あるところに一匹のドラゴンがいた。そのドラゴンはねずみに自分のことを自慢した。
空を飛び、火を噴き、戦いに勝ち続けてきた自分はすごいのだと。
そして、ねずみに言った。「小さく脆弱なお前のとりえは何なのか」と。
ねずみは言った。「それは私には大勢の仲間がいることです」と。
そのとたん、どこからとも無く無数のねずみがドラゴンの体に飛び掛り、ドラゴンは瞬く間に食い殺されてしまった。
VANDREAD――The Unlimited――
13・Gungnir(グングニール)
星になる前のガス惑星というのはこんなものだろう。
核となる部分にガスが寄り集まり、何世紀もかけて固まっていく。そのガス内部は超高重力で、たとえ頑丈でならすニル・ヴァーナといえどもバリアを張っていなければ、瞬く間に圧壊してしまうのである。
押しつぶされる一歩手前という現状の中で、整備クルー達は必死に機体の整備を行っていた。
そんな中を、コクピットから運び出されたメイアが通り過ぎていく。
「すまない。すぐ戻る」
ジュラやディータが無言でそれを見送った。しばし、
「もうやだ!こんなの!」
ジュラが手に持っていたスパナを投げ出して叫んだ。
「ジュラは負ける勝負はしないの!こんなの……こんなの、嫌なんだから」
その場にうずくまってしまった。
だが、誰もそれを責められない。責めたところで事態が好転することは無いのだから。
アイリスも早々に修理を終えて、なんとか勝てる策を思案していたが、どうもいい案が浮かんでこない。
……いっそ見捨てるか。
そんな考えさえ浮かんでくる。だが、そんなことは断じてしない。ここまで来たら一蓮托生だ。彼らの物語の最後まで付き合うことにする。良く転んでも悪く転んでも、すべてが完結しない限り彼女達はここを出られない。だったら、ハッピーエンドがいいじゃないか。そう、思い直し、アイリスはまた何度目かのプランを消去した。
「船体各所に損傷が発生しています」
「外圧、2.3ギガパスカル。なおも上昇中。このままでは圧壊の危険があります」
「やれやれ……ここで余生をのんびりってわけにも行かないようだね」
マグノがため息をついた。
ギギ……ガガガ……ギギギギギィィ
外では何やら物騒な音も響き始めている。
「パルフェ!この音何とかならないの?」
ヴェルヴェデールが音に我慢ならず機関室に通信を送った。
『圧懐の危険がある上に、ペークシスは内圧を高めてて今にもバーストしそうなの。バランスでペークシスそのものは残るかもしれないけど、船体そのものは……』
「まさか、自爆……」
アマローネが呆然とつぶやいた。
その頃、医務室では、
「触らないでよ!」
運びこまれたバーネットが治療しようとするドゥエロをはねつけた。
「触らなければ、診療はできんぞ」
「余計なお世話よ。一体いつの間に運び込んだの。それに忘れたの?あんた達を牢にぶち込んだのは私達なのよ」
「……立場の違いだ。君は君の立場でやることをやった、私は医者として君を診る。それだけだ」
と、その時、
「お医者さん!」
ディータが飛び込んできた。
「お薬頂戴!皆を元気にするお薬!」
「申し訳ないが、君の期待している効果のある薬は無いと思うが」
ドゥエロは静かに言った。現に運び込まれた者達の多くがほとんど自棄というばかりに落ち込みまくっている。ディータの言いたいことは分かるが、マリーでさえ現状が現状だけに口出しできないなのだ。
「だって、皆もうだめだって言ってるんだもん!……」
「そうよ、もうダメなのよ!!」
いきなりパイウェイが怒鳴った。
「ここに来た人、皆言うよ。
メジェールの為とか大きな事言ったけど、なんとなくそんな雰囲気になっちゃったけど、会ったことも無い人の為に死ぬなんて馬鹿みたいじゃないって!」
「――!――」
