人が人であるがゆえに起こしてしまう大罪。それは時を超え、次元を越えても存在している。
悲しき旋律の葬送曲。そして、今、時空を越えた出会いと戦いが始まろうとしている。
VANDREAD――The Unlimited――
10・果て無き海の白き大樹
クリスマス。それはイエス・キリストの聖誕祭と言われている。だがしかし、メジェールに至ってははるか昔からのお祭りであるのであって、『イエス・キリストって誰?』な人が大半を占めるニル・ヴァーナ内ではありますが、昔からの慣習どおり大切な人との切ないひと時を……ってな感じになりつつあります。
今、ブザムが立っている目の前で、イベントクルー達がブリッジの外壁にスプレーペイントで、靴下やら樅ノ木やら様々なものが描かれていっている。かと思えばその辺にも電飾がつるされてカラフルな色が出ているし、現に艦内庭園では現在木に飾りが施され始め、パーティの準備が着々と進んでいる。
メインモニターを見れば、そこには偶然に通りかかった彗星が大写しにされ、幻想的な光景を見せている。
そんな光景を眩しいものを見るような、不思議なものを見るような目で見て、ブザムは傍らのエズラに声を賭けた。
「エズラ、彗星の分析データを……、」
と、最後まで言わせずに視線を星と鐘に塞がれた。
「副長。どっちがかわいいと思います?」
「……。好きにしなさい」
呆れきった表情で言うブザム。
「えぇ、どうしよう。きめられな〜い」
と、そこにマグノが入ってきた。
「やってるね」
振り返ったブザムだが、マグノの格好を見てさらに驚く。なんと、マグノはサンタの格好をして立っていたのである。
「やっぱりあたしがサンタにならなくちゃ始まらないだろう?」
「……お頭」
キッチン内。
こちらではバーネットとジュラ、そしてディータが調理の真っ最中であった。
バーネット巨大なケーキにチョコクリームをかけている。
「バーネット、チョコはもう少したくさんかけてね。それから粉砂糖も……」
ジュラが少し口を出したテーブルの影で、
「はむ、……あ、おいし〜〜!」
ゴッ!
「っ!?……たぁい!」
ディータがつまみ食いしているところにジュラの鉄拳制裁が落ちた。
「あんたはターキー見てなさいって言ったでしょうが」
うずくまるディータを見下ろしてそういうジュラ。確かにディータはターキーの見張りを任されている。まぁディータだしね。けど、
「……げっ!」
いざ戻ろうと思ったディータが目にした物はオーブンからあふれる黒煙だった。
彼女が思わず逃げ出したのは言うまでもないだろう。
代わって男達でありますが、こちらもブザムと似たような事になっている。
「こいつは、一体何の騒ぎだ?」
バートが傍らにいたピョロに聞いた。
「クリスマスハイだピョロよ」
『クリスマス?』
「メジェールでは12月24日になるとああしてハイになるんだピョロ。タラークにもあるでしょ」
『……ん??』
3人揃って悩み顔。機械のくせにずっこけてから、ピョロが突っ込んだ。
「お祭りだピョロよ!タラークにもあったでしょ!」
「そりゃ祭りはあったけど……」
バートの脳裏に演舞やら、行進やら、おおよそクリスマスと言う観念からはかけ離れた光景が浮かぶ。
「祭りなんて、そんな楽しいものじゃないよな。諸君」
『あぁ』
即答する、ヒビキとドゥエロ。
と、後ろから逃げてきたディータが顔を出した。
「あ、宇宙人さ〜ん!」
「くそっ!」
その声を聞いた途端、見向きもせずに逃走に移るヒビキ。
「あ、待ってよ〜〜!!」
「あの二人もよくやるよ」
『あぁ』
今度はドゥエロとピョロがハモった。
「クリスマスかぁ、何年祝ってないのかな」
「私にはクリスマスって言う概念が分からないんですが」
異邦人組みも廊下を移動しながら、話をしていた。すると、向こうからやってきたのはヒビキとディータ、ピョロに加えてドゥエロとバートである。
「あら、どしたの?」
「あ、魔法使いさん。」
「アイリスだっつーに」
アイリスのほうもいい加減、魔法使い扱いはムカツクらしい。
「これからツリーに飾る電飾を探しに行くんだピョロ」
「ツリー?あぁ、テラスにあった巨木に飾るのね」
「とっとと済ませようぜ。めんどくせぇ」
ヒビキは憮然とそう言うが、言うなら言うで逃げているはず。
「食べ物に釣られた男が何を言う」
「……う゛」
図星か。
な、そんなこんなで付いたのは旧艦区にあった一室だった。前回のペークシスの改造後、ろくに清掃もされなかったのか未だに枯れ落ちたペークシスが残っている。
「へぇ、こんな部屋があったんだ。」
ディータが中をシゲシゲと見回している。いろいろな物が箱に収められ、眠っている。
「電飾なんてあるのかしらね〜」
探そうと辺りを見回している皆と違い、ヒビキは早々に箱の一つに座ってしまう。と、バランスを崩して後ろに倒れこむ。
バターーン!!
