とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第二十二話







 高町家のお花見――

家族のみならず、友人や知り合いを多数加えて大人数となった。

全員のスケジュールを合わせる為に、桃子達が現在真剣に取り組んでいる。

俺関係でもノエルや月村、神咲とかいるから大変だ。

土日か祝日にするしかないのだが、問題は桃子の喫茶店――

休日閉店には出来ず、フィアッセと桃子が抜けると代理探しに一苦労らしい。

ま、どんな苦労だろうと俺には関係ない。

花見に行くのは面倒だが、綺堂や桃子の義理で参加せざるをえない。

その点俺は年中休日、何時どんな時だろうと自分のスケジュール最優先。

花見の場所取りは完了している。

当日の日取りや段取りは全部、当事者達に任せよう。



――と、思っていたら甘かった・・・



「良介君。フィリス先生は何時お休みが取れそうなの?」

「――は?」


 小春日和の朝。

レンと朝稽古に励んでいた矢先、突然桃子に声をかけられる。

俺は汗だくの身体を手で拭って、訳分からん質問をする女に視線を向けた。


「フィリスが何だって?」

「だから、フィリス先生の御予定。
招待するのなら、きちんとお聞きしておかないと駄目でしょう」

「――ちょっと待て」


 当たり前のようにとんでもない話をする桃子に、俺は額を押さえて唸った。


「何であいつを?」

「え? だって良介君、もしかして誘ってないの?」

「俺が何であいつを誘わないといけないんだ」


 患者と先生、ただそれだけの関係。

神咲と花見の話をした時に多少そういう話も出ない訳ではなかったが、気が乗らない。

隠し事をするのが下手糞な、お人好しな医者なのだ。

フィリスを誘えば、間違いなくあの喫煙警官に話が伝わる。

これ以上悩みの種を増やしたくない。

神咲には悪いが、当日誘うのを忘れたことにしよう。

――と企んでいたのだ、邪魔をしないでもらいたいぜ。

横から話を聞いていたレンは、そんな俺に物干し竿の先端を向ける。


「病院では御世話になったんやろ。何、恩知らずな事言うてるねん」

「医者は患者を診るのが仕事。あいつはそれで飯を食ってるの」

「義理と恩ってのを知らんやっちゃな・・・
それとこれとは話が別やろ。
桃子さんが是非って言うてるんやから、素直に招待したらええやんか」

「あいつは患者を診るのを生き甲斐にしている女なんだから、ほっとけばいいだろ」


 ふん、情で責めようとしても無駄だ。

花見の場所取りでの一日は俺も多少変だったが、今日はもう大丈夫。

流されたりはしない。

言われた仕事を果たした以上、もう何の気兼ねもない。

誘わないくらいで、フィリスだって怒りはしない。

心の狭い女ではないし、笑って済ませられる。


「もう・・・そんな意地悪言わないで、御招待しましょう。ね?
皆でお花見したほうが、きっと楽しいから」

「俺は一人が好きなの」

「・・・どうしても、嫌?」

「やだ」

「うう・・・桃子さん、悲しい・・・」


 ぐ・・・な、泣き落としも無駄だぞ。

俺の鋼鉄の心には、まったく響かない。

容赦なく無視だ。

俺は顔を背けて、鍛錬していた竹刀を握り締める。

馬鹿な話はさっさと終わらせて、レンとの試合に望むのが吉。

俺の態度を見てレンは苦々しい顔を浮かべたが――不意に、口元を歪める。


「ほんなら、また賭けをしようか?」

「賭けぇ・・・?」

「そう、前と同じ。負けたら、勝者の言いなり。
どんな命令でも一個だけ聞く」


 ・・・っけ、魂胆見え見えだぜ。


「俺を倒して、フィリスを誘わせる気か。嘗められたもんだ」

「負けるのが怖かったら、別にええよ」


 安い挑発――分かっている。

俺をその気にさせて倒し、フィリスの元へ向かわせる気だ。

くっくっく、馬鹿め・・・

何時までも俺が、お前の後ろばかりを走っていると思うな!


「いいだろう――
今日という今日は完全勝利して、俺の靴でも舐めてもらおうか」

「ふん、発想が相変わらず貧困やな。
ええやろ・・・真剣勝負や!」

「上等!」


 一分間の決闘。

俺が颯爽と地を蹴って、傲慢なちびっ娘目掛けて最速の剣を振り下ろした。







――結果? 聞かないでくれ。








「――なんで怪我もしてないのに、病院なんざ・・・」


 海鳴大学病院――

施設や人員の優秀さに評判のある病院へ、俺は朝からやって来ていた。

――胸に、痛みを抱えて。

舌打ちして、俺は胸元を見る。

弾痕のような円形の青痣――

先ほどの戦いの傷跡が、鈍痛となって俺を蝕んでいる。


「うぐぐぐ、結局あのコンビニの言いなりになっているとは・・・悔しすぎる」


 地面に横たわる俺を、勝ち誇った面で見下ろすレン。

命令されるがままに、俺は病院へと足を運んだ。

病院側のシフトとかは知らないが、無駄足にならないようにフィリスが来ている事を祈るしかない。

――気が引ける・・・

肩の怪我も概ね完治しているのに、会わなければいけない。

普通に考えて仕事の邪魔なのだが、フィリスはきっと喜んで会ってくれるだろう。

あいつの笑顔は、いつも簡単に思い出せる。

――あいつって、苦手なんだよな・・・

渋々俺は自動ドアを潜って、受け付けで意向を伝える。

花見に誘いにでは変なので、怪我の相談に来た事を簡単に。

病院内は何時もながら患者が多く、待合室に座っていた。

案内された俺は静かに腰を下ろしていたが、


「――飽きた」


 何で何時も此処はこんなに時間がかかるんだ?

病気や怪我に苦しむ患者からすれば、待っているだけでも苦痛だろうに。

医者や看護婦にも限界があるのだろうが、こんな調子で大丈夫なのだろうか?

――などと、高尚な事を考えても呼び出されない。


「・・・久しぶりの古巣だ。ちょいと、回ってみるか」


 呼び出しがかかれば、分かるだろう。

俺は安易にそう考えて、病院内を走り回る。



――運命に、引っ張られるように。





































































<続く>







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