人が人であるがゆえに起こしてしまう大罪。それは時を超え、次元を越えても存在している。

 悲しき旋律の葬送曲。そして、今、時空を越えた出会いと戦いが始まろうとしている。

 

 

 VANDREAD――The Unlimited――

 

    3:歩み寄り

 

 融合を果たした海賊船と“イカヅチ”は宇宙を漂っていた。その融合戦艦内の会議室でマグノを筆頭にブザム、ガスコーニュ、メイアが会議を開いている。

「艦内の侵食活動はおおむね沈静化しました。現在はスタッフ総出で清掃作業中です。その経緯でわかったのですが、この旧艦区と呼ばれていた部分は相当の間使用されておらず、ケーブルなどが完全に枯れ落ちていました。エンジニアを動員してのメンテナンスが必要です。」

「なるほどねぇ。……レジのほうはどうだい?」

「はい。レジシステム自体には改変はなされておらず、今後の出撃には問題はないかと。プラットホームにも侵食は広がりましたが、清掃作業のみでなんとか使えます。」

「ふーむ。しかし、驚かされたねぇ。ペークシスがこんなことをやらかしちまうなんてさ。まるでペークシスが意思を持っているみたいにね」

 マグノの脳裏には戦闘が終わったときに、操舵席から排出されてくるバートの姿が浮かんでいた。

「はい。さらに驚くべきことに、我々はメジェール宙域をはるかに離れた宙域上に存在していることが分かりました。時間にして約270日の距離です。」

 ブザムの発言と共に天球儀に線が走り、現在地そして、メジェール母星の位置が表示された。その距離はかなり遠い。

「まったく、どうしてこんな事になっちまったのかねぇ。それで、男達はどうした?」

「はい。消毒終了後、監房に監禁してあります」 

 メイアが言うと共に画面に監房の様子が写された。宇宙服を着たクルーたちがホースで水をぶっ掛けているのである。

『や、やめろ……この、ウワップ』

 ヒビキが喚きたてる物のなんの意味もない。しかし、彼らは裸(ふんどし姿)で水を掛けられていたのだ。アイリスは!?と思った人に言っておくと、彼女は事前に、光の屈折率を変えることでの幻覚魔法によって、体を男に見せていた。むろん光なので触れば女なのは丸分かりである。

「どうしたもんかねぇ。コイツら」

「はい。この艦のシステムを把握するまでは利用すべきだと」

「まったく、この艦といい、妙なロボットといい、んで、あの未知の敵のことは?」

「はぁ、その……」

 珍しく歯切れの悪い返事をするメイア。

「ん、どうしたんだい?」

「は、なにぶん人手が足りないもので、志願者を調査に向かわせました。」

「志願者……って?」

 

「スッゴイ、スッゴーイ!!」

 自分の機体の中でディータは、カメラを片手に写真を取り捲っていた。

「あ、あれアダムスキー型かなぁ。ガスコさん、どう思います?」

「…………ふぅ」

 ディータの席の後ろでガスコーニュは大きな体を縮めて押し黙っていた。呆れているのである。

 

 

「……そして、僕は思ったね。今こそ僕らは試されていると。」

 監房の中ではバートの饒舌が唸りをあげていた。

「イカヅチを女の手から取り戻し、タラークへ帰ることこそ僕らの使命だとね」

 そんなバートの台詞を聞き流し、ヒビキは物思いにふけっていた。頭の中では初めての戦闘から合体までの一連の記憶がフラッシュバックしてくるのだ。

「……まったく信じらんねぇよなぁ」

「信じられないよなぁ。」

 バートの声に重なった。

「あんな蛮型どこで作った。何故女と合体する。」

「知るか。そんなこと。それよりテメェ、風呂場じゃよくも一発食らわせてくれたな!」

「おーっと、怒らない怒らない。君のためを思えばこその行動だったんだから」

「んだと、テメェ!ぶっ飛ばされたいのか?」

「よせ、ヒビキ。」

 アイリスが身を乗り出したヒビキを押しとどめた。

「で、ドゥエロ君。君に一つ相談があるんだがね」

「相談とは?」

「いや、何、僕の饒舌と君の頭脳が合わされば、女達の手からこの船を取り返すのは簡単だと思うんだ。

 その時こそ、女達に……!」

「女達に……、どうなるのかな?」

 いきなり監房の外から声がかかる。声の主はブザムだ。ちょうどクルーを従えたブザムが入ってきたのである。

「え、あ、いやこっちの話で」

「ゆっくり聞きたいな。一緒に来てもらおう」

「……あ、お、お話だけなら喜んで」

 

