジュラの美貌が映像化される。


『メイア、今がチャンスよ!
敵があの男に気を取られている隙にフォーメーションを立て直せば、反撃も可能だわ』


 ジュラの意見は戦略的には理に適っていた。

あれほど悩まされた数あるキューブも、カイの突撃を妨げるべく集結を試みている。

ドレッドに注意を向けられていないこの好機ともいえるチャンスなら、フォーメーションを組み直し、

着実に反撃を行う事も可能だろう。

だが・・・・・その結果、カイを見殺しにする事になる。


『ちょっとメイア!ジュラの話を聞いてる?』

『あ、ああ・・・・・・・・』


 ジュラの意見は正しい。迷わず実行するべきだ。

メイアのチームリーダーとしての理性の声が頭の中で囁く。

もし今まで、少なくともカイに出会う以前の彼女であるならば間違いなくそうしていただろう。

だが、今のメイアには心に迷いがあった。



『俺には・・・・記憶がねえんだ・・・・』



 先程聞いたカイの告白。



『だから、全然わからないんだ・・・・・あるのはここ数年の記憶だけ。
自分が誰なのか?どういう奴なのか?
恥ずかしい話、俺には名前も年も知らないんだ・・・・・・・』



 記憶もない、拠り所も何もない過酷な現実。

カイはその中を彷徨って生きてきた。

そう・・・・自分と同じように。


 でも・・・・・



『だから俺はもっと色々知りたいと思う。
お前達や・・・・いや、もっと色々な人々の営み、喜び、悲しみ・・・・その全てを俺は理解したい』


 自分と似たような境遇に落ちながらも、自分とは正反対の答えを出した男。

一人で生きていく強さを身に付けると決意し、今まで他人を拒絶してきた。

だがあの男は自分とは違う。

「他人と共存する強さ」を求めている・・・・・・・・


『メイア、何悩んでいるのよ!?早くしないと!!』


 一向に反応がないメイアに不安と苛立ちを感じつつ、ジュラは必死で呼びかけ続ける。

そこへディータの悲鳴じみた声が、メイアのコックピット内に響く。

『あ!?宇宙人さん!?』


 ディータの叫びにはっと我に帰ると、メインモニターで状況を確認する。

モニター内に映っているのは数十体のキューブに取り押さえられたヴァンガードの姿だった。


『リーダー!!宇宙人さんが!?』


 敵の本体であるピロシキ型が接近を開始している。

このままではあと数分でヴァンガードはやられる・・・・・

メイアは眉間に皺を寄せ、一時躊躇ったあげく、自機を最大加速で発進させる。


『リーダー、ずるい!ディータも宇宙人さんも助ける!!』

『ちょっとメイア、ディータ!あいつを助ける気!?』


 見る見るうちに遠ざかっていくメイア機に驚愕の表情で、ジュラは呆然と見つめる。

あまりにもメイアらしくない行動だったからだ。

戦況を考えれば、男を囮にしてフォーメーションを立て直すのがベストなはずである。

だがディータは別にして、メイアまであの男を助けようとしている。

ジュラは何がどうなっているのか、さっぱり理解できなかった・・・・・・・・・















「お前、絶対に馬鹿だぴょろ!真正面から突っ込んでいく奴がどこにいるぴょろ!」

「うっせえな!男は常に正面から勝負なんだよ!!」

「捕まってたら意味がないぴょろ!!」 

「お前だって賛成したじゃねーか!」

「こんな無謀な突撃をするとは思わなかったぴょろ!」


 危機迫った状況の中で、カイと六号は不毛な口喧嘩を繰り返していた。

武器の使い方を大まかにマスターして、カイは勢いよく突撃を開始した所までは良かった。
実際『十得ナイフ』、それに機体全体のポテンシャルの飛躍的アップは戦闘に功を奏し、

