VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 2 −The good and wrong−
Action4 −対面−
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ペークシスプラズマの暴走が収まりつつあり、クルー達もそれぞれに活動を続けていた。
融合されてしまった両艦の切り離し、現状での船のコントロールを最優先事項として作業に取り掛かる。
そのためにまずドレッド、海賊母船を根底から支えるシステムを有しているレジシステムの復旧。
船の融合の原因である旧艦区機関部のペークシスプラズマの調査と早期の対応が目安とされる。
結晶体の進化を防ぐという案もマグノ達の間で出されていたが、パルフェの反対意見で却下となった。
海賊に所属するエンジニア達の長をしているパルフェでもどうしようもない事態だったからだ。
「まずはシステムのリンクを確保するのが先よ。何としてもコントロールできるようにしないと。
あ、そっちはアクセスするのに時間がかかるから、ラインスター粒子を注入してみて!」
旧艦区機関部にて、大勢の作業員達がたむろする空間の中を、パルフェがそれぞれに指示を出していた。
テキパキとした動作に的確な指示、彼女がマグノに信頼される理由がうかがえる。
輝く汗をぬぐい、機関クルー専用の制服を着用して眼鏡をかける彼女の姿は生き生きとしていた。
似たような服装をしている他の機関クルー達も懸命に作業をしている。
「あーあ、ついにうちらのコアにまでリンクしちゃったよ・・・・・
これはもう元に戻すには難しいかもしれないね〜」
エアコンも利いていない蒸し暑い中、パルフェは何とか復旧させようとコンソールを操作している。
だが、彼女の必死の努力や優れた頭脳をもってしても現状を打開するのは難しいようだ。
二つの船のシステムリンクを切り離す事は、現時点でのシステムをもってしても不可能に近かった。
「ペークシスか・・・・こんなに複雑なシステムだったなんて・・・」
モニターに出力されるデータの乱数を確認して、パルフェはため息をついた。
そしてもう一人、ペークシスへの対応に頭を抱えている人物がいた。
「ペークシスがこんなにすごいエネルギー体だったなんてね・・・そっちは切り離せそうかい?」
「駄目です!やはりビームではどうしようもありません」
海賊船レジシステム、その復旧を担当しているガスコーニュが部下の報告に小さく肩を落とす。
結晶体の切り離し作業が現在も続行されていたが、どうやら依然として埒があかない様子であった。
レジシステムのあちこちに張り巡らされたクリスタルの枝は、すでに力なく垂れ下がっている。
システムに取り付いた時は青く輝いていた結晶も、今ではすっかり光を失ってぼろぼろになっていた。
そこへ力尽きたように崩れた結晶が天井より舞い落ちて、床に儚く砕け散った。
近くにいたレジの作業員がそっと傍に近づいて、崩れた天井を見上げて感嘆した声をあげる。
「うわ〜・・・ガスコさん、すっかり中まで繋がってしまいましたよ〜」
作業員が見つめる視線の先に、崩れ落ちた天井の向こう側である旧艦区の一ブロックが覗けていた。
すなわち、ペークシスによる船の融合化はほとんど完成したといっていいであろう。
ガスコーニュは作業員の声を聞いて、眉を吊り上げる。
「切り離しはもう無理っぽいね・・・後、ガスコじゃないよ。ガスコーニュ!」
「す、すいませ〜ん!!」
ガスコーニュの啖呵に、作業員は小さく頭を縮こめる。
どうやら彼女は『ガスコさん』という愛称で呼ばれるのはあまりお気に召さないようだ。
逆に他のクルー達はその愛称で呼びやすいためか、彼女に対して愛称で呼んでしまい、
ガスコーニュに怒られるというエピソードが海賊達の間ではあった。
