VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 2 −The good and wrong−
Action5 −奇襲−
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男と女、それぞれが悲喜交々としているその頃、テラスにおいて二人の女性が休憩タイムを取っていた。
メインブリッジの下方に位置するバイオパークと呼ばれるその場所は、艦内のオアシスと呼ばれている。
機械類に囲まれた艦において人工的に栽培された木々の数々がそこにあり、小川も流れているのだ。
メジェールの自然への憧れと恩恵を込めて技術化された植物は、クルー達の憩いとなっていた。
イカヅチ旧艦区との融合により形こそ変貌はしているものの、自然類には影響はなかったようだ。
二人が過ごしているテラスの先には、現在も穏やかに生命を宿らせる木々が青々としていた。
「うーん、よく分からないわね・・・・」
手元の観測機より船の外を見つめるその女性は、困惑気味にそう呟いた。
海賊母船でのオペレーターを担当しているエズラである。
「うーん、宇宙人さん大丈夫かな・・・」
エズラと同様に悩んだ表情を浮かべるもう一人の女性が、テラスより見える星を見つめて溜息を吐いた。
お頭達と別行動をとっているディータである。
他のクルー達が船の復旧に悪戦苦闘している中で、二人はどこかのんびりとした姿勢を保っているが、
別に仕事をサボっている訳ではなく、単にやれる事がないのだ。
エズラは先程まで懸命にブリッジのシステム復旧に全力を注いでいたが、まったく制御不能であり、
彼女の腕を持ってしても復旧は困難であった。
ディータもシステム関係やメンテナンスは不慣れであり、新人パイロットには現状でやれる事はなかった。
よって、現在二人は待機状態となっている。
「星の位置も形もまったく一致しないし・・・・ここはどこなのかしら・・・」
観測機より出力される惑星メジェールの星系図を照らし合わせてみるが、観測される星とは一致しない。
エズラの観測が正しければ、メジェールやタラークから遥か遠くまで飛ばされた事になる。
かなりの望遠率を有するメジェール製の観測機で観察しても、船の外の星は詳細不明知であったからだ。
これにはエズラも困り果てている様子である。
「宇宙人さん、大丈夫かな・・・ずっと寝てたみたいだけど、お身体冷やしてないかな」
ディータはディータで、別の悩みで先程から悩んでばかりいた。
彼女の頭を占める悩みは、機関部内で気絶していたカイの事だった。
彼を発見し、監房内へ運ばれた時まではディータも同行していたのだが、それからはまったく会っていない。
そのまま起きずに寝ているままなのか、ひょっとして何かあったのだろうか等、悩みは尽きなかった。
そのカイは現在ぴんぴんしてお頭との対面をしているので、実際には彼女の心配は杞憂であるのだが。
「うーん・・・・」
「うーん・・・・」
そんなこんなで、二人はそれぞれに頭を抱えていた。
それぞれ真面目に悩んでいるのだが、傍目から見るとどこか微笑みを誘う光景であった。
「ふふ、ディータちゃんも何か困った事があるの?」
「うん。エズラも悩んでいるみたいだね」
二人は顔を寄せ合い、互いに微笑みを交わしあった。
元々二人は年齢こそ離れているものの大の仲良しであり、性格も合うのかよく二人でこうして過ごしていた。
エズラにすればディータは友人であり、可愛い妹のような存在でもあった。
「船の融合にペークシスの暴走。それに加えて、私達どこか飛ばされちゃったみたいなのよ・・」
「そうなんだ・・・宇宙人パワーなのかな?」
「ふふ、そうかもしれないわね」
エズラは優しい眼差しをディータに向けて、再び観測機を目に当てる。
実質、彼女にできる事は自分たちの現状把握しかなかった。
そしてエズラの同意を受けたディータは、どこかうっとりとした輝きを瞳に宿す。
「すごいよね〜、船を全部ペークシスで覆っちゃうんだもん〜、
ディータも宇宙人パワーで包まれたらな・・・・・・・」
