人が人であるがゆえに起こしてしまう大罪。それは時を超え、次元を越えても存在している。

 悲しき旋律の葬送曲。そして、今、時空を越えた出会いと戦いが始まろうとしている。

 

 

 VANDREAD――The Unlimited――

 

  4:もっとあなたを知りたくて

 

 宇宙空間を航行する融合戦艦はひと時の安らぎを得ていた。

「ねぇねぇ知ってる?男ってさ、小股になんか変な管がついてるんだって」

 化粧室でブリッジクルーのヴェルヴェデールが保安クルーの一人を相手に男について話をしていた。

「ウソ!?触覚何かじゃないの?」

 そんな話を後ろでこっそり聞いていたディータ、はしゃがみこんでなぜか自分のをシゲシゲと見て、

「……くすっ」

 何かを思いついたように飛び出していった。

 

「どわぁぁぁぁぁ!!」

 その絶叫が響いたのは艦内に一箇所だけ割り当てられた男専用のトイレであった。

 ほかの女性は一歩たりとも近づこうとはしないのだが、なんとディータがヒビキを待ち伏せていたのであった。ヒビキは降ろしかけたズボンを慌ててあげ、何やら期待の目で見上げるディータをつまみ出した。

「えぇぇ!?どうしてぇぇ!!」

「出るもん出なくなるだろうが!!」

 閉められたドアの向こうから怒鳴られ、ディータはため息をついた。

「ふぅ……。知りたいだけなのに」

 

 そのころ、艦内ではパルフェが比式六号と共に何やらアンケートを取って回っていた。

「えぇ、イカヅチなんていうダッサダサな名前は止めて、あたしたちの船にピッタシの名前を決めたいと思います!

 んでもって、名付け親になった方にはもれなく、“トラペザ”のミールクーポン1年分が送られます!」

「クーポン1年分!?」

 ちょうどそれを聞いていたジュラとバーネットが驚きの声を上げる。

「んで?どうやってエントリーするの?」

「ピョロ君に入力して」

『ピョロ君?』

 すると、比式六号が前に出て、

「パルフェさんがつけてくれた名前だピョロ。いい名前だピョ?」

 言いながら、その画面に今までにエントリーされてきた名前が表示される。

「……何これ?ニル・ヴァーナ? ダサくない?」

 言うバーネットにパルフェは顔を近づけ、

「それは副長の案なの」

「ふ〜ん」

「んじゃあ、あたしは“ラクジュアリィナイト”、入力よろしくね。ピョロ君」

 行ってその場を立ち去るジュラ。バーネットも立ち去り際にキーを打った。

「ラギナヨル……?ってそれはランジェリー……!」

 

 そのころ、艦内のポッド射出室では、ブザムがポッドの準備中であった。ポッドの中にデータカードを入れ、メジェールに向けて射出する気なのだ。

 これからも謎の敵との交戦が予想されるこの船よりは、先にたどり着けると踏んだからである。手際よく準備をするブザムだが、ポッドは何故か2基準備されている。

『BC!どこだい?』

 マグノが通信してきた。思ったより手間のかかっているブザムに心配して通信してきたらしい。

「はっ、通信ポッド射出準備完了です」

 言う後ろでは、ポッドが射出口の中に滑り込んで行く。

『なんでもう一基あるんだい?』

「これは……タラークの分です。タラークにも危機を伝えないと。」

「……ふーん。まあいい。やっとくれ」

「はっ」

 ブザムはポッドの射出ボタンを押した。順調に射出されたポッドだが、しかし!!

 ドドーーーン!!

 見えなくなる直前で何故か爆発してしまった。

「ん!?」

 その光景に前方を注視するマグノに驚くべき光景が入ってきた。あのキューブ型が十数機向かってきたのである。ポッドはそれに撃墜されたらしい。

「いかん、全艦戦闘配備!!」

 慌ててマグノが叫んだ!しかし、急襲して来たキューブの攻撃は戦艦を強烈に揺すったのだった。

 

「きゃぁぁぁぁ!!?」

「あっち、あち〜〜!!」

 “トラペザ”の中で食事を取っていたクルー達もその衝撃に揺すられた。そして、その場にいたメイアも。

「敵か!?」

 

