助けない事は罪である。見守る事は大罪である。

 

 VANDREAD the unlimitedSecond Stage

 

 3・科学の限界、魔法の限界

 

 

『医療日誌、ドゥエロ・マクファイル記録。

 この星に来てすでに3日が経過している。この星は人だけでなく、生きとし生けるもの全てが病に侵されている。

 星には明らかに人為的な手が加えられており、地球による生体実験惑星ではないかと推測する。

 我々は厳重なる防疫措置で感染を免れているが、この星に生を受けた人々は生まれながらにして、大気、土壌、水質の害に侵され、場当たり的な治療では気休め程度にしかならない。

 医者として、一人の人間として、地球の行いに憤りを禁じえない。』

 

 ドゥエロの記録する日誌の通り、この星は何者かの手によって星の環境自体が劣悪な状態だった。誰の手、と言った所で誰のせいかは言うまでもないことだが。

 現在、星に置かれている病院ではドゥエロ達による医療チームが患者たちの対応に追われている状態だった。満足な治療の受けられない現地の病院より進んだ医療が受けられると、人々が大挙して押し寄せてくるのだ。整備クルーまでかりだされ、大騒ぎになっている。

 そんな中、外ではパルフェ達によって星の大気の調査が行われていた。

 と言っても……アイリスが自前の機械を出すまでもなくパルフェたちが機械を起動し、センサーを出した瞬間から警告音が鳴り止まないのである。

 アイリスの腕にしている万能検知器はシャトルのドアがいた瞬間から警告が鳴り止まないが。

「こりゃダメだぁ。根本的にテラフォーミングし直さなきゃ。……そっちはどう?」

 パルフェは通信機を取り出し、宇宙で大気圏を押さえているヴァンドレッド・ジュラに聞いた。

 

「星の大気圏は押さえたぞ」

 バリアを展開して、ヒビキが答える。

『OK。何回か実験してみるからそのままでよろしく』

「解った」

「ねぇ」

 マニキュアを塗りながらジュラがヒビキに声をかけた。

「何だよ」

「ここで何が起こっても、知ってるのは二人だけ……よね」

 言いながら、ヒビキに擦り寄っていくジュラ。

「な、何だよ。近寄るな!」

「ジュラねえ、最近男に……」

 その行動にただならぬものを感じたヒビキはジュラから離れようと椅子を移動させる。それを追いかけるジュラ。

『ちょっとオバサン!妙な事しないでくれる?』

「!……誰がおばさんよ!!」

 モニターしていたらしいミスティが割り込んできた。次にディータも割り込んできて、

『宇宙人さん、大丈夫?何か変なことされてない?』

 ミスティほどに直接的ではないが、ディータも明らかに不快そうだ。

「妙な事って何よ。たとえば……」

 言いながら、ヒビキにキスしようとするジュラ。案の定興奮しだす二人。そして、

「だぁぁ!!いい加減にしろぉぉぉ!!」

 キレるヒビキがいた。

 

 

 

 広大かつ不毛の大地にいくつもの棺が置かれていた。それは、マグノ達がここに来てからたった3日の間に亡くなった者達の棺だった。

 この星の長が最後の棺から人形を拾い上げる。

「さあ、土に返してやろう」

 今回はマグノもこの星に下りてきていた。この病の星を見ておきたかったらしい。同様にバートも降りてきていた。彼はほとんど自発的かつ強引にだが。

「それはできません」

 長は淡々とそう答えた。

『え?』

 一瞬その場にいた者は考えが硬直した。普通亡骸は土に返すのが世の習いだと思うのだが。

「遺体は地球が回収しに来るのです。あの機械で山頂へと運ばれ、定期的に地球の輸送船が回収しに来るのです」

 彼は丘の先にある施設を指しながら言った。

「そんな……」

 

 

 

『亡骸を残せない者達に変わりに、彼らは一生を通じて人形を作る。それだけが彼らがこの地に生きた証であり、魂が宿る場所だという。苦痛のみを甘んじ、潰えて行った命のともし火は何人にも受け継がれることはない』

