人が人であるがゆえに起こしてしまう大罪。それは時を超え、次元を越えても存在している。
悲しき旋律の葬送曲。そして、今、時空を越えた出会いと戦いが始まろうとしている。
VANDREAD――The Unlimited――(改訂V版)
1−2:Prove one’s Innocence
「なんということだ。この晴の日に……」
呆然と首相がつぶやく。それもそのはず、この時間に海賊団がやってくるとは思いもしなかったのだから。
海賊団の戦闘機、ドレッドはタラーク艦隊の間を縫いながら攻撃を仕掛けていく。戦闘機を持たないタラーク艦隊は次々と撃墜されていた。艦砲射撃もそのほとんどがかすりもしない状態だ。
「護衛艦『マボロシ』落とされました!」
「『ヒジリ』大破。姿勢を保てません!」
「水平儀保て!」
護衛艦が続々と落とされる中、イカヅチはその巨大さゆえ何とか身を持たせていた。そして、ショックで固まる首相を尻目になんとか使用と奮戦する本来の艦長。すると、
「蛮型を出せ!」
首相が毅然として言い放った。驚いたのは艦長だ。
「しかし、乗っているのは皆候補生ばかりでして」
「馬鹿者!新型を使わずして敗北したとあってはグラン・パ様に申し開きができぬわ!」
創始父グラン・パを出されては後には引けない。
「了解しました。
蛮型出撃準備!!」
とたんに候補生達のいるフロアに警報が出された。
『士官候補生諸君!いまこそ我らがタラークの威信を見せる時、各自出撃し敵を粉砕せよ!!これは演習ではない!』
首相の声がスピーカーから聞こえてきた。聞き終わる間もなく全員が慌しくフロアを飛び出していく。
「おっしゃー、いっちょやったるかぁ!!」
「おらー、戦闘だ戦闘!」
アイリスもアイリスで混乱していた。出撃命令が下ったのは分かる。ということは男達が殺到してくるということ。逃げるか、それとも……。アイリスはすぐさま蛮型から降りた。そして、今まで候補生達のいたフロアを突っ切り、廊下を走り出す。
「蛮型の射出装置がやられました!」
兵器管理官が叫ぶ。しかし、
「構わん!準備できしだい出撃させろ!!」
無茶苦茶な首相であった。そして、その命を受けた格納庫でも、
「何!?くっ、搭乗の完了した蛮型は各個の判断で出撃してよし!!」
そんなわけで候補生達の乗った蛮型は、無事だった射出口から次々と出撃していった。
そして、ドレッドに群がり始めたのである。
「あぁん!もう、コイツら邪魔!!」
ドレッドのパイロットの一人が群がる蛮型に対して嫌悪感をむき出しにする。
「雑魚には構うな!全機母艦に集中しろ!」
リーダらしき女性の毅然とした声が響いた。
『『ラジャー!!』』
一機がイカヅチの後部格納庫の隔壁を破壊する。そして、その勢いのまま突っ込んでいった。他にも数機飛び込んでいくが、そのとたん機体から白煙が噴出し始めた。破損したわけではない。女達が嫌悪するばい菌、“男”に対して消毒剤を撒いているのだ。
それにその白煙も空気中では大きく拡散し、煙幕の役割も果たしていた。そして、着陸すると中から鬼、もとい鬼のような面の宇宙服を着た女達が乗り込んできた。
『後部に女が侵入!総員排除に向かえ!!』
「え!?」
走りながらそのアナウンスを聞いたアイリスは思わず立ち止まった。
「……まさか、ここでは男と女って敵同士なの!?」
何もしないよりはと後部へと走り出すアイリス。
「どういう世界に叩き落してくれたのよ!まったく」
すでに戦闘は始まっていた。別の格納庫の中では男と女が激しい銃撃戦を演じていたのだ。
「…………」
その光景をアイリスは上の階から呆然と見詰めていた。どうして男と女が争う!?どうして……、
ドォォォン!!