 プラットホームに飛び込んできた、メイアとジュラだが、その場には何故かドレッドに乗らずにボーっとしているディータがいた。

「ディータどうした!早くドレッドに!」

 しかし、ディータは、

「もう宇宙人さん達がドーッとでてっちゃいました!早いんだからもう!」

 と何故か嬉しそうである。

「出た!?もう?」

 ジュラも信じられないといった声で言う。

 実際のところ、蛮型の整備に格納庫に来ていたヒビキと、自機のシステムの把握と調整をしていたアイリスが誰よりも早く飛び出せたのである。

 

 

「オラオラオラーー!!」

 威勢良くヒビキが声を上げる。その後ろからアイリスの操る機体が追従する。

 ヒビキはブレードを引き抜き、すれ違いざまにキューブを一閃する。敵がたまたま弱かったのか、彼が蛮型の取り扱いに慣れたからかは判らないが、間違いなく確実にキューブの数を減らしていく。アイリスの機体もその高速機動性を生かし、両手に構えたブレードで次々と敵を蹴散らしていく。

 そして後数機となったその時、ヒビキの機体に2機が体当たりをかけたのである。

「クッ!?」

 ドドーン!!

 爆発が宇宙に花を咲かせる。

「ん!?」

 マグノが身を乗り出し、画面がその場を拡大したとき、そこには胡坐をかくようにした蛮型がいた。

「へっ、見たか女ども!!」

 

 勢いに乗ったヒビキは調子に乗ってブリッジに向けて通信を送ったのである。

『結局お前らは俺がいなきゃだめなんだよ!ガハハハ!』

 そのあまりな態度に怒ると言うより呆れてしまったブリッジに変わって、

『おいコラ、世話になってるくせにその口は何だ?』

 アイリスがヒビキをたしなめたのである。

『あぁ?文句あんのかよ!事実だろうが!』

『よく言うぜ。合体しなけりゃろくな戦闘力も発揮できない蛮型じゃ、あんな連中ぐらいしか相手にできないだろうが!』

『んだと!?テメェ、女の味方につくのか!』

『男も女も関係ないだろ!蛮型乗って何日も経ってないくせに図に乗るなっていってんだよ!』

 戦艦の外で、蛮型同士が喧嘩をする光景を呆れたまま見つめるマグノであった。

 

 

 格納庫に戻ってきたヒビキがコックピットから出てきたとき、彼を迎えたのは険しい表情をしたメイアと不安な顔をしたディータだった。

「なんだ?礼を言いに来たのか?」

 結局、アイリスとは決着つかぬまま戻ってきたヒビキだが、一番気に入らない女を目の前にして自分の功績を肩に着たのである。

 しかし、帰ってきたのはやはり叱責だった。

「お前のスタンドプレーは危険すぎる。次からは私の指示で動け」 

「はっ、笑わせんな。ビビってあの敵に勝てるわけないだろ。ま、俺の腕にまかせとけって……!」

 そんなヒビキにメイアは呆れたように言う、

「ふん、弱い犬ほどよく吠えるな」

「……確かに。おびえて縮こまってりゃ声も出ねぇ」

「すごいのはお前ではない!あの兵器だろう!」

 ついに激昂するメイアとその台詞にヒビキも声を荒げる。

「んだと!?上等じゃねぇか!」

「お前は捕虜だぞ!!少しは自覚を持ったらどうだ!」

「そいつに助けられたのはどこのどなた様だ!!」

 延々続く罵り合いにディータはすっかり萎縮してしまった。蛮型から降りてきたアイリスもその罵り合いに呆れている。

 

