VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action19 −排除−
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けたたましい警報が木霊する。
店内を調べていたカイは慌てて飛び出して、左右に視線を向けた。
「何だ、この音!?異常事態か!?」
ニル・ヴァーナでは何度も聞いた警告音である。
全く同じ音ではないにしろ、ミッション内で何か異常が起きた事くらいは分かる。
戦略もうまくいき、ようやく落ち着いて宝捜しをし始めた矢先での騒ぎにカイは緊張を露にする。
「次から次へと邪魔が入りやがるな・・・」
「キキッキッキッ!」
別の店舗を調べていたラバットとウータンが店から飛び出して来た。
心境はカイと同じなのか、露骨に舌打ちして様子を見ている。
もっともウータンは突然の警報に興奮を煽られたのか、広い居住区内を元気良く駆け回っていた。
「一体何が起きたんだよ、おっさん。
敵は全員閉じ込めた筈だろう」
刈り取りと思しき連中がこのミッションを訪れた際、カイは罠を仕掛けて閉じ込める事に成功した。
一か八かの危うい賭けだったが、敵は完全に一フロア内に封鎖されている筈である。
今一番考えられる原因として、新たな侵入者という可能性があった。
刈り取りとて今閉じ込めている連中が全てだとはカイも考えていない。
差し向けた部隊に異常を感じた別勢力が、ここミッションに進路を向けたとも考えられる。
敵の執拗さはカイも知っているだけに、楽観的には到底なれなかった。
「・・・分からん、今調べてみる」
ラバットは例の小型装置を取り出して、操作を試みる。
リンク先の自分の船に命令を伝えて、外部の状況確認をさせるのである。
カイには手伝える事は何もないので、ラバットの探索結果を待つしかない。
「くそ、今度はどうするか・・・」
もしも敵が訪れたのなら戦うしかない。
ましてやそれが刈り取りならば、周到に作戦を練る必要がある。
敵は強大であり、人を殺す事に何の感情も持たない機械じかけ。
一方こちらは持てる武器は限られており、戦力は心許ない。
特に自分は何の武器も力もないのだ。
つくづく、相棒である自分の機体がないのが悔やまれる。
「船は壊れているしな・・・・」
飛び出して来た際に襲い掛かってきた敵は、予備ドレッドの武装で何とかなった。
撃退には成功し、船の危機も救えた。
しかしそのドレッドは今はもう故障し、飛び立つ事も出来ない。
武装も壊れ、手持ちには十手一つ。
ラバットにどれほどの武力があるのかは分からないが、刈り取りと戦うのは不十分だろう。
となると、また戦略を立てる必要がある。
あるのだが・・・・・
(同じ手は通じない、よな・・・・)
誘導して、敵を封鎖する。
同じやり方だが、もう一度出来ない事はない。
もう一度負傷する覚悟がいるが、一度出来たのだから二度も出来る。
出血多量で死ぬかもしれないが、手をこまねいていても死ぬ。
問題なのは――――同じ手が通じるかどうか。
別に同じ敵が襲い掛かって来たのではないのだから、使っても問題ないだろうとは思えない。
今までを考えてみたらそうだ。
毎回完全に敵は撃破しているのに、何故か次襲い掛かってきた敵は同じパターンで攻めて来ない。
用意も周到で、同様の作戦や戦力では苦戦する羽目になる。
学習能力が高い上に、何らかの形で倒されたデータが敵に送られているとしか思えないのだ。
そう考えれば、先程の戦略を二度行うのは危険すぎた。
失敗すれば自分だけではなく、ウータンやラバットにも危険は及ぶのだ。
同じリスクを二度背負ってもらってまで、作戦を実行する気にはならない。
危険と同等の勝率を得られる可能性は低いだろう。
先程以上の、いや今まで以上の戦略を組み立てる必要があった。
時間はない。
力も強さもない現状で、自分達だけで出来る手立てを考えなければいけない。
焦りが徐々に強まるが、カイは何とか必死で考え続ける。
頭が悪いのは自覚している。
メイアやブザムのような分析力や知性は欠片もない。
生まれも環境も何もかも違いすぎる。
海賊として戦い続けてきたあの女達と、ほんの数ヶ月前まで平凡に生きていた自分では落差は大きい。
でも――
(・・・諦めの悪さだけは負けねえぜ)
頭が悪い分、一生懸命考えればいい。
何かが思い浮かぶかもしれないのだから。
警報が鳴り響く中、カイは思考を張り巡らせた。
「外から何か来た様子はないな・・・」
「変化なし?」
船との交信を続けているラバットの独り言を聞きつけて、カイは訝しげな顔をする。
「ああ、新手が来ている様子がねえ。
となると・・・考えられるのは二つだな」
外部状況を確認し終えて、ラバットは難しい顔をして考え込む。
カイはラバットに対面しながら、同じく顔を合わせて考える。
「何か心当たりがあるのか?」
「心当たりというか・・・状況を考えての判断だ。
まず考えられるのは、システムに異常が発生した」
「異常だって!?
