とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第七十九話
――なかなか面白い戦術だと、クアットロは悪どく笑いながら説明する。
ポルポ代議員を焚き付けてデモ活動団体に接触させて、事件を起こさせる。事件の規模は何でもいいし、どんな内容でもかまわない。まあポルポ代議員主導であれば、自作自演のヒーローごっこになると簡単に看破出来るが。
リヴィエラの御両親は大貴族。事件の結果がどうあれ公にはせず、それでいて野放しにはしない。デモ活動団体は必ず変節し、大商会及び大貴族に追い風となる活動に切り替えるだろう。
後はそれに便乗すればいい――どう転んでも策は成立するのだと、彼女は状況を見据えていた。
「これより会議を開きます」
大規模デモ活動とマスメディアのお祭り騒ぎで一時騒然となった議会も、ようやく落ち着きを取り戻した。ひとえに、毅然とした議長の一喝があってこそだろう。
議長は大統領権限継承順位について副大統領に次ぐ第2位にあり、大統領が万が一執務不能に陥った際に副大統領が欠けている、あるいは副大統領も揃って執務不能に陥った場合には大統領権限を継承出来る。
それほどまでに極めて重要なポストであり、議長は多数派政党の代表者に関わる任務以外に、議会を管理的および手続に関する機能も遂行している。議長の存在あってこそ、この騒然とした状況でも議会は行える。
ゆえにこそ、大統領との距離も議会と同じ接点で通じ合えている。
「この際、御報告いたします。本会期中、当議会に付託されました請願は幾多ございますが、各請願の取扱いにつきましては、理事会において検討いたしました。
その上で本議会における採否の決定はいずれも明日とすることになりましたので、御了承願います」
隣に座るリヴィエラに視線を向けると、彼女は涼しげに微笑んでいる。俺が主要各国の代表者達と合意を得ている間にも、彼女は有力議員達と交渉を重ねて見事切り崩し工作を行えたようだ。
今の情勢を鑑みれば、明日の採決を延期にする動きが出るのは当然であった。特に反対派からすれば情勢は悪く、この混乱に乗じて態勢を立て直したいところであっただろう。
リヴィエラ商会長はその混乱を逆に利用して議員達の不安を殊更に煽り、保守に走らせるようにしたのだ。反対と賛成、請願は幾つあれど天秤はこちらに傾いたという事だ。
採決前の票取り合戦は、彼女の手腕によってこちらに優勢となった。
「なお本会期中、当議会に送付されました陳情書及び意見書は、総合的な通信の増強を求めることに関する陳情書外三件。
衛星による通信局からの電波の維持を求める意見書外六件であります。
念のため、御報告いたします」
次に主要各国の代表者を見やると、全員涼しげな顔で俺の視線を受け止める。こいつら、何だかんだいって自国の為に今後を見据えた行動を取ってやがるな。
総合的な通信の増強を求めるというのは、電波法が成立しようとしなくても、今回の議会において通信制度の見直しが必須となったことは事実。だからこそ、自国への通信強度をここぞとばかりに訴えた。
衛星による通信局からの電波の維持は、もっとしたたかだ。仮に採決で賛成票を出した結果否決されたとしても、今後も電波の維持を求めるという保証を訴える。自国の保証をこの混乱の最中に訴えた。
どちらも委員会側からすれば、聞き捨てならない陳情書及び意見書だ。このタイミングで出す手腕は見事というしかない、よく考えやがる。
「次に、電波法に関する件についてお諮りいたします。
まず連邦議会の権限は法に列挙されているものに限られ、その他の全ての権限は連邦加盟国及び人民に留保されるものです。
憲法には連邦議会に権限を行使するために必要かつ適切なすべての法律を制定する権限がございます。
つきまして大統領より、本議会で提唱される電波法について拒否権を発動する申立がございました」
議会が大いなるどよめきを発し、今度は逆に全ての視線がこちらに向けられる。指名こそされていないが、提唱者である俺に向けた申立であるのは確かであった。やはりそう来たか。
そもそも連邦政府の行政機構は全て、行政権を握る大統領を頂点とする形で組織されている。大統領は議会が可決した法案に、拒否権は発動できる。