自分の身体をギュッと可愛らしく抱きしめて、ディータはご満悦の笑顔を浮かべる。
だがディータとは正反対に、エズラは顔色を次第に悪くしてフラリとよろめいた。
彼女の変容に、ディータは慌てて言葉をかける。
「エズラ、大丈夫!?おねつおねつ?」
ディータの心配にエズラは観測機を下ろして、少し無理をしているような笑みを彼女に向ける。
「大丈夫よ、ディータちゃん。ちょっと昔のことを思い出しちゃって・・・」
エズラの言葉に、ディータも少し落ち込んだ表情を見せる。
「そうだよね。ベテランの人は皆アジトに置いてきちゃったし・・・・」
今回の任務はそもそも仕事の上ではランクは低く、困難という類の仕事ではなかった。
ゆえにリーダーであるメイアも新人養成のために、各チームに新人を導入したのだ。
まさかこんな事態にまでなるとは、誰もが予想すらつかなかったはずであった。
「早く帰りたいわね・・・・・」
「うん・・・・・・」
残してきた仲間を思い、そして今自分達の周りで行っている自体を憂いて、二人は肩を落とした。
ほのかに明るいテラスの中で、重苦しい雰囲気が立ち込める。
ディータは沈んだ視線を何気なく外観に向け、目を見開いた。
「あっ!?あれ!あれ、何かな!」
ディータは落ち込んでいた表情を一変させて、前方を指出した。
傍らにいたエズラは目を白黒させて、ディータの指し示す方向へ目を向ける。
「な、何?何も見えないけど・・・・」
「ほら、あそこ!!何か光ってるよ!!」
手を握り締めて興奮した様子を見せるディータに、エズラは困惑して観測機を取り出した。
そのまま彼女は観測機を目に当てて、船の外にアングルを向ける。
「何も見えないけど・・・・・あら?」
観測機をある一点に向けると、異様な光を放つ物体がいくつか映し出される。
しかも、その物体はこちらへと急加速で迫りきっていた。
「やだ、何かしら・・・・・船とは違うみたいだけど・・・・」
「決まってるじゃない!!」
確信をこめたディータの叫びに、エズラは観測機を下げてディータを見る。
彼女はエズラに力強い視線を送り、きっぱりとした態度で言い放った。
「あれは宇宙人よ!ひょっとしたらUFOかも!?
宇宙人さんのお仲間さんだったらいいのにな〜」
得体の知れない物体の接近であるにもかかわらず、ディータはどこか期待をこめているようだ。
彼女らしいといえばらしい発言に、エズラは思わず苦笑した。
もしカイの仲間だったらそれはそれで大変なのだが、
カイはいい人だと信じて疑わないディータにはそんな憂慮は全然していないようであった。
ディータ達が未知なる来訪者に騒いでいるその頃、カイ達は情報交換をしあっていた。
マグノの質問に答え、カイ達もまたマグノへ質問をする。
互いが互いを補い合う形での会合が理想的に実現されていた。
「なるほど・・そのロンゲ君はドクターという訳だね」
「おうよ。こいつはなかなかの凄腕だぜ。俺の怪我もこの通り手当てしてくれたからな」
カイは腕に巻かれた包帯を見せて、マグノに話し掛ける。
彼女はちらりとその包帯を見てドゥエロに視線を送ると、彼は小さく頷くに止まった。
「で、肝心のお前さんはいったい何なんだい?」
「よくぞ聞いてくれたぜ、ばあさん」
どこか得意げにカイはその場から立ち上がり、自分に親指を向ける。
「この俺こそタラークより誕生した稀代のヒー・・・・」
「アタッカーです。敵母艦侵入の際、我々ドレッドとの交戦をはかりました。
敵のパワードスーツに乗り込んでいく所も目撃しています」
カイの威勢のいい啖呵を遮る様に、メイアは淡々とお頭に報告した。
我慢がならないのはカイである。彼はメイアに睨みを利かせた。
「てめえ!何、人の事を勝手に紹介してやがる!」
「お前の戯言を聞く暇はお頭にはない。それにきちんと紹介したはずだ」
メイアの言う事は正論である。だが、カイにとっての感情が許さなかった。
「そうじゃねえよ!お前は俺をちゃんと理解していないようだな」
ちっちっちと人差し指を小さく振って、カイは不敵な笑みを浮かべる。
メイアは凛々しい眉をひそめて、カイをじっと見つめる。
「では、お前は一体なんだ?答えられるのか」
「おうよ。聞いて驚け!