至近距離で爆発が起きた。
「うわっ!」
バランスを崩して階下の戦場へと落下する。
「くっ……!」
なんとか姿勢を制御し、回転しながら床へと着地した。しかし、場所が悪かった。銃撃戦の真ん中に落ちたのだ。顔を上げれば、鬼面の女達が一瞬撃つのを止めてアイリスを見る。
しかし、宇宙服を着ていないことで男と判断したのかアイリスにも銃を向ける。だが、それは彼女達の失策だ。銃を撃ち、着弾した瞬間にはアイリスはそこにはいない。海賊達の目の前にいたのだ。
『!!?』
「悪いね。」
アイリスは目の前の一人の面をつかむと、力づくで床に打ち捨てる。衝撃で面にひびが入った。しかし、クッション剤が入っているから脳挫傷にもならないだろう。唖然とするもう一人に向かって、低い位置から後ろ回し蹴りを放つ。まともに腹に喰らい向こうの壁まで吹っ飛んでいく。それには目もくれずアイリスは振り向き、いまだ唖然とする兵士に向かい、剣に手をかける。
「剛・風神!!」
声と共に剣が抜刀される。そのとたん、強烈な風が格納庫に吹き荒れた!その風は消毒剤を吹き飛ばし、侵入してきた兵士達をあらわにした。
それを好機と見たのか男が銃撃を再開した。しかし、アイリスは今度は男側にM4を向けた。引き金が引かれ、
ドゴォォン!!
着弾した銃弾は大爆発を起こす。しかし直撃はしていない。衝撃で吹き飛ばすのが目的だからだ。
それを見て、アイリスはすぐに移動を始める。今吹き飛ばした男達を踏みつけ、先ほどいた格納庫へ戻る。どうも、ここいるのはマズイな気がするからだ。
出会う海賊も男達も問答無用で叩き伏せて走る。
そして、もう一度艦が大きく揺れた。
無視して元来たとこまで行き着いたとき、衝撃と共に後ろの隔壁が降りたのだ。
アイリスの勘は当たっていた。またも首相が勝手に旧艦区と新艦区を切り離したのだ。
候補生達を乗せたままである。ようするに、置き去りということになる。
「な、なんだ!?」
「新艦区が離れていくぞ!?」
「俺達はどうなるんだ!」
うろたえる候補生達の中、離れていく新艦区をドゥエロは静かな目で見つめていた。
その頃、ヒビキはペークシス機関室にいた。しかし、そこにはドレッドが一機突っ込んできて、隔壁に無残にも穴が開いている。
ヒビキはナビロボの配線を使ってシールドを解除し、外に出たのだ。そして、ナボロボを持ったままここに来ていたのだ。道に迷ったということもある、というかそうなのだが。
そんな彼はドレッドの突っ込んできた衝撃で吹っ飛ばされ気絶していたのだが、彼の上になにやら乗っかっていた。
「うぅ、……」
宙を泳ぐ彼の手が何か柔らかいものに触った。
「あ……?なんだ、こりゃ」
目を開けて上に載っている物を見るヒビキ。すると、
「のわぁぁぁぁ!!」
目の前に現れたのは宇宙人の面をした女だった。どうやら突っ込んだドレッドから飛び出したらしい。驚きのあまりヒビキはその女を突き飛ばすと、飛び起きて逃げようとする。
『待って!!』
女から声が上がった。思わず足を止めるヒビキ。振り向いた先では女がもぞもぞと宇宙服を脱いでいた。
「うっわぁぁぁぁ!!本当に宇宙人だぁぁぁ!!ファーストコンタクトだぁ!」
マスクを取った女、というより少女は歓喜の声をあげた。
「え……?」
「ねぇ、ディータのこと分かる?」
いきなり屈託の無い顔でヒビキに詰め寄りだす少女。彼女はディータ・リーベライと言った。マグノ海賊団の新人で今回が初任務なのだ。しかも、ドレッドに関しては初心者というオマケつき……。
「はは、はは……サイナラ!!」
ヒビキはナビロボを引っ掴むとその場からトンズラする。
「あっ!待ってよぉ!」
ディータもカメラを片手に――どこから出したのやら――、ヒビキを追いかけ始めた。
そして、その後ろで眠っているように明滅していたペークシスが、一瞬強く光った。
船の中が混乱状態にある中、3人が旧艦区のブリッジにやってきた。
「このブリッジは使用されていない様だな
――お頭、男は船を分離し、脱出。サブブリッジは確保しました。」
面とった一人は銀髪の髪をした色黒の女性。名前をブザム・A・カレッサ。
「まぁ、男文字ばかりで読めないわぁ」
おっとりした口調の女性はエズラ・ヴィエーユ。
「任しといて、そんなこともあろうかとミス翻訳ちゃんをね」
言って機械を取り出しためがね姿の女性は、パルフェ・バルブレアという。
「あ、副長。そっちも今……」
男文字はメジェールでは使われていない。要するに漢字を学ばないのである。逆にタラークでは英語を学ばない。だから双方の言語は同じながらまったく異なっていると言える。
そして、それを翻訳する機械を副長と呼ばれたブザムに渡そうとしたところ、
「メイア、そっちはどうだ?」
『男どもはフリーズしました』
「捨てていいわ」
片手でコンソールを華麗に操りつつ、通信を行っていた。
「副長、読めるの?」
「そりゃ、副長はエリートだもの」
唖然とするパルフェに声をかけるエズラ。
「ちぇ〜、せっかく用意したのに」
その頃、
ヴィン!!
