VANDREAD連載「Eternal Advance」



Chapter 1 −First encounter−



Action12 −賭け−




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 旧艦区格納庫内で行われた候補生達と女海賊達との攻防戦、その幕切れはあっけないものだった。

首相の非情な決断により旧艦区を切り離され、増援を期待できないと知った彼らに最早もはや統率もない。

逆にチームワークのとれた女海賊達は均整のある攻撃を行い、次々と候補生達を制圧していく。

結果、全候補生は彼女達に対して無条件降伏をした。


「全員大人しく手を上げて。余計な真似をしたら撃つ!」


 壁際に並べられた男達に対して、ショックガンの銃口を向ける女海賊達。

渋々両手を上げる男達を油断なく取り囲み、男達を移動させる為に誘導して歩かせていた。

格納庫を白く染めた消毒剤の煙も既にはれており、女海賊達もそれぞれ防護服を脱ぎ始めている。


「ふう・・・・・・必要な事だって分かるけど、どうも馴染めないわこの服」


 不平を口に出しながら防護服を脱ぎ捨てて、自慢のスタイルを惜しみなく晒したのはジュラだった。

男達を完全に制圧し船を乗っ取る事に成功したせいか、余裕綽々にしている。


「ジュラ、リーダーはどこへ行ったのかしら?」


 そんなジュラに不安そうに一人の女性が聞いてくる。


「さっきヴァンガードと接触して、そのままどこかに飛んでいったわよ。
事故にでもあったのかどうか連絡がないから、ジュラも困っているのよ」


 いつもはドレッドの先頭に立ち、チームメンバーを率いているメイアが不在とあって、ジュラも不安そうに周囲を気にしている。

そこへ傍らで腕を押さえて座り込んでいたバーネットが口を開いた。


「大丈夫よ。メイアがそう簡単にやられないわ。
たかがヴァンガード一体、メイアならすぐに蹴散らしてこっちに来るわよ。
それより問題はあの新入りよ!」


 気が強そうな顔つきをさらに鋭くして、バーネットは腕の怪我を見る。

薄っすらとだが、血が滲み出していた。


「バーネット、怪我は大丈夫?血が出ているみたいよ」


 長年連れ添っているバーネットに、ジュラは心配の表情を見せる。

ジュラのそんな気持ちを察してか、バーネットも何でもないという風に口元を緩めた。


「大丈夫よ、銃撃戦のときに腕をちょっとかすっただけ。
まったくあの娘が暴走してビームをぶっ放さなかったら、こんな怪我をしなくてすんだのに」


 どうやら格納庫でも銃撃戦の際に、ディータの不安定な運転に巻き込まれたようだ。

バーネットはしきりにぶつぶつと文句を言っている。


「帰ってきたら、文句の一つでも言わないと気がすまな・―――イタ!?
ちょっとパイ!もうちょっと優しくしてよ」

「わ、分かったわよ・・・・・・! 」


 バーネットの抗議に、隣で必死に包帯を巻いていた一人の少女が首を縮める。

長い黒髪を二つに結い、ナース服を着込んでいるその少女―パイウェイ=ウンダーベルク―は小さな口を開く。


「ここには大した設備もないんだもん。
いくら私が可愛い看護婦さんでも出来ないものは出来ないよ〜」

「ナースが患者に出来ないって言ってどうするのよ・・・・・・」


 パイウェイの言葉に、露骨に呆れた表情を見せるバーネット。

それでも涼しい表情をしているこの少女は、なかなか将来が楽しみな女の子であるかもしれない。


「・・・・・・・・・」


 そんな彼女達の会話や仕草を横目で見つめる人間がいる。

海賊達に投降し黙々と歩いている候補生達の中で、じっと一人海賊達を観察していた。

今までの戦況を正確に把握していたドゥエロだ。


「お、おい、何しているんだ?殺されても知らないぞ」


 並んで歩く一人の候補生が、足を止めて観察しているドゥエロにそっと忠告する。

しかし彼はそんな言葉も耳に入らないようで、視線を逸らす事はなかった。

そんな彼を見咎めたのか、海賊の一人がショックガンをドゥエロに向ける。


「そこ、立ち止まるな!命令を聞かないのなら命はないぞ!」

「・・・・・・・・・」


 さすがに無視できないのか、ドゥエロは仕方なく足を進める。

だがドゥエロはバーネットの体、主に腕の怪我の部分に視線を注いでいた・・・・・・
















そして、もう一人格納庫の出入り口付近に隠れて海賊達を見つめる一人の男がいた。
















「ぜいぜい・・・ぎりぎり間に合ったって所か・・・・・・
あ〜、重たかった!」


 ドシンっと艦の床に激しい反響音を響かせて、カイは額に浮かぶ汗をぬぐう。

背中に括り付けてどデカイ荷物を担いでおり、生々しい重量感を醸し出している。


「今の所とっ捕まった後か。どこかに連れて行くみたいだな」


 カイの見つめる視線の先には、男達にそれぞれの武器を突きつけて誘導する海賊達の姿があった。

情勢は完全に把握はできないが、どうやら男側は敗北したようだ。


「いい気になってられるのも今の内だぜ、女共。
この俺を野放しにしたことがてめえらの敗因だ」


 不敵に笑って、カイは床に置いた荷物をバンバン叩く。