この俺こそ宇宙一のヒーローになる男だ。アタ・・・何とかっていうちんけな呼び名じゃねえ」
正確にはアタッカーですらない三等民の立場だったが、カイは堂々と答える。
隣に座っていたバートが、そんな彼を驚きと呆れの混じった視線で見つめる。
「どこからそんな自信がわいてくるんだよ、お前は」
「馬鹿野郎。男ってのはいつだって堂々としているもんよ」
カイの発言にいろいろと口を挟みたいバートではあったが、あえて口をつぐんでおいた。
相手側であるマグノ達がカイをアタッカーと認識してくれるのなら、それはそれで都合はよかったからだ。
自分達が捕虜の立場である以上、マグノの機嫌次第で自分達は捨てられる可能性がある。
何しろバート達は男で、マグノ達にしてみれば立派な敵である。
いつ殺されてもおかしくない立場である限り、自分達は有能である事を示したほうがいい。
それがバートなりの考えだった。
「ほう、宇宙一のヒーローとは大きくでたね。本気で言っているのかい?」
「当然。まあ、今に見ているよ。お前らにほえ面かかせてやるからな」
マグノ相手にも一歩も怯む事無く、カイは上からじっと見下ろした。
マグノはカイの言葉に黙って小さく微笑み、持っているカップのゼリーを食する。
先程情報交換をはじめる前に、クルーに持ってこさせた彼女のおやつである。
「ところでさっきから気になってたんだけど、その食っている物は一体なんだ?」
タラークではペレットしかない食文化ゆえに、カイはゼリーすら見た事がなかった。
それに加えてタラークのプロパガンダによる女への誤った認識がプラスして、
マグノが食べているのは得体の知れない物体に見えてしまっていたのだ。
「ま、まさかとは思うが・・・・肝か何かじゃないだろうな?」
プヨプヨとしていて毒々しい赤の色をしていては、カイがそう見えるのも無理はない。
逆にゼリーをよく知っている女性クルーから見れば、カイの言葉は物知らずの馬鹿にしか思えなかった。
「ぎゃははっ!こいつ、本気で言っているみたいよ」
「馬鹿じゃないの。お頭がそんなもの食べるわけないでしょう」
カイ達を連れて来た女性クルー二名が、口々にもてはやして笑った。
クルーの笑い声に戸惑うカイに、マグノは残っているゼリーの乗ったカップごとカイに見せる。
「これは私の大好きなおやつさね。別に怪しいもんじゃないよ。
よかったら、一口食べてみるかい?」
「ふーん、おやつね・・・・」
元来より好奇心は旺盛で、行動力は人一倍以上ある男である。
興味をそそられたカイは一口食べてみようと口を近づけたその時、事態は急変した。
カイ達が現在集まっている風呂場が急激に振動をして、全体が激しく傾き始めたのだ。
「な、何事だい!?」
マグノは法衣のフードを懸命に抑えながら、周りの状況を見渡した。
大浴場の壁から床までが小刻みに振動を続けており、ぱらぱらと天井からひび割れの粉くずが落ちてくる。
同時に、傍らにいたブザムの通信機に緊急応答要請が着信された。
『何かがこちらへ向かって急速に接近しています!!』
かなり切迫しているのか、緊急に震えるエズラの声が通信機より響き渡る。
ブザムはそのまま冷静な姿勢で応答を始める。
『どうした?近づいてきているのは船か』
『はい!でも・・・・』
『でも、なんだ?』
『お、男の援軍ではないようです。見た事もない形の物体が!』
『見た事もない物体?』
抽象的であるエズラの説明に、ブザムは敵に対する想像が掴みづらく目を伏せる。
そこへエズラの声に被さる様に、どこか明るい弾んだ声が上乗せされる。
『宇宙人です!あれ、絶対に宇宙人の船ですよ!!』
『宇宙人っ!?』
通信機より放たれるディータの声は大浴場に反響し、聞いていた一同は思わず声を合わせた。
ディータが呼称する『宇宙人の船』は広い宇宙の海の航海を経て、不気味に鳴動していた。
外型もこれまでのタラーク、メジェールの規格とはまるで異なっており、
ウネウネとした赤いアームに、キューブ型の規律的にカッティングされたボディを備えている。
さらにボディには特徴的なアームとは別に、人間の関節を思わせる角張った手足が存在していた。
そんなキューブ状の数体の機体は外面にそぐわずかなりの速さを持って、マグノ達の船へ急接近を試みる。
ジクザグな飛行を続け、旧艦区側へ近づいたかと思うと、突然の発砲を開始した。
機体より放たれる白い熱線は明確な攻撃意思を示すように、船に死の槍を叩き込んだ。
未知なる飛行物体、その正体は謎に包まれたままの奇襲が今始まったのだ。
「とっとっ!?何なんだよ、一体!?何が起こったんだ!?」
突然の船の振動で食べようと思っていたゼリーをうっかり床に落としてしまい、
カイは腹立ちまぎれに周りに怒鳴りつけた。
「アタシのおやつ、こぼれてしまったね・・・・」
「あ・・・わ、悪い。揺れでついうっかり・・・・」
「いいさね。気にしちゃいないよ。
それよりBC。一体何がどうなったんだい?」
マグノの冷静な言葉に、ブザムは気を取り直して通信機を別チャンネルに繋ぐ。
彼女がチャンネリングする相手先はパルフェのいる機関部だった。
『パルフェ!緊急事態だ。船は動かせそうか?』
未知なる物体が何であれ、こうして攻撃を加えてきている以上は敵である。
ならば、一刻も早い回避行動に出なければやられる可能性が高くなるのだ。
焦りを隠せないブザムに、パルフェも動揺した声で返答する。
『無理ですよ!ペークシスの影響でまだコントロールは不可能です!!
