とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第八十八話
                              
                                
 惑星エルトリアを人質に、ユーリとイリス、フィル・マクスウェルの引き渡しを要求される。全くもって到底飲めない要求である。
 
 ただ、この要求から幾つか分かったことがある。まずこの衛星兵器は自律行動こそしているが、現状を把握していない。ここが惑星エルトリアだと分かっているかどうかも怪しい。
 
 自律行動が行える固有型ではあるが、かつて俺と戦った聖王オリヴィエの偽物ほどの理解力はない。アレも怨霊が宿ったせいで相当ややこしくなったが、一応自分の置かれた立場は理解していた。
 
 
 惑星エルトリアにいるのだと分かっているのであれば、マクスウェル達の引き渡しなんて要求しない。この場に連れてくるには時間も面倒もかかりすぎるし、見込みだってありはしない。
 
 
 「要求には応じない」
 
 
 現状を認識していないということは、聖典復旧作業より仕掛けてきた際にイリスから何も奪えなかったという事だ。あいつもテラフォーミングユニットで、俺達に関するデータというか記憶を保持している。
 
 ウイルスコードでイリスのデータを奪われていたら、もっと事態が複雑になっていただろう。荒唐無稽な要求ではなく、現実味のある交渉で責め立てたに違いない。
 
 固有型にしてはお粗末だが、多分苦肉の策だったのだろう。フィル・マクスウェルは当時勝利を革新していただろうし、あくまで敗北した場合の悪足掻きで仕込んでいたのだろう。
 
 
 それでこのお粗末さなのだから、多分自分の敗北を明確にイメージできなかったんだろうな。強者にありがちな傲慢である。
 
 
 『交渉決裂。殲滅行動を開始する』
 
 「クアットロ」
 
 「もう、本当にリソース不足ですのに!?」
 
 
 固有型で自立活動できるならもっと交渉の余地くらい残せと言いたい。同じ女でも、夜の一族のカレン達ならば自分の要求が通らなかったのであれば二の手三の手を余裕で出して来たはずだ。
 
 すぐにテロリズムに切り替えるあたり知性の足りなさが伺えるが、犯罪者が暴走するのは被害者にとって好ましい状況ではない。衛星兵器はエルトリアに突きつけている方向にエネルギーを収束させる。
 
 悠長に見えるが、収束率は相当高い。戦略どころか、戦術を考える時間がない。逡巡は破壊を招くと悟った俺は、瞬間的にクアットロへ一声を上げる。指示を出す猶予もなかった。
 
 
 クアットロは舌打ちして、かけていた眼鏡を投げ捨てた。俺と行動する際はからかいの意味もあってかけてたりするが、今は彼女なりの本気モードということだ。
 
 
 「I.S発動、シルバーカーテン」
 
 『照準にノイズ!?』
 
 
 自律行動が行える固有型に自意識があるが、感情の揺れ幅は少ない。それでも規律然とした態度が崩れたのだから、機能妨害に相当驚かされたのだろう。
 
 敵を見つめるのではなく、味方を見やる。クアットロは珍しく額に汗を滲ませて、唇を噛み締めている。戦闘機人にも苦痛や疲労は確実にあり、負担も大きいのだろう。
 
 よくやったと称賛しようとして、首を振る。何となくだが、違う気がした。人間であれば褒められば喜ぶだろうが、彼女は人間ではない。その線引は徹底するべきだろう。
 
 
 傍から見れば差別に見えるのだろうが、誰がどう思うと知ったことではない。クアットロは戦闘機人であることにプライドを持っている。人間扱いするのなんて屈辱なだけだ。
 
 
 「辛そうだな、灯油でも入れてやろうか?」
 
 「戦闘機人を何だと思っているとかは今更だとしても、せめてガソリンとか言ってくれません!?」
 
 「おい、あいつ再発射準備しているぞ。妨害し続けろ」
 
 「ぐぬぬ、平然と無茶振りを――あ」
 
 「何だよ、思わせぶりな態度はやめろ。不安になるだろう」
 
 「陛下、妨害するのはいいのですが」
 
 「うむ」
 
 
 「破壊を第一で狙いを定めずに撃ちまくられたらどうしますの?」
 
 
 「……」
 
 「……」
 
 「クアットロさん、一つお願いがございまして」
 
 「平身低頭しても無理」
 
 
 くそっ、固有能力を限界以上に酷使している分際で、俺の動揺を見透かしてニヤニヤ笑っていやがる。こいつ、本当に性格の悪い女だな……!
 
 疲労困憊だったくせに元気いっぱいで、どうするんですか大惨事ですよ、あーあイリスを見捨てないからエルトリア壊れちゃった、とか散々なじってきやがった。殴りてぇぇぇぇ!
 