その最たる被害者がディータである事は言うまでもない。
「やれやれ、どうしたもんかね・・・」
口に咥えている爪楊枝を上下に揺らして、ガスコーニュは静かに結晶体を見つめる。
彼女の無言の視線にも相手にしない様子で、結晶はただ力なく垂れ下がっているのみであった・・・・
「一体どこまで連れて行く気だ。こんな手錠までつけやがって」
海賊達の襲撃と攻防で荒れ果てた旧艦区通路を歩きながら、カイはぼやいた。
「監房同様被害の少ないフロアに案内する。そのほうが互いに話がしやすいだろう」
一同の先頭を歩きながら、振り返らずにブザムは言った。
確かに歩いている通路はペークシスによる影響は少なく、少々崩れた瓦礫が転がっているのみであった。
調査チームの作業が実を結んでいるのか、少なくとも旧艦区全域の様子は把握できているようだ。
だがカイは自分の置かれた境遇が気に入らないのか、手首に固定されている手錠をジャラジャラ鳴らす。
「これは何だ、こ・れ・は!これのどこが話しやすいんだよ!!思いっきり人質扱いじゃねーか」
正確には捕虜扱いなんだが、カイは気にせずに不満の声を上げる。
カイのその声に、ブザムの後ろを歩いていたクルー二人が振り返った。
「ちょっとあんた!さっきからずいぶん偉そうじゃない!」
「一つ言っておくけど、あんたは捕虜なのよ。口の聞き方には注意しなさいよ!」
目を三角にして言いのける二人の言葉に、カイは赤い舌を出して答えた。
「お前ら相手に愛想良くするつもりはねえよ、バーカ。
あーあ、こんな事になるんなら、約束破ってでも火でもつけりゃよかったぜ」
「きー、憎たらしい〜〜!!副長、こんな奴捨てちゃいましょう!
男なんか船に乗せておく必要はありませんよ」
もう一人も同感なのか、しきりにうんうん頷いている。
だがクルーの苦情や進言にも冷静に対応するように、ブザムはクルー二人を制した。
「お頭の命令だ。まずは二人と会って現状況を説明し、意見を聞かせてもらう。
その後については話が終わってからだ」
ブザムの言葉には逆らえないのか、二人はそのまま何も言わず渋々彼女の後に続く。
鼻息荒くカイはブザムの案内の元ついていってはいたが、フラストレーションがたまって仕方がなかった。
マーカス譲りな所があるのか、あまり他人のレールに乗せられるのは性に合わないようだ。
ゆえに数分後黙ってはいられなくなって、隣を歩くドゥエロに話しかける。
「結局、何がどうなっているんだろうな」
「さあな。それは私も分からん。実際に会って話を聞いてみるしかないだろう」
「奴らの頭か。どういう奴だろうな・・・・・」
小規模の勢力でタラーク軍を手玉に取った海賊達。
異常事態がなければ、そのまま母船を乗っ取る事も可能だった組織のトップに立つ人物。
考えてみるが想像すらつかなくて、カイは険しい顔のまま歩みを続ける。
「それより懸念すべき問題は我々の処分だな」
「というと?」
「彼女達は女、我々は男だ。
タラークで聞かされてきた事実が本当であるならば、我々は十中八九殺されるだろう」
「うげっ!?そういえばそうだったよな・・・・・」
女は魔物であり、男の肝を喰らって精を啜る。
自分達同胞を相手に卑怯な行為を繰り返し、何度も誇りすら陵辱されてきた最悪の生き物。
タラークで、そして首相の演説でも聞いたその女達が目の前を歩いているのだ・・・・・・
カイはもやもやとした気持ちを抱えて、歩く女の後姿を見つめる。
「大丈夫ピョロ。きっと何とかなるピョロよ」
「前向きでいいよな、お前は・・・・」
カイの横をふよふよ浮かんで励ましてくれる六号に、カイは苦情気味に答える。
いつのまにか人間らしく振舞っているこの奇妙なロボットに親近感をいただいていた。
「ま、いざとなったら精一杯抵抗しよう。ただじゃ絶対にやられないぜ。
もうあいつらを二、三人道ずれにしてだな・・・・」
カイはワザと前の女三人に聞こえるように、少し大きな声で言いのける。