まぁ、普通の人の心理としてはそうだろう。タラークじゃあるまいし、使命だの、命令だので命を捨てようなどと考える奴はいないだろう。
「……バーネットもそうなの?」
恐る恐るディータが聞く。バーネットもばつが悪そうによそを向き、
「あたしに聞かないでよ。……アンタのそういう無駄に元気なところ、嫌いだって言ってるでしょ」
『…………』
沈黙。
「ディータバカから……それでも、ディータはそんなやだもん!!」
言い放つと走り去ってしまった。
部屋に戻ったディータはベッドに突っ伏した。
「何で、何で皆ダメだって言うの?!」
こういう時こそ、団結が必要だのだが、負け戦というものを知らない彼女達が落ち込むのもあながち無いことではない。
今までの戦いを振り返れば、どんなに追い詰められようが勝って来たのである。
彼女たちの力で、驚異的なヴァンドレッドの力で、本当はいるはずの無い異邦人の力で、最も忌むべき存在であるはずの男たちの力を借りて。
瀬戸際の団結が力を生み、勝利を呼んだ。そして、その瀬戸際の団結は時と共に仲間意識へと変わりつつあったのだ。
そんな重要な時期にこんな事態が起こっては、何もかもがふいである。
「宇宙人さん……」
誰にとも無くつぶやくと、静かに彼女は泣いた。
さて、その宇宙人事ヒビキ=トカイであるが、その頃彼もこの事態を打破しようと一人静かにピョロを拉致って、作戦を考えていた。
一体いつの間にあの場を脱出したのかは、誰も知らない。彼でさえ、気がついたら格納庫にいたくらいの感覚しかないのだから。
「星のガスとペークシスの質量を融合させて星に火をつける。そこまではいい。問題は、脱出のときの速度をどうやってひねり出すかだ……」
彼なりの案がまとまりつつあるようだ。ピョロのモニターには様々なシミュレートが表示されている。
「だから、蛮型だけじゃ無理だって言ってるピョロ」
「……じゃあ、この手はどうだ。」
ヒビキが操作し、シミュレートを変えてみるが、
「ダメ」
「くあっ!」
「ヴァンドレッド・メイアならともかく、この設定じゃ、フレアから脱出することすら危ういピョロ」
「ダメだ。あいつらには頼れない。」
いつに無く、ヒビキがまじめな口調で言った。
「今更、俺が出て行ってあーだこーだ言ったって聞いちゃくれねぇ。一人でやるっきゃないんだよ」
「せめて、アイリスにでも相談すればいいピョロ。彼女は別にどうとも思っちゃいないピョロ」
「あいつか……」
「アイリスの蛮型なら、話は別だピョロ。加速も火力も申し分ないピョロよ」
「いや……だめだ」
せっかくの提案をけるヒビキ。
「アイツを巻き込んだら、全員での案に切り替えられちまう。それじゃ本末転倒だ」
「だから、ヒビキの蛮型じゃ加速が追いつかないピョロ!」
「ブースターは考えたのか?」
突如、横から声がかけられた。ブザムだ。シャッターの音もさせずに一体いつの間に来たのだろか。
「あんたか……」
「それは、もちろん計算に入ってるピョロよ。それでも脱出に後20秒足りないんだピョロ」
「ま、そういうことだ。邪魔しに来たんなら悪いが後にしてくれ」
ピョロに向き直り、作戦を練り続けるヒビキ。
「……成長したな。あの頃よりはまともに見える」
「……なんか企んでるのか?」
ブザムには以前に2度ほど口車に乗せられた経緯がある。それを警戒しているのだが、
「いや、素直な感想だ」
「ふ〜ん」
見向きもせずに、シミュレートを凝視している。
なにやら含んだ視線でヒビキを見るブザム。やがて、踵を返してタラップを降りようとしたとき、
『皆さん!聞こえてますか?』
いきなりスピーカーから大音声が流れた。
『!?』
「……ディータ?」
『負けるとか、死ぬとかって、みんな変です!私達で決めた戦いでしょう!刈り取りとかって、勝手に未来を決められるのが嫌だから戦うって決めたんでしょ!それなのに、自分たちで勝手に未来を決めちゃって諦めるなんて、間違ってます!もうだめだなんて言わないで!言ったらホントになっちゃうよ。ディータはダメだなんて言わない、絶対諦めない!皆と一緒にいたいから、皆大好きだから、皆元気出せだせぇ!!』
