VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action22 −援護−
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戦線は乱れに乱れていた。
規律的な攻撃で攻めて来るセキュリティメカに、ドレッドチームは互角の戦いを強いられていた。
数は多いが、セキュリティメカ一体一体の攻撃力は低い。
セキュリティメカはミッション警備用に製造された最新型で、戦闘専門のユニットだった。
あくまでの当時の、だが。
時代が流れ、科学技術が発達した昨今において、セキュリティメカは旧式に成り下がっている。
攻撃能力は数種類、攻撃パターンも単調。
直撃してもドレッドを大破させるには及ばず、シールドを破壊する力はない。
そういった意味で戦闘力はドレッドチームが上なのだが、問題は戦列であった。
ドレッドは単体では戦闘力は平凡で、フォーメーションを駆使してその能力を発揮する。
マグノ海賊団でもチークワークは重要視されており、戦闘力向上に大きく貢献している。
その肝心のチームワークが現在疎かになっていた。
フォーメーションを構成する主力部隊、指揮官が不在だからである。
チームワークが成立しない部隊は戦闘時大きなマイナスとなる。
個別的にも能力的にも上回っているマグノ海賊団だが、効果的な反撃に出れずにいた。
「・・・・こいつは厄介だね・・・・」
レジシステム店長・ガスコーニュ。
本来、彼女が前線に出る事は先ず無い。
チームの全面的な補助を任としているガスコーニュは、表に出るのを嫌っている。
立場上だけでなく、主義としてガスコーニュは徹底して裏方に収まっている。
優秀なる黒子がガスコーニュの目標でもあった。
その彼女だが、チームリーダーであるメイアがいない為、前線部隊のフォローに出ていた。
メイアやサブリーダーのジュラもいない今、ガスコーニュが適任だったが為である。
マグノ海賊団旗揚げからの古株である彼女は、クルー達からも慕われている。
本人も事態が事態だからと、愛機のデリ機に乗って出撃していた。
「・・・このままじゃあジリ貧だね・・・・
何とか思い切った手をうたないと・・・」
戦況を客観的に見て、ガスコーニュは深刻な顔で声を漏らす。
敵の数は減ってきてはいるが、新たな機体が続々と後方から出現している。
こちらも補給を続けているが、限界は当然来る。
今でもフル活動でデリオーダーを受注している最中である。
戦力の差で今は優勢だが、長期戦になると戦況が傾く可能性があった。
ミッション側戦力がどれほどかは不明だが、楽観視は到底出来ない。
優勢な状態である今の内に敵を殲滅したいのだが――
ガスコーニュは歯噛みする。
勝利へと強気で押し返るには、こちら側の戦力が足りない。
正確には出来ない事もないが、全戦力を注ぎ込んだ総攻撃を行えば後が無くなる。
万が一敵が耐え切れば、巻き返されて終わりである。
賭けに出るには、敵戦力の情報が足りない。
不透明な状態でいちかばちかの賭けに出る勇気は無かった。
総指揮を取るブザムや頭目のマグノに進言しても反対されるだろう。
「まだまだだね、アタシも・・・・」
ガスコーニュは深く嘆息し、コックピットのシートに寄りかかった。
このまま交戦を続けていても、勝利出来るかどうかは怪しい。
今有利なこの時に行動に移すのがベストなのだ。
長年の経験でそれは把握しており、ブザムやマグノも同じ事を考えている筈だ。
後は命令するだけ――
それが出来ない事に、ガスコーニュはどうしようもない苛立ちを感じていた。
無謀と勇気は違う。
敵の状態が見えないのに、前へ出る事はただの自暴自棄だ。
だが、慎重と臆病もまた違う。
勝てるかもしれないのに前に出ないのは、勝利から遠ざかるだけだ。
こうすればいいと思う前向きな自分と、止めた方がいいと思う後ろ向きな自分。
ガスコーニュは我知らず拳を握り締めていた。
「・・・・・・」
ほんの少し前まではこんな事に悩まなかった。
決断する時は躊躇わず即断し、駄目だと思えば素直に退いていた。
マグノ海賊団内では大胆に考える方であり、同僚とは良く揉めたりしたものだった。
今もメジェールのアジトに残っているであろう次期お頭候補――
彼女が今の自分を見ればどう思うだろう?