かろうじてオートディフェンスのみが起動している状態です!!』
パルフェの言葉通り、敵からの砲撃にも艦には今の所はそれほどのダメージはなかった。
だが一時凌ぎにすぎない上に防御しかままならない状態では、いつかバリアーも突破されてしまう。
その事をいち早く察知したメイアは大浴場から飛び出した。
「ドレッドチーム、出ます!」
マグノ達の返事も待たぬままメイアは立ち去り、行動を開始した。
彼女の後姿を複雑な表情で見送ったカイはそのままブザムに視線を向ける。
「いったい何があったんだ?この揺れは何だ」
「敵の攻撃だ。どうやらこの船は何者かに狙われているようだ」
「お前らに心当たりはないのか?恨みでも買っているとか」
海賊という職業を看板として見つめれば、立派に犯罪の代名詞の一つである。
裏の世界の一面を背負っている家業として、カイは当然のように聞いていた。
「心当たりはないとは言えないな。事実、お前達にも恨みを買っている」
ブザムはカイの言葉にも悪びれる素振りすら見せずに、すらすらと答える。
逆襲にぐっとカイが表情を抑えると、横から話を聞いていたドゥエロが口を開いた。
「だが、今この船を襲っている敵はそうではないと?」
「ああ。まったくの未知の敵だ。襲われる理由すら定かではない」
ブザムは重々しく頷いた。
事態の深刻さを知ったバートは見る見るうちに顔色を青ざめて呟いた。
「僕達、どうなっちゃうのかな・・・・」
彼の問いに答えられるのは誰もいなかった・・・・・・・・・・・・
ペークシス暴走によるクリスタルが覆われた艦内の通路を、メイアは一直線に走り続ける。
度重なる敵の攻撃により、艦全体が悲鳴をあげて身をよじっているような状態だった。
突如の事態の豹変にも、メイアは冷静さを失う事はなく通信機にアクセスする。
『バーネット、どこ!』
メイアは敵による攻撃に対抗すべく、ドレッドチームのメンバー全てに召集を試みていた。
そのため、まずはチームリーダーを担当しているバーネットやジュラに通信するのが先決だと考えたのだ。
ところが通信機より返ってきたのは、バーネットの泣き声だった。
『ごめん・・・・パイに閉じ込められて出られませーん・・・・』
通信機の向こう側では、身体中を濡らしているバーネットのヨレヨレの姿があった。
事情が全然分からないメイアとしては舌打ちをする他はなく、次にレジシステムへと通信を繋ぐ。
ドレッドを発進させるにはレジの後ろ盾が不可欠だからだ。
だが、レジのシステムを仕切るガスコーニュからも否定的な答えが返ってきた。
『今はとても発進させられる状態じゃないよ。こっちの復旧だけでも手一杯さ』
彼女の言葉には、未知なる敵に対抗するための戦力が全く投入できないという意味がこめられていた。
これにはさすがのメイアも動揺して、上ずった声で聞き返した。
『そんな・・・・ガスコさん、一機もですか?』
『一機どころか補充する事も困難だよ。
戦えるドレッドは男の船に残されたあんた達のドレッドのみだね』
『そうですか・・・・了解しました』
『後ね・・・ガスコじゃないよ。ガスコーニュ!』
緊急事態にも関わらず呼び名をきちんと修正して、ガスコーニュは通信をうち切った。
これで戦える戦力は現在自分、ジュラ、そしてディータのドレッドのみ。
母艦はまともにコントロールする事も不可能で、レジシステムによるバックアップはない。
敵はまったくの未知的物体であり、データすら存在しない。
考えれば考えるほど、突き詰めれば突き詰めるほどに、状況は自分達に不運な方向ばかりに傾いている。
メイアは一つため息を吐いて、走る足は緩めずにジュラ達に応答を取る。
『ジュラ、こちらメイア・・・・・・・』
だが、彼女はこの時知らなかった。
ペークシスの暴走は全てにおいて不運を与えてはいない事に。
そして・・・彼女は知らない。
不運な状況、圧倒的不利ですら切り開く事ができる人間が一人いることに・・・・・・・
<Chapter 2 −The good and wrong− Action6へ続く>
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