 ドゥエロはそこでペンを置く。

『……ははは』

 後ろ、隔離病棟から誰かの談笑する声が聞こえた。

 

「それでさ、何の因果か知らないけど男と女の船がくっついちゃってさ、しかも謎の敵が迫ってると来た。皆が混乱している中、僕が機転を利かせたんだ。」

「どんな作戦?」

「ふふ〜ん、僕にしか思いつかなかったと思うよ。……宇宙を飛び越えたのさ!」

 談笑しているのはバートだ。相手はまだ年半端も行かない少女だった。

「シャーリー、宇宙を飛び越えるのって、どんなことかわかる?」

「……痛いの?」

「いや、びっくりするのさ!!」

「あはは、もう……!」

 そんな様子を外から見ているのはバーネットとガスコーニュ、ピョロだ。

「びっくりしたのは、こっちなんだピョロ」

「あれだけ堂々とホラを吹かれると怒る気にもなれないね」

 ため息をつきながらガスコーニュがいった。

「でも可哀相。あの子、生まれた頃からこの隔離病棟にいるって言ってた」

 その後ろからバーネットがさきほどマリーから聞いた話をした。生まれながらにして抵抗力の弱かった彼女はほかからの感染がより強く現れてしまう。故にここに隔離せざるを得なかったのだ。

「……ふ〜ん。あのくらいのヨタ話は許してやらんといかんかねぇ」

 

 

 

 

 機器に補給物資のリストを打ち込み、ドゥエロがパイウェイに言う。

「補給物資の補給を依頼した。明日には届くだろう」

「そしたら皆元気になるケロ?」

 顔を覗かせたのはパイウェイのカエルのバッグだ。ドゥエロが振り返ると彼女も沈痛そうな顔で言う。

「皆かわいそうだよ」

「努力はしている。マリー達の魔法による治療が不可能となっては、我々ががんばるしかないのだからな」

 魔法による治療、彼らが事実上最も期待していたのがそれだ。しかし、マリーが惨状を見て即言ったのは、「私の手には負えない」ということ。

 何故手に負えないかといえば、それは彼女の扱う魔法の特性にある。

 彼女の使う治療魔法の性質には以下の3タイプ。

 

 1:けが人の新陳代謝を促進させ、治癒能力を高める。

              欠点1:本人の体力しだいなので、病人に使うのは逆に体力消耗につながる。

              欠点2:回復する細胞を選べないということ。病原菌まで活力を増進させてしまうのでまったく論外。

 2:自分の魔力を送り込み、細胞を復活させる。

              長所:爆発的な回復力を誇る。複雑な術式の元ならば欠損した体の器官までも復活させることが可能。

              欠点1:遺伝子が記憶した体を復活させることになるので、病原菌を内包した物を再生することになる。

              欠点2:解毒という属性が付加していない。

 3:解毒

              欠点1:毒物に対しての解毒作用しか持っていない。

              欠点2:遺伝子に刷り込まれてしまった情報を書き換えることは不可能。

 

 以上。

 マリー自身は遺伝子に関する知識は皆無に等しい。変わってアイリスは遺伝子治療に関しての知識はほとんど無い。できないことも無いが、設備が無い。

 3ないづくめでどうにもならないのである。

 二人とも肩身の狭い思いで病人の治療に当たっていたのだ。もちろん通常の投薬で。

 と、

「なぁ、ここの人達をタラークに連れて帰るってのはどうかな」

 バートが病室から出てきていった。だが、

「それは無理だ。彼らにとって長旅は体力を消耗させてしまう。それに、我々の船には設備が無い」

 ドゥエロにもバートの気持ちはよく解る。人の命を救いたいのは彼も同じ。いや、クルー全員の意思だ。しかし、それができないのも現状。

「そう、だよな。ハハ、悪い忘れてくれ。……ハハハ」

 力の無い声でその場を立ち去るバート。

『……………………』

 無力という言葉を彼らはここにきて始めて知ったのだと思われる。

 その後深夜になっても、バートは船から持ってきた医学書をむさぼるように読んでいた。そこから得られる知識は微々たる物だろう。例え、本の一字一句覚えたとしても彼らの治療に役立つ事柄など1割にも満たない。

