VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 1 −First encounter−
Action15 −分岐−
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ブザムより旧艦区へのミサイル狙撃を聞かされたカイは驚愕した。
『ミサイルだと!?どうしてそんな物が撃ち込まれるんだよっ!!』
『それはこちらが聞きたい。何故ミサイルがロックオンされている?』
言外にお前の仕業かと尋ねられていると悟り、カイは眉をつり上げる。
『知らねーよ、そんな事!大体俺が知ってたらこんな取引をわざわざする理由がないだろうが』
『そう怒るな。聞いてみただけだ。だが、これではっきりした。
お前がどうやら独断で動いているようだな』
『う・・・・・・わ、悪いかよ。他人に命令されて動くなんざ俺の性にあわねーんだよ』
『その結果、お前は見捨てられた』
ブザムの冷静な指摘に、カイはぎりぎり歯軋りを鳴らす。
カイ自身、まさかタラークの軍部がこのような暴挙に出ることはまったく予想できていなかったのだ。
「ふざけやがって・・・・・人の命を何だと思ってやがる!!」
自分を、そして他の男連中ごと平気で爆破しようと考える軍部にカイは激しい怒りを感じた。
持っていたガスバーナーをそのまま思いっきり床に叩き付ける。
その行動に慌てたのがメイア達一同だった。
「ちょ、ちょっと何の真似よ!?火がついたらどうしてくれるのよ!!」
焦ったようにバーネットが身を乗り出すが、やんわりとドゥエロが制した。
「問題はない。火はすでに消えている」
捨てられた小型ガスバーナーを拾って、ドゥエロは訝しげにカイの様子を探る。
只ならぬカイの激昂ぶりに、事態の豹変を若干ながら察することができた。
一方、メイア達の困惑をよそにカイは通信先のブザムと話し続ける。
『四の五の言っている暇はねえな。すぐに逃げないとアウトだ』
『男達の大半は既に脱出している。分かっているとは思うが・・・・』
『ああ、取引どうこうはもうなしだ。すぐにお前の仲間を脱出させる』
『話が早くて助かるな。
・・・・ミサイル発射は刻一刻と迫っている。早急の対応を頼む』
『おうよ、任せとけ!あ、その、なんだ・・・・・・・』
先程まではきはきと喋るカイが急にどもり出したので、通信機先のブザムはどこかくぐもった声で尋ねる。
『どうした?何か問題でもあるのか』
『そうじゃねえよ。その・・・悪かったな』
『?どういう意味だ?』
『いや、俺の知らない事とはいえ取引を無茶苦茶にしたのはこっち側だからな。一応詫びておく』
首相の起こした愚行であるとはいえ、カイなりに胸の奥で罪悪感めいたものを感じているようだ。
それこそ本人の純真な心の現れであるのだが、カイ自身にははっきりとした自覚はなかった。
逆に言葉のみだが、カイの心の一端に触れられたブザムは苦笑めいた声で返答する。
『お前が気にする事ではないだろう。お前自身が行った行動ではないのだからな』
『まあそれはそうだけど・・・・一応だ、一応!!深くつっこむんじゃねえよ』
『分かった、分かった。そう息巻いて言わずとも聞こえる』
『ち、なんか調子狂うなお前と話していると。んじゃあもう切るぞ』
『ああ。・・・・カイといったか?』
『あん?まだ何かあるのかよ?』
一呼吸をおいて、ブザムは涼やかながらも気持ちのこもった言葉を続ける。
『お前とは一度直接会ってみたいものだ』
いきなりそう言われて、カイは誰にでも分かる程動揺する。
『な、何言ってやがる!?俺はもう二度と御免だ。
お前ら女と、それに海賊なんぞに関わるつもりはないぜ』
『おやおや、ずいぶん嫌われてしまったようだな』
『当たり前だろうが!どこの世界に海賊を歓迎する奴がいるんだよ!』
『ふふ・・・・では』
カイの怒鳴り声をすんなり流して、ブザムは一方的に通信を切った。
カイは複雑な顔で暫く通信機を持っていたが、やがてメイアの方を振り向いた。
「どうした、いったい何があった?」
断片的にカイとブザムの話を聞いていたメイアは、通信が終わったと同時にカイに問い掛ける。