そこへ音もなく空間を横ぎって、六号がカイの元へ飛んでくる。


「お、どうだった?例の物は見つかったか?」

「ピピ、ハッケンシマシタ。
コノタイプナラショウショウノシンドウ、クウキノナガレニモビドウダニシマセン」


 そう言って、自身のモニターに引っ掛けていた一本の白い筒を床にコトっと置く。


「よしよし、さすがに頼りになるな。これで準備は万端だ」


 どうやら六号に探索させて、目の前の筒を探させていたらしい。

カイは恐る恐る筒を握り締めると、そのまま手元をいじくり始める。


「これがメインになるからな。勢いで消えたりしないだろうな?」

「モンダイアリマセン。
ネンリョウガナクナルマデハスイッチノキリカエヲオコナワナイカギリ、エネルギーハフンシュツサレマス」


 カイの疑問は予想範囲であったのか、滞りなく六号は答えた。


「うっし!手順は分かっているだろうな?
お前に全てがかかっているといっても過言じゃないんだぞ」


「メイレイハゼッタイデス。カナラズハタシマス」


 淡々と答える口調は何も変わらなかったが、カイには頼もしく聞こえる。

六号の緩やかな曲線を描く頭の部分を優しく撫でて、カイは口を開いた。


「おめえには今日はいろいろと世話になっちまったよな。
面倒な奴をお偉方に押し付けられてお前も迷惑だとは思うけどよ、俺の我侭に最後まで付き合ってくれよな」


 その瞬間にカイにとって六号は機械ではなく、頼もしい一人の仲間になった。

感情を感じないプログラミングの塊の六号ではあるが、カイの言葉にきちんと答えた。


「ピピ、リョウカイ。ニンムヲスコウシマス」

「よし・・・・・・作戦開始だ!」


 重々しい「荷物」を力強く担ぎ、カイは立ち上がった。















「ここはどうやらメインブリッジではないようだな・・・・・・・・」


 旧艦区最前方部に位置するブリッジ。

新艦区のメインブリッジとは違い、復旧開発もされていないそのブリッジに三人の女海賊が侵入していた。

その中の一人であるマグノ海賊団副長を務めるブザムが、ブリッジ内を一目見てそう感想をもらす。


「かなり古いシステムみたい。あちこち埃がすごい・・・・・・」


 ブリッジ内の操作類計をいじり、二人目が防護服を脱ぐ。

防護服に隠されていた容姿が徐々に露になっていく。

彼女−パルフェ・バルブレア−はセミロングの髪を三つ編み、両の瞳を覆う大きな眼鏡と上下のツナギが特徴的な女の子だった。


「こっちはコンソールね。まだ動くようだからデータは取れそうよ」


 二人がテキパキとブリッジ内をチェックしている間、三人目の彼女はのんびりとコンソールを見ていた。

既に防護服は脱いでおり、彼女−エズラ・ヴィエーユ−は細い目をさらに細ませて、柔らかい物腰でコンソールを操作していく。

ブリッジ内のチェックを一通り済ませたブザムは、懐より通信機を取り出した。


「お頭、こちらブザム。男の船のブリッジを確保しました」


 流麗な声でハキハキとした報告をしながらも、手元の操作は緩めない。

若いながらも副長に抜擢されているブザムの能力の高さがうかがえる。


「あら、どうしましょう・・・・・・・文字がぜんぜん読めないわ・・・・・・・」


 逆に、コンソールを操作していたエズラは早くも困惑の声をあげる。

どうやら抽出されたデータはタラークの文字で書かれているらしく、メジェール生まれの彼女にはほとんど理解できないようだ。

困っている彼女に、パルフェは自信たっぷりに持ってきた荷物から一つの機械を取り出す。


「ふふふ、そんな事もあろうかと・・・・・・じゃーん!
私がひそかに開発した翻訳ソフト『インタープリント』ちゃん!
これがあれば男文字なんてすすいのすいよ♪」

「まあ、すごいわパルフェちゃん」


 エズラが心底感心している姿にさらに気を良くしてか、パルフェはご機嫌になった。

鼻歌混じりにコンソールに機械を取り付けながら、翻訳ソフトを取り付ける。


「この機械があればこの文字も読めるのね」

「その通り!インストールしているデータの数々が言語をすべて変換してくれるのよ!
副長、今そっちにもこの機械・・・・・・えっ!?」


 機嫌よく振り返ったパルフェの視線の先に、すらすらとコンソールを操作しているブザムの姿があった。

滑らかに操作するその手つきは、データの男文字も意に介してないようだ。


「メイア、こちらブザム。そっちの様子はどう?」


 リンクされるデータを巧みに抽出しながら、彼女はもう片方の手で制圧チームに通信を始める。

プザムのその仕事ぶりに唖然と佇むパルフェだった。


「副長・・・・・・読めたんだ・・・・・・」

「ふふ、さすがはエリートね」


 盛大にがっかりしているパルフェとは対称に、優しい微笑を浮かべるエズラ。

せっかく開発してまで持ってきた翻訳機が役立たずとなり、パルフェは翻訳機を渋々取り外す。


「はーあ、せっかく持ってきたのにな・・・・・・」

「だ、大丈夫よ。またいつか活躍の機会があると思うわ」


 しょんぼりとしているパルフェに、慌ててエズラは励ましの言葉をかける。

どこか気が抜けて見えるのは、エズラのほんわかとした雰囲気からだろうか?