 そんなバートを眺めていたマグノも、どうしようもない憤りを感じていた。

 

 

 

「これで……と。OK!打ち上げて!」

 パルフェの号令でピョロがペークシスを大気中に打ち上げる。はるか上空でペークシスは霧散し、大気を人の住める状態に改造するはずだ。

「お願い……うまくいって」

 さっきからこんなことを何度も繰り返している。だが、成果は一行に無い。

 そんな打ち上がっては舞い降りるペークシスの雪を眺めながら、離れた場所でアイリスは計器をいじっていた。

「……何度やっても無理か」

 表示される数字の羅列を見てアイリスはため息をつく。

 やっていたのは、彼女たちのテラフォーミングの結果予想だ。星の質量、鉱物の含有量、大気の濃度に、そこから発生する有害物質の量。

 ありとあらゆる情報と想定を組み込んで彼女はさっきから数万回に及ぶシミュレーション処理を行っていた。

 だが、想定外の要素をふんだんに加えたとしてもこのテラフォーミングが成功する確率は“10-10”%未満というとんでもなく絶望的な数値だ。

「持ってきたペークシスの量が少なすぎるのよね」

 打ち上げる機械が小さすぎる上に霧散したペークシスが逆に星側の環境に塗り替えられている。

 もしも、ニル・ヴァーナに搭載されているペークシスの半分を使ったとすれば約10%、全て使って40%。どう考えても絶望的だ。

 星が成熟しすぎて環境改善するには遅い時期になってしまったのだろう。

「教えるべきか、否か」

 必死で動き回る彼女たちにこの結果を伝えるべきなのか?進んで絶望を彼女達に教える?どうしようもない事を教えて恨まれる?

「……何言ってんだか。私は」

 パタンと計器を閉じ、立ち上がった。

「テラフォーミングの手伝いなんて無理だし、星の環境丸ごと変えたとしても、奥底に溜まった根源まで除ける訳でもないし」

 アイリスとマリーの力なら星全体を一瞬にして緑の惑星に変えることも可能だ。だが、星に根付いた悪性が消えてなくなるわけじゃない。

 大気にも土壌にも水にも遺伝子や分子単位で潜り込んでいる奴を全て調べ上げ、根絶するだけで何年かかるか分かったもんじゃない。

「無力……か。私達が」

 自分の手を見つめて、アイリスはしばらく立ち尽くしていた。

 

 

 

 翌日、

 シェリーはベッドの上で一心不乱に何かを縫っていた。

「あら、シェリーちゃん。何を作ってるの?」

 マリーが洗い終わった布を抱えて入ってきた。

「あ、マリーお姉ちゃん」

 二人はすでに面識があった。昨日一番初めに彼女の診療をしたのが彼女だったからだ。

「あのね、お人形作ってたの」

「あらぁ、器用なのねぇ」

 布を置いた彼女は彼女の手元を見た。

「……!」

 彼女が持っていたのは七割がた出来上がったバートの人形だった。

「……………………」

「お姉ちゃん?」

「え、あ、上手じゃないシェリーちゃん。よく似ていますよ」

 と、彼女の頭をなでるマリー。

「えへへ」

 無邪気な子供の笑顔。

「それじゃあね、シェリーちゃん。私はまだお仕事があるから」

「うん、またねぇ!」

 入り口で手を振り、彼女は病室を出る。

 

 

 ギリッ!

 自分は逃げ出したかったのか?それとも誰かを憎みたかったのか?