 その頃艦内ではシステム把握の為に機関クルーたちの必死の努力が続いていた。なにせ冷房すら動いていない状態なのである。

「あぁ、暑い〜〜。ちょっと28度もあるよ、何とかならないの?」

 オペレーターのベルヴェデールが機関クルーに文句を言う。

「文句言わないの。こっちは30度超えてるのよ」

「はぁ……、こっちは反応無し。パルフェ、そっちは?」

 そんな状況の中、ペークシス機関室では宇宙服を着て作業するパルフェ達がいた。

「かぁ、こいつは古いわ。もしかしてプロトタイプのレベルなんじゃないの?」

 一向に言う事を聞かないペークシスを相手にパルフェも閉口気味になっていた。

 

「かくて敵の船を乗っ取りつつも、マグノ一家はさらなるピンチにさらされたのであ〜る。」

 仮設エレベーターの上でパイウェイは自伝の執筆をしていた。

「パイ、遊んでるんだったら手伝ってよ!」 

「遊びじゃないもん!」

 文句を言うクルーに言い返すパイウェイ。確かに彼女の言うことはもっともである。彼女は艦内のクルーのコンディションチェックも一任されているのだ。

「待って、乗る乗る!」

 そこに、バーネットとジュラが乗り込んできた。双方とも大荷物を抱えている。お互いに船が融合した際に部屋をだめにされたのだ。

「『お引越し!お引越し〜』。よかったねあたし達の部屋潰されなくて。『ケロ』」

 カエルのバックで腹話術モドキをやりながらパイウェイが皮肉を言う。

「ナンかむかつく。」

「まったく余計暑く、って何よそれ。」

 ジュラがつぶやき、バーネットがパイウェイのしている命綱に気づいた。

「『このエレベーターはまだ仮設ケロ』。落っこちても知らないよ。バッハハーイ!」

 言って命綱でするすると登っていってしまう。思わず青ざめる二人であった。

「ちょ、ちょっと!?」

「嘘でしょ!?」

 

 

『母艦というよりなんかの工場みたいだねぇ』

「で、様子はどうだい?」

 団扇を仰ぎながらマグノが問う。

 通信相手はガスコーニュである。

『データバンクを探してるんだけどねぇ。こう広くちゃ……』

 その時、急にディータが目の前に出てきた。

『ねぇねぇ、向こう見てきてもいい!?』

 おもちゃを持たされた子供の様なはしゃぎ様である。

『だぁめ。』

 いいながらディータを突き放すガスコーニュ。

『わぁぁ!止めて〜〜』

「ふふ……」

 薄笑いを浮かべるマグノの元に通信が入る。

『ナビゲーターを連れてきました』

「分かった、すぐ行く。それじゃ、後のことは頼むよ。ガスコーニュ」

『了解!』

 マグノは席のスイッチを入れると、席が反転し扉のほうへと滑っていく。扉が開くとその向こうはブリッジであった。マグノの席はブリッジの艦長席とミーティングルームとに直結しているのである。

「あの、僕に何か御用で?」

 恐る恐るマグノに近づくバートに、

「あぁ、あれだよ」

 と、団扇で例のナビゲーション席を指す。そこを見てバートの表情が変化したのには気づかなかった。

「うんともすんとも言いやしない。あんたどうやったんだい?」

「……分かりました。お教えしましょう」

 と、ブザムに見えるように手錠を差し上げる。ブザムは渋々開錠する。

「いいですか?これは元々男の船。動かせるのは男だけ。

 幸い僕が乗り込んでいたことで今の皆さんがあるわけで、……つまりこの船にとってこの僕は必要不可欠な存在、……」

 いきなり饒舌になり、話しながらナビゲーション席に近付くバート。

「それで……ってぬわぁぁ!」

 足を乗せたとたんにナビゲーター席はバートを飲み込む。

「やっぱり分からないねぇ。このシステム」

 

「へへ、ちょろいもんだぜ」

 戦闘中でないこともあり、バートは比較的落ち着いていた。その時、いきなり船が起動したのである!

