VANDREAD連載「Eternal Advance」



Chapter 1 −First encounter−



Action11 −強さ−




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 突然の乱入者により、旧艦区機関部と呼ばれるその区画は壮絶に荒れ果てていた。

蛮型とドレッドとの交戦により隔壁が破壊された上に、墜落時のショックでシステム類が一部破損している。

その上乱入者のビーム射撃により、区画内を結ぶランカンも粉々になっている。

唯一無傷で残ったのは、機関部中央でオレンジ色に輝く一つの結晶体のみだった・・・・・


「ディータ・・・・・・どうしてこんな所へ来たんだ」


 大よその見当はつくものの、そう呟かずにはいられないメイアだった。

もっとも、彼女の暴走のおかげで自分は助かったのではあるが。


「ふう・・・・・・」


 小さくため息をついて、メイアは後方を鋭く見やった。

彼女の見つめる視線の先には、先程の爆風で吹き飛ばされて気絶しているカイの姿があった。

付近を転がる六号がピクリとも動かない所を見ると、吹き飛んだショックで機能が停止状態にあるようだ。

今のところ害がないと判断した彼女は、視線をドレッドの方を見る。

隔壁を吹き飛ばして機関部をあちこち凪ぎ荒らした後、無理やり着陸するドレッド。

ふらつきながらも着陸は完了し、緩やかなフォームのコックピットが開いた。


「ふええ〜、怖かった〜」


 状況にそぐわない情けない声を出して、防具服に包まれた女の子−ディータ−が出てくる。

自分の防護服を脱ぎ捨てたメイアはつかつかとディータへと歩み寄る。


「ここ、どこ?皆どこ行っちゃったのかな・・・・・・?
あ、リーダー!!」



 不安そうにきょろきょろしていた後にメイアの姿を発見したは、嬉しそうに駆け寄る。

一方、メイアは表情を険しくしてディータに詰め寄った。


「何をしている、ディータ!チームから離れるなとあれほどいったはずだ!」

「ご、ごめんなさい〜〜〜〜
まだドレッドの操縦に慣れてなくて、その・・・」


 よほどメイアが怖いのか、防護服上からでも分かるほどディータは体を縮こませる。

そもそも彼女は、海賊としての仕事は今回が初めてだった。

一チームを指揮するメイアの発案で、今回の仕事に初経験として新入りを参入させたのだ。

ゆえにこれ以上責めても仕方がないとメイアは叱責を止め、現在の状況をディータに尋ねる。


「他のメンバーはどうした?全員無事に侵入できたのか」

「は、はい!外の皆はビューンと船の中央に向かって飛んでいきました。
ジュラとバーネットがそれぞれチームを指揮しています。
リーダーがいなくなって、皆心配してましたよ〜」