 歯が鳴り、爪は手のひらに食い込んだ。怒りなのか悲しみなのか、何度味わったか分からない感覚。一度として慣れる事のできない感覚。

 ただどんな自己憎悪を燃やしたとしても後に待っているのは「己の無力さ」のみ。

 「彼女を治癒することはできない」とマリーはシェリーを見て言った。言いたくなど無かった。できるならしたかった。いや、己の力で星中の人々を救えるならそうする。だから彼女は自問した。この“力”は万能じゃなかったのかと。否、万能じゃないのは自分だ。

 魔法という範疇に自分の力を縛り、万能だと思い込んでいたに過ぎない。

 人の心など操るものではない。人の命は奪うものではない。だが、誰かを救いたいと思うことは罪ではないはずだ。

 人の構造を熟知しているとは言いがたい。人間の遺伝子情報が全て解析されたとしても、人を“個人”たらしめている物の存在を誰が証明した?

 数千、数億、無量大数の単位にまで上る“個人”を形作るシステムに、マリーは何も知らないまま直面している。

 今から学び始めたとしてもおそらく間に合わない。

「……万能で無力な存在」

 爪の食い込んだ手のひらを見つめる。食い込んだ爪で手のひらに血がにじんできている。だが、両手をすり合わせただけで傷は後も残らず消滅。まるで傷を負わなかったように完治。

「……………………」

 自分の体は、これだけで治せると言うのに……、

 カツーン

「!」

 廊下からバートが姿を現した。少々落ち込んだ表情をしている。さすがに何も頭には入らなかったようだ。

「おはようございます。バートさん」

「あぁ、おはよう。いいかな?」

 シェリーの部屋を指す。やはりシェリーに会いに来たらしい。

「えぇ、起きてますよ」

 それだけ言い、会釈をしてその場を去った。

 ただ無性に、その場から消えてしまいたかった。

 

 

「あの二人、大丈夫でしょうか」

 メイアがそう漏らしたのは、ヒビキ達が5回目の惑星のホールドを行っている最中だ。

 その横でブザムが計器のチェックを行っている。

「と、言うと?」

「断続とはいえ、星をホールドしている時間はかなりのものです。あの二人の負担はかなりのものになっているでしょう。」

「……そうだな。パルフェの話によれば二人の気力と、ペークシスの機嫌次第だと言っていたが」

「ペークシスですか。この星もペークシスのデータを欠損させて作り出された星と聞きました。時々、この物質は何なのだろうと思うときがあります」

「私もだ。今までは単なるエネルギー源と思っていたが、時々、まるで意思があるように思える時がある」

 メイアもブザムもここ最近の出来事に関し、ペークシスに対して疑心がわいてきていた。都合のいいエネルギー源。それが一転自分達をこれほどまでに変えてしまった正体不明の物。

 二人がペークシスというものが何なのか解らなくなっていたのである。

 ピピピー!ピピピー!!

 その時、耳を劈くかのように明かりの落とされたブリッジ内に正体不明機の接近を警告するアラームがなった。

 

 

 

 シャーリーの容態が急変した。

 物々しい機器が彼女に取り付けられて十数分。どうにか落ち着いたのは数分前だ。マリーの見立てでも、ドゥエロの見立てでも「彼女はもう長くない」という事だった。

 元々彼女が隔離室にいたから持っていたようなものだったのだ。無理も無い。

 ドゥエロもマリーも今は新たに運び込まれて来た患者達を診ていた。中には出産間近の妊婦の人もいたのだ。

「バート」

 病室の外から彼を呼ぶ声がする。だが、バートは反応しない。

「敵が来た。ニル・ヴァーナに戻る」

 彼の気を察してかバーネットも口調は静かだ。だが、バートはやはり動かない。

「ちょ……!」

「お待ち」

 踏込もうとするバーネットを後ろからガスコーニュが抑える。バートとて自分が行かなければ船が動かない事は先刻承知だ。

 しばし、バートは立ち上がり、シャーリーの布団をかけ直した。そして、意を決した表情で二人を振り向いた。

「行こう!」

 

 

 