「えっ!?」

 船は急反転すると一方を目指して疾走を始めたのだ。

「システムが急に立ち上がりました!」

「目標座標調べます!」

「兄ちゃん!!あんたいったい何やったんだい!」

『お、お待ちください。今すぐに……えっと』

 その表情からマグノにも彼の操舵ではないことがわかった。

「まったく、外見だけで世の中渡ってるとこういう所でボロが出るんだよ」

『はは、なんのことやら……』

 

 衝撃が襲ったのはブリッジだけではない。融合した部分にいたバーネットたちも巻き込まれた。

「何何何〜〜〜!!?」

 激しく揺さぶられ急上昇するエレベーターと、ペークシスの破片部分に挟まれてしまったのである。

 

 

 その頃、データバンクを探し出し、データをコピーし終わったガスコーニュが船に連絡を入れる。

「データはコピーしたよ。お頭?」

 ガスコーニュの声からただ事でないと判断したディータもそちらを振り向いた。

 

 

「ガスコさん!ディータちゃん応答してください!」

 エズラが必死にガスコーニュたちに呼びかけるが、すでに宇宙服の通信機では届かない範囲まで来てしまっていた。

「マーカーを撃て!」

「は、はい!!」

「ガスコ……さん」

 その時、エズラが急にコンソールに倒れ伏した。

「ん!?エズラ、どうした!エズラ!」

 ブザムの声にも反応を示さない。またも災難に巻き込まれる彼女たちであった。

 

 

「ここはどこだ!お前は俺に何をさせたいんだ!」

 青緑の空間でヒビキは声を上げていた。しかし、ヒビキの声にこたえるものはなく変わりに空間に電撃が走った。

「うわぁぁぁ!!」

 ヒビキの脳裏に昔じっちゃんと暮らしていた光景がよみがえってきた。いくつもの光景がフラッシュバックした後、小屋での会話に切り替わった。

『ヒビキ。街行けヒビキ。……自分を知るためにな』

『俺は自分のことはよくわかってるよ』

『い〜や、わかっとらん。』

 言って何かを放り投げる。それはカード型のIDチップだった。

『仲間こそが己を映す鏡。仲間を作れ。己を知るためにな』

 

「……じっちゃん」

 つぶやきながら目を開けたヒビキの目前にはドゥエロがいた。

「うわだぁぁ!て、てめぇ、何しやがる!」

「……熱を測っていただけだ」

 冷静に返すドゥエロ。

「それより、じっちゃんとは?」

「あぁ?年食ってるが俺の育ての親だよ」

「……おかしいな3等民と第一世代の間に接触があるとは思えないが」

 そのとき、ブザムがクルーを従えて戻ってきた。

「ドゥエロ君だったかな?……君の番だ来てもらおう」

 ドゥエロは静かにうなずいた。

 

 

「結晶反応45%にダウン!」

「艦内温度さらに3度上昇!」

「かー、まいったなぁ。そっちはどう?」

「んもう、どれから手付けていいのか分かんないよ……」

「……なんだかなぁ。そっちは?」

 ペークシス機関室から戻ってきたパルフェは、上着を脱ぎ、腰で結ぶ。そして、比式六号を接続してデータを取ろうと奮戦していたクルーに声をかける。

「ん〜〜〜〜」

「何よ『ん〜』て」

 と、ピョロを見るパルフェだが、

「あらま……」

「でしょ〜?」

 比式六号は接続されたまま横たわり、

「ん〜、ビョーキ、びょーき……」

 などとうわごとのように言っていた。

「病気??」

 

 

 ドゥエロが案内されたのは医務室だった。奥のベットにはエズラが眠っている。

「微熱が続いているらしい。診てやってくれ」

「おかしいな。女の医療技術は進んでいると聞いていたが」

「フッ、さすがエリート、会話の端々に探りを入れてくる。

 いいだろう。この艦は現在90%近くが制御不能で医療システムもその中に含まれている。

 これでどうだ?」

 切れ者同士の会話には、余計な部分が必要ないというのは暗黙の了解らしい。ドゥエロはゆっくり頷き、

「……患者を診よう」

 

 暴走を続ける戦艦はやがてある星雲に突っ込もうとしていた。

「前方に星雲が見えてきました!」

 そして、前方を見つめるバートの視界はズームされ、星雲の内部が映し出される。そこには巨大な氷塊が漂っている。

「な!?あそこに突っ込むのか!?よせ、止まれぇぇぇ!!」

 しかし、無常にも戦艦は星雲へと突っ込んでいった。

 そのとき、マグノの近くで回っていた扇風機が動きを止めた。

 