最後は嗚咽の混ざった声で、ディータは艦内放送で叫んだ。
「……バーカ」
数分後、レジのトッピングルームにバーネットがいた。コンソールをいじり、何かしようとしている。
トッピングリストをだーっと見流していく。そして、ある一つのオーダーを見つけ決定しようとするが、いきなりエラーの表示が出た。
「つっ、何よコレ」
だが、いくらやってもそれが認証されることは無い。
「無駄だよ。」
いきなり後ろから声がかけられる。ガスコーニュが立っていた。
「それを使うには店長の許可がいることになってる。あんたみたいなせっかちが、無茶しないようにね」
「だったら、さっさとオーダー通して!」
『カミカゼセット』、そう表示されたモニターを指す。これは、彼女達がほとんど男を意識して冗談で作ったオーダーだ。片道分の燃料と水素爆弾(核爆弾)のセット。要するに「神風特攻」だ。
「何を慌ててるんだい」
ガスコーニュは長楊枝を揺らしながらバーネットに近づく。
「誰もアンタのことを責めちゃいないよ。アンタを責めてるのはアンタ自身だ」
「…………」
突っ張るように口を引き締めるバーネット。それを察したガスコーニュも、
「今更突っ張ったって意味ないよ。、この船の皆がアンタのいいところも悪いところも知っちまってる。その上でアンタを仲間だと思ってるんじゃないか」
「……っ!!」
「そうだろ?」
『スマイルスマイル!!』
と、いきなりドアからレジクルーが殺到してきた。
「ごめんね、バーネットばっかり負担かけちゃって!」
「さぁ、お仕事お仕事、忙しくなるわよ!」
あの暗い雰囲気はどこへやらと言った感じで皆が持ち場に入っていく。
「ま、そういうことさ」
その頃、医務室でもクルーたちが駆け込んできて、救急箱を持ってどんどん走り去っていく。誰の表情も明るいようだ。
「……何か、元気になってる」
パイウェイが唖然としてつぶやいた。
「動き出したな」
ドゥエロは満足そうに人の流れを見やり、
「応急処置の準備をしておけ。忙しくなるぞ」
ブリッジ。ブザムが、ヒビキが考えていることを報告していた。
「あの坊や、静かだと思ったらそんなこと考えてたのかい。」
嬉しそうに言うマグノ。実際、艦内の状況が刻々と動き出していることは知っていた。それも嬉しいのである。
「……乗ってみるかい。パルフェ、聞こえてたろ?」
『はい、バッチリです!』
機関室にもヒビキの案は流されていた。
段々と、艦内がいつもの雰囲気になりはじめていた。
「バーストリミットまで後10分!」
「外圧4ギガパスカルを突破!」
「さあ、みんな!忙しくなってきたよ!」
パルフェが溌剌とした声でいった。
「だから、今のままじゃ無理だって言ってるピョロよ」
「うっせーな、無理が通れば道理引っ込むって言うだろ!」
どんなに作戦を変えてもその度に、いや、あらゆる点でドレッドに劣る蛮型であるが故にどうにもいかなかった。
まぁ、無理が通ったところで蛮型が無事でいられるかどうかは保証できようが無いが。
と、その時、
「私のドレッドはどうだ!」
『!?』
聞きなれた声がタラップの下から聞こえた。
「メイア!?」
「これで、スピードの問題はクリアだ。当然、次は考えてあるんだろうな」
「おめぇ……、あぁ、当然だろ!」
そう答えた直後にシャッターが開き、今度はジュラが顔を出した。
「あ、こんなところにいた。仲間はずれにしようと思ったら大間違いよ。ジュラは面白そうなことには、鼻が利くんだから」
さらに、
「ヒビキ!とっとと作戦の詳細教えなさい。ガス惑星の調査はとっくの昔に終わってるんだから」
アイリスも、書類の束を掲げながら入ってくる。