壁ごと倒れた。
『え!?』
「いっつ〜〜、を!?な、何だこりゃ?!」
慌ててアイリス達も駆け寄ってみれば、中は調度品で埋め尽くされていた。
「こいつは……」
「うっわ〜〜!!」
「殖民船時代の品のようだ。」
ドゥエロが近くに落ちていた、埃をかぶったキャンパスをなぞってそう言った。
「あ、バイオリンじゃない!」
アイリスが目ざとく落ちていたケースを拾い上げる。
「どれどれ、他には……」
勝手にその中を探索し始めるアイリス。マリーが受け取って開いたバイオリンケースの中は意外にも腐っていなかった。それどころか弦までもしっかりしていて、調律さえすれば今すぐ弾けそうだ。
「おぉ!!これはいい物拾ったわ」
叫んでアイリスはそれを拾い上げる。
「あれ?」
そして、そんな中ディータが物色していたあたりから何かを拾った。
「これ何だろう」
そう言って一同に示したのは一枚のデータディスクだった。表面に「X’mas with family」と書かれている。
データルームにいどうした一同はさっそくデータを見てみる。ところが、回線をいじったのか操作を誤ったのか、そのデータは艦内の全モニターに配信されてしまっていた。
「え、何これ」
「なになになに〜!」
全員がいきなりの映像に注視した。テストパターンから暖炉の画が映る。ゆっくりと移動すると、二人の女性が映った。どうやら家の中でホームビデオを撮っているらしい。女性の一人は赤ん坊を抱いていた。どうやら母親(ファーマ)と娘らしい。
映像が一瞬乱れると固定された。どうやらカメラをスタンドに置いたらしい。そして、次にアングルに入ってきた人に全員が声を失った。
『なぁっ!?』
『あっ!?』
『えぇ!?』
それは男性だった。まともな世界で言うなら別に家族団らんのほのぼの映像だが、彼女たちの常識から言うとこれは……、
『なんでぇぇぇぇぇ!!??』
な、感じであった。
「すっごいすっごいすっご〜〜い!!」
約一名が騒ぎ、約二名が「……なんだぁ」という顔をしたが。
「お、男と女が一つ屋根の下に〜〜〜ぃぃ!!」
あまりの驚きで騒ぎ立てるバート。
「鎮静剤だ。飲んでおけ」
鎮静剤を差し出すドルエロ。それを引っ手繰って水とともに飲み下すバート。
「何で、そんなに騒ぐかなぁ」
アイリスは治療台に座ってその光景を見ていた。「別に興奮することでもないでしょうに」
「これが騒がずにいられるかぁ!男と女が一つ屋根の下にいたんだぞ!一緒に!」
「それがどうしたのよ。……そんな当然のこと」
「当然?」
アイリスの台詞に疑問を見つけたドゥエロ。
「当然とはどういうことだ。我々は男女が別々の環境で育った身だぞ?」
「そういやぁ……、お前の事をまだ聞いてなかったな。特に生まれの話を」
次いでヒビキが聞いてきた。
「あたしの育った場所は、男も女も同じ国で生活して、同じ空気を吸い、一緒に笑ったり泣いたりしてるわ。
この船みたいにね」
確かにそうだ。男女比は50:1とありえないが、男女が共同生活をしている。
「私としては、タラークとメジェールの方が理解できないのよ。大体、なんで男と女が別れて暮らす必要があるの?」
アイリスの一言に3人は顔を見合わせた。その問いは二つの星の歴史そのものを否定するからだ。
「女は男の肝を吸い、『圧私』と言っては男に重労働をさせ、『滅私』と言っては略奪を繰り返す。
我々はそう教えられて来た。」
「そうね。それは調べたから知ってる。んじゃ聞くけど、あなた達は平気で女と接し、女と共に戦っている。不満とかないの?」
「まぁ、……最初はな」
彼らは捕虜として捕らえられ、なし崩しでクルーに引き入れられた。150名全員とは言わないが、納得のいかない者も多々いる。特にブリッジの「クマ」が筆頭だろう。
