VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 2 −The good and wrong−





Action6 −善悪−




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 ペークシスの暴走によって融合戦艦へと変貌を遂げた男と女の船に対し、未知の敵は苛烈な攻撃を加える。

数体のキューブ型の機体はそれぞれ的確にターゲットを絞り、広角にレーザーをぶつける。

オートディフェンスが作動しているとはいえ、動きすらままならない現状では逃走も難しい状況だった。

そのような戦況の中、メイア・ディータ・ジュラは旧艦区主格納庫へと到着した。

『村正』着弾の際のいざこざで、カイの蛮型と同じくドレッドも暴走に巻き込まれ、移動していたからだ

。 彼女達が主格納庫へ一歩足を踏み入れたその時、三人共に驚愕に目を見開いた。


「!?こ、これ・・・」


 彼女達は呆然とした表情で、主格納庫へと足を踏み入れる。

ペークシスの暴走もピークを過ぎ、結晶体の進行は既に主格納庫内でも終了していた。

放射状に全体を覆うクリスタルはレジシステム同様光を失っており、白く濁った破片が渦巻いている。

足を進めるたびに足元より脆い壊れた音が鳴り響き、緩やかな足跡を残す。

そして、主格納庫の中央に威厳を重きに漂わせる彼女達のドレッドが佇んでいた。


「お、これ・・・本当にディータ達の船?」


 喜びと驚きを半々に交えて呟いたディータは、恐る恐る自分のドレッドに手を触れる。


「う、うちらの船・・・みたいだけど、この形は・・・」


 ジュラは目の前に広がる信じがたい光景に、不安そうに自分腕を無意識に握る。

主格納庫に待機されていた三体のドレッドは、何とそれぞれが驚くべき変化を遂げていたのだ。

カイと派手に攻防戦を行ったメイアのドレッドは、機体の損傷が完璧に修復されており、

内部に格納していた高速戦闘用のパーツも改良により、スピード重視のタイプへと変貌していた。

ディータのドレッドも機関部での激突による対ショック機関の修理は完璧で、

彼女の船独自の長距離型攻撃用武装が改良により、二対の砲撃パーツが浮き彫りにされている。

カイとのいざこざには巻き込まれなかったジュラ機はダメージはそもそもなかったものの、

ソード状の先端パーツは形を変えて、輝かしい紅色を有した婉曲された操縦重視設計になっている。

ジュラ専用である防御型のパーツは改良と変貌により、防御力が格段にレベルアップしていた。

二つの船の融合と同じく、三体のドレッドもまたペークシスによる変形がなされたようだ。

結晶体の残存の名残が何よりの証拠であった。


「にわかに信じがたいが、今は驚いている暇はない。敵は攻撃を開始している。
すぐに自機のチェックに移るんだ!」


 船の変化に驚いたものの、直ぐに気を取り直すメイアはさすがである。

すばやく行動を開始した彼女は、自分のドレッドのコックピットへと乗り移っや。

ディータやジュラも彼女の命令に気を取り直して、それぞれの機体のチェックにあたる。


「見た目ほどシステムは変わってはいないようだな。これなら動かせそうだ・・・」


 機体を操縦する上で必要なボールグリップを握り、メイアは自機を起動させチェックを行った。

内部のコックピットはペークシスによる影響は少なかったのか、ほぼ同一のままであった。

そこへ通信回線が開き、それぞれのモニターにジュラとディータが映像化される。


『こっちは大丈夫。すぐにでも動かせそうよ』


 内部による変化は少なかったせいもあってか、ジュラはようやく一息ついていた。


『すっごいです!きっと宇宙人さんの力ですよ、これ!!!
絶対にパワーアップしてますって!!素敵〜♪』


 宇宙人と聞いてカイの顔が脳裏に出たメイアは、瞳を険しくしてディータに叱責する。


『ディータ、気を緩めるな!まだ全てが解決したわけじゃない。
ジュラも無茶は禁物だ。敵も自分の機体も未知数である事を忘れるな』

『了解!』


 メイア機を戦闘に、ジュラ機やディータ機が主格納庫を飛び立っていった。

格納庫内に散らばったクリスタルを蹴散らして、三体のドレッドは眠りから覚め、行動を開始する。

皮肉にもカイとの攻防を行った旧艦区の侵入路を逆発進する形で通路を飛び交い、宇宙へと射出していく。

いよいよ、新しい幕開けとなる戦いが始まろうとしていた・・・・・・・















 旧艦区後方カタパルトより飛び出した三機のドレッドは加速しながら、敵側への接近を開始する。

融合戦艦への執拗な攻撃を続けていたキューブ型数体も、飛び出したドレッドの存在を認識したようだ。

急速なる加速と進路変更を行い、『キューブ』はメイア達へ閃光の牙を向ける。

メイアやジュラは連続して襲い掛かる閃光を苦もなく回避したが、問題はディータだった。

もともと彼女には実戦経験は皆無の上に、自分が乗っているドレッドもまた変化を遂げている。

慣れない機体の操縦や容赦なく襲い掛かる敵から襲撃に、ディータ機は奔走し始める。


「うえーん、やめてっ!ディータ達はピースフル・レーサーなのよ〜!」


 コックピット内で泣き言を言いながら、ディータは必死で敵からの回避行動を取ろうと躍起になる。

だがそれでも敵への説得を口に出すあたり、彼女も大したものかもしれない。


「お願い、攻撃は止めて!!ディータは戦うつもりはないのよ〜〜!!」 


 メインモニター越しに映し出されるキューブに必死で訴えながらも、ディータは操縦の手を休めなかった。

そんなディータの様子を通信回線で受信していたジュラは、さすがにたまらず口を開いた。


「ちょっとディータ!相手は敵よ!!集中しなさ・・・・・えっ!?」


 その時、ジュラは自分が見ていたメインモニターの映像が信じられずに身を乗り出した。

映し出された宇宙の名をもつ外界の様子では、敵側の正確なる攻撃を流麗な動きで回避を行い、
グングン加速をあげて敵のフィールドへと進撃していくディータ機の姿があった。