マグノ海賊団そのものがかかっている選択に、思い切った決断が出来ない自分。
迷う自分に落差を感じつつも、こうも思える。
(・・・・弱さか・・・)
ガスコーニュのみならず、ブザムやマグノも女である。
メジェールの絶対的性別意識に共感した訳ではないが、女という性別に何か疑問を感じた事は無かった。
男への差別意識は薄いにしても、見下していた面はあったと思う。
むしろ、意識すらしていなかった。
今にして思うと、そんな気がしてならない。
そして今そう思えるのは、実際に男を知ったから――
(・・・生きているかね、あいつは・・・)
ガスコーニュにとって、カイ=ピュアウインドは初めての異性だった。
自分達とは違う性別の人間――
共に過ごした日々はまだ短いが、それでも驚きの連続だった。
前回の刈り取りの襲撃でもそうだった。
新型機と圧倒的な数で襲来――
リーダーであるメイアの不在に、ジュラの混乱による指揮系統の乱れ。
戦力の半数以上を失い、敗戦必至にまで追い詰められていたあの時――
今など取るに足らない苦境を、カイは乗り越えた。
常識を超えたやり方で失敗を恐れぬ事なく、真正面から戦いに挑んだ。
・・・怖くなかったのだろうか?
自分が同じような立場になり、ガスコーニュは思いを馳せる。
練習も実験も何もしていない行き当たりばったりな戦法。
失敗する確率の方が遥かに高かった。
何より、しくじれば一番に作戦を立てたカイ本人が死んでいた筈だ。
事実成功しても、カイは怪我を負い傷ついた。
いや、作戦を行う前からカイはひどい負傷をしていたのだ。
自分も仲間も巻き込む大博打――
結果、カイは敵を残らず倒して大勝利した・・・・・
「・・・・・・」
現在、カイの救助に向かったメイア達は二次遭難に遭っている。
連絡も無いので心配ではあるが、不安は何故か無かった。
あのミッションにはカイがいる。
無事かどうかは分からないが、もし元気ならメイア達の危機を救ってくれるだろう。
男が女を助ける――
母星の連中が聞けば耳を疑うだろうが・・・
「・・・お頭の目に狂いはなかったね・・・」
マグノはカイに出会った当時から気にかけていた。
何かといえば意識をし、一挙一動に目を配っている様子がガスコーニュには分かっていた。
もっとも、だからこそガスコーニュもカイに興味が沸いたのだが――
今ではマグノのカイへの興味は、信頼へと変わって来ている。
男であり、問題児であり、海賊そのものすら拒否したカイ。
敵として扱っても何らおかしくはないそのカイを、マグノは信頼を寄せつつある。
もしかするとブザムもかもしれない。
それは極端かもしれないが、それでも並々ならぬ注目を寄せてはいるだろう。
カイはメイア達を助ける――
ガスコーニュにとって、それは絶対の事実だった。
「・・・その調子でこっちも手伝ってくれるとありがたいんだけどね・・・・・」
何だかんだ言っても、あたしもあいつを期待している――
戦火を散らす戦場を目視して、ガスコーニュは苦笑いを浮かべた。
『・・・ーい、聞こえるか・・・?』
「・・・えっ・・・?」
ガスコーニュは目を見張った。
聞こえる筈のない声が、突如耳に届いたのだ。
何も対処出来ないまま絶句していると、
『おーい!おぉぉぉぉーーーーーいっ!!
・・・おかしいな・・・あれ、ガスコーニュの船だと思うんだけど・・・
おっさん、この通信機壊れているんじゃねえか?』
『あんっ!?こっちはこっちで今忙しいんだ!
お前は早く助けを呼べ!
連中、こっちにまでビーム浴びせて来てやがんだぞ!!』
『連絡がねえんだよ!