「だから、戦果を残した俺の言うことを聞くのは浮世の義理ってもんだろ!」

 ヒビキが今度怒鳴っているのはマグノであった。直談判に来たのだ。

「……下手だねぇ。説得するの」

 ヒビキの訴えを聞きながらバートも呆れていた。

「浮世の義理ねぇ。で?結局どうして欲しいんだい?」

「まず、あの女をどっかやってくれ!宇宙人宇宙人ってうるさいやつだ。」

「あぁ、ディータだね。ほかには?」

「後、あの頭に変なのつけた暗い奴だ!男の戦いに口出しさせるな」

「変なの?あぁ、メイアだね。要するに、口出しされない仕事が欲しいんだね?」

 マグノが唐突に持ち出した。

「まぁ、な」

「じゃ、レジはどうだい?」

「レジ?」

「あぁ、スゴイ仕事場さ。なんたって、別の親分が仕切ってるからね」

「ふ〜ん、別の親分か。上等じゃねぇか」

「レジはこの船の下だよ。」

 ヒビキが立ち去った後、マグノはコンソールに手を伸ばした。

「これでいいかい?」

 通信した相手はメイアであった。マグノに直談判すると踏んだメイアは先に手を回したのである。

『はい。男の身勝手はチームの危機を生みますので。』

「あとはガスコーニュが何とかしてくれるさ」

『ありがとうございます。では』

 行って通信を切るメイア。

「……うわ、嫌味な女」

「あんたいつまで聞いてる気だい!」

「!! はい、ただいま!」

 マグノの怒鳴り声に慌ててナビゲーション席に飛び込むバート。自動操縦をセットしながらぼやいた。

「ったく、とんだとばっちりだよ」

 自動操縦に切り替えられた席から出ると、

「自動操縦に切り替えました!お休みいただいてきま〜す!」

 言ってブリッジを出て行った。

 

 

 そのころ、ヒビキはレジに到着していた。

「ここかぁ!レジって言うのは」

 と、嬉々としていたヒビキだが、前を見て唖然となった。

『いらっしゃいませ〜〜!!』

 両方に、ウェイトレスのような制服を着て、満面の笑顔でヒビキを迎えるレジクルー達を見たからである。

 

 んで、

「い、いらっしゃいませ。本日のおすすめは、かみかぜせっと、れぎゅらーめにゅーは……」

 …………無理矢理と言うか何と言うか、制服を着せられたヒビキがいた。

「って、やってられるか〜〜〜!!」

 切れて胸に入れていたボールを出し、叩きつける。

『……やってたじゃん』

 レジクルーたちはその姿を見て完全に引いていた。

「大体なんだ!カミカゼセットって!!」

 机に拳を叩きつけ、激昂するヒビキに声がかかった。

「片道分の燃料と爆弾のセットさ。男を参考にして作ったんだ」

 レジクルーたちの列が割れて、がっしりした格好の女性が現れる。口には長楊枝が揺れていた。言うまでもなくガスコーニュである。 

「テメェが親分か!これのどこがすごい仕事なんだ!? ニタニタ笑ってるだけじゃねぇか!」

「仲間の出撃をスマイルで見送る。ここでは重要な仕事さ。いわばあたし等は黒子だよ」

「……黒子?」

「そう。あんたにレジは無理だね。裏へおいで!」

「う、裏!?」

 

 案内された裏は兵器貯蔵庫だった。数人のクルーが在庫整理をしている。

「どうだい!危険な兵器を管理するんだ、スゴイ仕事だろ?」

 見渡して声を上げるガスコーニュだが、ヒビキは沈み込んでいつぶやいた。

「悪くはねぇが、……これじゃまた穴倉に逆戻りだぜ」

「ん?」

「俺はな、暗い穴倉が嫌で飛び出してきたんだ!その俺に!また穴倉に戻れってのかよ!」

 しかし、ガスコーニュは、

「ふっ、なんだい。あんたも同類かい」

「え?」

意外な返答に逆にヒビキが困惑した。

 

 

 パルフェとピョロは旧艦区の一部に来ていた。そして扉を開けたとたん、

「わぁぁぁぁぁ!?」

 大量のペレットの雪崩に巻き込まれてしまったのである。

「何よこれ〜〜!?」

「タラークの食料だピョロ」

 逆さまに巻き込まれたピョロが言った。

「これが?」

 すると、何とか身を起こしたピョロが答える。

「一粒300時間の労働を保証します。」

「ふ〜ん」

 埋まったまましげしげとペレットを見入るパルフェ。すると、そこにディータが顔を見せた。

「ねぇ、宇宙人さん見なかった?」

「え?レジ係になったって聞いたけど?」

「レジ?……あ!何それ?」

 埋まるほどのペレットをさして聞くディータに、

「宇宙人の餌だってさ」

「ホント!?」

 何故か嬉々として一粒拾い上げる。そして、口に含んだ。

「あ、たべんの!?」

「ぐえっ……」

 相当まずかったらしい。

「どう?」

「宇宙人さんこんなの食べてたんだ。そだ!」

 何かを思いついたのか、ディータは走り去ろうとする。

「あぁ!名前付けてって!」

 慌てて叫ぶパルフェに、

「ロズウェル!」

 言って駆けていったのである。

 