カイは持っていた通信機をメイアに投げ渡し、静かに告げた。
「ブザムって奴からの情報だ。この船はミサイルの標的にされたらしい。交渉は中止だ。
お前らはすぐに逃げろ!!」
「何だと!?」
カイの告げる言葉の内容に、さすがのメイアも表情を変えた。
宙航ミサイル『村正』の発射準備が着々と進む中、マグノ達が乗船する母船も旧艦区に近づき始める。
無論タラーク軍部もむざむざ敵母船の領域侵入を許す訳はなく、必死の抗戦を試みる。
だがイカヅチのシステム自身もコンディションダウンしている上に、
『村正』に全てのエネルギー供給を行っている今の状態ではまともな戦闘すらままならなかった。
「おのれ〜、旧艦区に侵略する仲間を助けるつもりか!!」
メインモニターより敵母船を確認する首相は苛立ちの混じった声をあげる。
クルー達は今はもう首相に対して反応することはなく、黙々と目の前の作業に集中していた。
もはや首相に何を進言しても無駄だと遅まきながら悟ったのだ。
「だが、女達の好きにはさせん!村正の準備はまだか!!」
「ね、燃料充填がまだ完璧ではありません!!」
モニタリングされたデータを見ると、確かに充填率は未だ70%に満たないエネルギー量だった。
しかし、みるみる迫る海賊の母船に焦りを感じた首相は、
「もう充分だ!村正、発射にかかれ!!」
首相の命令でクルー達は充填を取り止めて、発射の態勢に移った。
新艦区の艦腹より左右に分かれて、白銀のエネルギーに輝くミサイルが旧艦区に向けられた。
「目標は旧艦区!!撃てぇぇぇぇぇぇぇーーーー!!!!」
首相の恫喝により発射ボタンを押され光の軌跡を描いて、今ミサイルが発射された。
古き艦との融合を果たしたはずのイカヅチの片割れの最後がすぐそこに迫ろうとしていた。
「はあはあはあ・・・・急がないと間に合わねえ。
おい、こっちの方向で合っているんだろうな?」
「ピピ、マチガイハアリマセン。コノママツウロヲマッスグニイケバトウチャクデス」
「へえ〜、かしこいんだね♪宇宙人さんのお友達」
「・・・いつから俺とこいつが友達になったんだ・・・・」
「なかなか気があっているように見えるがな」
ミサイルによる消滅がすぐそこまで迫っている中で、カイ達は艦内の通路を一直線に走っていた。
「へ、そんなに呑気に構えてていいのか?もうすぐミサイルで大爆発になるんだぜ。
だからあの時脱出しろって言ったのによ」
今だ冷静な顔をして平走しているドゥエロに、カイは皮肉めいた言い方をする。
ドゥエロはその言葉に特に動じることもなく、さらりと返事を返した。
「かまわんよ。私はやりたいようにやっただけだ。未練も後悔もない」
事実、ドゥエロにとって今日起きた出来事はまさに新鮮な体験ばかりだった。
これまでに味わった事の無い未知的遭遇に、新しい価値観の数々。
彼のこれまで歩んできた人生の中で今日ほど劇的な出来事はなかったと言えるかもしれない。
「ふーん・・・・・・ま、本人が納得しているならいいけどよ」
「うんうん、お医者さんもバーネットを助けてくれたんだもんね♪
宇宙人さんのお友達っていい人ばかりだね」
「だからいつから友達になったんだよ!それに、どうしてお前がついて来る!!」
主格納庫で緊急事態を知らせた後、それぞれ海賊達もカイも一斉に行動を始めた。
バーネット達はそれぞれ行動を開始し、近づく母船への帰還に移った。
ドゥエロは脱出艇を、カイは残してきた自分の相棒の元へと走り続けていた。
それでメイア達ともお別れになるかと思いきや、さも当然のようにカイの傍にディータが近寄って来たのだ。
「えー、だってまだ宇宙人さんとちゃんとお話もしてないもん」
「そんな事をしてる場合じゃないだろうが!」
にこにこ笑顔で呑気な事を言うディータに、カイは呆れた様に言い放つ。
カイの言葉に賛同するように後ろから鋭い静止の声がかかる。
「ディータ、何をしている!勝手な行動をとるな!!」
「もう、どうして私まで付き合わないといけないのよ〜」
「うぇ!?リ、リーダー・・・・それにジュラも・・・・」
素早い動作でディータに追いついて、メイアとジュラはディータに平走する。