「何だとっ!どういう事だ!?」


 突然横殴りに来たブザムの声に、パルフェとエズラも操作する手を止めて視線を向ける。


「それで状況は?ああ・・・・・・そうか、分かった・・・・・・」


 先程までの毅然としたブザムの態度に焦燥感がにじみ出る。

只ならぬ様子に、パルフェは恐る恐るブザムに話し掛ける。


「ふ、副長・・・・・・何かあったのです?」


 パルフェの質問に、ブザムは通信機を手元においてパルフェに顔を向ける。

その表情はいつになく真剣で、パルフェは手元をぎゅっと握り締めて返答を待つ。

やや長い沈黙の後、ブザムは口を開いた。





「・・・・・・・メイア達制圧チームが男に捕まった。全員、人質に取られている」




















−話は数十分前に戻る−















「すまない、遅れてしまった」

「皆!ごめんね、迷子になっちゃって・・・・・・」


 メイアとディータ、二人が格納庫に到着すると、安心したように他の仲間達が集まってきた。

ジュラも二人の姿を見てようやく安心した様子である。


「心配したのよ、メイア。ディータも一緒だったのね。
あんた、ちゃんとバーネットに謝っておきなさいよ。
あんたの無茶苦茶な運転で怪我しちゃったんだからね」


 ジュラが視線を横に促すと、腕にやや不器用に巻かれた包帯をしているバーネットが立っていた。

自分のせいで怪我をさせたのだと分かると、慌ててディータはぺこぺこ頭を下げる。


「ごめんね、バーネット!ディータの運転で怪我させちゃって・・・・・・
大丈夫?腕、すごく痛い?」


 半涙目になってバーネットに近寄ると、腕の包帯を触ったり撫でたりするディータ。


「ちょ、ちょっと痛いからやめて!?もういいから!?」


 これ以上かまわれるとたまらないと判断したのか、バーネットは半ば観念した様にそう言った。


「本当にごめんなさい〜、ディータのどじで・・・・」

「もういいわよ。まったく・・・・・・
もうちょっとドレッドをまともに扱えるように練習しなさいよ。
あんたはただでさえクズなんだから」


 元々バーネットは器用貧乏な面があり、ある程度こなせるが故に物事に対してせっかちだった。

ゆえにいつもおっとりとしているディータをどこか嫌っていた。


「う、うん、気をつけるね・・・・ディータ、もっと頑張るから!」


 手の平を握り締めて笑顔で力説するディータに、ジュラとバーネットは揃ってため息をついた。

メイアは三人の様子をじっと見つめていたが、やがて辺りに見回した。


「男どもは全員フリーズしたようだな」

「わあ〜、さっきの宇宙人さんみたいな人がいっぱいいる・・・・」


 メイアは冷静に、ディータは好奇心と興味全開の瞳で捕らえられている男達を見る。

ディータのそんな言葉を聞きとがめて、ジュラは口を開いた。


「何よ、そのさっきの宇宙人って?」

「うん、実はディータもリーダーもさっき宇宙人さんに会ってきたの♪
すっごく可愛い顔して眠ってたのよ」


 夢見る乙女の表情で気絶していたカイの様子を語るディータ。

ジュラは興味深そうに話を聞いて、メイアに視線を向ける。


「その宇宙人って、さっきのバンガードの?」

「ああ・・・・・」


 メイアにしては歯切れが悪く、言葉尻を濁した。


捕らえた男達を一人一人確認するが、やはりその中に先程自分が組み伏せられた男の姿がない。


(放っておくのは危険だったか・・・・・?)


 互いに見つめあった時のカイの顔を思い出し、メイアは思い悩む。


(いや、所詮一人・・・何もできないか・・・・)