 水を得た魚のように善人である俺を責め立てる悪女。レッグラリアートでもかましたいが、時間がない。衛星兵器が輝きだして、エネルギーが今まで以上に収束されている。
 
 
 クアットロに機能を妨害されて、数撃ちゃ当たる作戦に切り替えたのだろう。アミティエや妹さんはまだ準備中で間に合わない。俺は大慌てで、イリスを経由してエルトリア地上にいるディアーチェに繋いだ。
 
 
 『父上、イリスから帰還した事は聞いている。我に至急の要請だそうだな、任せておけ!』
 
 「うむ、今からエルトリア上空より衛星砲が撃ちまくられるから迎撃してくれ」
 
 『……今なんと言った、父よ』
 
 「詳しい話をしたいところなんだが、後十秒くらいで発射されるんだ。なるべくこっちで妨害するけど、誤射があるからよろしく」
 
 『後十秒で!? 待つのだ、我が父よ』
 
 「今任せておけといったよね」
 
 『い、いや、つい安請け合いした非は認めるが』
 
 「我が娘ながら頼もしいぜ。親として誇らしい」
 
 『わ、我こそ父の後継者にふさわしいとはいえ、これほど過酷な試練はちょっと――』
 
 「何でもいいけど、もう五秒切ったぞ」
 
 『あああああ、我が父ながらなんて恐ろしい男なんだあああああああああああああ!』
 
 
 すげえ泣きそうな声を最後に凄まじい轟音が鳴り響いて、通信が切れた。多分ディアーチェが大慌てで天井を突き破り、かっ飛んでいったのだろう。
 
 ディアーチェは広域範囲攻撃が得意だと聞かされている。魔力容量もシュテルやレヴィを超えるほどで、射撃性能も高い。その威力はミサイル顔負けの砲撃を行えるそうだ。
 
 そこまで考えて、ふと気付いた。衛星兵器なら想定する必要はないが、あの固有型はマクスウェルが悪足掻きで製造した兵器である。可能性はありえなくはない。
 
 
 俺はクアットロとイリスを酷使して、商船から指示を出していく。とにかく被害の拡大を防がなければならない。
 
 
 「シャマル、今大丈夫か」
 
 『帰ってきたのから、こっちを手伝ってくれませんか!? モンスター達が大暴れして、シグナムやフェイトちゃんが必死で戦ってくれているんです!』
 
 「衛星兵器がミサイルなどの質量兵器を用いてくる可能性があるから、地上のカバーを頼む」
 
 『……質量兵器云々はともかくとして、地上のカバーを私が?』
 
 「うむ」
 
 『あの、地上って簡単に言いますけど、どのくらいの範囲を……?』
 
 「地上といえば、エルトリア全域に決まっているだろう」
 
 『何を当然のように無茶苦茶言っているんです!?』
 
 
 ヴァリアントシステムとフォーミュラを使えば、質量兵器を作り出せることはイリス事件で証明されている。
 
 衛星兵器による砲撃はあくまで主戦力であって、クアットロによって機能妨害されれば質量兵器を使用してくる可能性がある。
 
 まあイリスのように自由自在に作り出せるとは到底思えないので、あくまで敵の攻撃に対する備えの意味でシャマルにお願いしている。
 
 
 ただ備えのためだというと気を緩めてしまうことも考慮して、敢えて厳しい命令を出している。決して、無茶振りではないのだ。
 
 
 「安心しろ、お前一人に全域をカバーさせるつもりはない。ローゼとガジェットドローンにもお前の補助をさせるから――
 そういえばあのアホは今何をしているんだ」
 
 『あの子は貴方が留守であることを理由に、指揮官に収まっていますよ。貴方の遺志を継いで、この役目を全うすると』
 
 「緊急事態に乗じて悲劇を演出するな!?」
 
 『ふふ、あの子なりに貴方が帰ってくることを確信してのツッコミ待ちなのよ』
 
 「ぐっ、アホのくせに高度なボケをしやがって……じゃあ、あのアホの面倒もよろしく」
 
 『ちょっと、あの子の面倒まで押し付けないで!?』
 
 
 ――通信を切る。一応これで対策は万全だが、この指示はあくまで敵に対する備えでしかない。
 
 結局のところ、あの衛星兵器をなんとかしない限り事態は収束しない。アミティエと妹さんがどうにかしてくれるまで、この戦線を維持しなければならない。
 
 世界会議や議会のような心理戦ではなく、エルトリアという舞台での戦争。誰もが皆戦場へ出向いて、命を削って戦っている。
 
 
 ……正直言って、葛藤はある。今すぐにでも自分が剣を手に、駆け出したいところだ。
 
 
 しかしながらこの状況下では、何がどうなるかわからない。一兵卒として戦うのは簡単だが、自分が倒れれば戦線は維持できなくなるだろう。
 
 シャマルも言っていたが、俺が帰還することを見通して皆現状を打開するべく務めている。軽率な判断は部隊を瓦解させてしまう危険性があった。
 
 
 自分が戦ったほうが楽だと感じられる、この状況――とにかく、歯痒かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 <続く>
 
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