とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第十九話







 用意周到というか、完璧主義というか。

あるいは、俺を信じていないのか――

昼休みが終わり、大人しく学校から出ようとしたら一台の車が訪れる。

黒塗りの高級車。

庶民には乗れない嫌味な車が、校門前に流れるように横切って停車した。

こんな車に乗れるのは、俺の知る限りあの家系しかいない。

開かれる運転席の扉――


「・・・あれ、ノエル?」

「御待ちしておりました、宮本様」


 月村の忠実なメイド、ノエル・エーアリヒカイト。

整った衣服に身を包み、俺の前に出て丁寧に頭を下げた。

予想のやや斜めを行く相手。

てっきり俺は――


「驚かせるなよ。綺堂が俺の様子を見に来たとばかり――」

「あら、お見通しだったようね」

「おうわっ!?」


 後部席の窓が開き、聡明な女性が顔を覗かせる。

くそ、フェイントとはやるな綺堂。

俺は妙な感心をしながらも、素早く冷静さを取り戻す。

この理知的な女に弱みを見せてはいけない。

月村が親愛の情を向ける綺堂は、俺にとって手強い大人なのだ。

テレビに出る偉そうな国会議員より、遥かに恐ろしい。

それにしても、


「・・・お前ら、ずっと此処に居たのか?」


 校門前付近に待機でもしていたのだろうか?

目立ってしかたないと思うぞ、いい大人が。

駐車違反で罰金とかされていたら笑えるのだが、こいつはそんなミスを犯さないだろう。

人生に汚点なんて全くなさそうだ。


「そろそろ貴方が出る頃だと思って、迎えに来たの。
折角だからノエルも連れて」

「・・・はい」


 何がどう折角なんだ、おい。

会いたくない訳ではないが、必然性が全く見えないぞ。

相変わらず腹の読めない女である。

俺の行動は全てお見通しだったって事か。

ノエルは感情の無い美しい瞳を向けて、後部席のドアを開ける。


「どうぞ、宮本様」

「・・・歩いて帰るつもりだったんだが」


 一応、反抗してみる。

思い通りにされるのも、何かむかつく。

だが、俺のそんな反応もお見通しだったらしい。


「お話を聞かせて欲しいわ。
どうしても嫌ならかまわないけれど」


 けれど――場所は提供できない、そういう事だな。

交換条件である以上、成果を報告するのは当たり前か。

承諾をきちんと得るまでは逃れられない。

特に恭也達にもう心配ないと断言した以上、今更反故にされるのは困る。

無駄な抵抗だったな、くそ。


「・・・ついでに家まで送ってくれよ」

「ええ、勿論」


 穏やかな微笑みに、俺は白旗をあげた。















「――そうですか、忍お嬢様を・・・
有難う御座いました、宮本様。お嬢様もさぞお喜びでしょう」

「こういう人の集まりは苦手そうなのにな、あいつって」


 ノエルの感謝の声に、恥ずかしいので俺は窓の外を見ながら答える。

大人びた外見に、静かな印象を持つ月村。

深く付き合った者にしか見せない明るさもあるが、恭也達とはまだそれほどの付き合いではない。

断るかとも思ったが、綺堂の予想通り月村は承諾した。

ノエルも綺堂と同じく思っていたのか、誘った事を伝えると少し嬉しそうだった。

自分の事ではないのに喜ぶ。

俺にはない一面を、笑顔を見せないこのメイドは持っていた。


「ふふ・・・それにしても、苦労をかけたわね」

「特別手当が欲しいぜ、本当」


 車内で、綺堂に学校での出来事を報告。

出来ればあの女教師の騒動は話したくはかったが、手持ちの反省文が物的証拠になってしまった。

シラを切るには難しい相手なので、鬱陶しく追及される前に説明した。

お前が学校に強制的に連れてきたから、と暗に皮肉って。

――通じるタマではないが。


「でも、皆さんに喜んで貰えたのは良かったわ。
自由に使ってくれてかまわないから」

「約一名、泣いてたけどね・・・」


 ――今回ばかりは、俺も同情した。

食堂で話が終わり、ご飯も食べ終わった頃。

平和に話し合いが終わりそうだった時、ぽつりとレンが言った事から始まった。















「――そういえば、美由希ちゃんは?」

「あ――」


 ――誰か忘れてると思ったら、あの眼鏡女が居ない。

何かすっきりしない感じだったが、ようやく晴れた。

俺は恭也に目を向ける。


「一緒じゃなかったのか、お前」

「あ、ああ・・・てっきり後から来るとばかり・・・」


 月村と一緒だったので、失念していたようだ。

存在感の無い女である。

地味な印象は確かにあるが、放置とは気の毒に。


「ま、別に今でも後でも同じだろ。
俺の華麗なる活躍ぶりを、後でとくと聞かせてやろう」


 飯時に桃子とフィアッセ、なのはにも話す予定だからな。

――何か、すっかり高町の家に慣れ親しんでいる気がするぞ俺。

当たり前のように帰ろうと習慣づけてしまうのは、やばいな。

花見が終わったら、とっとと出て行くか。

そんな風に段取り付ける俺の耳に、晶の一言が響く。


「美由希ちゃん、お花見の場所探しを手伝うとか言ってたんすっけど・・・」


 ――へ?


「そういえば、お昼休みは図書室で場所を探してみるって言うてた・・・」


 ――は?

レンと晶の言葉に、凍りつく一同。

――行動は迅速だった。

部外者だが俺も皆と一緒に図書室へ向かってみると――





「・・・本当に居たよ、あの馬鹿・・・」





 広い図書室内のテーブルの上に資料を広げる、一人の女剣士。

難しい顔をして地図を見る努力に、涙すら浮かぶ。

扉の向こうから同じく覗く月村と神咲に、ナイスな提案をしてみる。


「このまま放置するというのはどうだろう?」

「そ――それは酷いよ、侍君」

「ちゃ、ちゃんと話してあげた方が・・・」


 非難されてしまった・・・当たり前か。

当人は大真面目に、海鳴町の観光案内を一枚一枚開いては嘆息している。

良い場所が見当たらないのだろう。

俺の為に一生懸命になってくれているその姿勢は認めるが、空回りしているのが笑えて仕方ない。


「――話して来てあげてくれないか?」

「俺が!?」

「あんたしかおらんやろ」

「お願いするっすよ」


 高町家の面々に懇願される俺。

面白いのでこのまま見ているのは、どうやら誰も受け入れられないらしい。

仕方ないので他の生徒に見られないように、こっそり近づく。

俺が来た事に美由希が面白いように驚いて、その後真実を告げると――


「あーうー」


 ――そのまま机に突っ伏して泣いた。















「――手伝ってくれた事は、嬉しかったんだがな」

「?」


 不思議そうな顔をする綺堂に、俺はにっと笑って誤魔化した。






































































<続く>







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