 エズラの腹にセンサーを当てていたドゥエロは何かを見つけてそれに身を乗り出した、しかしその時、医療室すべての電源が落ちてしまった。

 唖然とするクルーの足にあるポケットから、ドゥエロは通信機をひったくった。

「あ、……!」

「機関室!医療室の供給を優先してくれ、患者がいるんだ」

 その声に返してきたのはパルフェである。

『誰よ勝手なこと言ってるのは!男文字読めりゃすぐにやってあげるわよ!』

「私なら読めるが……?」

 言ってブザムを見るドゥエロ。

「……よかろう」

 ブザムは不適に笑って言った。

 

 

 案内されたドゥエロが機関室に入ってきた。

「わっ!?男!」

 そばを通りかかったクルーが驚いて身を引いた。

「あっ、こっちよこっち!」

 と、奥でパルフェがドゥエロを呼ぶ。

「ペークシスの状態を知ろうにも、このデータがぜんぜん読めないのよねぇ」

 近づいてきたドゥエロはそこに接続されたナビロボを見て、

「比式六号。なぜこれを?」

「理由はわかんないけど、コイツとペークシスの波形がリンクしているのよね。だからコアのセンサーになると思ったんだけど」

「……なるほど」

 言って比式六号の画面を操作するドゥエロ。

「どう?」

「主機関内部に不純物が増加している。急激な変化に伴う反発現象らしいが……」

「元々、通常時に発生するエネルギーを利用した機関なのは知っていると思うけど、こんな反応は初めてなのよねぇ」

「二つの船が融合した影響か?」

「たぶんね。直せる?」

 と、言うパルフェにドゥエロは肩をすくませ、

「悪いが、私は機関部員ではない」

 すると、パルフェが怒ったように言った。

「何よ。動くものは皆生き物!あたしはそう思ってる。生き物を治すのは医者の役目でしょ?違う?」

 その発言にキョトンとなるドゥエロ。

「ふっ……君は面白いことを言うな」

 言って上着を脱ごうとしたとき、艦が揺れた。

 

「全艦完全停止しました」

「なんだい。やっと止まったかと思ったらこんなとこかい」

 戦艦は嵐渦巻く星雲内でやっと止まったのである。

 

 

「あっれ〜おっかしいなぁ」

「どうだい?」

 ディータとガスコーニュの二人は途方にくれていた。

「マーカーしか見えないよ」

「こりゃ、何かあったね。長居は無用だ。さっさとずらかるよ!」

 言ってブーストをふかした時だった。

 ガスコーニュの後ろで光るものがあった。

「ん?……!!?」

 それはツタ状になったペークシスの触手だった。

 

 

『ドレッド出られません!これではディータ達を……』

『エレベーターに閉じ込められましたぁ』

『誰か助けなさい……』

 主要メンバーが動けなくなりマグノの表情にも疲れが見える。といっても投げやりな感じになりつつあるのだ。

「再び艦の一部が変形を始めました!」

「はいはい、今更驚かないよ」

 しかし、マグノの言動とは裏腹に艦の両翼からはペークシスの結晶が飛び出したのである。

 その触手状の結晶柱からは白濁した噴煙が発生している。どうやらペークシスプラグマに溜まった不純物のようである。同時に融合戦艦を取り巻く周辺のガス雲がその結晶柱に集まり始めた。例えれば、貝類が呼吸器官を外部に突き出しているかのようである。異常増殖から続く一連の奇妙な現象からすると、これもペークシスプラグマの事故修復行動の一つなのかもしれない。

 

「……ん?」

 モニターを見つめていたドゥエロが何かに気づいた。

「艦の数値が変動を始めている」

 そして、比式六号の画面を見ていたパルフェも同様に、

「こっちもよ、どうしたんだろ、急に……」

 と、いきなり比式六号が身をよじり、コード類を引き抜いた。

「わぁ!」

 すると、比式六合は青緑の蒸気を吐き、湯気を立てながら、

「あぁ……生き返るピョロ〜〜〜」

 などと、その画面に温泉の風景などを映している。

「……なんだコイツ」

 思わずパルフェがつぶやいた。

「どうやら、この星雲の成分に関係があるようだな……」

 それを聞いたパルフェがハッと手を打った。

「そっか!溜まった不純物を排出して中和を図ってるんだ!」

 機関部員らしからぬ彼女の発言に、ドゥエロは再びその顔を緩ませると、嬉しげに言った。

「ふふ……面白い。確かにまるで生き物だ」

 

 

 変動を始めたからと言って融合戦艦は未だに機能を回復してはいない。そこにブザムから通信が入った。

『お頭』

「ん?なんだい?」

『はい。調査の結果、男のヴァンガードなら出撃可能と分かりました』

 ブザムがいるのは蛮型の格納庫管制室である。コンソールには新たにユニットが取り付けられ、起動している。

「……それで?」

 マグノはブザムの考えを読みきれずに聞いた。

『はい。あの男達をディータとガスコーニュの救出に使ってはどうかと』

「……いいよ、おやり。ところで、お前さんそんなところで何やってたんだい?」

「お頭の補佐が役目ですので……では」

 

