人が人であるがゆえに起こしてしまう大罪。それは時を超え、次元を越えても存在している。
悲しき旋律の葬送曲。そして、今、時空を越えた出会いと戦いが始まろうとしている。
VANDREAD――The Unlimited――(改訂版)
2-1:Un voyage de destin
そこには何かしらのエネルギーがあった。眠っていたそれは目覚めると共に情報を集めるために近くにいたものにコンタクトを取ろうとする。
ありとあらゆる物、ありとあらゆる存在に……。
はっと、アイリスは目を開いた。意識ははっきりしている。しかし、周りの状況が把握できなかった。そこは現実ではなかった。青緑色の“何か”が漂う空間。そうとしか形容しようがない。
――死後の世界?
そう思ったが、違う。そこには明確な意思が感じられた。
「誰!あたしをここに引きずりこんだのは!」
そう叫んだ。害を為すのなら次元を切り裂いてでも脱出することは出来る。しかしアイリスは気になっていた。その意思の正体が、その目的が。
“お前は何者だ”
空間に少女が浮かび上がる。それはディータの姿をしている。
「私?私はアイリス!アイリス=スチュワートよ!」
“アイリス……”
“有機体の呼称か?……個体の名前か?”
“お前は何故存在する”
“目的は本能か、義務か”
メイア、ジュラ、ナビロボが次々に浮かび上がってアイリスにそう問いかけた。
「あたしの存在意義を聞きたいわけ?
いいわ。私が存在するのは、この世に生を受けたから。アイリスは確かにあたし個人の名前、名称ね。
ここに存在するのは、運命。来るべくして来た存在。何にも縛られない、縛れない存在。
目的は旅。旅をすることであらゆる事を学ぶのが目的!どう!?」
自信を込めて、指を突きつけて言い放つ。
“……ならば、お前がお前である証は何か”
最後はヒビキだ。
「……証か。
それは私の仲間、家族。その外ありとあらゆる次元で出会った人達。その人達の中に刻まれているあたしという存在。それがあたしの証よ!誰一人として欠けちゃいけない。全てがあたしのたどった道であり、今も刻み続けるあたしの人生の通過点になる!
そして、あたしは生きる!どんな運命でもかまわない。あなた達が証を求めるのなら見ているがいいわ、あたしはここでまた自分という生きている存在を、生きている証を刻み、見極める。この先の未来を、出会う仲間達の姿を!」
一気にまくし立てたアイリスは軽く息を吐いた。なんか妙なことで熱くなってしまった。
しばし、言われた事を理解するように彼らは静まる。そして、
“……それがアイリスの存在意義、意思。”
「そうよ!旅はまだ始まったばかり。見ていなさい、これから刻むあたし達の証をね!」
アイリスの意識が爆発する。
空間は光に包まれた。
ゴガァァァァァ!!
宇宙空間に衝撃が走った。そして空間がはぜ割れ、そこからイカヅチが、海賊船が、その他ゴミが吐き出されてきた。
「……くぅ」
海賊船船長マグノ・ビバンはうめいて、身を起こした。
「一体……何が起こったんだい」
「……申し訳ありません。今、リペアします」
マグノの前に座っているオペレータの二人も身を起こす。作業を始めようとした途端、
ゴォォォン!!バギバキバキ……!