「ディータ、これからは私の指示にきちんと従え。規律が乱れる」
「うえーん〜、ごめんなさい・・・・・・」
メイアの叱責にしょぼんとするディータ。
メイアも少し言い過ぎたと思ったのか、やや表情を緩めて口を開いた。
「他の皆はそれぞれバーネットの指揮の元、母船への帰還を開始した。
我々はドレッドで後に合流する」
「あんたが勝手な事をするから、ジュラまで迷惑がかかったんだからね。注意してよ」
「りょ、了解!」
かしこまって敬礼するディータに、隣で聞いていたカイがまじまじと見つめる。
カイの視線に気がついたメイアは深きブルーの瞳を鋭くする。
「何だ?何をそんなに見ている」
「いや、別に。ただ聞いていたのと違うなって思ってな」
「?いったい何がよ?」
具体的な意味が掴めずに、ジュラは困惑して尋ね返した。
「・・・・いや、別になんでもない。気にするなよ」
「何なのよ、こいつ」
小さく首を振って再び走り出すカイに、少々むくれた表情でジュラは彼の後に続く。
(女か・・・・・・・)
ずんずん先に進みながら、カイは答えの出ない悩みにぶつかっていた。
やがて一つの左右の分かれ道に入り、六号は案内先をこまめに報告する。
「サゲンホウコウ、キカンブ。ウゲンホウコウニダッシュツテイガアリマス」
「分かった。じゃあここでお別れだな」
ドゥエロの方を振り返り、カイはそう述べた。
「本当にいいのか?蛮型の操縦はろくにできないはずだ」
ドゥエロの言う通り、脱出艇での旧艦区脱出のほうが生存率ははるかに高かった。
彼は仕官学校のトップゆえに、軍事教育は頭の中にきちんと叩き込まれている。
今日が初めてであるカイとは違って、船の操縦すらドゥエロにはお手の物なのである。
ゆえに一緒に脱出しないかとドゥエロがカイに先程から幾度か提案していたのだ。
だが、カイははっきりと言った。
「あいつをほっておくわけにはいかねえよ。俺はあいつと宇宙一になるって決めたからよ」
その言葉にカイの決心の固さを感じたドゥエロにそれ以上の言葉はなかった。
彼は黙って自分の利き腕を差し出すと、カイは少し驚いた顔でその手をきつく握った。
「君には世話になった。礼を言う」
「いいってことよ。縁があったらいつかまた会おうぜ」
「ああ・・・・・」
そして両者はもう互いに顔を合わす事はなく、それぞれ違う道を走る。
ディータ達はその光景を不思議な様子で見つめていたが、やがてカイの後を追った・・・・・・
メイア達が脱出を急ぐ頃、ブザム達は到着した母船に接続し早々と乗り込んでいた。
旧艦区の対迎撃装置も切り離された時以降作動はしておらず、母船も易々と侵入する事に成功したのだ。
『チームは私を除いて全員乗艦しました。ただメイア、ジュラ、ディータの三名がまだです』
母船乗艦口にて、ブザムは最終確認の連絡をマグノと取り合っていた。
『あの娘達はドレッドで帰らせる。BCも戻れ』
『ラジャ−、すぐに帰還します』
ブザムはマグノの命令に従って、母船への乗り込みを開始する。
ちなみに「BC」とは副長であるブザムの別称とも言うべき名である。
そして、ブザムの報告を聞いたマグノは次にオペレーターに現状確認をした。
「ミサイル到着は後どれくらいだい?」
「現在、敵ミサイルは着弾まで残り500をきりました!」
「ドレッド、発信する傾向がありません!!このままでは・・・・」
ブリッジクルーの焦った声が何よりの事態の深刻さを物語っていた・・・・・・・
「俺の相棒!?相棒はどこいった!」
息を弾ませて機関部へ飛び込んだカイはその足で自分の相棒を探し始める。
ディータのドレッドの乱入により、機関部内は瓦礫の山で満たされて乱雑に散らかっていた。
乱雑に瓦礫を素手でどかしながら、カイは必死で呼びかけていた。
「くそう・・・・どこだ、どこにいった!?」
「宇宙人さん、こっちこっち!!」
視界の先に手を振るディータの姿を見つけて、カイは慌てて駆け寄った。
「ほらほら、あそこ!!宇宙人さんの乗り物が!!」
「えーと・・・あったっ!見つけたぜ、相棒!!」
まるで長い間別れていた身内と再会する様な明るい表情で、カイは自分の蛮型に駆け寄った。