お前、さっきちゃんと稼動出来たって・・・」
「だから、俺が無理に稼動させたから問題が発生したのかもしれないんだよ。
長年眠ってたカビの生えているシステムだからな。
メンテもやってない状態で稼動させたんだから、十分ありえる話だ」
ミッションは地球が植民船を宇宙の彼方此方に船出させていた頃に設立された建造物である。
時期的にタラーク・メジェール誕生と同時期か、それ以前。
数年数十年ではきかない年月が過ぎており、今ではもう放置されている。
手の加えられていなかったシステムを無理に起動させれば、故障する事だって当然あるだろう。
機械とて、人の手がなければ廃れるしかない。
「後は・・・閉じ込めた連中だな」
「連中って・・・さっきの奴等か?
あのフロアには何もないんだぜ。
閉じ込められて、連中が何かできるとは思えねえけどな・・・」
「でも俺達以外にここにいるのはあいつらだ。
俺等が何もしてないなら、可能性として残っているのはあいつ等だけだぜ」
「う〜ん・・・・」
ラバットの言う事に間違いはない。
にわかには信じられないが、閉じ込めたから安心とも言えないのは確かである。
具体的に何をしているのかは分からないが、大人しくしている連中ではない。
カイは舌打ちをして唸る。
「さすがに閉じ込めただけじゃ大人しくはしてくれないか。
こりゃあ早い所目ぼしい物貰って、ここから出るしかないな」
もしも遮断している隔壁が壊されたりしたら一大事である。
その時はもう対抗手段がない。
そもそも戦う術すら持ち合わせていないのだ。
奇策に頼るのにも限度がある。
「同感だ。
連中の仕業じゃないにせよ、システムに異常が出ているのには間違いはないからな。
セキュリティが本格的に稼動したら、俺達の身まで危ねえ。
とっととオサラバするぞ」
「オッケー、おっさんは使える物資を選んでくれ。
俺じゃあ何が利用できるのかよく分からん。
ウータンと俺で物をまとめるからよ」
「しょうがねえな・・・・
手早くやるぞ。時間がねえ」
互いに頷き合って、二人は行動にかかった。
警報はいまだ止まる気配もなく―――
「それじゃあロボットさん、お願いね」
「ま、まだやるぴょろか?もう十分だと思うぴょろ・・・
警報も鳴って、カイに聞こえているはずだぴょろ」
「でも宇宙人さん、ディータ達がどこにいるか分からないでしょ。
頑張って!ロボットさんだけが頼りなの」
「しょうがないぴょろね・・・・
せ〜のっ!!」
途端、フロア全体が縦揺れする。
強大な揺れはフロア内のベンチを倒し、その場にいた人間を足元から振るわせた。
一瞬後――
揺れは収まって、ディータ達のいるフロアに静寂が戻った。
様子を見守っていたディータに満足げな笑顔が浮かぶ。
「すごい力だね、ロボットさんって。ディータ、びっくりしちゃった。
ロボットさんの力なら壁を壊せられそうなのに・・・」
「それは無理だぴょろ。
ピョロに出来るのはせいぜい今のように隔壁に体当たりして、揺らす事くらいだぴょろ」
「そうなんだ・・・・
でも、これで騒ぎは起こせたよね!」
「セキュリティも稼動したし、ばっちりだぴょろ!」
女の子とロボットは笑い合い、元気に手を叩き合った。
閉塞的な状況下でディータが思いついた案――
それがこの隔壁衝突によるセキュリティ起動だった。
自分達では今の状況を解決出来ないと悟り、助けを求める事を決意したディータ。
自己の力ではどうにも出来ないディータなりの解決策だった。
今まで独力で危機を乗り越えてきたカイとは違う、別の選択をディータは取ったのである。
他力本願な決断――
他人の手を借りる事を恥と思うか否かだが、ディータはむしろ自分から選択した。
今までカイに頼ってばかりだった過去。
頼ってばかりの自分を情けなく思っていた現在。
そして―――カイに助けを求めている今。
今また助けを求める事に対し、情けなく思わないと言えば嘘になる。
