とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第三十六話
「"レリック"とはそもそも高エネルギーを帯びる超高エネルギー結晶体で、時空管理局では捜索指定ロストロギアとして位置づけておりました」
惑星エルトリアのエネルギー環境大臣として活躍しているクアットロが、何故かノリノリで解説に入っている。ようやく自分のジャンルに持ち込めて、嬉しいんだろうな……
レリックはジュエルシードと同じロストロギアとして扱われているが、危険視されているのは勿論実際に事件が起きたジュエルシードである。むしろあの宝石が、このレリックに着目させたと言える。
何しろ過去に四度しか発見されていなかった代物で、高エネルギーであろうとも結晶体そのものは単なる鉱石である。では何故捜索指定に入ったのかと言うと――
過去に四度発見され――そのうち三度は、周辺を巻き込む大規模な災害を発生させているのである。
「ジュエルシードと異なるのは、外部から大きな魔力を受けると爆発する危険性があるということです。
結晶体の崩壊と共に大爆発を起こす性質を持っていて、取り扱いが非常に難しい代物なのですわ。
ゆえにこそ時空管理局、特にジュエルシード事件を知る空局が重い腰を上げて回収に取り掛かった経緯があるのです」
「それで――その三度も事故を起こしたのは」
「はい、わたくし達ですわ。いやだ陛下お恥ずかしい、オホホホホ」
「笑って誤魔化すな!?」
俺がどうして過去の事故を知っていたのかというと話は簡単で、コイツラが全部バラしたからである。過去だといえば何でも時効になるとでも思ってやがるのか。
まあ一応コイツラを弁護してやると、過去にコイツラをアゴでこき使っていた最高評議会の連中がジェイル・スカリエッティ博士にこの鉱石の存在を伝えたのである。
ジュエルシード事件に着目していた博士を利用するべく、レリックの存在を持ち出して彼の関心を買おうとしたのだ。
面白い研究材料を持ち出せば、ロストロギアを更に有効活用してくれると見越して。
「人身事故まで起こしていたら、流石にかばえないぞ。シグナム達が切れる前に白状しておけ」
「ふふん、正義の騎士様はこれだから扱いに困――も、もちろん陛下の名を汚すような真似はしていませんとも、ええ!」
仲間達の厳しい視線を平然と受け止めていたクアットロの悪女ぶりも、その正義の騎士団長であるセッテの冷ややかな目には耐えられなかったらしい。ものすごい手のひら返しで謝罪して回った。
本当に人身事故なんぞ起こしていたら、危なっかしくて使えないからな。実用化出来たのには、当然のごとく確かな理由がある。
許可もらうのは、死ぬほど大変ではあったけれど。
「コホン、世間では事故として処分されておりますが、実際は最高評議会が手を回した実験の場ですわ」
「ミッドチルダでは廃棄区域などがあったが、その類の場所で行ったということか」
「世界の全てが更地で活用されているとは、天の国出身である陛下でも思ってはいませんでしょう。人の目が届かない場所、人が不要とする施設などどこにだってあります。
何よりも人身事故をいたずらに起こして騒ぎになれば、わたくし達を飼っているつもりだった彼らだって困りますもの。
正確に申し上げれば、事故に出来る場所と日時で然るべき実験を行った。ただそれだけですわ」
「四個も見つけておいて、何で三回も事故になるような事となったんだ」
「外部からどれほどのエネルギーを込めれば爆発するのか――いわゆる炎上事件ですわね」
爆発を目的としているのではなく、結晶体の崩壊における事件であったとクアットロが説明する。爆発というのはあくまでも結果でしかないのだと、セッテの目を気にしながら釈明している。
三回も爆破事故を起こしたので、最後の一個は厳重に保管するように命じられたそうだ。そりゃそうだ、貴重な代物を全部壊されたらたまらないだろう。
爆破こそしたが実験自体の試みはある程度成功したので、その後ジェイル・スカリエッティ博士に極秘での研究を行うように徹底させたとのことだった。
ここまでの話を聞いて、同じ開発チームのシュテルが手を挙げる。
「父上を愚弄する愚か者――失礼、その最高評議会が何故そこまでレリックの研究を行わせたのでしょう。
超高エネルギー結晶体は確かに有用ではあるでしょうけど、魔導的産物として見れば希少とまでは言い難いのではありませんか」
「流石は陛下のご息女様、実に良い着眼点です。彼ら最高評議会がこのロストロギアを使用してまで行わせようとしていた研究――
それこそが今回我々が開発した"レリックウェポン"の真価とも言えます」
「レリックウェポン……?」
研究のコンセプトはシュテルから事前に聞かされているが、最高評議会が提唱する一面からでは思い浮かばない。俺達とは別に、彼らが恐るべき研究を行っていたということか。
どのような力であろうとも、使い方次第で恐るべき兵器となりえる。レリックだって爆破物として使用すれば、それこそ災害級の事件現場を生み出せるのだ。
ジェイル・スカリエッティとウーノ達がこちらに離反してくれたから良かったが、万が一最高評議会の手先として従っていればどんな未来が待っていたのか。
もはやありえないであろう未来予想図を、クアットロが語る。
「レリックウェポンとはようするに、エネルギー結晶が内包する力を自在に引き出す兵器ですわ」
「……爆破実験を繰り返していたのは、エネルギー結晶をコントロールする為の検証実験だったということか」
「外科的な処置や調整によってレリックより強力な力を引き出す研究、これが今回CW社の技術と資金を投入してシュテルさんと作り上げた成果となります。
一方で最高評議会が作り出そうとしていたのは、魔法行使能力を持たせる技術です」
「科学ではなく、魔導の側面を引き出そうとしていたのだと?