いきなり衝撃が走った。はっとなり、見上げるマグノの目に飛び込んできたのは、青緑のペークシスの結晶が海賊船を捕まえた光景だ。
「何だい、結晶がこの船を食おうってのかい!?」
ペークシスは一帯に手を伸ばし、ゴミの一つに至るまでその身に取り込もうと蠢いている。
「むぅ、……ガスコーニュ、切り離せそうかい?」
マグノはドレッド発進区画である通称“レジ”へと通信をする。すると、体格のいい長楊枝を口にくわえた女性が出た。
『ビームじゃ無理だね。うかうかしてるとここもすぐに呑まれちまう』
一家の頭を目の前にしても堂々とそう言い放つ。相当の度胸の持ち主だ。
『エンジンも死んでいて動きませ〜ん!』
海賊船の機関室からパルフェが言って来た。
「やれやれ、しょうがないね。上へ行くよ。一緒においで」
『了解!』
「くぅぅぅ……、いったい、何が起こったというんだ」
格納庫の中、どうやらドレッドから放り出されたらしくメイアが身を起こしながら呻いた。
「……ディータ、ジュラ!無事か?」
「アイタタタ……、何なのよもう」
打ち付けた頭を抑えつつ、ジュラがメイアの近くで起き上がった。
「ディータ、ディータどこだ!」
すると、
「……はーーい、ここでしゅ〜」
情けない声が少し遠くから聞こえた。
「何か、ずびび〜ってなって、ずばば〜〜ってなりましたよねぇ……、宇宙人パワーはすごいでしゅ〜〜」
タレまくった格好で言った。どうやら大丈夫のようだ。
しかし、格納庫の中は完全に景色が変わっていた。ペークシスが成長し、所々に柱ができ、枝を伸ばしている。3人のドレッドはどうなったのか、姿は見えない。
しばらくして、マグノ達がやってきた。
「おやま、こいつはすごいね」
周囲を一瞥し、驚嘆の声を上げる。タラップを降りたところでメイアが声をかける。
「申し訳ありませんお頭。わざわざお越し頂いて」
「なぁに、大した事じゃないさ。この目で見たかっただけ……ん?」
ふと、マグノが顔を向けると、誰かがまだ倒れていた。それはヒビキだった。ナビロボもだ。
「ディータが追っていた男です」
メイアが口を挟む。
「ふぅむ、男は久々に見るがこんなに間の抜けた顔してたかねぇ……」
するとその時、
ジャリ……。
『――!?』
突然誰かの足音がした。格納庫にいるのは全員のはずだが、……いや、
「……やってられないよなぁ、ホントに」
つぶやきつつペークシスの柱の影からアイリスがだるそうに歩き出てきた。気がついたら蛮型から放り出され、カタパルトの中で寝ていたのだ。
しかし、出てきた場所が最悪だった。メイアのすぐ後ろから出てきたのだ。驚いて振り返る一同。
「……??何、アンタら」
言っておくが、アイリスの声は今男の声になっている。それが彼女等を正気に戻したのだろう。
メイアがすばやくリングガンを起動して、アイリスに向ける。寝ぼけ気味のアイリスはそれを見ても慌てない。
「貴様、男だな!」
「へっ……?あ、いや……」
ドコッ!
いきなりアイリスの後頭部に保安クルーの一人が警棒を振り下ろした。
「かはっ……!?」
常人離れしていると言っても急所がなくなるわけではない。アイリスは後頭部への一撃で手も無く気絶してしまった。
「まだ男がいたの?」
ジュラも抜きかけた剣を戻して言った。
「どうやらそうらしい。危ないところだ……」
どうもメイアはアイリスがお頭を狙って出てきたのだと思っているらしい。
「監房へ……、とりあえず放り込んでおこう」
ガンッ!!