 簡単で分かりやすい彼女の説明に、メイアは表情を変えず頷いた。


「心配をかけたな。ヴァンガードとの交戦で思わぬ時間を取ってしまった。
他のチームと合流する、急ぐぞ!」


 脱いだ防護服をその場に置いて、メイアは駆け出そうとする。

続いてディータは駆け出そうとして足をとめる。


「あ・・・・・・!?ひょ、ひょっとして!!」


 ディータはそう言うと、メイアとは別方向にとことこ足を進めた。

彼女の行く先に気がついたメイアは慌ててディータを引きとめようとする。


「ディータ、よせ!そいつに近づくな!」


 メイアの静止も耳に入らずに、ディータはぐんぐん足を速めて近づいていく。

彼女が向かうその先には、気絶したまま動かないカイが横たわっていた。


「わあああ〜〜〜!!!本物の宇宙人だっ!!」


 よいしょ、よいしょと自分の防護服を脱ぎ捨てて、可憐な容貌を表に出した。

瞳を喜びでキラキラ輝かせて、ディータはカイの顔をつんつんとつつく。


「来て良かった〜〜〜、本当に宇宙人に会えるなんて感激!
お話したいだけど眠っているみたい・・・・・・」


 すっかりご満悦なのか、満面の笑顔でディータは防護服を全て脱ぎ捨ててカイをじっと見やる。

意外と寝顔が子供っぽい表情に母性本能がうずくのか、ディータはニコニコしている。

本来のメジェールの女性なら男に触れるのも嫌がるはずだが、どうやら彼女には男に対しての嫌悪はないようだ。

突付かれる度にう〜んと表情をゆがめるカイに、ディータはますますうきうきする。


「宇宙人ってこんなに可愛いんだ〜〜〜、あーあ、お話したいな・・・・・・
そうだ!!写真取っておこうっと!!」


 自分のアイデアに乗り気な彼女は、自分のドレッドに置いてあるカメラを取ろうと背後を振り向いた。

だが喜びいっぱいだったその表情は、自分を見下ろすメイアの表情に血の気がひいた。


「リ、リーダー・・・あの・・・・」

「仕事中だ」

「ご、ごめんなさい〜〜〜!!!」


 埒があかないのか、ディータの襟首を掴んでメイアは機関部出入り口へ歩く。


「他の皆が待っている。早く行くぞ」

「え・・・えー!?で、でもまだ写真が・・・」

「敵の写真を撮ってどうする!」

「うえーん〜〜〜〜」


 どこか微笑ましいやりとりをしながら、ディータとメイアは機関部を後にする。

自分が一人の女の子の興味をひいているとは露知らず、二人が出て行った後も眠り続けるカイだった。
















「大変です、艦長!!海賊達が旧艦区を制圧すべく交戦を開始しました!!
このままでは新艦区への侵入を許してしまいます!!」


 新艦区メインブリッジ内に飛び込んできたアイレク中佐は、緊急事態の旨を報告する。

もはや戦況は、タラークにとって最悪の展開も覚悟しなければならないほど追い込まれていた。

ブリッジ内のクルーも最早諦めの色を濃くしている。

苦渋の顔つきをしている首相の傍で、それでも艦長は精一杯の対処をすべく命令を出した。


「旧艦区の防衛ラインに、新艦区で待機しているクルー達を向かわせろ!
ただし作業員・非戦闘員は脱出艇で今すぐ船から非難させるんだ!
非難する人員の誘導は君に任せよう」


 海賊達も非戦闘員には危害は加えないだろうという長年培われた自分の目を信じる艦長。

アレイクもややほっとした表情で、艦長の命令に敬礼する。


(カイ君・・・・・・無事でいてくれよ)


 先ほど独自の権限で三等民を召集したのだが、集められた面々の中にカイの姿がなかったのだ。

慌てて聞き込みしたり部下に艦内を全て探させたのだが、一向にカイを見つけ出す事ができなかった。

実はアレイクが艦内を探させている間カイは宇宙で交戦していたという事実があるのだが、アレイクには知りようもなかった。


「了解!では、早速脱出作業にかかります!」


 艦長の命令に従ってブリッジより出て行こうとするアレイクに、思わぬところから制止がかかる。


「その必要はない!!」


 険しい顔つきをしている首相が、手元のコンソールを操作して一本のレバーを出した。


「しゅ、首相!!それは!!」


 そのレバーがどういう物か知っている艦長は表情を一変する。


「そ、それは一体・・・・・・?」


 イカヅチでも最高機密に属するそのレバーの意味は中佐のアレイクも知らない。

そんなレバーを見つめる彼に艦長は震える拳を握り締め、誰ともなく呟いた。


「緊急非常用のレバーだ・・・・・・旧艦区と新艦区を切り離すための・・・・・・」

「何ですって!?そんな事をすれば!!!」


 レバーの意味を知った中佐も青ざめて、首相に迫る。

旧艦区と新艦区を切り離す、それすなわち・・・・・・・・・

いまだ旧艦区で戦い続ける大勢の候補生達、そしてまだいるであろうカイを見捨てるという事を意味する。


「お考え直しください、首相!!同胞を見捨てる事などできません!!」

「今はこの艦を救う事が先決だ!!それとも他に何か打開策があるというのか!!」

「そ、それは・・・・・・」


 痛い所を突かれて黙り込むアレイク。

そもそも打開策を考えるのは指揮する人間の役目なのだが、そこまで考えは回らないようだ。

黙りきったアレイクを、そして失望の視線で見つめるクルー達を見渡して首相は慟哭する。


「生きて虜囚の辱めは受けず!!
・・・・・せめて新艦区だけでも救わねばならぬのだ・・・・」


 首相の目尻に浮かぶ涙に気がついて、他のクルー達も顔を覆って絶望の涙を流し始める。

常日頃から国のために命をかける男の生き様を教えられているアレイクもそれ以上は何もいえなかった。


(許してくれ・・・・・・カイ。そしてマーカス・・・・・・)