  

 その頃、ディータは触手に捉えられたガスコーニュを何とか救い出そうと奮戦していた。

 ビームガンでなんとか切断しようとするが、まったく効いていない。

「だめだぁ!リングガンじゃ効かないよぉ!」

「……あたしとしたことが、とんだヘマをしたもんだね」

「待ってて!今ドレッドから道具を」

「その必要はないよ!」

 ディータが戻ろうとするところにガスコーニュが声を掛けた。

「忘れたのかい、これは仕事なんだ。あんたはデータを持って船に戻りな!」

「でも、……ガスコさんを置いてはいけないよ」

「誰が、置き去りにしろって言ったよ。3流ドラマじゃないんだから、助けを呼んで来い、ってのさ」

「……ウン分かった!すぐ戻るから!」

 とディータはドレッドへと戻る。

「……ふぅ。!?」

 息を付き、上を見上げたガスコーニュは驚くべきものを目にした。なんと、死んだはずのシステムが再起動し、キューブの数体がドレッドを追尾し始めたのである

「ちぃ、……なんてしぶとい奴らなんだ!」

 

 

 ガン!

「ぐへっ……!つ、防護壁ぐらい出せちくしょ〜〜!!」

 星雲の最深部に到達した戦艦はその身を流れる潮流にまかせていた。そして、その身は少しずつ削られその下からは青緑の強固な装甲が顔を見せた。もはや何処から繋がっているのか分からなくなったほどである。

 

「う〜〜〜、あぢい〜〜〜〜……」

 監房の中でヒビキはふんどし一枚で寝そべっていた。監房の中はもはや蒸し風呂も同じであった。そんな中、アイリスは涼しい顔で壁に寄りかかっている。彼女は周囲にだけ冷気を纏わりつかせて涼を取っているのである。そういう意味でこの船では一番快適な人であった。

「おやおや、すごい格好だな」

 そんな時、格子の外にブザムがやってきた。暑さのせいで接近に気づかなかったのだ。しかし、もはや寝そべったままヒビキは、

「あぁ!?ナンだ?今度は俺達の番か?」

「とんでもない。頼みがあって来たんだ」

「頼み?」

 アイリスが聞き返した。ヒビキもその顔に警戒心をあらわにした。

「正直に言おう、仲間を二人置いてきてしまった。お前達の手を借りたい」

「はっ!何で俺がお前らに手貸さなきゃならないんだ?」

 突き放すヒビキに、ブザムは表情を硬くし、

「今は男だ女だと言っている場合ではない。お前も見ただろう、あの未知の敵を。

 あの恐ろしい敵を苦もなく倒したお前ならと思ったが、……」

 ヒビキの表情が硬化した。

「強いものが弱いものを救う。男の世界では常識と思っていたが、とんだ思い違いだったようだな」

 冷淡に言って去ろうとするブザムの背にヒビキは声を掛けた。

「わーったよ!」

 もはや、どうでもいいと言わんばかりに言った。

「確かに、お前には見っとも無いとこ晒したよ。だがな、これっきりだからな。二度と脅しにはのらねぇぞ!!」

「ふっ……脅しだなんて、思いもしなかったよ」

「ちょっと!」

 話を進める二人にアイリスが口を挟む。

「そこで勝手に盛り上がらないでくれよ。とりあえず、俺も行かせてもらうぜ。そいつだけじゃ心配だ。」

「何を!?」

「……、よかろう」

 

機関制御室ではドゥエロとパルフェの懸命の作業が続いている。ガス星雲の成分が不純物を中和してくれるところまでは突き止めたものの、内部の循環をコントロールところまでは出来ずにいたのである。