先程の二人は大きく肩を震わせるが、努めて相手にしない様にしながら足を進める。
「野蛮な事は駄目ピョロ!人間みな兄弟ピョロよ!」
「まだそんな事言ってやがるのか、お前は」
「大丈夫だ。この男はそんな残酷な事ができる男ではない」
「おお、そうだったピョロ〜〜。こう見えて結構優しい所があるピョロね」
「二人して勝手に俺を評価するんじゃねえ!!」
意気投合するように意見を同調させる二人に、カイは照れ隠しに怒鳴りつけた。
だがそれでも、心の内では何度海賊達と取引をしたあの場面に立ち戻っても、
自分は決して火をつけないだろうとは思っていた。
女がどういう存在なのかは知らないし、教えてもらった知識も他人からの情報に過ぎない。
自分で見て、聞いて、実際に話して、ようやく外面的な要素しかわからないのだ。
ただ、少なくとも鬼のような存在にはどうしても見えなかった。
何しろ式典で見た映像化された女の姿と、メイア達や目の前の女達を比べるとまるで違うからだ。
カイは何気なく前を歩く女三人をじっと見て、ふとある事に気がついた。
「・・・なあ」
「?どうした、カイ」
「いやさ、女ってのを今日始めて見たんだけど、どうしてあいつ等ってあんなに胸や尻がでかいんだ?」
先の旧艦区機関部にて、メイアとやり合った時にも触れた柔らかい胸の感触。
前を歩く三人の足取りに合わせて揺れる豊かな腰元。
何故かどぎまぎする感覚に奇妙な昂揚感を感じながら、カイはドゥエロに尋ねた。
すると、ドゥエロは口元に不気味な笑みを浮かべて言った。
「君も女の身体に興味があるのか。なかなか見所があるな」
「そ、そういうもんなのか・・・・?」
怪しさあふれるドゥエロの態度に若干ひきながら、カイは汗混じりに聞き返した。
「ああ、実に興味深い。男とはまったく作りが違うようだ」
「確かに・・・・全体的にやわらかそうな感じだよな」
互いに感じた事を言い合いながら歩く二人の横で、六号は瞳を剣呑とさせて呟いた。
「二人ともイヤラシイピョロ・・・」
同時刻、男と女の価値観の違いより被害に遭っている者達がいた。
「ちょっとパイウェイ!!ここから出しなさいよ!!」
海賊船の後方に位置する病人等を扱う隔離ルームにて、バーネットは必死に扉を叩いていた。
どうやら扉は固定されて開かないのか、バーネットが内側より懸命に叫んでいる。
彼女が閉じ込められている部屋では盛大な勢いでシャワーが降り注いでおり、
バーネットだけではなく、他多数閉じ込められたクルー達が頭からぼとぼとになっていた。
「だーめ。皆、アルコール臭くてしょうがないもん。全部洗い落としてからだよ。
それにバーネットは男に触れたでしょう。ばい菌を洗い落とさなきゃ♪」
扉の外側で椅子にこじんまりと座って、バーネット達を閉じ込めた犯人であるパイウェイがそう返答する。
言葉では親身とも取れる内容だったが、その実彼女は実に楽しそうな様子だった。
「それを言うなら、あんただってアルコールを浴びたじゃない!出しなさいよ!!」
バーネットの言葉は正論だったが、さすがに相手が悪かった。
年齢が11歳という幼さも起因しているが、元々パイウェイはどこか悪ノリをする面があったのだ。
海賊達のナースにして医療特権を有しているこの少女、なかなかに曲者であるようだ。
「かくして!男の卑劣な罠を潜り抜けた超美少女パイウェイちんは・・・・」
バーネットの抗議も完全に無視して、パイウェイは何やらノートを広げて文章を書いている。
内容的に自作の小説を書いているようだが、どこまで真実なのか理解できそうにない内容のようである。
無論彼女はそれを事実と信じて疑わず、鼻歌交じりに筆を進めていった・・・・・
「好きな所にかけてくれ。まもなくお頭がお見えになる」
ブザムの案内の元カイが連れられて来たのは、旧艦区の大浴場であった。