役者が揃うまであと一人。
で、その一人はまだ部屋から出られずにいた。
外がどうなっているかの不安もあるが、皆のふさいでいる顔を見たくないという事もあるのだ。
だが、意を決してドアを開けた瞬間、頭が真っ白になった。
そとではクルー達が右往左往していたのである。
「え、えぇ!?」
「ディータ、何やってんの!格納庫に皆集まってるよ!」
クルーの一人がディータに声をかけた。
「う、うん!」
慌てて走り去ろうとするディータ。と、
「ディータ!」
「え?」
そのクルーは笑みを浮かべながら、
「がんばんな」
親指を立ててそう言った。
「遅い!!」
ディータが格納庫に到着した瞬間に掛けられたのはバーネットの怒声だった。
「まったくとろいんだから」
ジュラまでそういい始める。
「さっさと準備しろよ。オメェも勘定に入ってんだ」
後ろを向き、アイリス達と詳細を打ち合わせるヒビキが言った。
「手抜いたら承知しねぇぞ!」
ヒビキが振り返ってディータを見る。自信に満ちた顔が浮かんでいる。ヒビキだけでなくこの場にいる全員が。
ようやく、館内が一つに戻った瞬間だった。
「はい!」
ディータもようやくそのことを理解したか、笑みを取り戻し、そう言った。
作戦の概要を説明しておこう。
1) バーネット、ディータ、メイアのドレッド3機が惑星のコアに対してレーザーを照射し、星を強制的に活性化させる。同時にヴァンドレッド・ジュラにより星をホールドし、ガス全体を圧縮。爆発の威力を高める。
2) 約1億度に達した時点で、以前に船が融合した時のようにバイバスを使って不純物を外部に放出。不純物との反応により星に着火し、一気にコアをさらに活性化させ起爆。
3) ニル・ヴァーナ、各ドレッド離脱。フレアギリギリでヴァンドレッド・メイアへと変形。フレアを引きずりながらディータ機を牽引し、敵本船に特攻。(この間一切の雑魚は無視)
4) ヴァンドレッド・ディータへと変形。キャノン砲を利用した槍で本船に攻撃。それを追うフレアで内部ごと焼き払う。
以上である。
そして、今回アイリスの任務は、敵の撹乱である。
初めヒビキ達はそれには反対したが、
「どうせ、やること無いんだからそれくらいやらせなさいよ。バリアに群がってくる雑魚どもを散らさないとマズイでしょ?」
ほとんど強行だ。だが、的を得てもいる。
ヴァンドレッド・ジュラが星を圧縮できなければ爆発力が下がり、うまくいかない。
バリア機能に特化しているといってもやはり限度があるので、それをいくらか散らしてしまわないとだめなのだ。
結局、全員がそれに承諾した。
そして、メインの5機が発進した。ガス惑星内での活動のために5機にはあらかじめ強力なバリアユニットを装備させてある。ガスコーニュがいつの間にやったか知らないが、ガスコーニュ曰く、
「客のオーダーに答えられないんじゃ、店長として示しが付かないんでね」
まぁ、そういっていたはいいが、急ごしらえのためにレジクルー達がバテバテになっているのが見えたが。
「バーネット、後頼むわよ」
「任せて」
「行くわよ!ジュラの見せ場!」
「だー、勝手に行くな!」
惑星内でヴァンドレッド・ジュラに変形。さらにバリアを展開させ、星の表面へ移動し始める。
「我々は発射ポイントに行くぞ!」
『了解!』
ヴァンドレッド・ジュラが表面へと出てきた。もちろんそれを察知していた敵側もそれに容赦なく攻撃を浴びせ始める。
「全機、作戦ポイントに到達!」
着たい状況を監視していたヴェルヴェデールがそう報告し、
「よし、作戦開始!!」
マグノのGOサインが下りた。
ヴァンドレッド・ジュラがビットを展開し、星のホールドを開始する。それと同時に3機のドレッドがコアに対してレーザー照射を開始した。
その様子をじっと見ていたヒビキは、
――外すんじゃねぇぞ。俺たちに必要なのは一億度のマッチなんだからな!
