とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第六十七話




「ただいまより議案に対する質疑並びに一般に関する質問を行います」


 ――態度にこそ見せなかったが、内心で肩を落とした。

議会も三日目に突入して、当然の議員辞職劇。望みをかけた採決も可決されてしまい、電波法に賛同してくれていた議員達が数名辞職となってしまった。

政治的な圧力でもかかったのか、推測の域を出ない顛末。反対派が増長しそうな情勢で、無情にも議会が進められてる。質疑が求められているのは、相変わらず一般に関する質問。


つまり議員同士で論戦するのではなく、参席を求められている俺達への質疑がかかっている。


(事前の打ち合わせ通り、計画や予算については万事私にお任せ下さい)

(心強いです――議員の方々への対処は、私にお任せを)


 心の底から何もかも任せたかったのだが、リヴィエラ・ポルトフィーノより信頼に満ちた微笑みを向けられて太鼓判を押すしかなかった。

何故これほど信頼されているのか全く分からないが、主要各国の連中相手は質疑次第で俺が相手をしなければならないらしい。

アリサやシュテルというカンペがないと、専門的な質問の場合狼狽えまくる自信があるが、そこはもう神にでも祈るしかない。


どうか、余計なことは聞かないてくださいと。


「通告によりセーブル・マーキュリー議員を指名いたします」


 フォーマルスーツに身を包んだ議員、セーブル・マーキュリーという男性。白衣を正装とするスクラブスーツを着こなしている、絹より白い髪の美男子。

その白さは毒気さえも抜かれており、髪に色素そのものが消えてしまっているようだった。生まれつきの体質なのか、種族としての性質なのか。

老いを感じさせない若々しさ、三十代前半――いや、ひょっとすると二十代かもしれない。代表に選ばれる年齢ではないが、日本の常識なんて通じない。


議会では中立的な立場を貫いており、俺への姿勢や態度も一議員として公平に扱ってくれている。


「クライスラー国所属議員、セーブル・マーキュリーだ。通告に従って順次質問をさせてもらう。まず先の大統領からあった電波法に関する意見について伺いたい。
現在連邦政府では電波の公平かつ能率的な利用を確保するべく、公共の福祉を増進するべく通信設備増強により制限の拡大を行う予定だったと聞いている。
しかしながらリョウスケ氏の意見では政府のやり方は十分に対応できるものではなく、思い切った革命が必要であると唱えており、大統領が苦慮されているとこちらは見ている。

この件についてどのような考えを持っているか、まず本人に聞きたい」

「リョウスケ氏」


 政治屋の定番である、個人の見解ですの一言で済ませたい。第一声から思いっきり名指しで問われて、俺は渋々立ち上がる。リヴィエラに任せられる質疑ではない。

我々はお客様が望むものを作るのではない。お客様が望まれるものを創ることが仕事であると断言した。客が想像できる品を作り出すだけでは、リピートが出来るはずがない。

通信の安定性を求めることが悪いことだという気はないが、今の通信事業をこのまま安定化に向かわせるのはよくない。懐疑的に指摘した俺に対して、大統領本人が苦言を呈した。


転生云々は置いておくにしても、通信事業の停滞は問題の先送りとまで言われたら黙っていられないだろう。行政の長が指摘する意味合いは大きい。


「私個人が述べるつもりはございません。昨日私が発言した内容に対し議会が採決を行い、議員の方々の意思表示が明確となった。
この件に対し大統領が何を仰っしゃられようと、私は議会が出した結論が全てであると確信しております。

どうぞ皆様が昨日出された結論に胸を張り、発言に関する是非の全てを私に押し付けてやって下さい」


 若干最後は冗談めいて述べた発言に対して、議員達から苦笑と失笑の声が漏れる。ある種痛快な発言に、セーブルも苦笑いを浮かべて肩をすくめている。

第一声から厳しい指摘が上がったが、俺としては答えられる範囲で安心している。というのも、どちらであろうと知ったことではないからだ。

要するに今の問いは議会が出した採決による結果と大統領からの苦言、どちらを重んじるか。俺の発言の是非については既に議会が結論を出している。ならば結局どちらを重んじるか、となる。


だったらどちらであろうと、この世界の人間ではない俺には関係がない。リヴィエラの立場が悪くならないように、議会に賛同していればいいだけの話である。


「大統領だけではなく、政府民からも疑問の声が上がっている。議会前でもデモ活動が行われているのは周知の事実だが、やはり通信に対する革命ともなれば不安の声はどうしたって出る。
さらに対策を考えていく必要があると考えるが、テレビジョン開設時の混迷に対する緩和についてどのように取り組んでいくのか、具体的に伺いたい」