呆然とその光景を見つめていたジュラは、小さくこう呟いた。


「あ、あの娘、あんなに操縦がうまかったっけ・・・?」


 ディータはまだパイロットとしては未熟で、腕も才能もメイアやバーネットにはまったく及ばない。

ところが、現実に映し出されているディータ機の動きは一流並みの動作力を見せしめている。

頭の中が混乱するジュラに、もう一つの通信回線先のメイアが解答を導き出した。


「何だ、このレスポンス!?今までとは比べ物にならない!?」


 ボールグリップを巧みに操って、メイア機は敵キューブへの攻撃を開始する。

高速戦闘用に特化された彼女の機体はその能力を存分に発揮し、キューブの攻撃はあっさりと回避する。

閃光を連射して攻撃を加えるキューブでさえその動きは捉えきれず、翻弄され続ける。

その隙を見逃すメイアではなかった。

急角度と旋回をもってドレッドの有効射程範囲に敵を捕らえると、ブルメタルのレーザーを放つ。

態勢をまともに崩されたキューブは回避する事もかなわずにレーザーと接触し、宇宙の塵へ変換された。


『どうやら本当に未知の敵みたい。男じゃないわよ!』

『ああ、どうやらそのようだな。まったく新しいタイプだ』


 ジュラの戦慄に奮わせる声を聞き、メイアは手に汗を握らせて答えた。

そこへディータが回線に割り込んで、何やら力がこもった声で断言する。


『分かりました、リーダー!あいつらは悪い宇宙人です!!
だって、宇宙人さんみたいに優しくありませんもん!』


 脱出の際に駆け寄った自分に対してかけてくれたカイからの言葉。

ディータは今でも思い出せば可憐な瞳を潤ませるほどに、あの時の言葉が心の奥に染み込んでいた。

ゆえに「優しい宇宙人」を見ているディータには、目の前の敵には腹ただしさすら感じていた。


「こ、こいつは・・・・はあ〜、いつまでも何を言っているのよ、ディータ」


 ディータの思いがまったく理解できないジュラは、呆れた様に言った。

そんな二人の会話を黙って聞いていたメイアだったが、モニターよりホログラムされた映像に息を呑む。


『二人とも!前を見ろ!』


 メイアの鋭い声に、はっとしたように二人はそれぞれモニターを見つめる。

そこには先程まで戦闘を繰り広げていたキューブ数体の間を縫うように、一体の機体が前列へ登場する。

融合戦艦を「キューブ」タイプと称するなら、今出てきたそれは「ピロシキ」タイプと呼べよう。

キューブと同じく奇妙な外形が特徴的で、ボディラインはまさにピロシキそのものだった。

重量感、形成外量共にキューブとは段違いの容量があり、その大きさは旧艦区の半分程の大きさがある。


「何よ、あれ!?嘘でしょう!?」


 突如現れた「ピロシキ」タイプの行った次なる行動に、ジュラは悲鳴交じりの叫びをあげる。

ピロシキはボディの両端に位置する部分をシェルターのように開かせたかと思うと、

表面が網目状に輝く二つの巨大な立方体を排出する。

飛び出した二つの金色に光る立方体は一定ラインで停止し、一気に弾けや。

あっさりと壊れてた立方体の破片は何と一つ一つがキューブ型に変換されて、一斉にずらりと並ぶ。

驚愕するメイア達を尻目に規則正しく並んだキューブ、その数は百を超える。

メイアはモニターを呆然と見下ろし、懸念するように表情を歪めて呟いた。


「まさか・・・・本当にエイリアンだというのか」


 メイアの呟きを漫然と無視するように、大量のキューブが三体のドレッドに襲い掛かった。
高性能にバージョンアップしたドレッドとはいえ、数の暴力にはどうしようもなかった。