タラークの男の風習なのか、作りは銭湯を模した内装となっており、
きめ細かなタイル作りに背景に大きな太陽と山を描かれており、所々に湯桶と風呂椅子が並んでいた。
「お見えになるって・・・・ここ、風呂場じゃねえか。もっとましな所はなかったのかよ」
「生憎だが、ペークシスの影響をまったく受けていない場所は限られていてね。
窮屈だろうが我慢してくれ」
カイの悪態にもブザムは気にした様子はなく、淡々と事情を説明する。
事実、ここ大浴場ではあれほど猛威を振るった結晶体は欠片として浴場には存在していなかった。
だが現在状況をほとんど知らないドゥエロは、聞きなれない単語に整った眉をひそめる。
「ペークシスの暴走?」
「ふむ、ちょうどいい。お頭がくる前に簡単に状況を説明し・・・」
「ちょ、ちょっと!?ちゃんと歩きますから物騒な物をむけないでくださいよ〜」
ブザムの言葉を遮る様に、大浴場にどこか情けない男の悲鳴が届く。
男の声にブザムは視線を横にすると、浴場の入り口よりメイアに連行される一人の男の姿があった。
「まだ男が隠れていたのか」
「はい、プラットホームに隠れていた所を連行しました」
二人がやり取りをしている最中、カイとドゥエロはその男に視線を向ける。
すると二人も相手の男もびっくりした顔をして、互いに大声で呼びあった。
「あれっ!?あんた、あの時の!?」
「お、お前は飛び出していった三等民じゃないか!それにドゥエロ君も!
いやー、二人とも会えて嬉しいよ」
敵であるメイアに捕まり、連行されている間生きている心地がしなかったバード。
式典で少し会話をしただけの二人ではあったが、自分と同じ男が他にもいただけで喜びは大きかった。
バードは泣き出さんばかりの勢いで、二人の傍に駆け寄る。
「僕の他にも捕まった男がいたんだね。安心したよ、本当に」
「はは、互いに災難だったな。あんたも逃げ遅れたのか?」
カイも奇妙な縁ながらも顔見知りに会えて嬉しかったのか、声が弾んでいた。
カイの質問に、ずっと隠れてましたとも言えないバートは言葉を濁した。
「え、えーと・・・・僕は直ぐに上にかけあって助けを呼ぼうとしたんだけどね。
少々事故にあってしまったね、これまで動けずにいたんだよ」
つきつめて考えるとよく分からない理屈ではあったが、カイはあっさりと信じた。
「そうか・・・そっちもそっちでいろいろとあったんだな。
怪我とかしたんならドゥエロに見てもらえよ。こいつ、医者なんだぜ」
親指でくいっとカイがドゥエロを指差すと、彼はバートのほうへ乗り出してきた。
「怪我をしているなら私が見よう。どこだ?」
「い、いや!?お心遣いだけで結構!」
ずっと隠れていた成果もあり、まったくの無傷なのでバートは慌てて引き下がった。
そんな風に再会した三人が会話を続けていたその時、再び浴場に人影が差し込んでくる。
「なんだい、捕虜を捕まえたって言うんで来てみればガキばっかりじゃないか」
重々しい声質の言葉に、法衣で全身を覆い威厳に満ちた雰囲気を全身よりかもし出す一人の老婆。
海賊の頭を務めるマグノの第一声がそれだった。
「そっちこそしわしわのババアの癖に何言ってやがる」
カイの遠慮のない言葉に、傍にいたバートとメイアが顔色を変える。
「お、おい!?お、怒らすのはまず・・・・」
「お前!お頭になんて口の聞き方を!」
二人のそれぞれの様子を見つめて、カイはしれっと言い返した。
「約束も満足に守らねえ連中のボスに愛想ふる気はないね」
「お前、自分の立場がわかって・・・・」
「やめときな、メイア。この坊やの言う事はもっともさね」
一種即発のカイとメイアの間に、やんわりとマグノの言葉がまったをかける。
どこか愉快そうにマグノは口元を緩めて、カイの傍に近づいた。
「ほう・・・寝顔はぬけてたが、こうして見るとなかなか精悍な顔をしているじゃないか。
お前さん、名前は?」
「人に聞く時はまずてめえから名乗れよ。それが礼儀だろう」