しかし、最近の傾向を見ているとどうもほとんど溶け込んだように見える。人の集まる食堂でも普通に食事を取っているし、気の合う?仲間もいる。両者共にお互いの星の教えなど忘れ去ったかのようだ。
「で、ここであなた達の肝とか吸ったら、考え変える?」
怖い目で言いながら、何気に腰からアーミーナイフなど抜いてみる。
ザザッ!とバートとヒビキが堂々と座っているドゥエロの後ろに滑り込んだ。
「やっぱ、お前……」
「鬼か。鬼だったのか」
「……冗談よ。そして、二度と人のこと指して鬼とか言わないでよね。」
吹っかけた冗談なのに過剰に返されて少々腹が立ったアイリス。
「今度言ったら、肝と言わずその脳みそくり貫いて、たち汁にして食ってやるわ」
目線だけ鬼のようにそう言った。
『……はい!』
怯え切った感じで二人が答えた。
そんな光景を、
「アイリス、男達を脅えさせる、と。」
扉の影からきっちりパイウェイがチェックしていた。
ボオン!
突如ブリッジを謎の衝撃が突き抜けた。
「敵襲か!?」
ブザムがすかさず振り向く。
「いえ、敵反応はありません」
アマローネがレーダーを見ながら言う。
「彗星のデータはまだか」
「はい。……表面は全て氷のようです。怪しい点は特に見受けられません」
エズラも解析データを読みながら不思議な表情。
「一体、なんだというんだ」
と、
ぼふん!
いきなり小川のほとりあたりで黒鉛が上がった。
「かはぁ……またか」
黒鉛を吹く目の前のマシンを見上げてパルフェはため息をついた。
「やっぱりだめですかねぇ。雪降らせるの」
「いーや、まだまだぁ!絶対ホワイトクリスマスにしてみせるんだから!」
妙に意気込んで再び作業に没頭し始めるパルフェ。
「何だ、ありゃ」
そこに、医務室から逃げるように来たヒビキがテラスからそれを見た。
「スノーマシンよ」
「うわっ!?」
いきなり目の前にパイウェイが出現し、のけぞるヒビキ。
「パルフェが私たちのために、このニル・ヴァーナに雪を降らせようとしているのよ。
『男と違ってなんて気が利いてるケロ』!」
「お前、どっから沸いた!それから、それねぇと話せねぇのか!」
「そんなことより、あんたはどうするの?」
「あ?」
「プレゼントよ。まさか決めてないなんてこと無いわよね」
迫られてたじろぐヒビキ。
「クリスマスは女性にとってハートが通じ合う大切なイベントなんだから」
『ふーん』
同じく逃げるように医務室から出てきてナビーゲーションシートに収まったバートは、その会話をモニターしていた。
そして、何か思いついたように頷いた。
「確かに本当だった」
ドゥエロも小川のほとり、パルフェが作業する傍らに座っていた。
「あの過去の記録では、確かに男と女が共に生活を営んでいた」
「まぁ、まんざら無いこともないでしょうね。私達だって何だかんだでうまくやってるんだし」
作業の手を休めず話すパルフェ。そして、手を差し出した。その手にレンチを渡すドゥエロ。何気に呼吸が合っている。
「ところで、ドクターは何くれるの?」
「何、とは?」
「プレゼントよ。もう決めてるの?」
「…………」
結局ドゥエロは何も答えられずその場を離れた。
「困ったな」
「まぁタラークには、ぷれぜんと、って習慣は無いからね〜」
期待されているからには何かを送らなければと思って困り気味のドゥエロに対し、バートはどこか自身ありげだ。
「ずいぶんと自信たっぷりだな」
「ふふん、その点僕は、おじいちゃま仕込みの作法をしっかり身につけてるからね」
「……その根拠の無い自信が時折羨ましくなる」
「プレゼントの話ですか?」
マリーである。クルー達のホームシックの治療に当たっており、ちょうどベッドルームから出てきたところだ。彼女はその物腰や、持ち前の話術でホームシックの女性達を診て回っている。元々が信仰の深い巫女だけにその点は心得たものだ。
