VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action29 −三者三様−
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戦いが終結し、到来した嵐は過ぎ去る。
封鎖されたメイア達を救助したカイは手当てを施され、一同は全員の無事を確認。
負傷者も無く、行方不明者もいない。
互いの状況確認を行った後、全員揃ってのニルヴァーナ帰艦となった。
「・・・なるほどな・・・」
ミッション・連絡路――
居住区と保管庫を連立する通路を、皆を先導してカイは歩いていた。
隣を歩くのはメイア。
メイアは美麗な眉を潜め、沈痛な表情を覗かせる。
「一連の騒ぎはお前の仕業だったのか・・・・
周到な割に不用意だとは思ったが」
「い、いや、だってさ・・・・
まさかお前らがここに来るとは思わなかったし」
メイアの反応を伺いながら、カイは苦笑いを浮かべる。
予備ドレッドで飛び出し、行方不明になって二日。
手当てを済ませたメイアに、カイは全てを話した。
偶然辿り付いた事、正体不明の男に助けられた事。
そして今回の騒動の発端と結末――
メイアは冷淡にカイを睨む。
「お前は騒動しか起こせないのか。
いつもいつも何かと言えばお前だ」
「何時もやりたくてやってる訳じゃねえ!
何故か俺が巻き込まれているだけだ」
うんうん頷くカイに、メイアはじろっと冷たい目を向ける。
「―――で、我々も巻き込まれる訳か」
「だ、だから悪かったって」
今回ばかりはカイも強気には出れない。
何しろメイア達はミッション探索以外に、カイを救助する為に来ていたのである。
助けに来て襲われてはたまったものではないだろう。
しょげ返るカイを一目見て、メイアは嘆息する。
「せめて誰が来たのかを確認すればいいものを・・・・
まあいい、終わった事だ。
これ以上責めても仕方が無い」
「へ・・・?」
メイアはやれやれとした顔で言う。
「刈り取りを阻止するべく行った行為だ。
状況的に見ても、お前の判断が全て間違えていた訳じゃない。
お頭や副長には私からも伝えておく」
今回だけだぞ、とメイアは付け加える。
カイは安心したように身体を脱力させ、メイアの顔を覗き込む。
「ばあさん達はともかく、お前は?」
「私?」
「そうそう、お前。怒ってないのかって」
少し戸惑った顔を見せ、メイアは視線を逸らす。
「・・・・いい加減、慣れた」
「・・何か気になる言い方だな、おい」
「そう思うなら、少しは自分を粛清する事だ」
「く、くっそ・・・・」
やり込められているが、反論出来ない。
カイは悔しそうな顔をするが、それ以上反論しない。
メイアはそんなカイを横からそっと見つめる。
誤魔化す事なんて簡単に出来た。
自分は知らないと言えばいい、誰かになすりつけるのもいい。
正体不明の男とやらと共謀したとはいえ、口裏を合わせれば非難を受けずにすんだ筈。
誤解とはいえ、今回の事が仲間内に知れ渡れば評判はますます悪くなる。
それが分からないカイではない。
なのに、カイはメイアに何も誤魔化さずに全て告白した。
それが当たり前であるかのように――
不思議な気分だった。
まるで心の芯をくすぐられるかのような――
今まで出会った人達には感じられなかったモノが、カイから伝わってくる。
メイアは正面に視線を移しつつも、表情を和らげていた。
「そっちはどうだ?あれから連中は来なかったのか?」
刈り取りを指した質問に、メイアはああと答えて、