「くっ……!」
「さっさと行け!」
海賊達は銃を構えながら、男達を脱出ポッドの方へと誘導する。ブザムの行った捨てるというのはこれのことである。
宇宙服を脱ぎ去って、各自治療の真っ最中だった。その光景を憎々しげに見る男達。
そんな中、ドゥエロは一人「医療用」と書かれたロッカーに歩み寄った。そして中に入っている衣料用の白衣を纏う。
「おい!列から離れるな!」
一人が銃を向けるが、
「私は後でいい」
慌てた風も無くそういった。
「! 勝手なことを言うな。抵抗すれば撃つ!」
「心配は無い。私は医者だ!」
睨まれつつも怪我人の方へと移動するドゥエロ。それらの様子をアイリスはすぐ近くの物陰から見ていた。
「さて……どちらについたものか」
何とかここまで戻ってきたが、どうやら男達全員が捕まったようである。様子からしてポッドで捨てるつもりらしい。
M4のマガジンを交換し、ため息をつく。どうもこの世界では力を全開に発揮できない。そんなことをすれば宇宙船ごと木っ端微塵になるからだ。
と、
「おい!」
いきなり左から声がかかった。見れば銃を持った数人の海賊の女!
――しまった!!
「もう、早いところ戻りましょうよ。ここ臭くてたまらないわ!」
蛮型の一機にもたれかかり愚痴を言う金髪女性。彼女はジュラ・ベーシル・エルデンといい、ドレッドのパイロットだ。
「ぼやくなジュラ。一緒に来てくれ。ディータを探しに行く」
そんな彼女に声をかける一人。青い髪で、左目を覆うようなアクセサリーをつけている。彼女はメイア・ギズボーン。ドレッド部隊リーダーを務める切れ者だ。あまり感情を表に出すことを好まない性格でもある。
「ったく、だから新人連れてくるのはいやだったのよ」
しぶしぶそれにしたがって動こうとしたとき、
ドゥン!!
いきなり鈍い衝撃音!
「何だ!!」
皆が硬直した。そして、メイアが見たのは通路の一角から煙だか埃だかがモクモクと噴き出している場面だ。
そして、飛び出してくる妙な格好をした男。その手には銃が。そして、飛び出してきた場所から数条のレーザー光線。
「どけどけどけどけえぇぇぇ!!!」
全速力でこちらへと走りこんでくる。
「止まれ!!止まらんと撃つぞ!!」
ほぼ全員が一斉に銃を向ける。それを見て、男も銃を跳ね上げる。
引き金が引かれた。10数条のレー光線が男へと肉薄し、着弾の瞬間、そこに男はいなかった。
『――!!?』
着弾の瞬間アイリスは上へと跳んだ。銃はあくまでもフェイントである。皆は上に跳んだ事には気づいていない。上へと飛び、そのまま女達と男達の上を跳び越える。
ドォォン!!
着地の衝撃音は思ったより大きかった。構造材がもろくなっているためだろうか。とにかく、アイリスが着地したのは約30メートル先の別の出入り口前。全員がアイリスを見た。それに一瞥をくれるとアイリスは走り去った。
全員が唖然とした。
無理も無い。現実としてそんなことはありえないのだから。いくら重力を弱くしたとしてもあの一瞬で逃げ去ることは不可能だ。それに加えて、ここは加重力された格納庫。
「5人はあの男を追え!他は作業を続行!」
メイアが慌てて指示を飛ばす。その声に皆も我に返り、慌ててアイリスを追いかける。
「くそっ、何だあれは……」
その時、
『こちらブザム。そっちはどうだ』
サブブリッジからブザムが通信を送ってきた。
「メイアです。男が一人逃亡しました」
『何!?どういうことだ』
「それが、アレを何と言っていいのか……」
いつもと違って口ごもるメイア。まぁ、しかたのないことではある。
変わって旧艦区のデータが出力されているのを見た新艦区の首相は、迷うことなく宙航魚雷“村正”の発射を命じた。敵の手に渡るくらいなら自分がというのだ。
「しかし、所詮彼奴らは海賊です。和議を申し入れ、物資を渡せば、……」
艦長がそう食い下がるが、
「村正はまだか!!」
どうやら、破壊しか頭にないようである。
「目標座標計測中です!」
そして、新艦区の下方から一対のミサイルが顔を出した。しかも相当に巨大である。
ビーッビーッ!!