「……ってぇ!」
ヒビキが頭を打ち付けた。起きると同時にベッドに頭をぶつけたのだ。
「大丈夫か?」
そんなヒビキの後ろから声が掛かった。
「誰だ!」
振り返った先にはドゥエロがいた。
「ドゥエロ・マクファイルだ。名前はあるのかな、3等民君?」
これが2人の出会いだった。
「馬鹿にすんな。俺はヒビキ・トカイだ!ただの3等民じゃねぇぞ!」
「……ぎゃあぎゃあ、うるせぇなぁ」
ドゥエロ相手にまくし立てるヒビキの後ろからまた声がかかる。
「!?」
見れば、さっき昏倒させられたアイリスがそこにいた。ヒビキより先に気がつき、起きていたのだ。無論ドゥエロと挨拶は終えている。
「誰だ、てめぇは?」
「イリス、そう呼んでくれ。ヒビキだったな。ま、この船の中じゃ数少ない仲間だ。仲良くしようぜ」
言って手を差し出した。意外に細い手を差し出され、困惑するヒビキ。が、結局握手で返した。
これもヒビキとアイリスとの出会いだった。
「聞くが、式典で暴れたのは君だったな。」
ドゥエロが再び口を開いた。
「……どうやって忍び込んだ。何のために?」
「ち、質問の多い日だな。いいか、俺は……!」
と、言いかけた瞬間足元で異音がした。
「ガガガガ……!」
ヒビキが抱えていたナビロボが異音を発していたのだ。ナビロボも監房に放り込まれた口だった。
そして、いきなりその体から腕と足が飛び出し、そのモニターには目が表示された。
「……ココハドコ?私は、誰?」
のような感じで頭をかきつつそういったのだった。
「おめぇ、そんなんだったか?」
ヒビキがつぶやいた。
その頃、再び格納庫。
誰もいなくなったかと思われた格納庫だったが、ガラガラと音がして山のような部分になっていた箇所が崩れた。そこは先にヒビキが登ったグラン・パ象のあった場所だった。
「……ひぇ〜〜、ひどい目にあった」
中から這い出してきたのは何とバートであった。何と言うことか彼は出撃の際、真っ先に像の空洞部分に隠れたのだ。そして、そのままあの爆発に巻き込まれたのである。つーことは5人じゃなくて6人だったことになる。失敬。
さて、像から這い出した彼はあたりを見渡しつつ格納庫を移動し始めた。
「いったい、どうなっちまったんだ?ここは……」
その時、
ドォォオォン!!
「ぬわぁぁぁ!?」
いきなり彼のそばに枯渇したペークシスの塊が落ちてきた。
「くそぉ……なんだよちくしょう」
腰を抜かしたバートは立ち上がろうと後ろを向き、何かに頭をぶつけた。
「……え?」
見上げると、そこにはリングガンを起動したメイアがいた。
「は、はは……」
「ほら、直してやるからこっち来い」
「馬鹿にするなピョロ!壊れてなんか無いピョロよ!」
人間のように憤慨するナビロボ。壊れていなければ何なのだろうか……。
「どうみたってお前……」
「しっ!」
アイリスがヒビキを制した。廊下から響いてくる足音を聞きつけたのだ。足音はおよそ3人。
そして、入ってきたのはあのブザムと保安クルーの白基調の制服を着た二人が入ってきた。
ヒビキはあからさまに睨みすえ、ドゥエロとアイリスは静かに見るのみ。
「……ふん。おい女、こんなところに閉じ込めて何のつもりだ!」
「この状況下では、一番安全な場所なんだがな」
毅然と腰に手を当てて話すブザム。その態度が癪に障ったのかヒビキは更に言い募る。
「んなこと言って、肝食う気だな?!」
「肝を……食う?」
その言葉にブザムのほうが一瞬キョトンとした。そして、後ろの保安クルーまで、
「ぷははは、本気で信じてやんの!」
もう一人も口を押さえているものの明らかに笑っている。
「な、何がおかしい!」
「肝を食うかは別として、来てもらおうか」
「こいつは、どうなってるんだ?」
艦内を歩きながらヒビキはペークシスがはびこる艦内に驚いていた。
「艦内は全てこんな状態なのか?」
ドゥエロは静かに問う。
「あぁ、そうらしい。我々とて全てを把握できているわけではないがな」
「へっ、ザマみやがれ」
つぶやくヒビキの視線に先を歩く保安クルーが入った。男女のつくりが違うのはいまさら言うまでも無いが、ヒビキたちタラークにとって、改めてよくよく見れば、胸に何か入ってるんじゃないかとか、しりに何か詰めてるんじゃないかと思うのは当然の疑問であり、
「何いれてんだ?」
何の脈絡も無く、ヒビキは目の前を歩く短髪の保安クルーの尻に触れた。
「ひっ、な、何すんのよ!!」
バッシィィィィン!!