 彼女はそう判断し、それ以上考えない事にした。



この判断が―――大きな痛手をもたらすことになる。










「ピー!ピー!ピー!ピー!テキ、ハッケン!!テキハッケン!!」










 激しいサイレンと機械音声に、その場にいた全員が音の発信源に目を向ける。


「あ、あれは比式六号?どうしてこんな所に!?」


 武装解除されていた候補生の一人が、格納庫前方の通路の中央に浮かぶ六号の姿を見て叫ぶ。

女達は突然の機械の出現に右往左往していたが、メイアが指にはめているリングガンを六号に向ける。


「皆、油断するな!あの機械は高圧の電気ショックを放射する!!
一斉射撃をして、完全に破壊しろ!!」


 メイアの鋭い命令に女達は、次々に手元の武器を六号に向ける。

バーネットもハングガンを取り出して、怪我した腕も気にせずにすばやく銃口を向けた。

もしこのまま一斉射撃をされれば、六号は確かに完全に破壊されてしまう。

だが、現状はさらに海賊達の思いの寄らぬ方向へと走り続ける。


「どこ見てやがんだ、女ども!!」


 蛮型搭乗口・格納庫入り口よりちょうど反対側に位置する場所よりカイは飛び出した。

背後から聞こえる聞き覚えのある声に、メイアははっと背後を振り向いた。

だが、すべて手遅れだった。


「男の船にようこそ、お客さん達」


 すばやく背中からさっと取り出したのは、一本の長いホースだった。

ホースはそのまま背中に担いでいる荷物―酒樽―の配給口に結び付けられていた。


「そんなお客さんに歓迎の意味をこめて・・・・・・
俺からのプレゼントを受け取ってくれよ!!!」


 キュッと先端をひねると、ホースから激しい勢いで酒樽の中身が噴出された。


「きゃああーーーーーっ!?」

「ちょ、ちょっとなによ!?うわあっ!?」

「ぺっぺっ!?こ、これ、お酒じゃない!?」


 女海賊達も何とかショックガンや銃を向けようとするが、樽より噴出される酒の勢いが激しく対応すらできなかった。

脇で見ている男達も状況が把握できないのか、一人を除いて全員あんぐりと口を上げている。


「!?彼は・・・・・」


 ドゥエロはホースを手に女達の相手をしているカイを見て、若干驚いた顔をする。


「おらおらおらっ!!まだまだおかわりはあるぞ!!」


 ホースから出る酒の勢いの反動をしっかり支えながら、カイはどこか楽しそうに女達に酒を浴びせる。

格納庫内は飛び散った酒で満たされ、酒の香りが蔓延する。

メイア達も何とか対応しようとするが、奇抜な攻撃に撹乱されて統制もままならなかった。

やがて酒樽の中身が完全に空っぽになり、ホースからの酒の勢いがなくなった。


「おっと、もう無くなったのか。もうちょっとやりたかったんだがな・・・・・・」


 どこか残念そうにカイはホースの先端を捻り、背中の空になった樽を下ろした。


「げほ、げほ・・・・・」

「うえーん、せっかくトリートメントした髪が・・・・・・」


 体中に酒を浴びさせられて、女海賊達はすっかりヨレヨレになっていた。

着ていた服もびしゃびしゃになり、体の滑らかなラインが透けている。

パイロットスーツを身につけていた者は無事だが、それでも気持ち悪さは変わらなかった。


「へへ・・・どうでした、お客さん。当店自慢のお酒のお味は?」


 あくまでもとぼけた笑顔で、カイは女達にそう言った。

その言葉を聞いたバーネットは怒りに燃えた瞳を向け、カイに銃口を向ける。


「最低のお店ね。お客に酒を浴びさせるなんて」

「生憎だけど、人の店に土足で上がりこむ客にはいつもこうやって歓迎するのがうちの礼儀でね。
お気に召さなかったかい?」

「いーえ、なかなか面白かったわよ。代金はちゃんと払うわ。鉛弾でね!」