「あぁ、こういうことは初めてでね」
「贈り物というのは、心がこもっている物なら些細なものでも構わなんですよ。その人が欲しい物を贈るのも代表的ですし、凝る人は自作の絵や小物を作る人もいます」
「君は何か贈られた事はあるのか?」
「えぇ、小さいお子さんから似顔絵や、木彫りの像などを。……嬉しかったですよ」
『……なるほど』
分かりやすい例えである。
「ふむ、となると……」
ドゥエロは視線をめぐらせた。その先にはあの移民船時代の倉庫から拾ってきた絵のセットがあった。
変わって格納庫。何故かメイアが姿を現した。フローターに乗って自機へと上がっていく。
「ん?」
それをディータ機をいじっていたガスコーニュが見つけた。
「おや、パレードはいいのかい!」
「こういう時こそ油断していられない。周辺を調査してきます」
「……生真面目な事で」
「店長〜〜」
と、同じく手伝いをしていたレジクルーがガスコーニュに声をかける。
「この椅子大きすぎて入らないんですけど」
と、つっかえている大きな椅子を揺らしながら言った。どうやら、ディータ機の補助シートを大きなものに替えようとしていたらしい。
何故??
「くあぁぁぁ……」
いや、だから何故!
着々と進むパーティの準備。会場の設営。時刻はイヴの夜10時を回っていた。
「何で動かないのかなぁ……」
パルフェはさっきからどうしても起動しない、マシンに悪戦苦闘していた。まぁ、完全自作のマシンが動かないというのは間々あることだ。それを傍らで見ていたアイリスが声をかける。
「何なら、魔法で雪作ろうか?」
「だめよ!」
即否定される。
「これは私から皆へのプレゼントなんだから。雪は私が降らせる。ちょっかい出さないで」
「了〜解」
「しっかしまずいなー」
時計を見て彼女はさすがに唸った。
さてヒビキはというと、なんと蛮型で宇宙に出ていた。向かう先は先を飛ぶ彗星である。
「あんだけでかけりゃ、文句ねぇだろ!」
どうやら、彗星に用があるらしい。もって帰る気はなさそうだが……。
勢いづき彗星へと突入していく。それと同時に彗星の乱気流にもまれそうになった。
「くっ、なろぉ!」
それでもブーストをふかし先へと進む。
一歩先を飛んでいたメイアも彗星へと突入した。こちらはより先端に近いため、さらに乱気流が激しい。しかし、さすがにメイアは動じずに突き進んでいく。が、
いきなり目の前の霧を突き破って触手が彼女を襲った!
「なっ!?」
条件反射でレバーを引き、上昇をかける。すると、上方には二本の触手の間に赤いペークシスの網が張られていた。
「くそっ、まさかこんなところに敵が……、!」
ガンッ!
触手に付いた爪が容赦なくメイア機に叩きつけられる。
「くっ!こんなところで」
そして、もう一度触手が振り下ろされようとしたその瞬間、
「おらおらおら、邪魔だぁぁ!」
いきなりメイアの通信機に怒鳴り声が聞こえてきた。ヒビキの蛮型が乱入してきたのだ。そして、お互いがその姿を発見し、
『どうしてここに……』
「宇宙人さ〜ん!どこ〜」
ディータはその頃ひたすらにヒビキを探していた。パーティ会場、パレード準備中の雑踏、料理の皿の中(マテ。
「宇宙人さ〜〜ん!」
その時だ。
『うわぁぁ〜〜!』
テラスを通りかかった彼女、いきなりあがった歓声に外を振り仰ぐと、彗星の表面が瞬いている。
「わぁぁ、宇宙人さんも見てるかな〜」
その頃、
「えぇい!この!」
当事者であるヒビキはメイア機の引っかかった網の撤去をしていた。
「構わず火器を使ったらどうだ!」
「やかましい、少し黙ってろ!」
口は険しくともやってる事は優しい事で。
しかし、そんな事を見逃してくれないのが敵の嫌な所であるからして、
バリバリバリ!!