「……痛ってぇぇ」
「自業自得だピョロ」
「……まったくだ」
ロボットにまで野次を言われてしまっては人としていかがなものか。
ヒビキたちは今風呂場へと連れてこられていた。ペークシスの影響が少なかった場所のひとつだったからだ。今は、端末が設置され、緊急の司令室になっていた。
『ここどこ〜〜!』
『もしも〜し、誰か〜〜』
そんな通信がひっきりなしに聞こえてくる。
と、
「なんだい、捕虜って言うから来て見りゃ、ガキばっかりじゃないか」
マグノが現れた。そこへピョロが進み出て、
「何でも聞くピョロ。何でも話すピョロよ」
「おやま、ナビロボじゃないか。まだ動くのが残ってたんだねぇ」
ピョロを見て、声を上げるマグノ。
「ちょっと待て、これは男の船だぞ。どうして男の技術に詳しい?」
ヒビキが思わず聞いた。
「おや?アンタ達何にも知らないんだね。いいだろう教えてやるよ。この船はね元々移民船だったんだよ」
「戦艦に居住区を足して移民船にしたんだピョロ」
ピョロが補足した。
「それをあろう事かアンタ達の根性なしの爺様達が持ち逃げしたんだよ」
衝撃の事実だった。タラーク出身のヒビキ達にとっては。アイリスは情報を整理しようとじっと目を閉じたままである。
「二つに分かれたと思ったが、また元の戦艦の姿に戻っちまうとは皮肉なもんだねぇ」
整理するなら、このイカヅチは元々女の戦艦と合体、もしくは連結していてひとつの移民船として、使われていたということだろうか。
と、そこにメイアが入ってきた。
「何だい。まだいたのかい?」
「はい。プラットホームに隠れていました」
「……ははは、会えて嬉しいよ、ご同輩」
「バート……」
バートもアイリス達のほうへと追いやられ、マグノがまた話し出した。
「さてと、あたしらも海賊だから、この船は遠慮なく頂くとしてあんた達の処分だが……」
と、すかさずメイアが、
「捨てましょう。ただでさえ不確定要素が多いときです。敵をそばに置くのは危険です」
「まぁ、そんなに焦る事は無いよ。どう料理するかはゆっくり考えるとしよう」
と、ヒビキを見据えつつ、舌なめずりなどする。
「!! やっぱ食う気だ……」
ヒビキは真っ青になる。
その頃アイリスは依然として情報の整理中だったが、いきなり目を開け、天井を見上げる。
長年……と言ってもそれほどでもないが、旅と戦いの中で叩き上げられた感覚が、何かの接近を告げていた。
その頃、ディータとエズラは変わってしまった庭園のテラスで星を眺めていた。といっても、ただ眺めていたわけではなくエズラは観測機で座標を見つけようとしているのである。ディータは単に話し相手が欲しかっただけだ。
「でもすごいよね〜、ペークシスって。こんな風に宇宙船を改造しちゃうなんて」
観測機を覗きながらエズラがつぶやいた。
「そうだよねぇ。アタシも宇宙人にさらわれたらどんな改造されるんだろう。」
まるでそうなることを望むように目を輝かせるディータ。
そんな取り止めの無い会話をしていたときだ。エズラが観測機の先に光るものを見つけた。
「あっ、何か光った!」
ディータも肉眼ながら何かを見つけたようだ。
「何かしら……」
困惑するエズラだが、
「決まってるジャン、UFOよ!!」
猫のような声でディータが叫んだ。……危機感あるんだろうか。
「で?そっちのロン毛くんはドクターで、そっちのチビッコいのは……」
「アタッカーです。ヴァンガードに乗り込むところを見ました。」
メイアが付け加えた。
「ちょっ、ま……!」
ズン!