 先に出撃したのは船に残っていたメイア達のドレッド部隊だ。

「ディータ!バーネットが合流するまでBチームの指揮を任せる。できるか?」

「もちろんです!宇宙人さんもがんばってるんだし、私もやります!」

 元々ヴァンドレッドに合体予定の2機がチームの指揮に回る。その意味はヒビキが星をホールドしている今の状況にある。

 今回襲ってきた敵は前回の水の惑星と同じユリ型のデカい奴だ。ヴァンドレッド・ジュラが星をホールドしていれば地上への被害は免れる事ができる。

 まぁ、ヒビキにしてみれば、「そりゃねぇだろぉ!?」な状況だが致し方ない。

 そして、ユリ型に随行していたキューブ型がドレッド部隊と衝突する。

 前回と性能が格段に上がったキューブ相手に善戦するメイア達。

 だが敵を突破し、いざユリ型に攻撃を加えようとするとすると、なんとキューブ型が集まり盾の様にユリ型への攻撃を防ぐというなかなか生意気な戦法を取ってきた。

「ち、敵も知恵を付けてきたな」

 機を反転させ、忌々しそうにメイアはキューブを睨み付ける。

 さらに、ヴァンドレッド・ジュラも敵の攻撃に晒されていた。

 ドレッド部隊の防衛から抜けたキューブが無防備状態のヴァンドレッド・ジュラに対して攻撃を行うのは簡単だった。そして、ヴァンドレッド・ジュラの援護に来たドレッドに撃ち落されたキューブの内の一機が星の引力に引かれ、弱まりつつあったバリアを突き破り星へと落下してしまった。

「しまった!!」

 

 

 

 ズドーーーン!!

 町は一歩はずれたが、強烈な衝撃が外で作業していたパルフェ達、ドゥエロ達を揺さぶる。

 そして、シャーリーの意識も揺り起こしていた。

「あ……」

 いまだ薄い意識の中で彼女は周囲を見渡す。左を向いて目に入ったのは縫いかけの人形だ。

「お人形……作らないと」

 弱った体で必死に手を伸ばし人形を取ろうとする。

 しかし、下に引いた布まで届いたところで、彼女の意識はまた深い闇の中へ沈んでいった。

 

 ビーー!!

「――!!?」

 患者の急変を知らせるブザーが鳴った。

「どこの部屋?」

「シャーリーの部屋だ。パイウェイ、すまないが出産はお頭にお願いしてくれ!私はシャーリーを診る」

「でもドクター!今度こそ出産に立ち会うって」

 エズラの出産以後命の神秘に多大な興味を持っていたドゥエロであったが、

「この星に来て気づいた。医者の本分は研究ではない。患者を救う事だ」

 それだけ言い残し、彼はシャーリーの病室へと駆けて行った。

 

 

 

 ユリ型はゆっくりとヴァンドレド・ジュラへと接近する。そして、その口を開きあの強烈な吸引を開始し始めた。

「きゃぁぁぁ!!」

 その吸引に誤ってディータが入り込んだ。

「ディータ!無理をするな、我々まで吸い込まれるぞ!」

 何とか脱出したディータにメイアが怒鳴る。

「でも、宇宙人さんが!!」

 その直後、ユリ型の口に大量のミサイルが飛び込んでいった。強烈な爆発と衝撃で吸引力が弱まる。

 

『ジュラ!お待たせぇ!!』

『どうだい?ちったぁ黒子の気持ちがわかったかい?』

『とっとと片付けて戻るわよ!やる事溜まってるんだから!』

 遅れてきたバーネット機とデリ機、そしてアイリス機とニル・ヴァーナがユリ型の進路上に立ちはだかった。

「あぁん、バーネットぉ!」

「ち、遅れてきて何言ってやがる。大体受身でどうやって勝つってんだ」

『僕が守る!』 

 ヒビキのぼやきに反応したのはバートだ。しかも、口調がいつもの弱気ではない。

『何があろうと、僕はここを動かない!』

「……何かあったのか?アイツ」

 思わず顔を見合わせるヒビキとジュラであった。

 