「こんな汚れ役いやぁぁ!!」
早くもジュラが攻撃の勢いに耐え切れず叫んだ。
「うるせぇ!しっかり働け!」
機関室では今か今かとその時を待っていた。すでにバイパスの接続は確立し、後は隔壁を開くだけである。
『惑星密度上昇中!』
『圧縮効果により、外圧さらに上昇。圧懐まで3分を切りました。シークエンス移行してください。』
『了解!パルフェ!』
来た。
「皆、行くよ!エンジン、いっぱい!!」
一気に隔壁のレバーが下げられる。
同時に船の外では不純物が惑星内に放出され、さっそく放電反応が始まった。
「がんばってよ、ペークシス!熱が下がれば、後は回復していくだけなんだから」
不安定な明滅を繰り返していたペークシスが段々と落ち着いていく。そして、
『ペークシス、正常値に戻りました!』
ブリッジから歓声が上がった。
「いやったぁぁぁぁ!!」
わーっと、機関室も歓声に包まれる。第一関門は突破した、残るはコアの温度だけである。
『ヴァンドレッド・ジュラ、ダメージ増大!さらに敵勢力が集結中』
『……ホントに大丈夫なのかい?』
モニターにはガスコーニュが不安げな表情で話しかけていた。
「大丈夫だって。アタシの腕を信じてくださいよ」
アイリスは蛮型の中で更なる調整を行っていた。敵陣を引っ掻き回す上で大切なのは、いかに早く動くかということである。はじめから全開で動けるように余分な装備は排除しておいた。
だがその代わり、ガスコーニュに頼み込んでドレッドを6機借り受けたのである。
何で6機というだろうが、ここでさらにアイリスの非常識加減を表すことがひとつ。
それは、先ほどガスコーニュに借り受けを頼みに行ったとき、
「ドレッドを6機、パイロットなしで貸せって!?」
「そ、パイロット無しで」
「何を言ってんだい。パイロット無しでドレッドなんか出した日にゃスクラップで帰ってくるのが関の山だろ」
「何もスクラップにはしないわよ。まぁ、少しはなるでしょうけど」
「……兵装関係のポイントを払ってくれるなら貸すが、ポイントはあんのかい?」
「いやぁ、それなんだけどさ」
アイリスはガスコーニュの耳元で、
「……ガスコさん、こないだカードで負けたツケまだ払ってないよね」
「……! アンタ、ここでそんな事持ち出す気?」
「……いいんですよ、イカサマした事をバラされたけりゃ」
「……わーった、わーったよ!」
こんなところで、賭け事のツケ云々の話をしていること事態間抜けだが、そんなことを言える余裕があることがいい事なのかどうか。
「で、兵装は何がいい」
「弾切れしないようにレーザーだけでいいわ。装備も機動性と加速重視でお願い。それから、コレ」
と、一枚のデータディスクを取り出した。
「なんだいそりゃ?」
「ドレッドの通信と航行プログラムに書き加えてくれればいいです。後はこっちでやりますから」
つーことで、今アイリスはそのプログラムの調整を行っているのである。
そして、
「アイリス、ヴァンガード出撃します!」
翼を全快にしてアイリスもニル・ヴァーナを飛び出した。
『んじゃ、後は任せるよ』
ニル・ヴァーナの前部ハッチが開き、換装ドレッド6機が射出されてきた。
アイリスは、プログラムを走らせると、言った。
「量子リンク接続開始、全操作をヴァンガードへ移行!」
その途端、ドレッド達がまるで意思を持ったかのように動き始めた。
「操舵誤差0.15ミリ。なんとか行けるか」
ヴァンガードの後を追うように、無人のドレッド達が編隊を組んで飛び始めた。
「ガスコーニュ、ドレッドの発艦許可は出してないぞ!」
ブリッジでもいきなり発進したドレッドにびっくりしていた。
『悪い、アイリスに頼まれてね。6機貸し出してやった。パイロット無しで』
「パイロット無し……無人だと?」
ブザムは呆然と惑星外へと飛び出していった7機を見た。
さて、その7機であるが、いきなりとんでもない事になっていた。
ヴァンドレッド・ジュラのバリアを抜けた7機はまるで人外の動きを見せ始めたのだ。
まぁ、アイリスはいつもの通り、やたらド派手に飛び周り、当たるを幸いにと切りまくる。
そして、ドレッド。これがまたありえない。急加速に急旋回。中に人が乗っていたら骨折や脳震盪ですむような生易しいものでは無い、劇的に乱暴な操縦で敵を粉砕し始めている。
そう、アイリスはドレッドをビットよろしく意思コントロールによって、動かしているのだ。
