VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-
Action23 −倉庫−
運命の日。
カイとマグノ海賊団の戦いは有耶無耶となり、撤退を余儀なくさせられた。
絶体絶命の瞬間――男と女が呉越同舟する契機となったあの時。
男と女の船はペークシスに巻き込まれ、光の中に消滅。
活性化したペークシスの結晶体が二つの船を飲み込んで、改良と融合を行い一つの戦艦を誕生させた――
「その役目を終えた結晶を御掃除したのがルカなの」
「パルフェの話だと、そういう不純物は暴走時に吐き出したんじゃなかったっけ?」
「ゴミはそう簡単に無くならないの。カイちゃんみたいに」
「俺がゴミだって言いたいのか!」
「うわー、被害妄想。カッコ悪」
「話の流れを統一しろよお前!?」
カイの部屋に秘密裏に設けられた会議室を出て、一同は旧イカヅチ艦内を歩く。
本人の強い希望で詳細は語られぬまま、ルカの案内の下目的地へと向かっているのだ。
小さな足をテクテク歩かせ、ルカは緩んだ顔のまま話を続ける。
「カイちゃんのお船、広いから大変だったの。
墨から隅まで綺麗にして――見つけたの」
「見せたいモノって奴か・・・・・・」
経緯は分かったが、肝心の中身は判明出来ない。
話の推移からすると、旧イカヅチ船内に眠っていた品なのだろう。
マグノの話だと、この船は地球人が新天地を求めて宇宙へ出した植民船であるという。
カイも数ヶ月住んでいる船だが、全容はまだはっきりしていない。
意外な点だが、艦内の清掃を任されている彼女なら何か発見出来たのかもしれない。
「ルカも部下さんも一生懸命掃除したの。男の領域でも差別せずに」
「そういや、確かに綺麗になってたな」
あの日、カイは激動していた。
監房に閉じ込められて、連行されたバートとドゥエロを心配して脱走。
紆余曲折を経て、パルフェの要請により蛮型で出撃。
ディータ達を救った後、暴走する船を襲う氷塊を撃墜した。
その後マグノの放送や男女共同開始でバタバタしていたが、確かに旧イカヅチを取り囲む結晶はその大半が清掃させていた。
男が住む所として、また大半の女性が滅多に立ち入らない領域に平気で入って仕事をこなす。
前々から不思議に思ってはいた。
カイは、ルカの背中に声をかける。
「・・・お前ってさ、男の事何とも思ってないのか?」
話はいつもはぐらかせるが、ルカは初対面から態度を変えなかった。
好意的でもないが、悪意に満ちた様子すらなく、淡々と話し掛けてくれる。
触るのも嫌がる女性がいる中、平然とした姿勢を崩さない。
カイに味方する人達は今では少しずつ増えているが、初めから好印象だった人は殆どいなかった。
ルカは振り返る事無く、言った。
「ペッ、死にやがれゴミめって思ってる」
「大した罵倒だな、こら!」
辟易する。
真剣に問うたところで、この返答だ。
何度聞いても真面目に答えてはくれないだろう。
メイアやブザムとは違った意味で、内心が読めない。
普段の様子から見ても誰とも打ち解けず、場に溶け込もうとしない。
世界の終わりが目の前に迫っても、平然と本を読んでいそうだった。
何故そんな少女が今、自分に味方をしてくれるのだろうか?
彼女達が理性で隠すタイプなら、ルカは知性で隠すタイプだった。
単細胞なカイには切り崩す隙も与えてくれない。
「――女が嫌いなだけ」
「え・・・・・・?」
――ルカは振り返らない。
きょとんとした顔のまま、カイはそのまま連れ立って歩いていく。
「・・・ルカって、あんなに話すんだ・・・」
先だって歩く二人に距離を取って、ベルヴェデールは不思議そうに見ている。
会議室から一緒にしているが、何となく踏み込めない雰囲気だった。
「あの娘、いつも暗いのよ。ジュラが話し掛けても無視するのに」
やや面白くなさそうに、ジュラは二人に視線を向ける。
いつもの癖で自慢の金髪を触れようとして――短髪になった事を思い出して、嘆息して引っ込める。
二人が仲良くするのはあまり面白くない。
ただ――その心境の変化について、ジュラは否定はしない。
自らも変わったと、自覚はしている。
「カイさんと仲良しさんになったのですね」
どこか眩しげに、セレナは二人を祝福するように言葉を述べた。
セレナは自分の持ち場であるカフェテリアで、ルカをよく見かけている。
誰とも話さず、不定期な時間にやって来て食事を取る。
苦痛や孤独の色はなく、その落ち着いた食事の姿勢は本人が安らいでいるのが見て取れた。
メイアのように頑なではなく、本人が孤独を愛している。
セリナも口出しは出来なかったが、あんな小さな女の子が一人を好んでいるのに不安があった。