「いかん……。吸排出の流れにばらつきがありすぎる」

 艦内のエネルギー経路図を見ていたドゥエロが口惜しげにつぶやく。

「リンクルートが少なすぎるせいよ!機能してない回線を何とかしなきゃ!」

 パルフェもデータと格闘しながら言った。

「しかし、これ以上の負荷は掛けられん!」

「諦めないで!何か方法があるはずよ」

 言われてドゥエロが考え込む。しばし、何かを思いつき、確信に満ちた表情で顔を上げた。

「迂回路だ!渋滞しているなら他の道に誘導してやればいい!」

 それを効いてパルフェの表情が明るくなった。

「バイパスって意味ね!?……それよ!」

 機器として乗り出したパルフェは喜びの余りからか思わずドゥエロのかたをポンと叩くと、

「アンタ!いいエンジニアになれるわよ!!」

 そういい残してクルーたちの下へと走り出す。

「さぁ、忙しくなってきた!皆聞いて!!」

 溌剌としてクルーたちに指示を与え始めるパルフェを、ドゥエロは複雑な表情で見つめている。ポツンと取り残されたように立ち尽くす彼は、無意識のうちに彼女の叩いた二の腕あたりをさすった。

 

 

 ブリッジに突如警報が鳴り響いた!

「何事だい?」

「接近警報です!……小惑星規模の氷塊がこちらに向かって来ます!!」

 それを聞いたマグノはバートに向かって叫んだ。

「兄ちゃん!聞こえたろ、なんとかおし!」

 しかし、

『うわぁ〜〜!!よせ!くるなぁぁぁ!!』

 ……………………

 思わず力の抜けるブリッジであった。

 

 

 ディータのドレッドが船に向かって飛行を始めたと同時に機能を回復した3機のキューブが追走を開始した。

 その他のキューブはなんとそれぞれが繋がりあい、補強することによって元の形を復活させようとしているのである。

「驚いたね。……こんな状態から復活できるっていうのかい」

 その時、ガスコーニュの前方に作業キューブの一体が現れた。

「ハハハ……。あたしも材料ってわけか」

 ガスコーニュの額に一筋の汗が流れた。

 

 マーカーからの情報を頼りに宇宙を疾走するディータはキューブの執拗な攻撃に焦り始めていた。

「もう!しつこい宇宙人は嫌いよぉ!」

 その時、前方からも2機の反応が出た。

「えぇ!?前からも!?」

 その時、至近弾が彼女の機を激しく揺らし、ディータは勢い余ってトリガーを引いてしまった!

 ズヴァーっと2条の光線が宇宙空間を走る。

 そして、何かに着弾したのである。 

「……え?」

『『くおらぁぁぁ!!』』

 そして、ディータの機に同時に通信が飛びこんできた。そして、次第に見えてきたのは2機の蛮型であった。双方とも少々焦げているが。

『『これが助けに来た奴に対する仕打ちかぁぁ!!』』

 期せず違わず二人は同じ台詞を口にした。

「宇宙人さん!!?」

 

 

「えっ!?」

 思わずヒビキが動きを止めた。

「仲間って……アイツのことか!?うわ、よせ来るな〜〜!!」

 しかし、嬉しさのあまりディータは一直線にヒビキの蛮型に突っ込んでいく。

「ちょっとー!? わぁ!?」

 近くにいたアイリスの機体をかすめてヒビキに突っ込んでいく。

「助けに来てくれたんだ!やっぱり、いい宇宙人さんだ〜〜!!」

「わぁぁ!!違う!ちがーーう!!」

 しかし、ヒビキの叫びもむなしく、急接近した二機は変形、合体してしまったのである。

「うわぁぁぁ!何これスッゴーーイ!!」

 初めて目にするコックピットの中でディータは滅茶苦茶に計器をいじる。

「こら、操縦の仕方知らねぇんだから、いじるな!」

 怒鳴るヒビキにディータは顔を向けると、

「ディータね。信じてたんだ。宇宙人さんがきっと助けに来てくれるって!」

 眼前でそういう事を言われ、ヒビキは顔を赤くして目をそらした。

「そ、そんなんじゃねえけどよ」

「……ありがとう」

『お二人さ〜ん!』

 アイリスから小ばかにした通信が入った。

『見せ付けてくれなくていいから、さっさといかねぇか?』

 言われてディータが真っ赤になり、

「ウルセェ、誰だが誰が!」

 憤慨するヒビキである。

 そして、その場に追撃してきた3機を一瞬で屠ると、2機は宇宙空間を疾走する。

 

 

 やがて、前方に先ほど殲滅し半壊したピロシキ型が見えてきた。

「なんてしぶといんだ、奴ら!」

 そこではキューブが自らをつなぎ合わせて復活しようとしていたのである。と、キューブの数機がこちらに向かって迎撃を仕掛けてきた!