「うわ〜、ぼろぼろだね・・・・宇宙人さんの乗り物・・・・」
「うるせえな!!別にいいだろうが」
「ご、ごめんなさい・・・・・」
カイに叱咤されて慌てて謝るディータ。
さすがに素直に謝られてはカイもそれ以上は何もいえず、そのまま黙ってコックピットへと歩む。
「お、おめえも早く自分の船に戻れよ。またあの青髪の女にどやされるぞ」
メイアの事を指していっているんだと気がついたディータは可笑しそうに笑った。
「くすくす、リーダーの事をそんな風に話すのって宇宙人さんが初めてだよ」
「あのなあ!!・・・・・たく、泣いたり笑ったり忙しい奴だな・・・・・」
すっかりディータに翻弄されてしまっている自分に気がついて、カイは疲れた様に肩を落とした。
嫌でもなく不快でもない微妙な感覚。
過去の記憶がないカイに揺れ動く自分の感覚をつかむのは難しかった。
結局それ以上は何も言えず、六号をつれてそのままに乗り込もうとする。
「ディータ、何をしている。早く脱出するぞ」
「あ、リーダー・・・・宇宙人さん、ディータそろそろ行くね」
「あー、はいはい。気をつけてな」
投げやりに手を振って、カイは自分の蕃型のコックピットに乗り込んだ。
ディータは名残惜しげにずっと見ていたがやがて吹っ切れたのか、最後に大きく一言叫んだ。
「また会おうね、宇宙人さーーーーん!!!」
「はあっ!?」
これはさすがに無視はできなかったのか、仰天してカイは振り返る。
そこには満面の笑顔で手を振っているディータと腕を組み顔をそらしているメイアの姿があった。
両者の対称的な姿が妙に可笑しくなり、口元が緩むのをこらえつつ大きな声で叫び返した。
「てめえらも達者でな。あんまり人様に迷惑をかけるんじゃねーぞ!
後、そこの青髪の女!愛想が悪いからもうちっと笑ったほうがいいぞ」
「なっ―――――!?」
カイの言葉に珍しく、非常に珍しく目を見開いてメイアはカイを見つめる。
にっと笑顔でその視線を返したカイはそのまま勢いよくコックピットに乗り込んだ。
「さーてと!もう一働きよろしく頼むぜ、相棒!!」
すっかり慣れた手つきでピット内の操作類を巧みに操り、トリガーを握る。
そして・・・・・・・・・・・・
「さーてと、じゃあ・・・・・発進!!!」
威勢のいい掛け声とともに、トリガーを前に傾けるカイ。
すると蛮型にエネルギーが全身に行き渡り、そのまま宇宙へと発進・・・・・されなかった。
「お、おい・・・?どうした、相棒!?発進しろ、発進!!」
そのまま何度もトリガーを押したり引いたりするが、まるでびくともしなかった。
募る焦りとミサイルへの危機感に額から汗を流しながら、必死でカイは蛮型へのアクセスを試みる。
「おかしいな・・・?手順は間違えて・・・ないよな・・・・
どうして動かないんだよ!!」
誰に対して言った訳ではなかったが、その問いに答える者がいた。
「バンガタノダメージガオオキスギマス。ドウリョクロノハソン、エネルギーパルスノタイハ。
シュツゲキハフカノウデス」
「・・・・い、今なんて言った・・・・・?」
唾を一飲みして、恐る恐るカイは傍らに浮かぶ六号を見つめる。
静かな点滅を発する六号はあっさりと、無慈悲にカイに断言した。
「ゲンザイノジョウキョウデハ、コノバンガタデノウチュウヘノシュツゲキハフカノウデス」
「ふ、不可能・・・・・・?」
「ハイ、フカノウデス」
コックピットの中で呆然とカイは座り込んでいた・・・・
座り込むしかできなかった・・・・・・・・・・・
「敵ミサイル残り150を切りました!?直撃は逃れられません!!」
上ずった声でのオペレーターの叫びがメインブリッジに響き渡る。
マグノは持っていた黒塗りの数珠をしっかりと握り締めて、鋭い眼光でモニターを見やり呟いた。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦・・・・・」
その言葉は未来を憂うマグノの祈りの声かもしれない・・・・・・・・
<First encounter LastAction −覚醒−に続く>
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