あらゆる角度から閃光を放つキューブの大群に、ディータ達は次第に押され始める・・・・・・















 メイア達が奮戦している状況は、大浴場にいるマグノ達にも伝わっていた。

風呂場に置かれている湯桶を集められた簡易の台の上に、小型のディスプレイが設置されているのだ。

海賊達を取り仕切るマグノとブザムに知らせるために、である。


「戦況は現在、メイア達が押され始めています。このままでは・・・・・」

「そうかい・・・どうやら敵さんは本気でアタシらを殲滅させるつもりのようだね」


 キューブによる攻撃は現段階でも続いており、絶え間なく揺れは起こっている。

ブザムの苦渋に満ちた報告に、マグノはため息を吐いた。


「で、船の状況はどうだい?復旧の見込みはありそうかい」

「いえ、いまだ作業中の区域がほとんどです。レジシステムも今だ稼動ならず。
今、目下メインブリッジの復旧にクルーをあたらせています。まもなく使用できるでしょう」


 艦内で指揮をとる上で一番の要となるメインブリッジの復旧を最優先させたブザムに、

マグノは満足げに頷いた。

しかしながら、現状での船の復旧が回復されていない現状況は深刻なのは変わりはない。

ましてや、何が起こっているのかが正確に分からない者にしてみれば、尚更不安になる。


「結局今何がどうなってるんだ?さっぱりわからねえぞ」


 洗い場の鏡が固定されている台に腰掛けながら、カイはブザムに尋ねる。

すると、彼女の傍らでたたずんでいた六号がぴょこぴょこカイに近づく。

「これを見るぴょろ。これが今戦っている外の様子だぴょろ」

「へえ、どれどれ・・・・・・」


 六号の中央の小型モニターにノイズが一瞬走り、その直後に鮮明な宇宙空間が映し出される。

深遠の闇が広がるモニターより縦横無尽に駆け回るキューブの郡に、

右往左往している三体のドレッドの姿が映し出された。


「この船・・・確かあいつらの船じゃねえか!?」


 見覚えのあるシルエットに、カイは間近に顔をモニターに近づける。

と同時に、大浴場内に今までにない激しい轟音が巻き起こり、壁の一部が激しい勢いで吹き飛んだ。


「きゃあっ!?」


 運悪く壁際に立っていた保安クルーの一人が瓦礫に巻き込まれ、意識を失った。

その様子に顔色を変えて、もう一人のクルーが駆け寄った。

「だ、大丈夫!?しっかりして!!」

 必死になって揺り動かしてみるものの、まったく反応を示さなかった。

壊れた壁の瓦礫に押し込められた同僚に、涙を滲ませて必死で介抱しようと頑張る保安クルー 。


「動かしてはいかん!」


 背後から聞こえる制止に保安クルーが目を向けると、洗い場の向こう側よりドゥエロが見つめていた。


「心配するな、私は医者だ!」


 ドゥエロはそのままひらりと洗い場を乗り越えると、倒れるクルーの傍に近づいた。

もう一人のクルーが男への拒否反応から抗議しようと口を開いたその時、彼はきっぱりとこう言った。


「私は患者を診たいだけだ。危害を加えるつもりはない」


 真剣な視線にどこか楽しげな笑みを浮かべて、ドゥエロは腕まくりをする。