突如旧艦区のサブブリッジにアラートが鳴り響く。
「まぁ、大変。ミサイルにロックされたみたい」
それでもエズラはおっとりとそう言った。
「何!?お頭!」
さすがにブザムは即座にマグノに連絡を入れた。
『こっちでもモニターしてるよ。大物は惜しいが、仕方ない。全員退却だ!』
「了解!メイア、今どこに?」
今度はメイアに連絡を取る。
『ディータをロストしました。見つけ次第ランデブーしますので皆さんは先に』
メイア達は再びディータ探しをしていたが、結局ペークシス機関室まで来ても見当たらなかったのだ。
「……ったく、あのこったら何処行ったのかしら」
やる気なさそうにジュラがぼやく。
と、
「待ってよーー!!宇宙人さ〜ん!」
「どわぁぁぁ!!来るなぁぁぁ!!」
いきなりそんな声が下方から聞こえてくる。二人が見下ろせば、ディータがヒビキを追いかけているのが見えた。
「ディータ!」
「見た?男追っかけてたよ」
「行くぞ!」
「……しかしまだ燃料充填が」
「もう十分だ!目標旧艦区!撃てぇぇぇぇぇ!!」
海賊船が旧艦区にドッキングしたのを見て痺れを切らし、首相は発射を命じる。そして、死のミサイルは一直線に旧艦区に突っ込んでいった。
「ミサイルが発射されました!」
「目標到達まで300秒!!」
要するに5分である。
「BC!クルーの回収は?」
『艦内に散っているため後200秒は……』
「なるべく急がせるんだ」
『はい!』
海賊船自体村正に向けてビーム砲を撃ちこむもののシールドを張っているのか、全く効いている様には見えない。
とにかく、クルーの回収時間が分かれ目だ。
なおもヒビキを追いかけようとするディータだったが、結局メイアに取り押さえられドレッドに連れ込まれた。一方その頃、ヒビキとアイリスもやっと追っ手を振り切れたことに安堵を感じつつ、脱出のため蛮型の格納庫へと戻ってきていた。
ここまでに約150秒。
ヒビキはナボロボと共に打ち捨てられた目印の“ヒ”の字がついたパーツの組み込まれた蛮型に乗り込んだ。アイリスも視界の先にヒビキを捉えたが、今はかまってはいられない。さっき乗っていた蛮型が結局使われないまま残されていたのでそれに乗り込んだ。
「さーて、相棒!いちょいくか!……って、これどうやって動かすんだ?」
そう、ヒビキは操縦法を知らないまま来ていた。操縦法を記した本も途中でバッグごとなくしてしまっている。かろうじてハッチは閉じたものの、その後はどうしようもなかった。
一方アイリスだが、操縦法は先ほど退屈紛れにダウンロードして叩き込んでおいたので、いち早く起動を終えた。
「とっとと、ずらからないと。こんなところでお陀仏はゴメンよ」
カタパルトを起動させて蛮型を射出させる。いや、させようとしたが、
がぐんっ!
いきなり、カタパルトの途中で引っかかったように止まってしまった。
「え……?」
慌てて状態を調べると、カタパルト内はすでに攻撃でズタズタになっていたことが分かった。最悪である。しかも、機体は射出完了まで固定されるらしく、全く腕が動かない。狭いので脱出も論外。
「うっそ〜〜〜〜〜」
呆然と、そうつぶやいた。
ここまでで残り100秒。
『こちらメイア。ディータをを見つけました。これより脱出します』
「ミサイル、依然向かってきます」
「直撃は免れません!」
「……当たるも八卦当たらぬも八卦……」
マグノがつぶやいた。
「ディータ!まだか」
ディータのドレッドを待って脱出しようと言うのだが、機関室にものの見事にはまり込んだディータ機は一向に抜ける様子がない。
『ひぃぃん!引っかかって抜けませぇん!』
「ディータ!」
『メイア、もうこれ以上待てないよ!』
ジュラもさすがに声が上ずっている。
そして、
「くっそぉぉぉ!!動けぇぇ!!」
一人の男と、
「抜けないよぉぉ!!」
「くそっ……!」
「メイア!」
3人の女性。
さらに、
「カタパルトがダメならアームの強制排除を……!」
一人の異邦人。艦内に唯一残ったこの5名。
「……2・1・リミット」
ゴゴゴ・・・・!!
その瞬間、旧艦区のペークシスが大きく光を発した。着弾と同時に爆発するように衝撃波が広がっていく。そして、その衝撃波は離脱を図ろうとしていた海賊船をも巻き込んだ!
―To be continued―
2002/08/06