いきなりヒビキのみぞおちにひじうちが入れられた。バートである。黙れと言うことらしいが……、
「……て、め」
「ふぅん、アタッカーねぇ。とてもそうは見えないがねぇ」
結局、マグノの中ではヒビキはアタッカーにされてしまった。
「おい、ま……」
ゴキ!
いやな音がした。
「んで、そっちの兄ちゃんは?」
アイリスを見て言った。
「はぁ、たぶん兵士だとは思うのですが……」
あの格納庫での一件を思い出してメイアは困惑した。人智を超えた跳躍力を持った人間を兵士といっていいものか。
「アタッカーです。」
アイリスが声を上げた
「ん?」
「だから、蛮型の搭乗員だって言ってるんですよ」
「……ほう、アンタがねぇ」
おやつなど口にしながらアイリスを見るマグノ。静かな目で見返すアイリス。
と、
『何かが接近中です!!』
エズラからブザムに通信が入った。
「何かとは何だ?」
『それが……』
『宇宙人です!!』
ディータの能天気な声が聞こえてたかと思ったら、
ドドォォォン!!
いきなり艦全体が強烈な衝撃に揺さぶられる。
「な、なんだい!」
「ドレッドチーム出ます!」
言ってメイアが飛び出していった。
「パルフェ、船は動かせるか」
ブザムはさらにパルフェに通信を送るが、
『無理です!まだ回路も復旧してないんです!
今はかろうじて船のオートディフェンスが稼動しているだけです!』
踏んだり蹴ったりだ。
船の外では両者が見たこともないマシンが攻撃を仕掛けてくる。ひし形に手足がついたような物だ。
それが数機断続的に船に攻撃を仕掛けていく。
そして、
ドォォォォン!!
いきなり風呂場の壁の一部が崩れる。運悪くその下にいたヒビキをひっぱたいた短髪少女が、瓦礫に挟まれた。
「大丈夫!?今、助けるから!」
同僚が慌てて引っ張り出そうとするが、
「動かしてはいかん!!」
鋭く叫んだのはドゥエロだった。反射的にリングガンを向けるクルーを無視して少女に駆け寄る。
「心配ない。私は医者だ。さ、まずは掘るんだ。手伝って!」
「あ、……はい」
気迫に圧されて彼女もドゥエロと共に瓦礫を掘り返し始めた。しかし!
ドォォン!!
3度目の衝撃。その時、彼女達の頭上が大きな塊になって落下してきた。
「危ない!」
ブザムが声をあげ、ドゥエロが振り返り、
ゴバァァァァン!!
轟音と共に瓦礫が粉微塵に吹き飛んだ!そして、すたっと着地してきたのはアイリスだった。
アイリスは瓦礫が落ちると見るや、床を蹴り瓦礫に蹴りを叩き込んだのだ!無論、衝撃波つきの。
蹴りの破砕力と衝撃波の粉砕力で瓦礫は粉微塵になったのだ。
まぁ、一般の人から見れば飛び蹴りで瓦礫を粉砕したとしか見えないだろうが。
「ほらほら、ぼさっとしてないで掘った掘った!」
言いながら、自分も瓦礫の撤去を手伝い始めるアイリス。唖然としていた二人だが、我に帰るとまた瓦礫をどけ始める。
それを見たバートは振り返ると、
「どうやら、我々の力が必要なようですな」
マグノを見据えてそう言った。
「…………ほぉ」
バートの心中を見抜いたようにバートを見るマグノ。
「確かに我々は敵同士だ。お互いに誤解があるのはしょうがない。いや何を隠そう僕は操舵士でねぇ」
「ふぅん、お前さんが操舵士ねぇ」
「警告、警告!コイツ嘘っぽいピョロ!」
ナビロボが口を挟んだ。
「お前さんは、黙っといで」
「……確かに今、船は航行不能の状態だ。なおかつ未知の敵の攻撃を受けている。
そこで、我々は一時休戦ということにして、力を合わせようとこういうわけでして」
「なるほど……。いい考えだね」