 

 ヒビキはガスコーニュが出した立体モニターに見入っていた。

「これが、女の国か?なんか無駄に派手だな」

 モニターにはメジェール本星と宇宙船団が見えていた。流線型の美しい外見を有している船は、宇宙のダイヤとも言えるようだった。

「派手で綺麗で清潔で、メジェールって国はね皆仲良し、皆幸せってそんな世界さ。でもね、そんな上っ面だけの世界が世界が嫌でね。」

 ヒビキははじめて知るメジェールの内情にじっと聞き入っている。

「女ってのは見栄っ張りなところがあってね。隣の庭より自分ちの庭を綺麗に飾りたがる。そのせいで余計なところにばかりエネルギーを使って、結局ユニットのひとつを閉鎖しなけりゃならなくなった。お頭が、行き場のないあたし達のために海賊を旗揚げしたんだ。

 海賊に男の女も関係ない。これがメジェールの正規軍だったら、吠える前におっ死んでるさ。」

「……ゴク」

 生唾を飲むヒビキの背をガスコーニュはつきとばした。

「ま、行き場のない身の上って意味では同類だろ? ここでのルールは“働かざるもの食うべからず”だ。吠える前に仕事はきっちりやってもらうよ。」

「だからって何で俺が……!」

 更に吠えるヒビキの前にモップが差し出された。

「スマイル、スマイル!」

 大きな笑みを浮かべてガスコーニュが言った。

「……判ったよ」

 しぶしぶヒビキはモップをかけ始めた。

 

 

 ブリッジに接近警報が響いたのはしばらくしてからだった。

「接近警報です!距離3000GR!すごいスピードです!」

「えらいせわしない奴だね。数は?」

「変な球体が2機ですぅ」

「距離2500GR!」

 マグノがコンソールを操作し、バートを呼び出した。

「兄ちゃん、出番だよ!」

 言うだけ言って切るマグノに、居眠りしていたバートは飛び起きると、

「ったく、人使い荒いんだから……」

 言いながらもすばやくブリッジへと走る。彼がマグノの言うことに従うのは、おじいちゃん子として育った彼の環境にあるらしい。同じ老人として敬うべき対象として無意識に認識しているのだろう。

 

「距離1800GR!」

 アマローネの報告とほぼ同時にバートが飛び込んできた。

「ったく、なんてだだっ広い船なんだ!」

 ぼやきつつナビゲーション席に駆け込むバート。

「いいとこ見せとくれよ」

 労いに声をかけるマグノに、

「逃げるのは、得意ッス!」

 言いながら飛び込んでいった。

「だろうね」

 

「さーて、宇宙の果てまでも逃げ切ってやるぜ!」

 言って、体を前に乗り出した。戦艦はバートの意思に従って加速をかけた。

 さらに接近してきたのは妙な球体だったのだ。表面にいくつかの穴が見える。

 戦艦は最大加速で逃げるものの、球体はそれをはるかに上回る速度で戦艦の前に回りこんだ!

 バートが慌てて急制動をかけた。

「ん!?なんだってんだい」

 驚きにマグノがぼやく。バートは左右に艦を移動させるが、その度に球体は戦艦の進路をふさぐ体制を取る。

 意を決したマグノが叫ぶ。

「バート、進路このまま!メイア、ドレッド発進、戦闘配備!!」

『了解!!』

 すでにドレッドに乗り込んでいたメイアがすばやく答えた。その時、ちょうどディータが弁当箱を持って乗り込んで来た。

「ディータ、何をやっていた!」

 やはりというか叱責がとんだ。

「ん?リーダー」

『一人の遅れがチーム全体を危機にさらす事もあるんだぞ!』

「す、すいませ〜ん!」

 やはりディータにとってメイアは怖い存在である。

『フォーメーションアタックを試してみる。気を抜くな!』

「ら、ラジャ!」

 