本領発揮とばかりに活動を開始する彼は、手首の手錠をものともせずに瓦礫を取り除き始める。

傍らで呆然とドゥエロの行動を見つめるクルーに、彼はまるで長年の助手のように命令した。


「君も手伝ってくれ!一刻も早い治療が必要だ」

「は、はい!」


 ドゥエロの勢いに気を呑まれて、保安クルーは黙って手伝い始める。

彼らの一連のやり取りに、外野勢は呆然と見つめていた。

捕らえられているにも関わらず、ドゥエロは気にもせずに己のやりたい事を通している。

その行動力と決断力に、バートは鏡の向こうより唖然と覗き込んでいたが、

やがてなにやら思いついたのか、口元を歪めて正面を向いた。


「ふ、どうやら我々の力が必要なようですね・・・・・」

「なんだって?」


 先程まで緊張と不安でおどおどしていたバードががらりと余裕を持った態度に変わったのが気になり、

マグノは一歩前に出てバードに視線を向ける。

彼女の気がこちらへ向いた事に内心満足感を覚えて、バートは言葉を続ける。


「なるほど、確かに我々は敵同士だ。しかもこの通り捕えられてしまっている身。
文句はおろか、抗議も許されない立場といえるでしょう」

「何だと!?俺は・・・・」


 こいつらに負けたつもりはねえぞ、と言いかけて口を閉ざした。 

バートがカイに意味ありげに目配せをしたからだ。

「ここは僕に任せてくれ」と瞳が雄弁に語っている事に気がついて、カイはそのまま耳を傾ける。

話が中断された事に咳払い一つして、バートはぐっとマグノへ身を乗り出した。


「だがしかし、今のこの状況は立場を重んじるより、優先してやらなければいけないはずだ。
そう、つまり生き延びるという事です」


 相手を惹きつけて自分のペースへ引っ張っていく、この話し方はバートの十八番だった。

幼い頃より祖父の下で数ある弁舌や交渉を学んだバートは、口にかけては一流といえる。

とはいえ、マグノもまた修羅場を乗り越え、いくつもの交渉をまとめ上げた玄人である。

互いの腹の探り合いは水面下で行われながら、会話は続いていく。


「何を隠そう、僕は操舵手です。きっとお役に立てるかと」


 バートはそのまま立ち上がって、大仰な身振りで一礼する。


「ほう、お前さんが操舵手ね」


 興味が出てきたのか、口元を歪めてマグノはバートを見つめる。

そこへ隣で聞いていた六号が画面に表示される瞳を三角にして、バートを必死で指出す。


「警告、警告!こいつ、嘘っぽいぴょろ!」

「お前さんはちょっと黙っておいてくれるかい」

「す、すいません・・・・」


 ちらりと横目でマグノが静止をすると、しゅんと落ち込んだ様に六号が肩を落とした。

小柄な機体である六号が人間のように肩を落とす仕草は、同情よりも微笑みを誘う。


「で、何がいいたいんだい?そろそろ本音で話してくれると嬉しいね」


 バートの巧みな話術に惑わされる事なく、マグノは核心をつく。

バートはそんなマグノの漂わせる雰囲気に呑まれかけ、必死で畳み掛ける。


「つまりですね、ここは争いを止めてひとまず休戦といきませんか?
ここは互いを補い合うといいますか、一致団結し、この危機を乗り越えましょう。
それからでも話はゆっくりつけられると思いますが」