「お前が退けた敵が最後だ。
そう度々攻めて来られては困る」
「同感。しつこいからな、あいつ等」
敵の執拗さは身に染みている。
カイが退けた敵なぞ、自爆してまでニル・ヴァーナを破壊しようとした。
機転を利かせて何とかカイが片付けたが、敵が諦めたりしないだろう。
道行はまだまだ危うく、険しい。
げんなりするカイに、メイアもふうっと息を吐く。
「必要なら倒すまでだ。我々に選択肢は無い」
断言し、メイアは決意に満ちた表情を浮かべる。
カイはまじまじとその顔を見つめ、ぽつりと――
「・・・お前ってさ」
「どうした?」
「実は人を励ますの―――下手だろ」
「なっ!?」
ずささっと後退するメイア。
隠そうとする動揺を見破り、カイは意地悪い笑みを浮かべる。
「口下手なんだな、多分。
だから客観的にしか言えなくて、相手に過剰に伝わってしまう」
「わ、私はただ現実問題を・・・!」
「なるほど、なるほど。お前ってそういう奴だったんだ」
「何を納得している!?」
「かーーーー、惜しい事したな・・・・
気付いていれば、いちいち喧嘩しないでからかえたのに。
俺も人を見る目が無いな」
「・・・カイ。
言いたい事があるなら、きちんと相手の顔を見て話せ」
あからさまに反対方向を見るカイに、メイアが憤然とした顔を向ける。
どんな表情をしているのか分からないが、カイは何となく想像がついた。
笑い出すのを必死で堪え、口元を抑える。
「カイ!」
「ごめん、ごめん。お前を馬鹿にしたつもりはねえよ。
新しい発見が出来たのがむしろ嬉しい」
「ほう・・・ぜひ聞かせてもらいたいな・・・」
表情は冷静で、声も普通。
―――なのだが、メイアが不満に思っているのが分かる。
今のカイには、何故かはっきり見えていた。
くすりと笑い、カイは歩みを再開する。
「予備ドレッドは格納庫にそのままにしてある。
・・・ちょ、ちょっとぶっ壊したけど」
話を逸らすカイに、メイアは力なく肩を落とす。
「・・・見事に再起不能だ。
持ち帰るより処分した方が手間がかからない」
予備は一機だけではない。
予想外の事態が起きた場合でも対処出来る様、複製されたドレッドは何機も母船に収納されていた。
先に言った通り、カイが全て悪い訳ではない。
そもそもドレッド操縦初心者が敵を撃滅出来ただけでも大した成果と言える。
メイアは溜飲を下げて、寛大な対応をした。
「とにかく今は母船に戻り、お頭や副長の命を待つ。
目的は果たせた。
私の独断でミッションの探索続行は出来ない以上、しばらくは待機だ。
ところで――」
「ん?」
言葉を切り、メイアはカイに向く。
「聞きたい事が二つある。
まず、お前が開発した新兵器の事だ」
隔壁が除かれ、通信機も元の状態に戻る。
通信のやり取りが可能になった時点で、メイアは先に母船への連絡を行った。
全員が無事である事と、カイが救助に駆けつけてくれた事。
その時副長ブザムより、事の顛末を簡潔に伝えられたのである。
「ヴァンガード新型兵器・ホフヌング――
正直、理解出来ない。
話によるとニル・ヴァーナからエネルギー充填をし、ペークシスエネルギーを発射させたと聞くが」
ブザムとて、現状を見たまま説明しただけだった。
頭脳明晰なブザムでも解析不可能な新兵器。
皆の度肝を抜き、驚嘆させた兵器の謎をメイアは知りたかった。
「うーん、どう説明するべきか・・・
俺も感覚でしか掴んでいないからな」
「お前の作った兵器だろう?何故分からない」
「そう言われると痛いが、半ば思い付きで作ったんだよ」
「思い付きだと!?