戦闘機の性能を100%発揮できないことの点の一つに“人が乗っていること”が上げられる。人が乗っていることで、自然と限界は人に合わせたものになり、かなり性能的に余裕ができた状態になってしまうのだ。そこで、アイリスがやった無人機だ。お互いをリンクさせ、アイリスの意思コントロールに繋げば、ベテランが死を覚悟した操縦でも追いつけないほどの性能を発揮できる。折り紙つきのアイリスの蛮型のコンピューター、使い慣らされたドレッド達の性能。その二つが合わさって実現した強力な(あるいは超ド級に強引な)武器。
加速重視で頼んだのも、もちろん旋回性能を意識してのことである。だが、その全機の操縦を行っているアイリスの負担も相当なもんだが。
「ヒビキ、あんまり長い間は持たないわよ!!」
剣に封じられたドラゴン達を解放し、訳の分からないままの敵を粉砕しながら、アイリスは叫んだ。
『もう少しだ!何とか持たせろ!』
余裕が無い返事である。まぁ下手をすれば船ごとお陀仏なのだから仕方が無い。
「はいはい……」
アイリスもまともな返事は期待していなかったので、すぐに通信を切ると新たな敵へと飛んだ。
焦るのは照射を続ける3人も同じだった。1億度といえば途方も無い温度である。と、その時、急にコア部分が白く光り始めた。
縮体が始まったのである。
「縮体!開始しました!」
ヴェルヴェデールが冷静に報告する。
「一気にずらかるよ!バート急速転舵!!」
『了解』
ぼやぼやしていると星の爆発に巻き込まれる。ニル・ヴァーナも3人もあわててそこを離れ始めた。
ニル・ヴァーナ、バーネットは敵を避けて90度横から、メイアとディータは作戦に従いヴァンドレッド・ジュラの所へ、
『ディータ!これからはスピード勝負だぞ!』
メイアから鋭い指示が飛ぶ。
「ら、ラジャー!」
『ディータ!』
「はい!」
『しっかりね』
珍しくバーネットからねぎらいの声が出た。
「うん!」
うなずき、前方を見据える。その先にはヴァンドレッド・ジュラがいた。
「よし、分離だ!」
「分かった」
バリアを解除して、ジュラ機はすぐに離脱。ヒビキは惑星に降下し、メイアと合体する手はずだが、
『ポイントがずれてる!』
「オメェがまたせっからだろ!」
『……ふっ』
ガスの乱気流を突き抜け、両機体は軸を合わせて……捕りついた。その瞬間、光と共にヴァンドレッド・メイアが出現する。
今度はそのヴァンドレッド・メイアのスピードでできた乱気流に高密度のフレアが乗り、敵母艦へと突っ走る。
合体を確認したディータは、
「やったぁ!宇宙人さん、捕まえてぇ!」
同じく逃げるディータ機をメイアはたった一回のランデブーで捕獲、さらに加速を始めた。
「いい、腕前じゃねぇか」
「しくじればその減らず口が聞けなくなるからな」
ニヤリと笑うメイア。
「へっ。……行くぞ!」
「うむ」
「そろそろ潮時か」
縮体を確認したアイリスもすぐに離脱を開始した。龍を封印し、ニル・ヴァーナ側へと猛然と逃げ始めるアイリス。
さらに、新たに現れた高熱源体の正体の判別に敵側が混乱し、ほとんどの敵が追ってこなかったのが幸いした。後ろを疾駆するヴァンドレッド・メイアに無言のエールを送ると、アイリスはニル・ヴァーナを追った。
他の6機もとりあえず、満身創痍ながらも生き残っていた。……生き残ったという表現が当てはまるかどうか。
そして、ニル・ヴァーナの位置を確認した途端、
「ちょっとぉぉ!!どこに突っ込む気になってんのよ!」
ニル・ヴァーナの進路上。
そこには大きめの流星群が漂っていた。
「アンタ、どこ突っ込む気だい!」
マグノもさすがに怒鳴った。だが、後ろから高温に炙られているのと変わらないバートからしてみれば、
『そんな事言ったってぇぇ!あっちーーー!』
生存本能上逃げたくなるのは当然である。
んで、とうとう突入してしまった。すると、すかさずブザムが自席に入り、
「各スラスターをマニュアルへ!バートの動きにあわせて噴射せよ!」
姿勢制御スラスターをマニュアルへ移行させ、なんとか避けようというつもりなのだろう。バートが直進しかしようとしないから、えらい迷惑な話だ。
『ラジャー!!』
1個、2個、ニル・ヴァーナとほぼ変わらない大きさの隕石を避けて通っていく。
だが、ところにまでピロシキ型が乱入してくると、勝手に隕石に衝突。火を噴きながらニル・ヴァーナの進路に割り込んできた。
『あっ!!?』
「くっ!」
避けきれない。そう思ったとき、
ピッ!