 

「おっしゃー出撃だ!!」

 息巻きながら倉庫から飛び出してくるヒビキだが、後ろから腕が伸びてきて彼の背中をつまみ上げた。

「黒子は舞台に上がんないもんだよ」

「んだと?」

 怒るヒビキだが、ガスコーニュに、いや女に摘み上げられていては説得力はない。

 と、その時、前方のカウンターにバーネットがやってきた。

「Aセットお願い!」

「かしこまりましたぁ!ご一緒にホーミングミサイルはいかがですか?」

 笑顔で応対するレジクルー。

「あんまり重たくしたくないけど、いいわ。つけといて」

「ありがとうございましたぁ!」

 ヒビキたち男の世界にはない、選択の自由という物を見せられてヒビキは唖然としていた。

「あれが黒子さ。ってことで、ホレ!」

 ヒビキを椅子に落とし、拘束具をはめてしまった。

「って、なにしやがる!」

「今日はそこであたしらの仕事を見とくんだ。いいね!」

 

『トッピングゲート作動中。危険ですのでホームに立ち入らないでください』

 アナウンスが流れてパーツを取り付けるマニュピレータが作動し始める。

「Aセットトッピングはいりま〜す!」

 言ううちにバーネットの紫の機体にブースターなどの兵器類が次々と装着されていく。ドレッドはその汎用性を高めるためにコクピットのみの素体にブースターなどを取り付けるシステムを採用しているのだ。

「バーネット出ます!」

 言ってゲートから高速で飛び出していくバーネット。すると戦艦の前面が開き、ドレッドが続々と飛び出してきた。

 そして、全機が戦闘体制を整えるまで見物していた球体はジュラ、ディータ、メイアの3機をその目に捉えると、脅威の変形を始めたのだ!

 なんと、表面の穴から何本という触手が飛び出してきたのである。

「ひっ!?」

「う、ウニ!?」

「落ち着けジュラ!各チームリーダーはフォーメーションをチェック。全チーム攻撃開始!!」

『『ラジャー!!』』

 

その触手に光をともし、向かってくる球体に向かい、ドレッドチームはミサイルによる急襲をかける。しかし、回転する触手に阻まれてしまって本体に一向にダメージらしきダメージが与えられない。

「だめだ、メイア。あの針邪魔」

 すると、

「リーダー!宇宙人さんを呼びましょう!」

 ディータがヒビキ達を呼ぶことを提案した。

『宇宙人?』

 ジュラとバーネットが同時に聞き返した。

 確かにヒビキと合体すれば、その主砲で一気に敵を殲滅できる。これにはジュラもバーネットもあえて反対はしなかった。

 しかし、メイアは別の感情を抱いていた。

「だめだ!奴は男だ、敵なんだぞ!」

「でも、いい宇宙人さんです!」

 珍しくディータが食い下がる。しかし、メイアは断固として受け入れない。

「人に頼るなと言っているんだ!危機は自力で乗り越える!!」

 叫んで自機のミサイルを一斉に発射した。

 

 

「いつもより手ごわそうだね。」

 つぶやくマグノに、ブザムも自席に座ると、

「今までの我々を監視してきていよいよ始末に掛かっているのかも知れません」

「接触しますぅ!」

 エズラが叫んだ!

 

 好きなようにドレッドチームを翻弄する球体だが、ここで戦艦に向かって体当たりを仕掛けてきたのである。

「兄ちゃん!!」

『わ、分かってます!』

 言って、バートは船を左に移動させる。しかし、間に合わず右のアームを盛大に貫かれる。

『いてぇぇぇぇ!!いててててて!!』

 叫ぶバートの右手からは同じように血がにじんでいた。

 

 後ろに抜けた球体をドレッドチームが追うが、いかんせんスピードが違いすぎる。

「何よあれ!早すぎる!!」

『球体180度針路変更!!』

『ドレッド隊残存85%!!』

 さらにブリッジ近くをかすめた球体はドレッド一機を弾くと、メイア機を襲う。これを器用な操舵でかわし、メイアは気合の声を上げる。

「負けるものか!私は誰の力も借りない!!」

 

 