『おい、どうする!』

「二人はガスコさんを助けに行ってくれ!俺はコイツらを引き付ける。行け!!」

『おう!』

 巨人はその巨体を一気にピロシキ型に向けて突入させる。キューブの編隊が襲うが、アイリスの機体の放つリストバルカンに撃墜されていく。そして、……

 

 

 ガスコーニュの周りの触手をキューブは器用に切り離していく。

「いい手際じゃないか、スカウトしたいくらいだよ」

 皮肉を言いつつもさすがに余裕がなくなってきたガスコーニュである。

 そして、キューブから精密作業用のマニュピレーターが出てきてガスコーニュに伸ばした。

「ふっ、……いよいよあたしの番かい」

 目前までアームが迫った、その時!、

 ガシャァァァン!!

 横から飛び込んできた腕がそのキューブを弾き飛ばした。

「!?」

 ガスコーニュが目をやるとそこには例の巨人がいた。

「はっ……、ギリギリまで引っ張るたぁ、憎い演出してくれるじゃないの」

 

『おい!助け出したぞ。ずらかろうぜ!』

 通信してきたヒビキ。ふと目を横に移すと上半身裸のガスコーニュが不憫そうに収まっていた。

「おし!なら、今度は盛大にぶっ壊してから行くぞ」

 ヒビキたちが離脱したのを確認し、アイリスは主砲を構えた。

 そして、今度こそ修復不可能なまでに吹き飛ばしたのであった。

 

 

「第36までのバイパスは何とか確保したわ!そっちは!?」

 機関室ではパルフェとドゥエロが懸命に作業している。ドゥエロも比式六号の外殻を開き回路の調整をしながら言った。

「こっちはこれ以上は無理だ。この量でやるしかない」

「無茶よ!下手に仕掛けたらかえってバランスを崩すわ!」

 お互いに背中合わせに叫びあっているが、ドゥエロがここでパルフェを振り返り、

「こういう時、医者はどうするか知っているか?」

「……エ?」

 不思議そうにドゥエロを振り返るパルフェ。

「患者を信じるんだ」

「……、分かった!やってみよう!」

 そして、パルフェは起動スイッチに手を伸ばした。

 

「氷塊さらに接近!距離1万2千!」

「直撃は免れません!」

 ブリッジクルーから絶望とも取れる報告が入る。

 マグノもその顔を悔しさにゆがめているが、その時、止まっていた扇風機が動き出した。

「ん?」

 そして、コンソールにも機能回復の表示が現れる。

「アハッ!コントロール回復しました!!」

「何でもいい!急速転舵!!」

 しかし、船とリンクしている彼が一番それを分かっていた。

『もう遅いっす〜〜!!』

 思わず顔を覆ったときだ。

 ドゴォォォォン!!

 突如、氷塊が爆発四散したのである。

 

「かぁ〜とうとう死んじまって……、ない?」

 バートが恐る恐る前を見ると、氷塊郡流の向こうでキャノンを構えた巨人がいた。翻弄されることなくまっすぐ立つ巨人を見てバートは、

「ちぃ、……またあいつかよ」

 どうやら自分より目立ったアピールをするヒビキが気に入らないようである。

 

 そんなこととは裏腹に、巨人の中ではヒビキが妙に痩せて席にもたれた。その顔にはくっきりとクマが浮かんでいる。

「なんか……どっと疲れたよな」

 しかし、反対にディータは余計に元気であった。体を揺らしながらガスコーニュに自慢している。

「ね、スゴイでしょ!コレ!!」

「分かったから、早いところ降ろしとくれ!」

 疲れた声でガスコーニュが訴えた。

 

 この時点でやっと一連の事件は終焉を向かえたのであった。ヒビキたちは自分達の意思とは関係なく分離し、回収された。そして、星雲から出てきたとき、その戦艦は完全に一つの戦艦としての姿をしていたのである。

 元の海賊船のデッキは第二デッキとして融合戦艦の下に位置された。形状としては左右に二本のアームを持つ4本の相胴型の戦艦になったのである。

 

 

 その後、バートがかろうじて覚えた自動操縦に設定された融合戦艦内では、清掃作業が行われた。そして、治療を受けたガスコーニュが部下達を監督していた時、モニターにムザムが映し出された。それだけではなく、艦内のほとんどのモニターがその姿を映したのである。それは副長からの公式な連絡ということになる。