いきなり左舷下部のスラスターが解放されると絶妙な間合いで避けきった。
しかし、そのスラスターを管理している席にいるはずのクマ、もといセルティックの席にはぬいぐるみしかいないはずだが……。
全員がそっちを見ると、申し訳なさそうにぬいぐるみが動き始めた。頭をかいているが……誰一人として声などでようはずが無い。
『……あんたねぇぇぇ!!』
ようやくアマローネとヴェルヴェデールが突っ込みの声を上げたその時、今度は隕石がまともに進路上に見えてきた。
「くそっ!」
すでにスラスターでは避けきれない距離だ。
ズバァァ……!!
いきなり視界外からキャノン砲の一撃と、レーザーの一斉掃射が隕石にぶち込まれた。
さすがに攻撃に持つだけの耐久力など持たない隕石は即座に粉砕され、破壊された欠片が船を擦るだけにとどまった。
『ホント手間のかかる真似してくれるわねぇ』
冗談めいた通信と共に視界にドレッド6機とアイリスの蛮型が入ってくる。そして、ニル・ヴァーナ進路上の隕石を次々落とし始めた。
「なんだい、逃げ出して来たのかい」
マグノも動悸の激しい心臓を押さえながら、皮肉を言う。
『援護に来たって言ってよ。まさか、こんなところに突っ込もうなんて思っても見なかったわ』
発言の向きを微妙にあっちに向けながら、アイリスはため息をついた。
やがて、流星群を抜ける。
『んじゃ、もう一回行って来るわぁ』
ちょっとそこまでといった風に言うと、アイリスはドレッドを帰還シークエンスに入れると、単身機を翻した。
変わって、こちらもいよいよ作戦の最終段階に入った。
照準サイトに敵母艦を捕らえると、ヒビキはニヤッとほくそえむ。
「よっしゃ、捕らえた」
ちなみに無視された雑魚連中はヴァンドレッドの後ろを疾走するフレアに耐え切れず、燃え尽きていっている。
と、ヒビキの肩に手が置かれた。
「私はここまでだ。……必ず戻れ」
「おう、わぁってるよ」
「うむ。ディータ!第4シークエンスだ!」
『了解!』
敵母艦から数キロの位置でヴァンドレッド・メイアは分離、続いてディータ機と合体し、蒼い巨人となった。
すると、キャノン砲が本体から分離すると、2本が繋がり、槍に変化する。
さらに、ペークシスからのエネルギー供給により、光を纏った槍を構える。
「これで、終わりだぁぁぁぁ!!」
槍を振りかぶり、フレアとの間隔を調節して、投げ放った!
槍は先のヴァンドレッド・メイア並の加速を得ると、フレアと共に敵母艦に突っ込んでいく。
と、ここで敵母艦もようやく動いた。いきなりエネルギー収束を行うと、主砲をぶっ放した!
そして槍と主砲とが衝突、拮抗する。だが、破壊力を一点集中した槍は主砲をぶち破り、敵母艦内部へと牙をむいた。
さらに駄目押しとばかりに、フレアが内部へと、そして付近にいた敵をも巻き込んで吹き荒れる。
最後には、
ゴガッ……!!
大・爆・発。
「よっしゃぁぁ!!」
「やったぁぁ!!」
二人が歓声を上げた。
ニル・ヴァーナ内でも歓声が上がっていた。
マグノも満足そうに息を吐く。
と、
「ピッ!?」
ピョロが何かに反応した。
ゴゴゴ……。
爆炎を裂いて、ソレは姿を現した。
「……な、何だよ。それ」
「そんな……」
外装こそ剥されたものの、いまだ健在に飛ぶ刈り取り母艦だった。
「……なんてシブとい連中だい」
マグノもまた、ある意味根性の入った敵を見て唸った。
と、
「ヴァンドレッド・ディータ後方!高密度のフレア接近中!」
「ヒビキ!ディータ!何をしている!」
ブザムが慌てて二人を促すが、
「まだだ!」
「そう、まだ……!」
「邪魔よ二人とも!!」
突然怒鳴り声がとんだ。
「なっ、フレア内からさらに高密度の物体出現!」
『――!!?――』
ヴァンドレッド・ディータの後方、いきなり真横に光が弾けた。
コアァァァァァァァァァァァ!!
いきなりあがった、甲高い音とも咆哮とも取れる音と共にそれは現れた。それはまるで巨大な怪鳥だ。全身をフレアで包まれた、敵母艦ほどの大きさがある怪鳥。
羽ばたき、慌てふためくヒビキとディータを尻目にすぐ横を通り過ぎる。そして、まっすぐに敵母艦に突撃していった。
カッ!!
