とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第十一話







 俺がもしこの学校に通ってたなら、確実に一度はこの部屋へ連行されていたであろう。

――生徒指導室。

机と椅子・窓と特徴の無い部屋で、俺は一人椅子に座らされていた。

俺を此処へ連れてきた女教師は、今職員室へ戻っている。

警察へ通報しているのか、教師陣に俺の事を訴えているのか。

どっちにしろ、あまり愉快ではない展開が待っていそうだった。


「・・・今の内に、逃げようかな」


 ――逃げようと思えば、逃げられた。

屋上で女教師に発見され、退路を失ったあの時。

相手は一人なのだ、如何様にもやり様はあった。

正体不明の実力を持っているので苦戦はしそうだったが、男の腕力で組み伏せてもよかった。

翻弄して隙を突き、逃走を図る手段も残されていた。

そんな俺の思惑を――不安そうに見守っていたのが月村。

睨み合う俺と女教師を見つめて、居心地悪そうにしていたのだ。

学校不法侵入相手に授業をサボっていたのだから、無理も無いが。


「見捨てていれば、絶対逃げられたよな・・・はぁ」


 俺は――降伏した。

あまつにさえ、月村の処分だけはしないように頼んだ。

俺が無理やり引っ張り出した、そう言って――

月村は目の色を変えて逆に俺の弁護をしたが、こういうのは先出しが有利。

俺はこの生徒指導室へ連行、月村は教室へと戻らされた。

俺はがっくりと机に額を打ち付ける。

あの女教師もなかなかやる。

鍵もかけずに、他の生徒や教師に見つからないように、この部屋へ一人置いている。

天然か、作為があってかは知らないが、俺が逃げ出さないと思っているのだろう。

逃げ出せば――自動的に月村に容疑が向けられるから。

くそぅ・・・何が腹が立つって、俺自身にむかつく。

自業自得、俺に問題があるにしたって、今まで他人に押し付けて来た。

こんな状況になったら、真っ先に逃げてたはずだ。

相手に罪をなすり付けることや迷惑をかける事に、一片の罪悪感も持たなかった。

いや――今だって同じのはずだ。

人間がそう簡単に変わるものか。

他人のことなんて、今だって俺にはどうでもいい。

自分さえ良ければそれでいい、強くて幸せなら尚更いい。

なら――逃げない理由は、月村?

あの女を、俺は・・・他人とは思っていないという事なのだろうか。

明確な赤の他人ではないのは確かだ。

あいつに何かあったら、綺堂との約束を違えてしまう。

俺が引き受けた花見の場所取りが、おじゃんとなる。

しかし――しかし、だ。

そもそもそこまで花見にこだわる理由は何だ?

あんなお人好し家族の、御気楽極楽連中なんてどうでもいいじゃないか。

高町兄弟やレンとの勝負が無くなるのは確かに惜しいが、そこまで固執する理由もない気がする。

世の中には強い連中はまだまだ沢山いるだろう。

あいつらにこだわる必要は無いんじゃないか?

いや、まだ勝っていないのだから拘るのは無理も無い・・・か。

待て待て、100歩譲って場所取りを遂行するのはいい。

だけど、綺堂との約束に固執しなくてもいいんじゃないか?

今、置かれている現状を見ろ。

このままだと警察に突き出されるか、学校側から何らかの処分を受けるのは間違いない。

綺堂との約束に守る為とはいえ、拘束されるのはご免だ。

此処から逃走して、違う場所を探すほうが絶対にいい。

今ならまだ逃げるのは難しくない。

俺一人、どうとでもなる。

場所を探すのは困難だが、絶対に可能性が無いとは限らない。

第一、このままじっとしてたら場所取りどころじゃない。

警察にでも行かされたら、余罪を追及されてしまう。

叩ければ埃が山のように積もる身の上。

早く逃げないと――


早く――



早く――――





「お利口さんだね。
ちゃーんと、大人しく待っててくれたんだ」

「・・・」


 にこやかに入室した女教師に、俺は力なく突っ伏して手を振った。

足はピクリとも動いていない。

こん畜生・・・















「宮本・・・良介君、ね。うん、良い名前だね」

「そりゃどうも」


 鷹城 唯子、それがこの教師の名前らしい。

この学校の体育教師を努めているとの、本人談。

あの類稀な投げはそれだけでは説明がつかないが、持久力や体格の良さは納得した。

対面して分かるが、背もなかなか高い。

長い髪をポニーテールで綺麗に束ねていて、健康的な魅力が出ている。

体育教師にしては少し緩んだ顔つきをしており、長閑な印象を与える。

子供っぽい口調に苛立ちを感じさせないのは、この教師の持ち味なのかもしれない。

そもそも、この学校も特徴的だ。

やけにデカイ校舎だと思ってたが、二つの学園が同じ敷地内にあるらしい。

私立風芽丘学園と海鳴中央。

将来的に完全に統合される予定らしく、交流も盛んとの事だ。

・・・何故かにこやかに学園案内されてしまったので、身についた知識である。

その後、簡単に事情聴取。

俺の名前・住所・電話番号などを聞かれて――


「おウチがないって、どういう事なの!? 火事?
うー、可哀想だよー」

「・・・普通、家出の線から疑わないか?」


 月村との関係について――


「・・・ただの知り合い? でも、宮本君を一生懸命弁護してたよ。
うんうん、青春だね」

「・・・何でそんな嬉しそうなんだ?」


 学校に来た経緯に関して――


「駄目じゃない! 学校に私服で来るなんて。
校則をちゃんと守って、規則正しい学園生活を――」

「・・・その前に、俺がこの学校の生徒かどうか聞けよ」


 ――とりあえず、ずれてるって事はよく分かった。

フィリスやフィアッセとは別タイプで、厄介な存在だ。

俺もこの場に至って意地を張るほど馬鹿でもなく、出来る限り分かり易い理由を作って話した。

学校に興味があり覗いていて、教師に見られて逃げた。

綺堂の事に関しては言わず、月村に関しては顔見知りに会ったので無理やり連れ出したと言った。

とりあえず話を聞く限り――俺を公に問題にするつもりは無いらしい。

ただ厄介なのが、


「――先生にも騒ぎを起こした原因はあるから、宮本君一人を咎めないわ。
でも、ね・・・保護者の方とお話しないといけないの」


 ・・・だよな・・・

事を公にしないのと、そのまま釈放するのは別だ。

穏便に解決するには、身元を明かす大人が引取りに来ないといけない。

困った――俺には、そんなものいない。

厳密にはいるけど・・・あいつに俺の現在地をばれるのはまずい。

どうする・・・・・・?























































<続く>

-------------------------------------------------------------




小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     












戻る