 決して正しいとはいえない首相の英断。

だが、間違えているとも言えない。

だからこそ・・・・・・何もできない自分が悔しかった。

絶望と諦めに似た雰囲気が漂うブリッジ内で、首相はゆっくりとレバーに手をかける。


「全てが女の手におちる前に・・・・・旧艦区を切り離すっ!!」


 レバーを倒すと同時に、二つの艦が激しく振動を開始した。















 旧艦区と新艦区、二つの艦を繋げる形で建造されたのがイカヅチであった。

両艦の間には急ごしらえで溶接されたアーム部分とボルトが、互いを固定しあう設計になっている。

緊急レバーにより固定を解除されたアームはあっけなく次々と音を立てて弾け飛ぶ。

二つのバランスを保てなくなくなったイカツヂはバランスをとれず、左右に徐々にずれ始める・・・・・・


「お、おい!?艦が分離しているぞ!?」


 旧艦区待機室にいた候補生の一人が窓から外を見て、素っ頓狂な叫びをあげる。

叫びを聞きつけた他の候補生達も次々に窓に殺到し、切り離された現実を知った。


「そ、そんな・・・・・・上官は俺たちを見放したっていうのか・・・・・・」


 予想し得なかった事態に声も出ない候補生達。

激しい振動をたてて徐々に傾いていく旧艦区に取り残されて、今後はどうすればいいのだろうか。

訳もわからずに突如襲い掛かる過酷な現実。


「じゃあ・・・・・・俺達はどうなるんだよっ!?」


 候補生の一人が絶望の叫びをあげる。

自分達は国に選ばれた未来を担うエリートだったはずだ。

だが目の前に起こった出来事はまるで思い上がった自分達を嘲笑うかのように、軍部に見捨てられた現実だけが残った。


「女達はもうそこまで来てるんだぞ・・・・・・」


 海賊達は勢いさながらに防衛ラインを潜り抜けて、旧艦区の制圧にかかっている。

候補生全員が防衛したとしても時間稼ぎにもならない。

真っ青になって絶望に侵食されている候補生達を、ドゥエロは何も言わずただ窓の外を見つめていた。

彼自身はもうすでに取るべき道は一つしかない事はわかっていた。

すなわち・・・・・・全面降伏。

それ以外にもはや生き残る術は見受けられそうになかったからだ。


「・・・・・・・・・」


 徐々に近づきつつある大量の足音にドゥエロは黙って着替えを完了させた。















「う、うーん・・・・・・・・・」


 切り離された事による激しい衝撃は、機関部にまで影響を及ぼしていた。

激しい揺れに気絶していた体を揺さぶられ、不明瞭だった意識が徐々に活性化する。

閉じられていた瞼がボンヤリと開き始め、やがてはっきりとした瞳に力を取り戻す。


「う〜〜〜〜〜・・・・・・・・・ん!?
あの女は!?どこ行きやがった!?」


 がばっと跳ね起きて辺りを見渡すが、機関部内にまったく人の気配がなかった。


「あの野郎〜〜〜、逃げたな!何て奴だ!!」


 微妙な勘違いをしながら、カイはへたった体に力を入れて起こす。

すぐ傍に落ちている十手を拾って、カイは転がっている六号の元へ寄る。


「おい、起きろコラ!!あの女がどこ行ったのか教えろ!!」


 小さな画面にノイズが走り、不可思議な機械音を立てて動かない六号。

業を煮やしたカイはべしべしと画面をたたきながら、六号の機体を揺り動かす。


「こら、呑気に寝ている場合か!!俺が頑張ろうとしている時に寝るとは何事だ!!
起きろ、起きろ!!」


 正確にはカイも気絶していたのだが、その事実は彼の頭の中で棚に上げている。

やがて功が奏したのか画面が明るく点滅して、六号が再び反応を起こす。


「ピピ、ローディングカンリョウ。メイレイヲドウゾ」

「命令をどうぞじゃねえ!とりあえず現状はどうなってるんだ!!」

「ピピ、ショウカイチュウ」


 艦内全てのシステムにリンクが可能とされている六号に、艦内の異常を把握するのは造作もなかった。


「ショウカイカンリョウ。コノカンハ・・・・・・」


 六号は旧艦区が切り離された事、艦に残るクルー達が全員海賊に投降した事を報告する。


「くそ・・・・・・間に合わなかったか・・・・・・
じゃあもうこの船は・・・・・・」

「センキョサレタコトニナリマス」


 カンはがっくりと頭をうなだれる。

結局、どれだけ頑張っても海賊達を阻止する事はできなかったのだ。

自分自身がどれほど力が足りないのか、今回の一件でカイははっきりと思い知らされた。