 バーネットの言葉を合図に、一斉にショックガンの銃口をカイに向ける女海賊達。

怒りと嫌悪がこもった瞳で一斉に睨まれるが、カイは不敵な態度を崩さなかった。

そこへ海賊達の前にメイアがゆっくりと出て、カイにリングガンを向ける。

リングの中央より煌く光が不気味に輝きだす・・・・・・


「またお前か・・・・・・・・」


 青い髪より弾かれた様に、酒の水滴が瑞々しいメイアの頬に流れる。

全身がひどく濡れていても苦にしていないのか、彼女の表情はとても静かだった。

対立するカイもメイアの鋭い視線を正面で受け止めて返答する。


「さっきは逃がしてしまったが、今度はそうはいかないぜ」

「この状況で勝つつもりか?どうやら頭がおかしくなったようだな」 


 カイに向けられる海賊達の武器が、彼を一点に集中していた。

もしこのまま攻撃されれば、なす術もなくカイは再起不能にされるだろう。

それは見守る候補生達にも分かっているのか、カイに同情と哀れみの視線を送っている。


(どうするつもりだ、この状況を・・・・・・・・?)


 カイの考えがまるで分からずに、ドゥエロは考え込んでいた。

どう考えても戦力差は圧倒的だ。

戦闘訓練をうけていない三等民のカイに何ができるというのだろうか?

一般的常識では到底分からないカイの行動に、逆に彼の興味が高まってくるのを感じた。


「どうするつもり?
このまま大人しくするのなら命くらいは助けてあげるわよ。
ボトボトにしてくれた礼はさせてもらうけど」


 こめかみを引き攣らせて、バーネットは隙なく引き金に指をかける。

男と女。

両雄が緊迫して見つめる中で、黙っていたカイがにやりと笑う。


「悪いけど、俺は逃走だの降伏だのする気はさらさらないんでね・・・・・・」


 カイは懐に隠し持っていた先程の白い筒を掲げる。

困惑の視線を向ける面々にカイは言葉を続けた。


「さて、懐より取り出したるこの白い筒は一本の小型ガスバーナー。
厨房では重宝されるアイテムで、この通り火がつきます」


 カイが筒の中央のスイッチを入れると、青白い火が放射される。


「何が言いたいのよ、あんた!」


 カイの遠まわしな言い方に我慢ができなくなったのか、ジュラが声を張り上げる。


「どうやらまだ分かってないようだな。じゃあ、ヒントをやろう。
アルコ−ルっていうのはな・・・・・・・すごーく、すごーーく燃えやすいんだぜ」


 カイは筒を逆さに向けて、床に零れている酒に火を近づけた。

全てを察したメイア達とドゥエロが顔色を変える。


「き、貴様!!!」


 リングガンを出力最大にして、メイアはカイに発射しようとする。


「動くな!・・・・・・・もう分かっただろう。
もしお前らが攻撃の素振りを見せたら、俺はこのガスバーナーを床に離すぜ。
火が一度点いてしまえば、アルコ−ルまみれのこの格納庫内やお前らはどうなるかな〜」

「く・・・・・・・・」


 もしカイが持っているガスバーナーの火を格納庫内のアルコールに点火させると、激しく燃え上がって女海賊達に牙をむくだろう。

最初から目の前にいる男はこれを狙っていたのだ―――

メイアはカイを甘く見ていたことを心底後悔していた。

まさか、どう見ても一般人にしか見えない男に主導権を握られるとは夢にも思っていなかった。

メイアは掲げていたリングガンを下げて、カイを強く睨む。


「・・・・何が望みだ?」

「ほう、話が早いじゃねーか。とりあえずお前らの親玉と話をさせてもらう」


 高まり続ける緊張感の中、カイは自分自身をかけた最後の賭けに奮闘していた。


































<First encounter その13に続く>

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