 さてお立会い。戦ううちに何が起こるかというと、そう弾切れである。バーネットがほとんどの弾を撃ちつくしたのだ。

「ちぃ!ガスコさん、デリお願い!!」

 

 ここで忙しくなるのが再びレジクルーである。パイロット達から寄せられるオーダー(追加補給)に答えていかなければならないのだ。

「デリオーダー入りましたぁ!!」

「ホーミングミサイルタイプB 50!スラッグ弾750!!」

「きこえな〜い!!もう一回言って!」

 そんなレジクルーを尻目にモニターを見つめるヒビキは、

「あぁもう、そうじゃねぇって!オメェらじゃ手に負えねぇんだ、コレを外せー!」

 オーダーをまとめたリストを受けとったガスコーニュは、ヒビキの拘束具を解除した。

「……へ?」

 呆然とするヒビキにガスコーニュは手を差し伸べて、

「来な。黒子の仕事ってのを見せてやるよ!もう一人にも今しがた連絡を入れたからね」

 

 

 戦艦の下部に張り付く形で搭載されているデリバリー機は、補給物資を満載して船体を離れる。助手席にはヒビキが、後ろにはアイリスが乗っていた。アイリスは格納庫にいたのだが、いつの間にか蛮型が持ち出されていたため、何も出来ずにいたのである。

「さて、行くよ!」

「お、おう!」

「いつでもどうぞ!」

 そして、ガスコーニュの操舵によりデリバリー機はとてつもない速度で戦場に突入していったのである。

「ぐわぁぁぁ……!」

 体に掛かるGにヒビキはうめき声を上げる。後ろのアイリスはというと悠々と補給物資のチェックをしていた。

 そして、戦場の真ん中に停止すると、弾切れを起こしたドレッドが寄って来る。その機体をガスコーニュはマニュピレーターで捕らえた。

「あんた達。時間がないから全部いっぺんにいくよ。50秒でやる。デリ開始!!」

 言うが早いか、コンテナが開いて別のマニュピレーターが、次々とドレッドにミサイルや燃料・弾薬を補充していく。

「ジュラ機残り35%!バーネット機残り40%、ディータ機残り35%!……」

 コンソールを操作しながらアイリスが声を上げる。補給のスピードが以外にも速い。これなら50秒どころか40秒で終わってしまう。

 ガスコーニュは感嘆していた。無理やり乗せられたにも拘らず、アイリスはヒビキのように臆するどころか、自分が出来ることをドンドンこなしている。実際に補給マニュピレーターに指示を出しているのもアイリスなのだ。

「前!!」

 ヒビキが声を上げる。球体が補給を始めたドレッドに攻撃を仕掛けてきたのだ。しかし、ガスコーニュは機体の背を球体に向ける。

 衝撃がデリバリー機を揺さぶった。次々に攻撃を仕掛ける球体に対し、常にドレッドを守る姿勢をとっているのだ。

「だぁぁぁぁ!無茶すんなぁ!」

「何が無茶だい。戦場で傷を負うのは当然だろ?」

 

「こ……コレが黒子の仕事かよ」

「そう、パイロットが一人で飛んでるわけじゃないってのが分かったかい?」

 ジャスト40秒。補給を終えるアラームがなった。

「デリ完了!」

「……皆、行っといで!!」

 

「お腹いっぱ〜い!」

 ディータ達がマニュピレーターから解放されて飛び出す。すると球体はデリバリーを放置しドレッドを追い始めた。

 一息つく3人だが、ヒビキが表示を見て言った。

「おい、まだ一つ残ってるぞ!」

 そう、表示には3番コンテナの装備が使用されていないことが出ている。

「おや、そうかい。せっかく持ってきたんだ。つかわにゃ損だね!」

『はぁ?』

 思わず顔を見合わせる二人である。

 戦場から少し離れた場所で、残されていた3番コンテナが開いた。

 そこに入ってきたのはなんとヒビキとアイリスの蛮型であった。

「こんなところにあったなんてねぇ」

 仁王立ちになるヒビキの蛮型からは高慢さは感じられなくなっていた。そして、双方ブーストを全開にして飛び出して行った。

 いち早く気づいたのはバーネットとジュラだ。

『あれは……!?』

「ん!?」

 

「オラァァァ!男ヒビキ参上!!」

 ブレードを引き抜き、斬りかかろうとするヒビキとアイリスだが、なんと球体が触手をミサイルのごとく周囲にばら撒き出した!