「仲良しっていうのかな、ああいう関係って」
やや否定的だが、ミカは舌なめずりしそうな程に興味津々でいる。
男と女の関係の進展は望むところ。
人の不幸は蜜の味。
良い悪い含めて、男女の波乱を彼女は望んでいる。
監禁のような強行的な犯罪は断固反対だが、イベントの劇的な進行は大歓迎である。
それぞれの人達が見守る中、
「――ここ」
賛成派陣営は、辿り着いた。
鉄錆と埃が目立つ空間。
老朽化が目に見えて現れており、無機物と化した結晶の粉が辺りに散乱している。
「何、此処・・・? 黴臭いわね、もう」
「倉庫、かな? 放置されてた」
美的感覚の鋭いジュラを尻目に、ルカは平然と中へ入っていく。
室内は広めだが、積まれている大量の荷が占領していた。
照明施設も破損しているのか、非常灯のみしか点火出来ない。
暗さと空気中の濁った空気が目に付き、人に不快感を与える。
タラークの軍艦の一施設として使用されていたにしては汚らしさが目立つ。
ルカの言う通り、放置されていた倉庫なのだろう。
「・・・・・・何だ、これ。こんなとこがあったのか」
イカヅチに乗り込んでいたカイも知らない場所。
バートやドゥエロは知っていたのかもしれないが、カイは驚きを隠せない。
好奇心をおさえられず、中を観察する。
詰まれた荷物はきちんとした保管はされておらず、ダンボールで無造作に積まれている。
ダンボールにラベルはなく、中に何が入っているのか分からない。
四方には棚が陳列されている。
「ちょ、ちょっとみてみて! これ、人形よ!?
かーわいい」
「人形・・・・・・どれ? げ、不気味じゃねえか」
黒い髪と端整な顔立ち、アイのような着物を着た人形。
着こなしは見事だが、能面な表情は暗闇の中で異様さを放っている。
歓声を上げるベルヴェデールの神経が理解できない。
女性の奥深さを改めて思い知らされる。
「食料品は無いみたいですね・・・・・・お気を落とさないで下さいね、カイさん」
「いや、まあ食料には普段から困ってはいますけど――こんな汚い所に眠っているの、食えませんよ幾らなんでも」
「めっ、ですよカイさん。食べ物を粗末にしては」
「あんたなら食えんのか!? ――ごめんなさい」
絶対、食べられる。
もしくは、完璧なまでに料理する。
恐ろしい確信を抱いて、カイは素直に謝った。
「植民船時代の品みたいよ。珍しい装飾品があるわ。
ね、ね、使えそうなの探してもいい?」
「・・・何で俺に聞くの?」
「クリスマス主催者の命令は絶対だもん」
「責任を擦り付けようとする魂胆が見え見えじゃ! あ、こら」
キラキラとした目で、イベントの責任者だった筈の女性が荷を開封していく。
この倉庫が公とされている可能性は低い。
探索に意気込む気持ちは分かるが、ブザムに後々追求されるのは自分だろう。
――責任者の苦労が少しだけ分かった気がした。
「カイちゃーん」
「今度は何だ!」
睨むように声の主を見ると、ルカは何か振っている。
訝しげな顔で確認すると、一冊の本を持っていた。
「読んでみて」
「は? 何だよ、一体。
見せたいのってこれか・・・・・・?」
情報化が進むこの時代、本の存在は稀少である。
――のだが、カイはそんな価値を全く知らずに表紙を見ていた。
タイトルが汚れて見えない。
怪訝な顔のまま、カイは中の文章を紐解く。
「なになに・・・・・
まるで触れた部分から愛が溢れ出すように、隙間無く押しつけられた肢体。
心が鷲掴みされたみたいに、身体の奥が熱く火照る。
気持ちよすぎて、目は自然に閉じられていく。
心はふわふわ浮いている。
私達は自然に結ばれた。
・・・・・・何読ませるんだ!? って、これってあの時の!?」
こんな刺激的な文章は忘れもしない。
秘密の部屋の前で差し出された紙片――
同一の文章内容が、今この本の中に眠っていた。
何て事は無い、彼女は以前からこの部屋を知り中を荒らしまわっていたのだ。
孤独を愛する女の子に、知られない倉庫は憩いの場だったのかもしれない。
カイは驚愕の眼差しで見やるが、暗がりの部屋ではルカの表情は見えない。
「・・・・・・カイちゃんには期待してるの」
「? 唐突に何を――」
「カイちゃんに送る切り札。
――みんな、壊して」
「壊・・・・・・?」
もう片方の手から差し出される品。
恐る恐る受け取って、カイは眼前に持ってくる。
『Xmas with family』
表記されたタイトル。
古ぼけたビデオがカイの手の中に収まっていた。
<to be continued>
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