どこか挑発的に取れるカイの言葉は、浴場内を緊張感で満たした。
周囲の厳しい視線に晒される中で、カイとマグノは黙って静かに視線をぶつけ合っていた。
数分、いや数秒にも満たない時間だったか、厳しい表情をしていた二人はどちらともなく緩める。
「確かにそれが道理だね。アタシはマグノ。マグノ・ビバンさね。
この子達のお頭を務めている」
「・・・俺はカイ、カイ・ピュアウインド」
「へえ、いい名じゃないか」
「おだてても何も出ないぜ、ばあさん」
先程までの緊張感も解けて、周囲もようやくほっと一息つける状態に戻った。
「まったく口が悪いピョロね。そんな言い方じゃ嫌われるピョロよ」
いつのまにかちゃっかりマグノの横に立って、六号はカイに小さな手を前にぶんぶん振る。
マグノはちらりと横目で六号を見つめ、ほうっと感嘆の声をあげる。
「こいつは懐かしい・・・・ナビロボットじゃないか。
まだ稼動しているタイプが残っていたんだね・・・・・」
どこか感慨深げに言うマグノに、聞いていたドゥエロは疑問が明晰な頭脳より飛び出した。
「どういう事だ?そのロボットを知っているのか?」
「ああ、もちろん知っているさね。
このロボットはこの船が移民船の時に利用されたナビゲートロボットだよ」
「移民船?何言ってやがるんだ、ばあさんよ。この船は最近完成された男の船だぞ」
「その質問は、あんたの約束と繋がるからね。少し詳しく話そうかい」
マグノは近くにある椅子に腰掛けて、カイ達を正面から見つめる。
「ブザムから話は聞いている。アタシのクルー達を人質にとって取引をしたそうじゃないか」
マグノの言葉に、事情を知らないバートはギョッとしたように仰け反る。
「おいおい、お前、そんな事までしたのかよ・・・・・」
「う、うっさいな。しょうがねえだろう!男達が捕まってたんだからよ。
これぐらいしないと助けられなかったんだよ」
ひそひそとカイとバートが話し合うを穏やかに見つめ、マグノはさらに言葉を続ける。
「まあ、あたしらも襲撃したんだ。文句を言うつもりはないよ。
それに坊やは無事にクルー達を解放してくれたようだからね・・・・・」
言外に感謝の気持ちが秘められているのを察して、カイは複雑な気持ちになった。
「ま、まあそれは約束だからな・・・・・で、だ。
その後の約束じゃお前らは船から出て行くはずだろう!
なのに、なんで今も我が物顔で居座ってやがる!」
カイが許せないのはその部分だった。
女を全面的に信じていたわけじゃなかったが、それでも裏切られた事はショックだった。
心のどこかでは女はそれほど劣悪な生き物ではないと思っていたのだから・・・・・・
歯軋りをして悔しそうにしているカイに諭すように、マグノは口を開いた。
「この船が移民船だったというのはさっき話したね。
元々この船は『地球』という星より出発した移民船団の一つだったのさ。
最も切り離す前の状態だったんだがね・・・・・・」
カイもさることながら、正式なクルーの一員だったドゥエロやバートにも初耳の事実だった。
食い入るように話に耳を傾ける三人に、マグノは話を進める。
「その移民船の一つをお前さん達のじい様連中が奪って逃げたのさ。
あたしら女連中にね・・・・・」
「!?な、なんだとっ!?じゃあこの船は・・・・・」
「そうさ。この船はもともと女の船だったんだよ」
「う、嘘つけよ!何か証拠があって言ってるんだろうな、その話!」
カイが身を乗り出してマグノに詰め寄ると、マグノはどこか懐かしそうな表情をする。
「当然さね。アタシがその船のクルーの一人だったんだからね」
衝撃的な事実に、カイはそのまま黙り込んでしまう。
マグノの話が本当なら、彼女はタラークやメジェールが創立される前から生きている事になる。
男達はおろか、メイア達も知らなかった事実に浴場内は静寂が支配していた。