この通信機、ぶっ壊れてるんじゃねえの?』
『馬鹿言え!通信状態、クリアーじゃねえか。
相手の船に届いている筈だぞ』
『んな事言っても返事がねえし・・・・・
おーい、ガスコーニュ!ガスコーニュ!!
爪楊枝女、返事しろ!!』
コックピット内を騒がす二つの声。
片方の野太い声には聞き覚えはないが、もう片方の声は間違いようがない。
この二日、やきもきさせた男の声だ――
ガスコーニュは通信回線を完全に開き、集音マイクに向かって声を張り上げた。
「誰が爪楊枝女だって!!!」
『どわあっ!?』
今度は向こうが驚いたのだろう。
悲鳴気味の大声を出して、何やら倒れるような音が響く。
ガスコーニュは手応えを感じ、にっと笑う。
「・・・元気のいい迷子さんだね〜」
『て、てめえな・・・・・あ〜、耳の奥がガンガンする・・・』
聞こえてくるカイの声は元気そのものだった。
やせ我慢している様子も特にはなく、声はいつも通り。
いつもの、カイだった――
ガスコーニュは一息つき、顔を上げて話す。
「随分元気そうじゃないか、カイ。
相変わらずやんちゃしているみたいだね」
ミッション外壁の大穴を思い出しながら、ガスコーニュは笑って言った。
『元々はお前らのせいだろうが!
たく、お前等に会ってからろくな事ねえよ・・・・
で、今度は何やったんだお前等?』
この周辺での騒ぎを指しているようだ。
ガスコーニュは気づいて、嘆息した。
「それはアタシらが聞きたいよ・・・・
突然ミッションが騒ぎ始めたんだ。
お前さんの方こそ何かやらかしたんじゃないのかい?』
言ってみてから、ガスコーニュは顔を強張らせる。
ありえる話だった。
考えてみれば、ミッションが突然異常を起こす筈がない。
今の今まで眠りに就いていた施設である。
内部で何かしない限りは、こんな大騒ぎになる事はまずない。
その元凶がカイだとすると、納得はいく。
カイはニル・ヴァーナでの旅が始まって以来、物事の中心にいつもいた。
ガスコーニュの指摘に、回線越しに怒鳴り声が聞こえる。
『んな訳ねえだろうが!
俺達の方こそとばっちり食らってるんだぞ!?
警報鳴るわ、何でか赤髪がいるわで・・・』
「・・・ディータ?」
『・・・ん?』
声が途絶える。
恐ろしい程の沈黙が過ぎり、二人は声を無くした。
カイが原因ではない。
ガスコーニュ達が原因ではない。
では、犯人は誰か?
先に声を上げたのはカイだった。
『あいつの仕業かよ!?
いや、あいつが一人でここに来るとは思えないから・・・・・
やっぱりお前らの仕業じゃねえか!』
カイの主張は的外れではない。
ディータ達が何か不始末をしでかした可能性だってある。
ガスコーニュはきまり悪そうな顔をする。
「否定は出来ないね・・・・・
あの娘達、何かトラブルに巻き込まれているみたいだし」
『トラブルぅ〜?』
怪訝な声を上げるカイに、ガスコーニュが怪訝な顔をした。
「?お前さん、ディータ達がそっちにいるの知ってるんだろう?
あんたを助けに行ったんだよ」
『俺に?
でも、ただ声しか・・・・』
「声?」
『・・・あ・・・・
って、て事は・・・・・・あああああああああああああっ!?
じゃ、じゃあまさか・・・まさか!?
・・・・俺が閉じ込めたのは・・・・』
「閉じ込めた?
あんた、何を・・・」
『わーわーわー!!!
と、とととととと、とりあえずその話は後だ!!
お前に聞きたい事があるんだ」
「聞きたい事?」
カイの突拍子のない発言の数々に首を傾げながら、ガスコーニュは耳を傾ける。
「こいつ等ぶちのめしたいんだけど――」
カイは簡潔に言った。
「・・・完成しているか?」
尋ねるカイに、ガスコーニュは真剣な顔で―――頷いた。
<to be continues>
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