『お頭との協議の結果、今我々が置かれた現状をクルー全員に知らせることにした。

 残骸より入手したデータにより、少しだが敵のことが分かった。 

 まずはこの映像を見てもらいたい』

 画像が切り替わり、星の周りに歯車をいくつも配した惑星が見えてきた。動力として衛星をはめこんだその姿はかなり異様である。

 しかもその周りにはいくつものピロシキ型と、それ以上の大きさの艦隊が周回しているのである。

 その光景にクルーたちの表情が硬化した。

「変な星……」

「……ピョロ」

 機体の整備をしてたディータもそうつぶやいた。

『コレが、敵の本星だ。座標も星系も不明だが、かなりの戦力を有しているらしい。』

 そして、またブザムの顔が映し出される。その表情はクルー達の身を案じるように辛らつであった。

『我々はこの未知の敵の領域に入り込んでしまい、不運にも不法侵入者として攻撃を受けている。彼らの勢力範囲はとてつもなく広い。その為、我々がメジェールに戻る進路上でこれからも再びこの敵との交戦が予想される。……しかし、残念ながら戦いを回避するわけには行かないらしい。何故ならば、敵の目的が我々の故郷、メジェールと男の星タラークに対し“刈り取り”という暗号作戦を仕掛けているということが分かったからだ』

 監房でそれを聞いていたヒビキ達でさえ、それには息を呑んだ。

「……なんてこった」

『……つまり少なくとも、彼らは何らかの目的により、我々の星の壊滅を目論んでいる事になる』

 そして、ブザムは身を引き、代わりにマグノが写った。

『アタシらは海賊だ。言ってみりゃぁメジェールにもタラークにも義理はない。だが、訳の分からない連中にむざむざお得意さんを滅ぼされるってのも気に入らない。そこで我々は一足先に母星に戻り、この危機を知らせようと思う。

 そのためには捕虜となった男たちもクルーとして取り入れなきゃならなくなった』

『えぇ〜〜〜〜!?』

 艦内で絶叫が上がった。むろん、女と男が暮らすなど考えられない環境で育った両者だ。その驚きはひとしおである。

 ブリッジクルーも恐る恐るバートのほうを向く。

「ははは、……ようやく分かってくれましたか。僕の必要性を」

『この船といい、あのドデカイロボットといい、分かんないことだらけだが、一つ一つ解決していくさ。

 クルーの協力に期待する!以上!』

 言ってマグノ有無を言わせず通信を切った。

 

「ふぅ……」 

 ひと演説終えたマグノは席にもたれた。その時、後ろのドアからエズラとドゥエロが入ってきた。

「すいませんでした。すぐに持ち場に戻ります」

「微熱の原因は分かったのか?」

 ブザムの問いにドゥエロは、

「この患者の体内に別の生体が寄生している」

「エェ!?」

 マグノが声を上げるが、エズラがそれを否定した。

「違います!その、あたし……赤ちゃんが出来たんです」

 言ったとたんブリッジクルーから驚きの声が上がった。

『えぇ〜〜〜!?』

「エズラいつの間にファーマになったのよ!」

「オーマは誰よ!」

 その喜びようにバートは、

「子供って工場で作るんじゃないのか?」

『え?』

 いきなり違う事を言われて今度はバートのほうを見るクルー。

「女は体内で複製を作るとは聞いていたが……」

「すいませんお頭。今度の仕事が終わったら報告するつもりでした」

 しかし、マグノは顔に笑みを浮かべ、

「そんなことはないよエズラ。いい子を産むんだよ」

「もう、エズラったら何にも言わないんだから!」

 クルーたちが駆け寄る。

「オーマは誰よ?」

「何だ?それは」

 ドゥエロが聞くと、

「オーマは卵子を提供してファーマがそれをお腹で育てるのよ。常識でしょ?」

「いや、初耳だ。」

 その時、ブザムは端末からデータカードを後ろ手で取り出した。そして、隠し持った。

「まったく、驚かされることばかりじゃないか。だろ、BC!」

「は、はいお頭」

 ブザムを見ながらマグノは言う。

「あたしらもウカウカしてられないねぇ。生まれてくる新しい命のためにもさ」

「はい……。長い旅に、なりそうですから」

 

 そして、融合戦艦は、150人の女と3人の男。一人の異邦人を乗せて宇宙の旅出たのであった。

 

 

To be continued

 

「ねぇ、ジュラ……」

「ん?」

「あたしらいつになったら出られるのかしら……」

「誰か助けて……」

 お互いに涙目になって救援を待つ、エレベーターに閉じ込められた二人であった。

 

 

―今度こそTo be continued

 

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 あとがきな気持ちで読んでいただきたく候

 

 テレビで言うところの3話目ですか。完成です。

 まぁ、作品的にはちょこちょこアイリスが出てくるだけの感じになってますがね。

 

   P!

 hairanndo@hotmail.com