 暴徒鎮圧でもするのはいかがでしょう、と昭和時代の暴言が口から出そうになるのを自重する。だって、具体的にどうしろと言われても分からんしな。

カンペがないと、こういった時には厳しい。反対の声を無くすのは不可能だし、賛成の声を高めるというだけでは具体論に欠ける。どうしろというのか。

一番悩んでいるのはリヴィエラと俺、どちらが回答するべきか。テレビジョン開設に関する対応なのでリヴィエラでも良いのだが、具体性さえ追求されなければ俺でも返答可能な質疑だ。


ハッキリ言って悩む。本心は全部彼女に任せたいけど、単なる置物になるのもヤバいし、うーん……


「リョウスケ氏」


 かなり悩みこんだが、思い切って手を挙げる。だんまりを決め込んでいるとリヴィエラが手を挙げそうだし、彼女にはもっとヤバそうな質疑を任せたい。

勿体つけるように重々しく立ち上がり、足取りをしっかりと踏みしめて時間を稼ぐ。頭が悪い分、せめて脳をフル回転させないと答えなんて出ない。

テレビジョン反対について、どう対応するのか。反対するなんて殴っちまえばいいだけだと思うが、子供の喧嘩になってしまう。うーん、どう答えようかな……


――待てよ。子供の喧嘩が駄目なら……


「論争の場を設けましょう」

「? まさかこの議会にデモ活動する人間を呼ぶとでも」


「いえ、少し違います。テレビジョン開設――いえ、それだけではありません。電波法を含めた通信革命について、テレビジョンで討論番組を設けるのです」


「何だと!? テレビジョン開設について反対か賛成か、よりにもよってテレビで放送するのか!」

「政府民の声が現実的に届くでしょう、皆様に」


 追求しているセーブル・マーキュリーはおろか議員達、そして何よりテレビジョン開設の第一人者であるリヴィエラ・ポルトフィーノも驚いた顔をしている。

子供の喧嘩は駄目であれば、大人同士喧嘩させればいい。大人の喧嘩と言えば社会において、論戦以外あり得ない。国同士なら戦争だが、社会人であれば会議こそ喧嘩の場だ。

そしてテレビジョンであれば、討論番組が実現することは地球の歴史が嫌というほど物語っている。政治家がテレビ番組に出て有識者と論戦するなんて、珍しくもなんともないのだ。


チャンバラごっこのマネごとしか出来なかった俺が、高町なのは達と出会って知った新しくも平和的な戦い方だ。


「ちょっと待ってくれ。テレビを反対する人間をテレビに出すなんてどうかしているぞ」

「そうでもないでしょう。そもそも何故彼らがわざわざ議事堂の前に集まって騒いでいると思います? 彼らの声が、連邦政府に届かないと思いこんでいるからです。
勿論皆さんが民の声を疎かにしているとは思いません。ですが、政治の場にいての実感を思い返してみて下さい。民の声の全てが、皆様のお耳に届いておりますか?

世間と議会、その間にある壁を超えるには大声を上げるしかない――だから今、彼らが立ち上がって議会の前で声を上げているのです。

だからといって議会の中で彼らと討論するのは現実的に不可能でしょう。ならば、我々がその場を用意致します。
お約束しましょう。電波法が制定されてテレビジョンが解説された暁には、討論番組を制作することを」

「……ポルトフィーノ商会長も彼と同じ意見か」


 グハッ、そこを追求するのはよせ。ハッキリ言って今考えた案であり、事前に打ち合わせなんて全くしていない。

アリサ達がいれば事前に想定して根回ししていたのだろうが、俺はそこまで戦術を立てられない。その場で何とか剣を振り回して、強敵相手に立ち振る舞うしか出来ないのだ。

ここでリヴィエラに今初めて聞いたとか言われると、その場の思いつきで喋っているとバレてしまう。その場しのぎの男だと馬鹿にされる未来が待っている。


戦々恐々としていると、彼女は凛々しく手を挙げて明言した。


「無論です。リョウスケ様の仰っしゃられる通り、我々は政府民の方々の声をお届けするべくあらゆる可能性を追求しています。
皆様にとっても政府民と討論する場を設けられるのは利点であると、私は考えます。

政府民の声が連邦政府に届くとあれば、皆様の信任も増すのであればありませんか」


 政治討論番組を知らない筈のリヴィエラが、効果的な選挙運動になると暗に議員達を揺さぶっているのが恐ろしい。

俺は地球の歴史を知っているからこそ提案できたのだが、下地も何もないリヴィエラは討論番組の利点をすぐに見抜いたのだ。


異世界で名を馳せる商会の長とは恐ろしき存在だと、思わされる。俺と同じ十代なのが信じられない。


(――こんな素敵なアイデアがあるのでしたら、パートナーには事前に言っておいて下さいね。リョウスケ様?)

(す、すいません……)


 男が魅了する笑顔で脅されて、平謝りする剣士であった。













<続く>








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