「お頭!」
ブザムがさすがに意見をするが、
「おぉ、ご英断感謝します」
と、手を出すバートだが、マグノに杖で叩かれる。
「勘違いするんじゃないよ。馴れ合う気はないんだ。あくまで捕虜として扱うよ。いいね!」
「……あ、はい」
まぁ、当然の結果と言えよう。
メイアはプラットホームに走りながら、通信機を取り出した。
「バーネット、今何処に?」
『パイウェイに閉じ込められて出られましぇーん』
通信機の向こうから情けない声と、飛沫音それから怒鳴り声が聞こえる。
「ガスコさん。そっちは?」
『ペークシスに食われてドレッドは出せないよ。今出せるのは男の船におきっぱなしのあんたらの3機だけさ。
……後ね、ガスコじゃないの、ガスコーニュ!』
メイアはそれには取り合わずにジュラを呼び出す。
「ジュラ、今何処だ。」
『今プラットホームに向かってる』
メイアより先に格納庫へたどり着いたジュラとディータは、そこにあった自分達の機体を見て唖然となった。ジュラ達の機体はペークシスに呑み込まれてまったく別物へと進化していたのである。
「何これ。ほんとにウチらの?」
「わーお……」
メイアも追いつき、自分の機体へと乗りこんだ一同。
「見た目ほどシステムは変わっていないようだな」
風代わりしたコックピットとは裏腹に、システム自体は改変されていないようである。
『こっちはいつでも出られるよ』
『絶対パワーアップしていますよ。これ!』
興奮するディータをいさめメイアは言った。
「まだ全てを把握できたわけではないんだ。決して深追いはするな。特にディータ」
『ラジャー!』
『ら、ラジャー……』
新人には痛い一言であった。
轟音とともにドレッドが格納庫から飛び出してきた。とたんにキューブ型は目標をドレッドに変更した。
「やめてぇぇぇ!ディータはピースフルレースなのよぉ!」
「ディータ、相手は敵よ!……って、あの子あんなにうまかったっけ?」
そう、ディータのドレッドはキューブの攻撃をかわし、猛スピードで離脱突入を繰り返している。
そんな中、メイアは、
「くっ……なんだこのレスポンスは!」
ダイレクトに伝わってくるGに必死に耐えつつメイアは毒づいた。それだけ機体の機動性が上がっているという事である。
その時、後方から妙なマシンが近づいてきた。それはピロシキを模したような格好をしたもので、その口のようなところが開いたと思ったら、正方形状の物を排出。さらに、その正方形は分離して100近いキューブに変形したのである。
「何だあのシステムは!まさか、本当に宇宙人だとでも言うのか」
『確かにコイツ等未知の敵だ。男じゃないよ!』
『判りましたリーダー!あいつらは悪い宇宙人です!』
『……コイツは……』
妙なテンションで憤慨するディータに閉口する二人。
『だめだ、メイア後退するしかないよ!』
さすがに手一杯になってきたジュラが叫んだ。
「しかし、……最低でも母艦が動いてくれれば」
「ここでは満足な治療はできん。医療室へ運ぶぞ。」
手錠を開錠してもらい、診療していたドゥエロが言った。
「いいだろう。案内してやんな。
それからあんたは一緒にブリッジに来な。BCはアタッカーを格納庫へ」
「判りました」
「あ、ちょ……」
いまだ持って否定しようとするヒビキだが、問答無用と追い立てられる。無論、アイリスもおとなしくついていく。
歩みよりは始まった。
まだまだ先は長い。その中で彼らがどのような変化をしていくのか。
それはまだ分からない。
―To be continued―
2002/08/14