・・・・お前らしいと言えばらしいが。
ではその兵器は――」
カイは頷く。
「未完成だ。完成にはまだまだ程遠い。
仕上がりも不十分だし、バランスも悪い。
ペークシスが何なのかも漠然としているからな・・・・
パルフェやガスコーニュにも散々反対された」
敵拠点を蹴散らし、膨大な攻撃の渦を退けた兵器。
その兵器が未完成であるとカイは言う。
「今のホフヌングは、ようするにあれの変形みたいなもんだ。
ほれ、赤髪と俺が合体した機体の主力兵器」
「ヴァンドレッド・ディータか」
「・・・あいつの名前なのが物凄い不満だが、そうだ。
弓で発射の仕方も変わっているが、同じだ。
ペークシスのエネルギーを利用しているのに変わりは無い。
威力はそうだな・・・融通が利く分、あっちが上だろうな」
セキュリティメカとの戦いを思い出し、カイはそう分析する。
使い手であるカイが一番良く分かっている。
「ペークシスエネルギーを利用するとなると、当然媒体が必要となる。
弓に結晶を仕込んでいるのか」
「後、腕にもな。
エネルギーって見えたり見えなかったりするし、空気みたいなもんだ。
固定させないと分散するし、下手すれば暴走する。
安定化させる為に結晶を組み込んで利用しやすくしたんだ」
「・・・見てみないと何とも言えないが、危ういな」
筋立てのある説明ではないが、メイアは本質を理解して眉を潜める。
「しかしお前の話だと、ニル・ヴァーナとの連結が説明つかない。
ニル・ヴァーナから膨大なエネルギーを供給出来たのは何故だ?」
エネルギーとは力。
力には星の数程の種類があり、密度・質量・温度・形状・情報等など異なる。
本質そのものが違えば、重なり合う事は絶対にありえない。
どんなエネルギーでも充填出来るのなら、例えば敵機からのビームすら取り込める理屈になってしまう。
「それがホフヌング唯一の機能なんだ。
あの兵器はエネルギー粒子を組替られる性質がある」
「粒子を組替える、だと・・・?」
愕然とするメイアに、カイは説明を続ける。
「ペークシスにはそんな応用力があるんだ。
考えてもみろ?
ニル・ヴァーナは男と女の船が融合した。
俺の蛮型やお前のドレッドも改造されて、合体も出来る。
普通に考えてそんなのありえるか?」
「・・・・・」
今まで考えなかった事はない。
常識を、現代を支える科学を覆す理念の果てに存在する偶像。
ヴァンドレッド――
強力なエネルギーと優美さを兼ね備える兵器にして、特化された能力を持つ乗り物。
今まで苦境を乗り越えられたのは、まぎれもないこの力ゆえだった。
メイアはカイを正面から見据える。
目の前のこの男はその謎を謎として片付けてはいない――
「ペークシスが何なのか、俺には分からない。
ただ・・・・」
カイは天井を仰ぎ見て、暖かい顔をする。
「今までの出来事が偶然じゃないのなら――
ペークシスは俺達を助けてくれているんじゃないかなって思う」
「―――!?
ペークシスプラズマに意思があると?」
ペークシスはエネルギーの結晶体。
誕生は何時何処なのかは不明であり、歴史の片隅に葬り去られている。
科学技術に浸透し、軍備・環境利用されて来た有効資材に過ぎない。
機関部チーフ・パルフェは確かに大切に取り扱ってはいるが、その彼女でさえも空想としての擬人化で向き合っているだけ。
カイはそんなペークシスを、意思あるモノとして見ていると言うのだろうか。
「言ったろ、俺には分からないって。
分からないから知りたいと思うし、想像だってするさ。
・・・・話が逸れたな。
ようするにホフヌングは、あらゆるエネルギーを取り込める能力がある。
あの時もそう。
俺はニル・ヴァーナを支える膨大なエネルギーを吸収し、矢として発射したんだよ」
「・・・・お前も分かってはいないんだな。
でも―――危険だ。
不必要に使わない方がいい」
真剣な眼差しで、メイアはカイに忠告する。
ほんの少し前には反発したカイにも、メイアが本心から心配して言ってくれているのが分かる。
カイは黙って頷いた。
メイアもカイの返答に満足したのか、そのまま彼の隣で自然に歩く。
そこへ――メイアが突然何かに気づいたように腰元に手を当てる。
そのまま通信機を取り出したかと思うと一言二言話し、そのまましまった。
「?誰からだ」
何気なくカイが尋ねると、メイアが険しい顔をして言う。
「タイミングがいいのか、悪いのか・・・・
私が聞きたかったもう一つ。
お前が共にしたと言う男が、お前と話がしたいらしい。
ブリッジに通信が繋がっているので、すぐに戻って欲しいとの事だ」
「・・・あの野郎から、だと?
ちょうどいい、俺も言いたい事が山ほどある」
カイも険しい顔を見せ、そのまま急ピッチで保管庫へと向かった。
<to be continues>
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