「ぬわぁぁ!!」

「うっそぉぉ!!」

 なんとか直撃は免れたが、2発が肩に突き刺さった。アイリスのほうはその機動性にものを言わせてそのほとんどをかわしたが、やはり一発肩に食らった。

「くそっ……、あれ、うごかねぇぞ!」

「あれ!?なんで……」

 

 

「うわかっこわる」

「宇宙人さ〜ん!合体しよ〜〜!!」

 ジュラのぼやきに反し、ディータは合体しようとヒビキに近付こうとする。そしてそのせいで後方からの球体の動きを忘れてしまった。

「ディータ!よせ!!」

 メイアがそこに割り込んできて、逆に攻撃を受けてしまう。

「くっ!……こんなことで!」

「……負けてたまるかぁぁぁ!!」

「……終われるかぁぁ!!」

 ヒビキのブーストが復活し、一気に突っ込んでいく。しかもそこにメイアの機体が流された。二機は急接近し、そこに青緑の光が生まれる。

「なんだ……!これは?」

「まさか……!!」

 ペークシスが二度目の奇跡を見せたのだ。

 蛮型がメイア機の中に格納されると、両翼が反転し、副翼が膨らんで3つに開き足となる。最後に首が現れ、その目に光が灯った。

 同時にアイリスの機体も変化を見せた。キャノン砲の砲身が輝くと、今度は横に展開したのである。そのまま全身が光り輝き、そして、大きく体を開いたと思うと、その背には光る翼が出現していた。砲身自体が翼に変化したように見えるが、砲身自体を軸としてペークシスが翼を形成しているらしい。

「うっそぉ!?」

「かっこいい!!」

 最終的に、怪鳥と、翼を持った蛮型が現れたのである。

 

「く、う……」

 その怪鳥の中でメイアとヒビキは目を覚ました。お互いに身を起こすと、肌が触れ合った。

『なっ!?』

「ここで何してる!お前の力は必要ない。降りろ!」

 突き放しつつ言うメイアだが、如何せん下半身の戒めがそれを許さない。

「てて、それが出来たらやってるよ!」

 と、そこに球体の着弾の衝撃が来た。

「チィ!もめてる場合じゃねぇか!」

 

「すごい……。どこまで進化するのかしら」

 翼の生えた機体の中でアイリスは進化した機体を見渡した。

 と、同じく球体からのミサイル攻撃が来る

「遅い!!」

 翼を一振り、今までとは比較にならない動きでそのミサイルを回避した。

 

 

 母艦に向けて攻撃を再開した球体だが、急に逃走を開始した。ヒビキとメイア、そしてアイリスの機体が尋常でない加速で追いすがっているからだ。

「何よあの加速!あれじゃ中の人間が持たないじゃない?!」

「でも、ちょっとうらやましい」

 しかし、怪鳥の中にいる二人はそんな生易しいことは言っていられない。押しつぶさるほどのGに必死に耐えていたのだ。

「くぅぅぅ……。体がもたねぇ」

「……口数の多い奴だ」

「うるせぇな。生きてる証拠だよ」

「その口、いつまで持つかな!」

 言ってメイアは更なる加速を掛けた。

 

 そして、クライマックスは近付いた。

 逃走を続ける球体が全身の針をミサイルとして放ったのだ。しかし、怪鳥と蛮型は脅威のテクニックでその全てを交わしきり、一気に前へと出た。

「このときを……!」

『待っていたんだ!!』

 怪鳥のくちばしの先端にエネルギーが収束する。蛮型のブレードに倍するエネルギーが送られ剣が巨大化する。

そして、怪鳥はそのエネルギーで球体のど真ん中をぶち抜き、蛮型は宇宙に一本の線を引いた。まるで十字架のような線が現れたのは気のせいだろうか。

「……アイツら、いろんな芸持ってんな」

 思わずバートがつぶやいた。

 そして、その怪鳥の中でも二人の口げんかが続いていた。

「……これで分かっただろう。お前のヴァンガードだけでは勝てなかった。」

 席にもたれてメイアがつぶやく。

「……おめぇのドレッドだけでもな」

 ヒビキは突っ伏し、言い返した。

 このとき、メイアの中にヒビキに対する思いが芽生えた。ディータのものとは完全に異なる感情だが、彼女には切り離せないものであった。

 