でも単なるエネルギー結晶体だろう、何処らへんに魔導が関わってくるんだ」
「人工のエネルギー結晶をリンカーコアと融合させ、エネルギー結晶が内包する力を自在に引き出そうとしていたのですわ」
「なんだって!?」
リンカーコアとは魔導師が持つ魔力の源で、大気中や体内の魔力を外部に放出するのに必要な器官のことである。
以前なのは達より聞いた話だと魔力資質にも影響するもので、遺伝で資質が受け継がれる可能性が高いと聞かされている。だからこそ素質のない俺はさっさと諦めた。
俺の娘であるユーリはまさに俺の対極に位置する少女で、惑星規模の魔力を自らの中に取り込んで活用できる魔導師である。
そのリンカーコアと人工のエネルギー結晶を融合させるということは――
「魔導師の体内にレリックを埋め込むつもりだったのか、あの連中は!?」
「いわゆる人造魔導師ですわね。生命操作技術によって適合率の高い素体を作成するスタイルを形成しようと目論んでいたのです。
時空管理局は常に人手不足に悩んでおりましたからね。あの俗物達は資質に拘らない戦力を求めていたのですわ」
「倫理的問題を完全に無視していやがるな……法律違反も何もあったもんじゃない」
人様のことをあまり悪く言えるような生き方はしていないが、それにしたって限度というものがあるだろう。法の頂点に君臨するものが法に違反していたら、秩序も何もあったものではない。
人手不足の深刻さは、地上本部のトップであるレジアス中将からも伺っている。だからこそ彼も道を踏み外しかけていたが、友であるゼスト隊長の存在が彼をかろうじて踏みとどませた。
魔法文化が栄える異世界に来てまで、人手不足の話を聞かされるとは何とも夢のないことである。しかも正義の番人が正義に狂って悪を為しているというのだから笑えない。
問題はクアットロ達が何処まで加担していたのか、である。
「融合させるエネルギー結晶としてレリックを使用したその人造魔導師を、あいつらはレリックウェポンとよんでいたのか」
「一方で惑星開拓の為に資源利用する陛下がレリックウェポンを活用しようとしているのですから、彼らにとってはなかなかの皮肉ですわね」
「別に俺の力じゃないから威張れた話じゃない、上手く有効活用しているお前達のおかげだよ」
「あら、いいのですか陛下。かつて最高評議会に加担していたわたくし達まで同類のように扱って。
人道魔導師を既に作り上げていたかも知れないのですよ」
「今更何言ってやがる――事後承諾で俺の遺伝子を勝手に活用して、ヴィヴィオやディード達を作りやがって。
今話を聞いていて分かったぞ、その技術を活用しやがっただろう。お前らを批判したら、ディード達への冒涜と否定になるじゃねえか。
俺の子供として認めた以上は、今更お前らを否定なんぞ出来るか」
「父上……」
レリックそのものは使われていないにしろ、遺伝子調整やリンカーコアに干渉するプログラムユニットを活用した戦闘機人やクローン技術は明らかに当時の研究を活用している。
事後承諾で子供なんぞ作られた俺としてはたまったもんじゃないが、悔しいことにヴィヴィオやディード達は超良い子で認知するしかなかった。全く手がかからないので育児に悩んだこともない。
シュテルは俺の話を聞いて目を輝かせているが、あまり感動できる話ではない。俺としては今更どうしようもない事なので、こうなったら我が子を可愛がるしかなかった。
正義ヅラするのではなく、あくまで生命研究を認める姿勢を見せられて、クアットロは笑みを深めた。
「ふふふ、そう言っていただけると協力し甲斐もありますわ。ご安心を、人造魔導師そのものは作っておりませんわ。
何しろその研究を本格化させる前に、陛下という研究資材が飛び込んできたんですもの。
もう博士はすっかり夢中になってしまって、研究も彼らも投げ出してこちらへ飛び込んできましたの」
「おかげでこっちはえらい目に遭っているんだが、たく……
それでエネルギー結晶が内包する力を自在に引き出させるのに魔導師を使わないのなら、何を素体とするんだ」
「エルトリアの技術を活用いたします。ほら、イリスさんが量産型を作り上げていたでしょう」
「ああ、ヴァリアントシステムで制御するのか……確かにこの惑星ならではのエネルギー活用法だな」
ものすごく納得したが、同時にげんなりした――あいつも今や、俺の娘なんだよな……
冷静になって考えてみると、俺の娘達はどいつもこいつも奇抜な誕生をしている。母親の腹から生まれることは全てではないにしろ、色んな因縁がつきまとっている。
彼女達が頑張って成果を出してくれているのであれば、せめて俺が彼女達の出生を含めて守る必要がある。
クアットロの話を聞いていて、改めて腹を決められた。
「レリックウェポンを活用すれば、惑星エルトリアの開拓も進むでしょう。そろそろ連邦政府は誤魔化せないのでは?」
「商会長やお偉いさんにバッチリ見られたからな。そろそろ交渉も、次のステージへ進めるつもりだ」
惑星エルトリアへの移住に欠かせない、最初の大きな課題。
立ち退き勧告の撤回である。
<続く>
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