キューブ達を蝿か何かを追う払うかのように切り飛ばしていくことができた。

突破口を切り開いたカイは悠然とたたずむピロシキ型へ一直線に攻撃を加えるべく、進路をとった。

だが、本体を攻撃されるのも黙って見ているキューブではない。

結果数に物を言わせて取り囲まれ、まともに身動き取れない状態にされたのだ。


  「あいつらが卑怯なんじゃねえか!!男だったら一対一で勝負しやがれ!!」

「むちゃむちゃ言っているぴょろ・・・・あ、敵が変形をはじめたぴょろ!?」

「なにっ!?」


 メインスクリーンに視線を向けると、周りを取り囲むキューブの中心にピロシキが鎮座している。

ピロシキはカイの蛮型にターゲットを絞ると、中央部分をグニャリと歪ませる。

歪みはやがて形を創生し、数本の槍へと変化する。

徐々に形成される槍は触手のようにうねる・・・・・・

「く・・・やばいな・・・・」

「やばいぴょろ!!何とかして逃げるぴょろ!!」

「・・・・嫌だね。・・・・・絶対に逃げない・・・」

「カイ!?」


 カイは呟いて、懸命にレバーを前へ前へと操縦する。

数体のキューブに固定された蛮型も必死に右腕を伸ばし、ピロシキへと近づいていく。

だが、あと一歩の所で届かなかった・・・・・・・・・・


「無様な自分はもう嫌だから・・・・嫌になったから!」


 前へ進むと決めたのだ。

この宇宙へ出たからにはもっと色々な事を知り、自分を成長させる。


「自分のやりたい事をするのに・・・・・・立ち止まるわけにはいかない!!」


 もう絶対に負けない。二度と立ち戻らない。

絶望的な状況の中で、カイは熱い炎を瞳に浮かべる。


「あいつ!?」


 高速タイプのメイア機がディータより一歩早く追いつき、ヴァンガードへと向かう。

だがそれはさせじと、ピロシキ型は無情にも無数の触手を強烈なインパクトで放った。


「目の前に誰が立ち塞がろうと・・・・・俺は乗り越える・・・・・・・・・
俺は立ち向かい続ける!!」


 カイの強い叫びと同時に、放たれた触手は固定しているキューブごと蛮型を貫いた。

そして触手を媒体に送り込まれた殺戮のエネルギーが蛮型を中心に大爆発を巻き起こす。

援護に向かった白亜の機体を巻き込んで・・・・・・・・・・・















「・・・・・・奇跡は起きなかったようだね」


 メインモニターに映し出された惨劇に呆然となるブリッジ内においての、第一声がそれだった。

フードに隠れて見えないマグノの表情に、ブザムはより一層の悲しみを感じて声を張り上げる。


「メイア機、ヴァンガードの反応は!」

「・・・あ、ありません・・・・ロストしました・・・・・」


 希望もない報告に、ブザムは肩を落とした。

結局、戦況を覆すことはできなかったのだ・・・・・・・・・


「お頭・・・・何といえばいいのか・・・・」


 好意がわき始めた一人の男。そして何より気にかけていた一人の女。

その両方を失ったマグノの気持ちは如何なるものであろうか・・・・

日頃は頭脳明晰に物事を判断するブザムも、この時ばかりはどう声をかけていいかわからなかった。


「・・・いいさ。それよりやる事があるだろう」


 マグノの張りのない返事に、沈痛な表情で頷いた。


「はい・・・・クルー全員に避難勧告を出します・・・・・」


 ブザムが手元のコンソールを操作しクルー全員に呼びかけようとしたその時、それは起こった。


「!?待ってください!炎の中に反応があります!!」

「何だと!?」


 アマローネの驚愕に満ちた報告に、ブザムは素早くメインモニターを見やった。

マグノも同時にモニターに視線を向け、目を見開いた。


「な、なんだいありゃあ!?」


 マグノとブザムは見つめるその先に・・・・・





炎に照らされし白銀色に輝く一対の翼が浮かんでいた・・・・・・・・・・




























<Chapter 2 −The good and wrong− LastAction −生まれたての想い−へ続く>

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