「そんなのないよぉ!宇宙人さんはディータとだけ合体するはずなのにぃぃ!」

 ディータがドレッドの中でいじけたように言っていた。

「ふ〜ん。てことはジュラも優雅に格好よくなっちゃうわけか。楽しみ」

 ジュラはジュラで自分も合体できると信じて期待に胸を膨らませていた。

 

「しっかし、驚かされることばかりだねぇ。」

 球体が爆発する光景を見ながらマグノがつぶやいた。

「あの玉、ごみにしないで!使い道あります!」

「ん?」

 ブリッジに来ていたパルフェが工具を抱えて言った。

 

 

 そして、

「球体の敵味方識別信号入力完了!」

「敵を隠れ蓑にするとはね」

「射出します!」

 ブザムが射出ボタンを押した。艦前方よりポッドの第二陣が射出される。今度は大丈夫のようだ。

「届くかな。届いたとしても受け入れてくれるかどうか」

 パルフェが不安の声を上げる。それにブザムはやさしく言った。

「強く、願うことだ。そうすれば、思いは届く」

 

 その頃、監房にヒビキが帰ってきた。バート達は洗濯の真っ最中であった。

「お、戻ったか。しっかしどうなってんだ?お前の蛮型」

「大丈夫か?」

 フラフラになりながらもヒビキは自分の房に入るとベッドに座り込んで手錠をする。

「あいつ、好き勝手言いやがって」

「よ、元気出せよ」

 言ってバートがペレットを差し出してきた。

「俺ってナンなんだ?」

「は?」

 と、唐突にディータとピョロが入ってきた。その手には弁当箱がある。

「ホレ」

 と差し出すバートの指からペレットをとると、

「えい!」とばかりに指で弾き飛ばしてしまった。

「あ、僕の!!」

 そんなバートには構わずディータはヒビキの手に弁当箱を乗せた。

「はい」

「?ナンだ?」

「据え膳食わぬは男の恥ピョロ!」

 ピョロは不思議そうに見つめるヒビキの顔を無理やり抑えた。その内にディータは弁当箱を開封し、タコさんウィンナーをヒビキの口の中へと放り込んだ。

「噛むピョロ」

 と、以外に強力な力で無理やり動かすピョロだが、それを飲み込んだ時点でヒビキの表情が一転した。

「何だこれ!?」

 ペレットしか知らないタラークにとってメジェール、つまり普通の食事はとてつもない美味に感じたらしい。

 ディータから弁当箱をひっさらうと、ガツガツと食べ始めた。

「宇宙人さん。これからはディータとだけ合体して!ネ!」

「あ? 俺は宇宙人じゃねぇ!」

 弁当箱を箱までなめながら否定するヒビキ。はっきり言ってカッコいいとは言えない。

 

 

 戦闘の後くつろいでいたマグノの元にピョロがやってきた。

「船の名前?」

『はい。クルー全員がアイディアを出しました』

 画面の先でパルフェが言う。

「あたしでいいのかい?」

『かっこいいの選んでくださいね』

 すると、画面に名前のリストが表示された。

「ふ〜ん、いろいろあるねぇ。……お、これなんかいいんじゃないかい?」

 言って指したのはニル・ヴァーナだった。

「ニル・ヴァーナは副長の案だピョロ。」

「よし、これに決定!これからこの船はニル・ヴァーナだよ!」

『はぁ、やっぱし』

 なんとかニル・ヴァーナを回避しようと案を採りに奔走した苦労は報われなかったのである。

 

 “融合戦艦”改めニル・ヴァーナは再び宇宙という海に舵を向けた。

 

 ―To be continued

 

************************************

 あとがきな戯言

  4話目。タイトルそのまま!

 というわけで忠実とは行きませんが再現できたのではなかろうか?

 この調子で行くと確実にsecond stage前に書ききってしまうのでは・・・(汗)

 ま、そんなことねぇか。w

 以上。戯言でした。

 次回「甘い罠」をよろしく! 。    P!  hairanndo@hotmail.com