「相棒と襲撃しても女に突破されて、体を張っても止めることはできなかったか。
畜生、悔しいが親父の言うとおりだった・・・・・・・・・」


 たかが三等民に過ぎない、ゆえに何も出来ない。

拳を握り、地面に思いっきり叩きつける。


「何て様だ、俺は/・・・・・・・・もう他に手は残ってないのか!!」

「ダッシュツメイレイガデテイマス。スミヤカニダッシュツスルノガケンメイカト」


 サポート役なりに、賢明な判断を進言する六号。


「脱出って言ったって,この場所は切り離されてしまったんだろう?
どうやってこの船を出て行けばいいんだよ」

「ダッシュツテイガアリマス。コノバショガソウデス」


 画面に旧艦区の地図が映し出され、ある一画が点滅していた。

どうやら点滅しているポイントが脱出艇が確保されている区域らしい。


「・・・・・・待てよ?この場所の脱出艇はどれくらいある?
現在、この艦に残っている男達を全員脱出させるほどの数はあるか!?」


 脳裏に閃くものがあり瞳に力を取り戻したカイが尋ねると、六号は肯定した。


「アリマス、ゼンクルーをヒナンスルタメノフネハカクホサレテイマス」

「なるほど、じゃあまだクルー達を助ける手立てがあるな。
要するに、あの女達に捕まっているクルーを何とかすれば脱出はできるわけだ」

「ダッシュツハデキマス。
シカシナガラゲンザイノセンリョクデハ、カイゾクタチトノタタカイニカテルカノウセイハキワメテヒクイデス」

「そこなんだよな・・・・・・」


 六号の進言に頭を抱えてカイは唸った。

そもそも海賊達の能力がハイレベルだったために太刀打ちできずに、クルー達は投降したのだ。


「うーん、何とか戦況をひっくり返す方法はないかな・・・・・・?」


 極めて絶望的なこの状況にもかかわらず、カイは真剣に打開策を必死で考える。

候補生も、そして軍部ですら諦めてしまったにもかかわらず、カイは抵抗を止めようとはしなかった。


「アナタヒトリデハドウニモナリマセン、ダッシュツガイチバンデス」

「分かってるよ、そんな事は!!
でも、ここで何かできたらかっこいいじゃねえか」

「カッコイイ?リカイフノウ」

「へーへー、お前に理解してもらおうとは思ってないよ。
はあぁぁぁ・・・・・・うがあああー!!どうにかできないのかよ〜〜〜〜!!!」


 もともと考えるより行動な彼は頭の許容範囲を超えて、知恵熱が出そうな程ヒートする。

ジタバタと手足をふらつかせて地面に転がる様子は、子供と何も変わらなかった。 


「絶対に何か手があるはずだ!俺に出来る事、俺に出来る事・・・・・・」


 髪の毛をを掻き毟りながら、必死で知恵を振り絞るカイ―――






『何言ってやがる!記憶もろくにねえ小僧に過ぎないお前が、
こうして貧しいながらも生活できているのは誰のお陰だ!おい!』

『育ててもらった事には感謝してるよ、俺だって。
あんたにこうして養われなければ、今頃俺は死んでいた』

『だったら、このまま酒場の手伝いを続けていけばいい事じゃねーか。
ペレットはちゃんと支給されるし、一生食っていくには何も困りはしないぞ。
大体てめえは高望みし過ぎなんだよ・・・・・・・・・・・』






「うん・・・・?」


 出発前の酒場での会話を思い出して、カイははたと顔をあげる。






『だったら、このまま酒場の手伝いを続けていけばいい事じゃねーか』

『だったら、このまま酒場の手伝いを続けて』

『酒場の』






「酒場・・・?そうだ!」

「ピピ?」


 いきなり大声をあげるカイが理解できず、思わず反応する六号。

カイは満面の笑顔で六号をしっかりと抱えるとそのまま走り出す。


「お前にも手伝ってもらうぜ!俺の素晴らしい作戦によ!」

「ピピ、ドノヨウナサクセンデスカ?」

「走りながら説明するよ。まずは道案内を頼むぜ」


 機関部を出たカイは非常サイレンが鳴り響く艦内を勢いよく走り出す。


「ドチラマデイカレルノデスカ?」

「へへ、さっきまで俺が働いていた厨房の場所を教えてくれ」


 海賊達が占拠した旧艦区。

クルー達が絶望するその状況で、希望を瞳に宿す一人の少年が逆転をかけて行動を開始した。


































<First encounter その12に続く>

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