 キューブ型の攻撃がニル・ヴァーナを叩く。だが、操縦席のバートはただじっと前方の敵を見据えていた。体中を叩く痛みさえ感じないように。

「お前達にとっちゃちっぽけな命でも、皆必死に生きようとしてるんだ」

 ミサイルのダメージから立ち直ったユリ型がさらにニル・ヴァーナへと接近する。

「シャーリー……、お兄ちゃんはがんばる。だから、シャーリーもがんばれ、……がんばれ!」

 ぐっと手を握る。

「絶対に、お前達の好きにはさせるものか!!」

 雄たけび、そして、操縦席を、ニル・ヴァーナ全体をまばゆい光が包み込んだ。

 

「な、何!?」

 最初、起こった事が誰も信じる事ができなかった。だってそうだろう、ニル・ヴァーナの左右のウィング部分、上部後方のウィング部分、下部の左右が一段せり出し、その間から無数のレーザーユニットが出現し、起動するなど。

 

 操縦席にも無数の新たなロックオンサイトが表示された。その数はゆうに100を超えている。

「この星から出て行けぇぇぇぇぇ!!!」

 バートが叫ぶ、強烈な光と共に砲座全てから怒涛の勢いでレーザーが敵に照射された。

 

「馬鹿野郎!!味方がいるんだぞ!」

 ヒビキが叫んだ。その通りユリ型付近には交戦中の味方とデリ機がいる。

「ひっ!」

「くっ……!」

 誰もが当たると持ったその瞬間、あろう事か味方にヒットするはずだったレーザー全てが捻じ曲がって後方へと抜けて行き、敵だけを貫いていく。

「何、なんなのアレ?」

「都合のいい武器ねぇ」

 エズラがそんなコメントをもらした。

 そして、レーザーは最後にユリ型をめったざしに貫き消滅する。

「すごい……」

 ディータが感動し、

「なかなかクールな真似してくれるじゃない」

 アイリスがため息をつき、

「へへ、アイツも男見せたじゃねぇか」

 ヒビキがバートに対して賞賛を送った。

 

 

 

 その後、病院の外では新たな命の誕生に全員が歓喜していた。

 運びこまれた妊婦の女性が、パルフェ達の考案したベッド一つ分のペークシスで囲まれた空間内で出産を終えたのだ。

 ヒントはドゥエロの一言だった。

『私の推論が正しければ、出産時に汚染から免れれば感染は免れるのだが』

 ドゥエロは出産直後からこの星の大気に触れる事で感染症を起していると考えた。そして、その妊婦を運び込んだバーネット達がそれをパイウェイに伝達。そしてパルフェ達が急ごしらえで作ったユニットが正常に作動し、今に至っているわけだ。

「あは、大丈夫!赤ちゃんは立派な健康体だよ」

「こっちも大丈夫。フィールドは安定してるよ」

 システムはきっちり動作し、赤ん坊も汚染されずに済んだ。万々歳である。

「本当に、ありがとうございます」

 村長がパルフェに近づきお礼を言った。

「そんな……。ホントは星全体を綺麗にするつもりだったんですけど」

「いえ、これで十分です。あなた方は荒廃した大地に聖地を生み出してくださった。枯れた大地に光をもたらしてくれたのです。

 今は小さなスペースしかないかもしれません。しかし、これから私達はここで子を産み育てます。やがて成長した彼らが少しずつ聖地を広げやがて、星全体が蘇る事になるでしょう。

 あなた方はその礎を気づいてくださったのです。これは、いくら感謝しても足りません。本当に、ありがとう」

「……ごめんなさい。私……」

 皆、いや星全体から感謝されパルフェもさすがに涙が漏れた。嬉し涙と悔し涙。混じり混じってごっちゃになりながら、パルフェは泣いた。

 

 

 