連邦政府の大統領制を特徴づけるのが大統領の直属組織である大統領府となり、議会への申立はこちらを通じて行われる。議長は、大統領府と議会との折衝役もこなす議会制度の要ともいえる。
ここで重要なのは拒否権を発動する、「申立」があってという言い回しである。
「国の安全保障にも関係する件につきまして、拒否権が発動される必要が生じました場合には、議長に対し、議員の派遣承認申請を行うこととする。
この派遣の目的、派遣委員、派遣期間、派遣地その他所要の手続につきましては、大統領府に御一任願いたいと存じます」
色々ややこしいことを言っているが、要するに拒否権が発動される事態となった場合は、議会を通じて大統領府にも手続きを求めるやり方に移行するかどうかを問うという事だ。
これこそクアットロが言っていた、一連の事件における大統領の目的である。大統領は確かに法案の拒否権を持っているが、国家のトップだからといって横暴な真似はできない。
仮に拒否権を発動して電波法制定を阻止しようとしても、議会が3分の2以上の賛成で再可決すれば法案は成立するのだ。そうでなければ、議会制度が形骸化してしまう。
だからこそ議会に干渉するべく、外堀を埋める働きかけを行った。ポルポ代議員の自作自演に大規模デモ活動の扇動、各マスメディアへの干渉である。
テレビジョン開設と電波法の制定、通信革命。これらを全て潰すには議会で否決させるだけでは足りない。電波法の制定が却下されたとしても、再提出されればまた議論になるからだ。
そもそも俺やリヴィエラが推し進めている通信革命は、確かな技術と根拠があってのことだ。夢物語でも何でもなく、実現できるだけの力を持っている。テレビジョンが成立している世界も知っている。
連邦政府に取っても十分以上に利益がある法案を秘訣は出来ても、否定し続けるのは困難だ。完全に潰すには大統領の権力だけではなく、議会の掌握も必要となる。
そして何よりの命題は――全ての根幹である俺を徹底的に潰さなければならない。
「議長に対し、申出をするに賛成の諸君の起立を求めます」
自らに対して申し出をする。つまり大統領が行っている申立に賛成するかどうかを求められている。
拒否権が発動される事態にまで発展した場合は、大統領府が絡んでいる。そして今大規模デモ活動とマスメディアによるお祭り騒ぎで、議会が混乱するほどの事態にまで発展している。
大統領が裏から先導したマッチポンプではあるが、規模はポルポ代議員の自作自演とは比較にもならない。異常事態を演出した大統領は、まさに世界都市を巻き込むほどにまでのマッチポンプを演出してしまった。
これほどの異常事態となると議会だけではなく、大統領府の介入も視野にいれるべきか問われている。
(――いかがいたしますか、リョウスケ様)
(受けて立ちましょう)
(分かりました。リョウスケ様のご覚悟、然と受け止めました。私はどこまでもお供いたしますわ)
俺は率先して立ち上がった。つまり拒否権が発動された場合は、大統領府の介入を認めるのだと態度で示した。これには主要各国の代表者達も驚いた顔を見せる。
大統領を敵に回して大丈夫なのか、俺の答えはこの通りである。ここで怯んではならない。大統領の干渉を拒否するということは、拒否権に対する抵抗を意味している。
俺にとって重要なのはあくまで世論を味方につけることであり、人々の理解を求めなければならない。大統領のご機嫌伺いなんぞしたって仕方がないのだ。だって、俺はいつまでもこの異世界にいる気はないのだから。
大切なのは、明日の採決で賛同を得ることだ。その後拒否権が発動されたとしても、賛成多数であれば少なくとも議員や主要各国の理解は得られたことになる。だったら、最低でもエルトリアの強制退去は撤廃されるだろう。
世界都市有数の経済力と人脈を持つ商会を私情で敵に回すほど、バカではないだろう。パートナーのリヴィエラにまで塁が及ぶことは絶対にない。
その分俺が大統領に睨まれることになるが、知ったことではない。エルトリアの主権とリヴィエラの利益さえ確保できれば、俺はもう用済みである。義理さえ果たせれば、円満に関係は解消できる。
「起立多数。よって、そのように決しました。議会を再開いたします」
後は野となれ山となれだ、俺は地球に帰ってのんびりスローライフでもするよ。
<続く>
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