『ぐあぁぁぁ!!?』
いきなり網に雷撃を走らせた!
「この……うっせぇんだ、よ!!」
ヒビキは後ろ手でもう一本ブレードを引き抜くと、敵機に向かって投擲した。
ザクッ、と刺さった先が思いっきり中心の眼の部分。……かなり出来るようになっている。
『よっしゃ、もう少しだ!』
『……ふん』
「ん!?」
今だ生真面目に、データ解析に勤しんでいたブザムがいきなり入った雑音交じりの声に反応した。そして彗星を見上げる。その目に入る、彗星の瞬き。
「あれは……」
すかさずブザムは振り返り、声を上げる。
「お頭!どうも様子が変です。調査させますか。お頭!」
と、いきなりスポットライトが付き、ミーティングルームの出口を照らす。そして、出てきたのは、
「どうだい、完璧だろう?」
トナカイとソリのぬいぐるみを腰にくくりつけたマグノが降りてきた。
「……お頭……」
さすがにあきれ返って何も言えないブザムであった。
「おらぁぁぁ!!」
蛮型の撲撃一発で網は破壊される。
「よし、離脱する!」
「おう!……っと!」
ここでヒビキは漂流してきた氷塊の一つを掴み取った。
「? どうする気だ」
「へへ、プレゼントって奴さ」
「前だ!!」
「!?」
『長居は無用だ、とっととずらかろうぜ』
『同感だ』
「メイア、ヒビキ応答しろ!」
ブザムはずっと呼びかけを続けているが、全く返答が無い。彗星の磁場が邪魔しているようだ。
「あの二人、……まさか彗星に?」
そうとしか考えられなかった。そうならば起こる筈の無い瞬きの説明も付く。
そして、そんな事を考えるブザムの後ろに近づく影があった。
時に、午後11時45分の事である。
『皆さん、まもなくカウントダウンが始まりますので会場の方にお集まりください』
「あちゃあ、間に合わないか?」
まだ作業途中のパルフェが言った。
「残念ですね。」
「まだまだ、後10分もあるのよ!意地よ意地!」
「む、まずいな……」
時計を見たドゥエロも同じくつぶやいた。手には絵筆が握られ、向かっているキャンパスには何かが描かれている。どうやら、絵を贈るつもりらしい。
その時計はすでに残り5分を回っていた。
「副長さん」
「ん?何だ」
副長に声を掛けた者。それはバートであった。その手には何やら包みが。渡されるままブザムがそれを開くと、中には色とりどりのペークシスの欠片。
「いやね、それは……」
「ありがとう。頂いておこう」
バートにみなまで言わせず、ブザムは箱を閉じた。
「あ、はい。どうも……」
バート敗れたりとでも言おうか。去るその背中はかなりヘコんでいる。
クリスマスまで後3分。
「くそっ!ちょこまかと動きやがって」
合体しヴァンドレッド・メイアとなったものの、彗星内での動きはかなり制限される。魚のような動きをして動き回る敵を捕捉するのはなかなか骨だった。
「ならば、こうするさ」
メイアはそうつぶやいて、一気にブーストを全開にした。
「うおっ!?」
凄まじい加速Gが二人を襲う。前方を泳ぐ敵に一気に迫る。しかし、その直前に敵は横へと移動し、メイアは機体を反転させた。
『カウント10秒前!』
「あぁあ、間に合わない!」
さすがにパルフェも諦めかける。と、その傍らにはドゥエロが立っていた。
『カウント5秒前!』
反転したヴァンドレッド・メイアは強烈な横Gに耐えながら突進をかけた。
『4!』
その虚を突いた動きに敵機は反応できない。
『3!』
『これで終わりだ!』
ヴァンドレッド・メイアのファイナルブレイクが発動する。
『2!』
スノーマシンの傍らにアイリスが立ち、
カン!といきなりマシンの底近くを蹴った。
『1!』
「一か八か!」
パルフェがマシンのスイッチを押す。
ヴァンドレッド・メイアのファイナルブレイクが敵を貫いた!
『ハッピークリスマーース!!』
同時に、
ドドォォォン!!
最接近した彗星がいきなり大爆発を起こした!