 そして、

「シャーリー!お兄ちゃんやったぞ!!」

 バートが大慌てでシャトルから飛び出し、病室に駆け込んできた。だが、病室は沈黙していた。

 シャーリーのベッドに目が行き、バートはその意味を悟る。だが、認めることはできなかった。

「な、何だよ。えらい静かじゃないか」

 ふらりと病室に入る。

「機械も止まってるし、シャーリー、聞いて欲しい話が……」

「バート!」

 ドゥエロがバートを静止する。

「……彼女は精一杯生きた。だが、救う事はできなかった。……すまない」

 その瞬間、バートの心に怒りが湧き起こる。

「どうし……!」

 ドゥエロにつかみかかろうとした瞬間、彼の目の前に人形が差し出された。

「彼女が最後、手を伸ばしていました。自分よりあなたの事を優先させていたんです。その意味、解ってあげてください」

 マリーが静かに言う。

「…………」

 呆然と差し出された人形を見るバート。怒りはすでに消えていた。

 ゆっくりと人形を受け取ると、彼はうつむいたままドゥエロの肩を叩き病室を出て行った。

 

 

 

 彼女の亡骸はみなと同じようにカプセルに入れられた。だが、丘の上へ送られる事は無い。

 この星の人々の魂が集まる場所、そして彼女が行きたがっていた聖堂の近く、小高い丘の上へ埋葬された。ここならば聖堂よりも遠くを見渡す事ができる。いろいろな色を見ることができる。

 この星に初めて身を還す者となった彼女の墓標の前で、マリーは歌を歌う。彼女の死を哀れむ歌を。彼女の魂がこの星を見守り、やがて天へと昇ることを望む歌を。

 声を張り、この星全ての人々へ活力を与える歌を。涙を流しながら彼女は歌う。

 声を高めこの星全ての人々へ届けとばかりに歌い続ける。その願いは簡単に叶う。彼女の澄み渡る歌声は間違いなくこの村の人々全員へ届いていた。ならば、他の場所でも聞こえている。

 マリーは歌い続ける。ただそれだけが彼女のこの星に対してできる全てだから。

 

 

 

 その歌声を聴きながら、バートもまた泣いていた。初めての友達を失った事に胸を締め付けられて泣いていた。

 初めて自分の話を聞いてくれた。瞬きもせずに真剣に聞き入ってくれた。自分の話で感動してくれた。

 そして、今際の際まで自分のために人形を縫おうとしてくれた。

「我慢する事は無い。たんとお泣き、誰かのために流す涙は決して恥ずかしい事なんかじゃないんだからさ」

 マグノに言われ、彼は泣いた。彼女の胸の中で泣いた。

「バート、あんたはあの子の意思を継いだんだ。もうアンタ一人の命じゃないんだからね」

 ただ泣く事でしか、彼女を送る事ができなかった。

 

 

 

 全員が星を引き上げた。

 マグノもブリッジへと戻ってくる。

「発進準備、整いました」

「うむ」

 遅れてバートが入ってくる。

「バート、遅いぞ。一体何……、…………を?」

 ブザムが入り口を振り返り、絶句する。バートがブリッジを歩きナビシートへ向かう。全員がその姿に呆気に取られていた。

 彼は頭の毛を全て剃り上げていた。そして、彼の胸にはかれに瓜二つの人形が揺れていた。

 一息ついてから、彼はナビシートへと身を躍らせた。

「ふふ……、さて遅れを取り戻すよ。故郷へ向け、全速前進!」

『了解。全速、前進』

 彼の中で変わった事、もう二度と逃げないという事。それは、未来永劫彼の人生を決定付ける“誓い”だった。

 

 

 

 ―To be continued

 

 

***********************

 あとがき

 

 はい。第2部3話目でございます。

 えぇ、今現在朝3:41でございますれば、ぜんぜん眠くございません。

 狂ってるなぁ、俺の生活。まぁ、学生なんてこんなもんだろうけど。

 さて、次回はたしかアレだ。アレ。(なんだったか思い出せず)

 ま、いいや。とにかく次回!!(とっす)

 

2004/10/11

ご感想、よろしくお願いしますP!  hairanndo@hotmail.com