マグノはゆっくりと杖を両手の平で包みながら、辺りに視線を這わせる。
「不思議なものだね・・・・こうして再び戦艦の姿に戻っちまったんだから」
「戦艦の・・・・姿?」
カイの問いに、マグノはゆっくりと頷いた。
「そう、あんた達の船とあたしらの船が融合して出来上がった形になったんだよ」
「融合した!?お前らの船と俺達の船が!?なんでまた・・・・」
「それを聞きたいのはこっちだよ。おかげでてんぱってて作業におおわらわだよ。
だけど、これで分かっただろう?こちらも船から出て行くわけには行かないのさ」
「・・・・・そ、それは・・・・・」
気に入らない点は多々あるが、それはあくまで自分の個人的感情である。
マグノの語ってくれた全ての事実を照らし合わせると、まぎれもなく彼女の言い分は正しい。
反論する言葉が思いつかずに、カイはただ口を閉ざすしかなかった・・・・
「さてと・・・この船の問題に関してはこれで終わりとして、だ。
問題はお前さん達をどうするかだね・・・・・」
マグノは一人一人を見渡して、揶揄するような笑みを浮かべる。
「捨てましょう。ただでさえ不安定な状況が続いています。それに・・・・」
メイアはキッとカイに鋭い視線を送り、断ち切るような口調でマグノに進言する。
「この男は危険です。置いておいては何をするかわかりません。早急に始末するべきです」
完全にカイを敵視しているメイアに、マグノは意外そうに彼女を見つめる。
「珍しいね、あんたがそこまで言うなんて・・・・・
この坊やと何かあったのかい、メイア」
「お頭にも報告したとおり、この男は我々を人質に取りました。我々の憎き敵です」
「お前らだって同じ事をしただろうが。まったく、自分を棚に上げて何を言ってるんだか」
馬鹿にしたようなカイの台詞に、メイアは鋭く視線を向ける。
「迅速に仕事を進める上で行っただけだ。命までとるつもりはなかった」
「後からじゃ何とでも言えるよな、ご立派な海賊さんよ」
カイの言葉に我慢がならなくなったのか、メイアはカイに詰め寄った。
「私を侮辱する気か・・・・」
「海賊にんな偉そうなもんがあるのかよ。もともと人間のクズだろう、てめえは」
「フン、お前のような男に言われたら終わりだな」
「偉そうに人を見下ろして自分を正当化する奴にお褒めの言葉を戴けるなんて感激ですな」
「何だと!?」
「何だよ!!」
椅子から乱暴に立ち上がって、カイはメイア相手にかまえる。
メイアもリングガンをカイに向けて、憎憎しげに言葉をはき捨てる。
「やはり貴様だけはここで抹殺するべきだな・・・・」
「おもしれえ・・・・さっきの喧嘩の続きといこうじゃねえか」
手首に頑丈な手錠を付けられているにもかまわずに、
カイはメイアにいつでも突進できるように体勢を整えた。
メイアはリングガンの出力を高めて、眩い輝きを放ち始める。
「やめるんだ、二人とも!そんな事をしても何の解決にはならない!」
二人の間を割って、ブザムが両者を制した。
「副長・・・・・」
「メイアも冷静になれ。いつものお前らしくないぞ」
「も、申し訳ありません・・・・・・・」
深く頭を下げて、メイアは渋々引き下がった。
彼女自身、ここまでするつもりはなかったのだ。
ただカイを見ていると胸の奥がもやもやし、
カイが自分を非難すると、心の底からどうしようもない程の怒りがこみ上げるのを抑え切れなくなる。
彼女自身、ここまで男に対して気持ちを沸き立たせたのは初めてだった。
そしてカイもブザムの制止に頭が冷えたものの、どこかイライラする気持ちを抑えて椅子に座りなおした。
「お前さん達、相性が悪いのかね・・・」
傍目で見物していたマグノが、楽しげに二人をそう評した。
<Chapter 2 −The good and wrong− Action5へ続く>
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