『おおおおおおお!!』
祝福と驚きで、皆が大声援を上げた。
「だめかぁ……」
スノーマシンを見て、パルフェがため息をついた。と、ここでドゥエロに気づく。
「あ、ドクター。ごめんね、完成しなかったわ」
「実は私も未完成ではあるが……」
と、脇に挟んだキャンパスを持ち上げた。
「え、それ。プレゼント?」
差し出されたキャンパスに描かれていたのは雪が降る様な情景。
「血流の流れを絵に表現してみた。これが雪ならば、この雪は永遠にこの中を降り続ける……」
「あぁ……、ありがとう」
さすがに諸手上げて喜べる物でもなかったようだ。傍らのクルーは苦笑している。
「でもなぁ、……」
自分の作品が完成しなかった事を愚痴ろうと思ったその時、歓声が響き渡った。
なんと、振り仰げば彗星から飛んできた氷の粒子がまるで雪のように見えたからだ。見とれるパルフェ達、さらに今度はその顔になにか降ってくるものがある。
「え、まさか!」
振り向けば、スノーマシンが起動し、雪を吐き出していた。
「やったぁぁ!!」
さすがに嬉しくなり、彼女はドゥエロに飛びついた。
「……あ」
さすがにやっている事に恥ずかしくなり、離れる。おいおい。
そんなクルー達の上空にヴァンドレッド・メイアがやってきた。
「宇宙人さん!?」
「メイア!」
「あの二人彗星に行ってたんだ」
二機は分離すると、それぞれ格納庫に戻っていった。
「宇宙人さーん!!」
ディータは早々に会場を抜け出すと、ヒビキの元へと走る。
格納庫に収まった蛮型からヒビキが出てきた。
「宇宙人さん!はい、プレゼント、ほんとはクリスマスぴったりに開けて欲しかったんだけど」
「あ、あぁ。」
渡されるまま包みを受け取るヒビキ。代わって今度はヒビキが手を差し出す。
「ほらよ。だいぶ溶けちまったがな」
ディータが出したての上にそれが落ちた。氷は手のひらサイズまで溶け、その中に何かが見える。つぼみだ。
氷が完全に昇華し、つぼみが開いた。
「うわぁぁぁ……。ありがとう!宇宙人さん!!」
「……まぁな。
それより、ご馳走だご馳走!!」
テレを隠すようにさっさと行ってしまう。付いていくディータ。
さて会場では、マグノとガスコーニュがプレゼントをばら撒いていたが、それもほぼ終わっていた。
「なんだい。まだプレゼントが残ってるって言うのに」
「お頭、もう玩具じゃ娘は釣れないみたいですよ。」
「つまらないねぇ」
さて、ヒビキ達も会場に合流したところで、今度は、
「はい注目〜〜〜!!」
誰もいなくなったステージにいそいそと準備を整える一団がいた。スピーカーやら、各種機材。バイオリンや、なんとシンセサイザーが3台も設置されていく。
そして、2連シンセサイザーの前に陣取ったアイリスが皆を呼び集めた。
何事かと皆が集まってきたところで、
「まぁ、難しいことは抜きにして、やろうと思うけど。
さっき即興で作った曲だから聴いてね!」
アイリスがそう宣言した。
『おぉぉ……!!』
と言う声援と、
パチパチパチという拍手起こる。
「では!」
静かに曲が終わり、直後に割れんばかりの拍手を貰う二人。
こうして、クリスマスイヴの夜はふけていった。
パーティもお開きになったその後、ニル・ヴァーナはいまだに彗星と併走していた。
「あんたもいい加減休んだらどうだい?」
マグノがいまだに作業を続行しているブザムに近付き、そう言った。
「はぁ、しかし」
「見てごらんよ。」
ブザムに最後まで言わせず、マグノは上を振り仰いだ。彗星が大写しになっている。
「まるで、宇宙のクリスマスツリーじゃないか」
「……はい」
爆発が幸いしたか、彗星を縦に見ればそれは紛れも無く白い大樹であった。
―To be continued―
―――――――――――――
あとがき
さてさて、小説内に出てくる曲は13分ありますので覚悟して聞いてください。
注意)この曲は実は転載しているものです。許可も取ってないので、もしかしたら予告無く削除するかもしれません。あしからず。
次回、「過去の過ちは突然に」よろしく!!
2002/11/05 P!