カイの手を煩わせる事に申し訳なさも感じている。
でも、その事実を恥じ入る気持ちはなかった。
自分に限界を感じているなら、迷わず助けを求めるべきだ。
ディータはそう心に決めていた。
今の自分は一人ではない。
複数の人間を、その命運を任せられているリーダーなのだから。
今の自分は独りではない。
こんな自分に優しくしてくれる人がいるのだから。
『・・・・だから・・・・ディ−タも・・・がんばって・・・』
『・・・・・・がんばって・・・・・』
泣いているより、何かした方がずっといい――
自分の出来る事を精一杯しよう。
最善が助けを求める事ならば、迷わず選ぶ。
変に見栄を張って失敗したら意味がないのだから――
自分で何とかしようとするカイやメイアとは違うやり方。
でも、カイやメイアのやり方が常に正しいとは限らない。
ディータはディータなりに、自分のやり方を見出した。
「でも大丈夫なの?」
「え?」
ピョロが奮戦する一方、ディータの隣で黙って見ていたミシェールが不意に呟く。
このやり方を思いついたディータは、既にミシェール達に伝えている。
その際自信満々だったディータとピョロに、ミシェールはやや不安は感じていた。
何しろ、今の今まで何の役にも立たなかったディータである。
「外に助けを求めるのはいいけど、この強引なやり方よ。
警報が鳴ってるんじゃ、敵が何かしてくるかもしれないわよ」
敵が今のディータの行動を知れば、何かまた仕掛けてくるかもしれない。
ここに至って、ミッションにマグノ海賊団に敵意を持つ敵がいるのは判明している。
脱出不可能で、外部への通信も遮断されている。
この状態で何か攻撃を仕掛けられたら、対抗出来るかどうかは怪しい。
保安チーム同行で一通りの武装はしているが、敵が何者なのか分からないのだ。
特に今のような状況では、マグノ海賊団側に圧倒的に不利だった。
ミシェールの不安はもっともだった。
「大丈夫だよ」
不安そうなミシェールに、ディータが微笑みかける。
「宇宙人さんがきっと来てくれるから。
絶対の絶対に何とかしてくれるよ!
だから信じようよ、ね?」
ディータ視線がミシェールに向けられる。
強くはないが、真っ直ぐな目。
威厳なく、さりとて曇りもない瞳はミシェールを圧倒する。
「で、でもねぇ・・・・
カイはそもそも男・・・・」
「宇宙人さんはすっごく優しくて強いもん!
きっとディータ達には思い付かないすっごいやり方で助けてくれるから」
ミシェールが話すメジェールの常識すら、ディータには通じない。
ディータのカイに対する気持ちには、常識や概念すら覆すひたむきさがあった。
他人を頼る姿勢は今も昔も変わらない。
ただ、先程にはない言葉を超えた信頼が生まれている。
カイを頼るのではなく、カイを信頼する。
信じる事に対する想いが確実に深まっていた。
ディータを間違えていると言うのなら、彼女を上回る何かがいる。
ミシェールに、ディータのカイへの信頼を否定する事は出来なかった。
そしてそれは、他の部下たちも同じである。
互いに顔を見合わせながら、ディータのやる事を大人しく見守っていた。
「せ〜の!せ〜のっ!」
「がんば!がんば!」
ディータとピョロの掛け声が響く。
二人の頑張る姿に、誰も異議を唱える者はいない。
警報が鳴り響く中で、怯える事無く二人は懸命に頑張り続けた。
そして幾度かの試みが行われ――
ピョロは突然ピタリと動作を止める。
「どうしたの、ロボットさん?」
「・・・・大変だぴょろ・・・」
「え?」
困惑するディータに、ピョロが厳しい表情で告げる。
「セキュリティメカが射出されているぴょろ!
外のニル・ヴァーナを敵とみなしているぴょろよ!!」
「ええっ!?」
思惑を超えた事態に、ディータは目を丸くするしかなかった。
<to be continues>
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