・・・・思えば、『あの時』がはじまりだったかもしれない・・・・





それまでの平和な日常の突然の終わり。

心中はいかほどでも、それは本当に安定していた。

優しい保護者。穏やかな環境。

遠野 志貴はその中で人生の半分を過ごした。

特に問題もなかった。





ところで突然、その日常は終わりを告げた。





『親父の訃報』





遠野 志貴は何も感じなかった。

新聞やテレビのいやなニュースと同じ。

『死』という名の情報。

起こるべく起こってしまった哀しい「事実」

・・・その一つでしか、ありえなかった・・・・





だが、それが・・・・・遠野 志貴の新しいはじまりだった・・・・












月姫「エナジー・マイ・エース」その1




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「志貴〜♪朝だぞ、起きろ〜♪」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

とりあえず何か声が聞こえたような気がするが、無視する。

「志貴?起きなさいよ、ほらほら」

ぐらぐらと揺さぶられる俺の身体。

ええい、無視無視!

俺はわざと寝返りをうって、反対側にむく。

「ちょっと、ちょっと!起きなさいよ、志貴。
起きなかったら血を吸って起こしちゃうわよ♪」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!」

俺は慌ててベットから起き上がる。

「おはよう、志貴♪今日もいい朝よ」

「おはようって・・・朝からいきなりしゃれにならん事を言うな、アルクェイド」

心臓に悪い発言だったぞ、本当に。

「しゃれじゃないわよ。志貴が起きなかったら、私そうしてたもん」

笑顔でそんな事を言われても、当事者の俺は嬉しくも何ともない・・・

今、俺の目の前にいる女の名は「アルクェイド=ブリュンスタッド」。

こう見えても吸血鬼である。

遠野 志貴そのもののこれまでの人生を変えたといっても過言ではない程の

複雑な関係を持った女である

その一歩を踏んだのは、自分のせいでもあるが・・・・

「そういう事はするな。大体なんでいつも人の部屋に勝手に入ってくるんだ?
この朝っぱらから」

時間を見ると、朝の六時。

いつもならぐっすりと寝ている時間であるが・・・・・

ここ最近、ずっとこいつが朝に訪問してくるので起きる習性がついてしまった。

「だって、いつも昼はシエルが邪魔するんだもん。
こうやって二人でいられるのは朝だけだから・・・」

う、ちょっと恥じらい気味の表情が可愛いぞ・・・

「い、いやまあ確かに先輩も最近ちょっと様子が変だけど・・・・」

あの事件以来、先輩とは懇意に接している。

「遠野君が心配ですから」といつも面倒を見てくれる優しい人だと思う。

それは、先輩の秘密を知った今までも変わりはない。

先輩は先輩だ。

だけど先輩、アルクェイドと仲が悪いせいか、会うたびに喧嘩をして

「あんな吸血鬼とは縁を切った方がいいです!」と怒鳴ってくる。

うーむ、何とか仲良くできないものかな・・・・

「学校に入ってくるお前も問題があるとおもうぞ。

シエル先輩はともかく、他の生徒や先生に見つかったらどうするんだ?」

「志貴、私を馬鹿にしてるの?
そんなのちょちょいのちょいで、暗示をかけられるわよ」

そうだった・・・こいつにはこういう力もあるんだった・・・

先生や生徒に認識を忘れさせるくらい朝飯前だろう。

「とにかく、これから着替えるから出ていってくれ」

「どうしてよ?着替えくらいぱっぱと済ませればいいじゃない。
私はここで待っておくから」

「駄目!おとなしく外で待っておきなさい」

「どうして志貴って、着替えくらいで恥ずかしがるの?
志貴の裸くらい見た事があるのに」

いや、確かに怪我の回復とかで見せた事があるけど、

そんな事をきっぱりと言われても恥ずかしいだけだぞ・・・・・

「と、とにかく俺は気になるの!
とりあえず外で待っててくれよ。その後で話しようぜ」

何とか出さないと、ずっといそうだからな・・・・

「む〜、志貴、私が邪魔なの?」

「そうじゃなくて!大体そもそもお前がいつも勝手に来るからだろ。
もうちょっと遅い時間に普通に来いよ」

「ふーん・・・・志貴は私が正面から来てもいいって言うんだ?
じゃあ堂々とお邪魔しようかな♪」

・・・しまった、迂闊な発言をしてしまった・・・・

堂々と来られると、秋葉や琥珀さん達に知られてしまう。

アルクェイドと秋葉・・・・会ってはいけない感じがするのは気のせいか?

「と、とにかく、いったん外に。そろそろ翡翠が・・・・」



コンコン♪



「志貴様、お目覚めでしょうか?」

うわ、噂をすればさっそく翡翠が来たか!

「ひ、翡翠、ちょっと待って。今寝起きだから」

「寝起き姿は見られていますから、ご安心ください。
学生服をお持ちしました。中へ入ってよろしいでしょうか?」

み、見慣れてるって・・・・

確かにそうだろうけど、言葉にしていわれると恥ずかしい。

「と、とりあえずちょっと待って!き、着替えないといけないから!」



(アルクェイド、早く外に!)



大声で扉の外の翡翠に返事をしながら、小声でアルクェイドを促すと、



(・・・志貴、いつも寝顔を見られてるの?)

(え?そんな事はどうでもいいだろ)

(よくないわよ、外の人、メイドさんなんでしょう?あの可愛い)

(何が言いたいのか分からんが、とりあえず今は・・・)



「志貴様、着替えは今私はお持ちしているのですが」

「あ・・・・あ、そ、そうだったね。
えーと、と、とりあえずちょっと待って。すぐに準備するから!」

「・・・・・準備、ですか?」

声の調子からでも、翡翠が困惑しているのが分かる。

確かに自分で言ってて、おかしなごまかしだったと思う。



(早く外に出てくれよ。ほら、そんな俺を困らせないでさ・・)

(志貴が質問に答えてくれたら出ていったげる♪)



にこにこ笑顔で、アルクェイドは俺を恐喝する。

こうしてると、邪気がなくて可愛いんだけどな・・・



(毎日起こしてもらってるから見られているよ。
翡翠にはいつもお世話になってるから)

(翡翠って言うんだ。ふ〜ん、なるほどね・・・)



何やらあるのか、ちょっと眉をひそめるアルクェイド。



(と、とりあえずはやく外に・・・)



「志貴様、そろそろよろしいでしょうか?

準備をなさらないと学校に遅れてしまいます」

そういって、扉を開けようとする翡翠。

ま、まずい!!

「アルクェイド、えーと・・・・とりあえずこの中に!!」

「え?ちょ、ちょっと志貴!?」

俺は慌てて、部屋のベットの下にアルクェイドを押し込む。



ガチャ



それとほぼ同時に、翡翠が部屋に入ってくる。

「おはようございます、志貴様」

礼儀正しくお辞儀をして、翡翠はじっとこちらを見つめる。

う・・・

何もかも見透かされそうな瞳に、俺は背中に冷や汗を感じた。














<その2>に続く

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