「なるほど、悪くないね・・・・・」


 このまま互いに揉め合っていても、状況はまったく変わらない。

現在こちらへの攻撃をし続ける敵の目的は男でも女でもない、全ての抹殺にあるのだから。

バートの申し出た提案は確かに理に適っていた。

マグノはしばし考え込み、やがて小さく微笑んで頷いた。


「いいだろう。しばらくは休戦といこうじゃないか」

「あ、ありがとうございます!ご英断、本当に感謝いたしますよ」


 マグノの答えに内心小躍りしながら、バートは恭しく頭を下げた。

タラークでの儀礼に学んだ礼であるが、整った顔立ちの彼からは貴族のようなスマートさが出ていた。

彼はそのままマグノに歩み寄り、すっと自分の利き腕を出す。


「では休戦の証として、握手を・・・・いた!」


 バートが差し出した手を一瞥して、マグノは邪険に持っていた杖で払った。

痛みと驚きに表情を歪めるバートに対し、マグノはそのまま眼前まで顔を近づける。


「馴れ合うつもりはないよ。あくまでも一時的な休戦だからね」

「は、はい、勿論です・・・・」


 力強い視線に捕らわれて、バートは息を呑んでこくこくと頷いた。

さすがにバートとは比べ物にならない程に生きている経験や人生の差は伊達ではないようだ。

今まで御曹司として育ってきたバートに勝てる相手ではなかった。

マグノは忙しくなってきたとばかりに肩を叩き、それぞれ一同に命令をする。


「よし、お前さんはアタシとブリッジにおいで。操舵手のしての腕前、期待しているよ」

「は、はは、任せてください・・・・」


 たじたじになりながら、バートは何とか信頼を得ようと懸命に笑顔を見せる。


「ドクターはクル−の治療に専念してほしい。何か要望はあるかね?」

「ここでは治療は難しいかもしれない。応急処置を済ませて、医療室へ運ぶ」

「・・・・分かった。しっかり頼んだよ」


 本来ならば海賊船に男を入れるのは言語道断だが、現状では致し方なかった。

こと医療技術はメジェールの方が飛躍的に進んでいるからだ。

マグノはこちらに背を向けて治療に励むドゥエロを一瞥し、その後カイへと視線を向ける。


「お前さんはBCと格納庫へおいき。メイアを翻弄したというアタッカーの腕前、見せてもらうよ」

「・・・・・・・・・・・・」


 カイはマグノのその言葉にも反応せず、黙って彼女を見つめていた。

そこへブザムが近づいてきて、カイの肩に手を置いた。


「では、私について来てくれ。起動可能なバンガートの元へ案内しよう」

「・・・・・・・・・・・」


 それでも腕を組んだまま組ん黙り込むカイに、ブザムは眉をひそめる。

「どうした?何か不満でもあるのか」

「・・・ああ、勿論だ。大有りだよ」


 悪態をついて、カイはブザムの手を乱暴に振り払った。


「俺はお前らなんかと組む気はねえ。誰が協力なんぞするかよ」

「お、おい!!」


 せっかくうまくいった段取りをぶち壊すカイの発言に、バートはたまらず声をかける。

だが、カイはバートの言葉も流してごろりとその場に寝そべった。


「やるならお前らで勝手にやりな。俺はパスさせてもらう」


 彼は怒っていた。

勝手気ままに自分の行動を限定する海賊達に。自分を優位に立たすマグノに。

一同が固唾を飲む中でカイは自分の姿勢を崩さずに、ただじっとマグノ達に背を向け続けていた。


「・・・どういうつもりだい?」


 しばしの沈黙が続き、やがてマグノは尋ねた。


「言っただろう。俺は戦わねえ。やるならお前らが勝手にやれ」

「自分の言っている事が分かっているのか」


 ブザムが勢い込んでカイに詰め寄るのを、マグノは黙って押しとどめた。


「お前さん、何が気に入らないんだい。
そっちの坊やの言う事じゃないが、今は男も女も関係のない危機が迫ってるんだ。
怪我人だって出ている状況だよ。戦わなければ、お前さんだって危ないんだ」


 マグノの言っている事はカイにも理解できていた。

状況は刻一刻と悪化の一路を辿っている。このままでは船ごと破壊される可能性だってある。

理屈では理解できている。

だが・・・・・・・・・


「仮にも、俺は宇宙一のヒーローを目指しているんだ。
お前らみたいな悪党は俺にとっては敵だ。敵と馴れ合う気なんぞねえ。
それにお前らは平気で約束を破るからな。信用なんぞできないね」