閃光、爆発、衝撃。怪鳥もろとも、今度こそ敵母艦は跡形も無く消滅した。
そして敵母艦のいた場所には、漆黒の蛮型が一機、漂っていた。
「……ったく、下手な介入しちゃったかな」
念を込めていた剣をおろすと、アイリスは席にもたれた。
「冗談きついぜ」
ヒビキもクマの浮かぶ顔で漂う蛮型を見据えてつぶやいた。さすがに3機連続合体はヒビキにかなりの負担があるらしい。
「やった、やったぁぁぁ!ディータ達が勝ったぁぁ!」
約1名は異様に元気だが。
しばらくして、3機はニル・ヴァーナに回収された。
疲労困憊で蛮型から這い出てきた、ヒビキが最初に見たのは、格納庫いっぱいのクルー達の顔だった。
「おかえりなさい!」
『おかえりなさぁーーい!!』
さすがに100人以上の大合唱は騒音だ。
「うえっ……ぐあっ!」
驚いて足が突っかかり、倒れこむヒビキ。そんなヒビキに手を差し伸べたのはジュラだった。
「う〜〜ん、アンタ、かっこ良かったわよぉ」
強引に引き寄せるといきなりそのほほにキスをする。
「いやぁぁぁ!」
ジュラの突然のキスに怒ったのは、まぁおなじみのディータである。ヒビキを抱きしめるジュラからヒビキを奪い取った。
「な、何よ。今のはみんなを救ってくれたお礼じゃない!」
「ダメなの!宇宙人さんはディータと約束があるんだもん!」
「何よ、約束って!」
「ジュラには関係ないの!」
口喧嘩を続ける二人を見ながらパイウェイはまたもメモ帳を取り出し、他のクルー達も唖然としていたが、ほとんどの顔には安堵感が浮かんでいた。
「ま、なんにしても勝ったわね」
ド派手な演出をしたアイリスは、自身の格納庫からヒビキの格納庫へやってきた。
「そうですね」
そそっと寄って来たマリーの顔にも笑顔が浮かんでいる。
「このまま真っ直ぐ、みんな帰れればいいんだけどねぇ」
激戦を勝ったにもかかわらず、アイリスの顔はどうも晴れない。
「さすがに……無理ですか」
やった事がやった事だ。そんなに甘い奴らでもないだろう。
と
「た、大変だピョローー!!」
ピョロがいきなり絶叫を上げた。
「何よ!うるさいわね」
「そんなことしてる場合じゃないピョロ。これを見るピョロ!」
と、モニターを切り替えて星系図を出した。
「ニル・ヴァーナが母艦の一つを撃破したことが地球に知られたピョロ!ソレを受けて全艦隊がターゲットをメジェールとタラークに変更したんだピョロ!」
「げ、5隻もいる」
映し出された艦隊は距離があまり離れていない。縮尺の違いもあるかもしれないが、かなり近くにいることには変わりない。
クルー達の間に動揺が走った。
「やっとの思いで、一隻倒したばかりだって言うのに……」
バーネットも不安な声を漏らす。
と、
「何だ何だ、皆してしょぼくれやがって……」
ヒビキがつぶやいた。小さい声のはずだったが、よく通り、全員を黙らせた。
「どんなに高い壁だろうが、乗り越えなけりゃ命の証は立てられねぇ。そのためには、行く道は行くしかねぇだろ!」
ディータの顔を見て、ニヤと笑う。
「……はい!」
ディータも嬉しそうに、それに応じた。
「……行く道は行くしかないねぇ。あの子も言う様になったじゃないか」
格納庫の話を聞いていたマグノも満足そうにつぶやいた。
「えぇ?BC」
「はい、先行きが楽しみです」
毅然とした発言に死線を掻い潜って来た二人は小さい少年の成長を喜んでいた。
一つの戦いは終わった。
だが、彼らのたびは終わらない。
奴らは確実にやってくる。
冷たく、暗い闇の奥から、確実に。
Vandread――The
Unlimited――
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あとがき
FirstStage終了――――――――!!
っときたもんだぁぁ!!
はぁ……たかが、ノベライズに何年かけてんだ、俺って。
ま、何にしてもまだまだ書くことは山のようにあります。
てことで、今回は早めにあとがき終わり。
次かかねぇと(笑
2004/01/22