 カイにしてみれば、海賊は人の物を遠慮なく取っていく泥棒にしか見えなかった。

他人の迷惑をまったくかえりみず、自分の思うがままに蹂躙していく。

自分達さえ潤えば、他人がどうなろうと知った事ではない。

取引を反故にされ、さらにはバートに対してのマグノの言葉に、カイは完全に頭に血が上っていた。

ブザムはカイの言葉を黙って聞き、そして口を開いた。


「カイ、お前と交わした約束は私が一任している。責任を問われるなら私だろう。
今はこの船にいる皆が危機に晒されている。力を貸してほしい」

「・・・・・・・・・・・」

「やめときな、BC。こんなガキにこれ以上付き合う事はないよ」


 軽蔑の視線を向けながら、マグノは辛辣にそう言いのけた。

これにはカイも黙ってはおれず、体を起こしてマグノと向かい合う。


「なんだと、ばばあ!もう一度いってみろ!」

「だって、そうだろう。自分の価値観でしか物差しを計れず、大局を見ようともしない。
お前さんは口ばっかりの子供だよ」

「偉そうに説教かよ・・・泥棒相手にそんな風に言われるとは思わなかったぜ」


 負けじとカイが言葉を募らせるのに対し、マグノは静かにカイを見つめる。


「ああ、そうさね。アタシらは泥棒だよ。
人の者を盗って、それで生きてきたんだ。言い訳はするつもりはないよ。
アタシらは立派な犯罪者だ。メジェールでもはみ出し者だよ」


 全てを肯定され、カイは目を見開いた。

マグノは瞳に悲しみとやりきれないような深い思いをこめ、言葉を続ける。


「アタシらはそうしなければ生きてはいけなかった。
この船に乗るみんなは誰もがそうだよ。誰だって最初から海賊を望んだ人間はいない。
まっとうな道を外れても、それでもアタシらは生きなければいけなかったんだ。
お前さんにその全ての命を否定できるのかい?
アタシらは死んだほうが良かったのかい?」

「そ、それは・・・・・・」


 マグノの悲壮なまでの告白に、カイは何も言えず俯いた。

人生という道のりはそれぞれに枝分かれしている。

それは個性という道別れであり、夢という道標で分岐される。

過去、現実、未来。

一つ一つが無限に積み重なっており、その積み重ねが己の一生を決めるのだ。



その全てを否定する権利は一個人にあるのだろうか?



カイは黙って拳を震わせ、俯きつつ声を絞り出した。


「だったら・・・・・海賊をしていいのかよ?
自分達が生きる為なら・・・・・人を踏みにじっていいっていうのかよ!!
お前らが襲ったタラークの連中だって、こいつらだって!!
間違いなく人生を狂わされたんだぞ!!」


 カイの言っている事もまた正論だった。

旧艦区に捕まった士官候補生のクルー達も脱出はしたものの、生死すら定かではない。

新艦区に残されたクルーにしても、海賊達を逃がした失態の責任をとらされる。

バートも、ドゥエロにしてみても、士官候補としてのエリート街道は完全に閉じられたのだ。

マグノ達が生きるために今まで行った所業もまた決して正しいとはいえないのだ・・・・・・・

カイとマグノ。二人は互いに睨み合う中で、先に視線を逸らしたのはマグノだった。


「・・・これ以上は平行線だね。わかった、もう無理じいはしないよ。
BC、操舵手君を連れてブリッジへ行くよ」

「分かりました」


 マグノはテキパキと指示を出し、そのままカイに背を向けて立ち去っていった。

バートは黙って俯いているカイに何か声をかけようとしたが何も言えず、結局彼女の後に続いた。

最後にブザムも浴場の出入り口へ差し掛かり、そして背後を振り向いた。


「カイ、我々は正しい道を歩んできたわけではない。人の犠牲の上に生を築いている。
否定するつもりはない。
だが・・・・お頭はクル−全員を大切に思い、皆に生きてほしいと願った上でこの道を選んだのだ。
やむをえない選択だった・・・・それだけは分かってほしい」

「・・・・・・・・・・・・」


 黙したまま何も語らないカイを穏やかに見つめ、ブザムはそのまま去っていった。

大浴場は途端にがらんと静まり、ただ振動と連鎖的に聞こえる轟音のみが反響していた。

じっと黙って立っているカイに、ピョロがテクテク近づいた。


「カイ・・・・どうするぴょろ?」





 善と悪。





何が正しく何が間違っているのか。





カイは歯を食いしばって、やり切れないもどかしさを抱えていた・・・・・・・・・・・




























<Chapter 2 −The good and wrong− Action6へ続く>

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