とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百三十二話



 時空管理局と聖王教会、ミッドチルダとベルカ自治領を混乱に陥れたテロ事件。各地を戦火に巻き込んだこの一連の出来事は、次元世界を大いに騒がせた。

聖王のゆりかごまで強奪された事件を揉み消すことは出来ないと判断した両組織は、逆転の発想で全世界に向けて発信を行ったのである。真実と虚実を混ぜて。

決戦の舞台となった第三世界の汚染にまで発展した以上、単なる武装テロ事件では済まされない。詳細を求める声は相次いで、両組織は重い腰を上げた。


あろうことか――物語にまで、仕上げたのである。


「現代の聖王として降臨した宮本良介が古代兵器の聖王のゆりかごに乗り込み、現代兵器を用いて第三世界を支配せんとした悪の科学者を滅ぼした――誰が信じるんだ、こんな話!?」

「ところがどっこい、庶民受けが良いのよ。現実にはありえない規模の破壊と汚染が起きてしまったからこそ、マッドサイエンティストなんていう存在が信じられているのよ。
まあ実際真犯人であるフィル・マクスウェルは軍事企業に売り込むべく兵器の数々を開発していたし、人型兵器なんていう非人道的な物まで扱っていたもの。

完全な嘘とは言えないでしょう、というか大げさに言っているだけで本当の話よ」

「ここぞとばかりに英雄戦記を語っておいて、ちゃっかり聖王のゆりかごを稼働させた事やCW社の新兵器を使った事が許容されているんだぞ。
本当は聖王教会の失態であり、地上本部の都合に過ぎないのに、人の苦労にまぎれて好き放題捏造しやがって……あいつら、悪魔の化身か!?」


 上手い嘘とは真実を混ぜ込むものだと聞いた気がするが、真実を大げさに騙ることで若干の嘘を世論の中に消し込むなんぞという恐ろしい所業が行われた。

聖王のゆりかごや聖典を奪われた聖王教会、黒幕に尽く後手に回らされた時空管理局。自分達の失態をなかったことにするべく、あらゆる全てを物語にして美談へ変えた。

第三世界を起点とした次元世界崩壊の規模にまで発展してしまったので、英雄伝説を作り上げても遜色のない出来栄えとなってしまったのである。


主人公に祭り上げられた俺は文句の一つでもいってやりたいが、フローリアン姉妹やイリスの事を配慮して貰っているので言い返しづらい。ぐぬぬ。


「正式に、CW社の新兵器が全部特許申請が承認されたわよ。おめでとう、これでうちの会社は時空管理局という次元世界最大規模の大手と専属取引されたわ。
スポンサーであるカレイドウルフ大商会は大喜び、今まで社長就任に反対していた幹部勢――カリーナお嬢様の一喝で黙らされていた連中が諸手を挙げてあんたを歓迎しているわ。

カリーナお嬢様が生産ラインを今の十倍以上に増やして、CW社の規模拡大を大々的にやっているわよ。復興の名目で、第三世界を丸ごと買い取るんだって」

「世界を丸ごと!?」

「あんた、CW社の社長兼名誉会長兼統括領主兼……後なんだったかしら。とにかく、肩書が死ぬほど増えるから頑張ってね」

「怪我と疲労でちょっと静養している間に、俺という一人の人間に何押し付けんだ貴様ら!?」


 惑星丸ごと汚染された第三世界は生命の剣セフィロトの力と、ユーリ・エーベルヴァインの生命操作能力により見事浄化された。

同時に惑星エルトリア復興への確かな道標として結果として良い実験となり、フローリアン姉妹に報告したところ泣いて喜ばれた。期待度を高めないで欲しい。

病状の親父さんや看病中の母親も吉報を喜んでおり、容態も少し持ち直したようだ。病は気から、希望が見えれば人間誰でも元気の一つは湧いてくる。


単純な精神論なのに早速回復の傾向を見せたので、キリエさんより熱烈な信仰を抱かれてしまった。神様扱いされつつあって、あの個の信者ぶりに困っている。


「流石に世界規模の案件になってしまったから、あんた一人に何もかも任せる気はないわよ。回復した人間から現場復帰して、動いてくれているわ。
むしろ世情を顧みれば、あんたは動かない方がいいわね。この療養施設もマスメディア対策で、門外不出になっているもの。完璧にシャットアウトしてる。

マスメディアや世間への対応は全部組織がやってくれているから、あんたは表に出ない方がいいわね。勝手に祭り上げてくれるわ」

「何聞かれても反応に困るだけだからな、俺の周辺は大丈夫か」

「オルティアさんが管理しているわよ。白旗は聖王教会が徹底的にガード、特務機動課は時空管理局と地上本部が対応してる。 どちらもあんたが設立した部隊だけど、すっかりドリームチームになったわね」

「白旗はともかく、特務機動課は役目を終えたんだから解散でいいと思うんだが」

「駄目。元々時空管理局と聖王教会の精鋭を引き抜いたチームだから、両組織共同の功績となって世間から称賛されてる。
聖女の予言と聖王降臨で聖王教会が最盛期を迎えて、時空管理局との力関係が拗れていた件もあって、両組織の良縁をアピールする良い機会になっている。

本局とのパワーバランスが変動しつつあって、レジアス中将なんて大はしゃぎよ。毎日のように会見して、組織改革を訴えているわ」

」 「隊員達は大丈夫なのか、世間に揺さぶられて」

「平気よ、皆今回の一見で成長しているもの。逞しく働いていて、部隊からの転属願いが一つも出ていない。
皆軒並み階級特進担って出世しているけど、これからもあんたの下で働きたいって」

「何故だ……結構無茶振りしまくったぞ、俺。あいつら、どうかしてる」


 アリサより聞いた話だと部隊拡大案が成立したようで、人員と予算強化が画期的早さで行われたらしい。先の救援部隊からも転属希望が出ているようだ。庇ってやった程度で絆され過ぎだろう。

ティーダ・ランスター分隊長は佐官に、オルティア副隊長は将官に出世。他の部隊なら指揮官候補なのだが、本人達は固辞して特務機動課所属のまま奮闘中。

妹のティアナ・ランスターは聖地へ正式に引っ越して、白旗に所属。子供ながら毎日猛勉強して、魔導訓練を受けているようだ。俺が授けたおもちゃの銃に感激して、銃器のデバイスを望んでいる。


セッテ率いる聖王騎士団は存続となり、聖地の混乱を収めて日々の平和を守っている。


「真犯人のフィル・マクスウェルは現在、聖王教会管理の病院に入院中――と、されているわね」

「何だ、その含みのある言い方は」


「身柄はジェイル・スカリエッティ博士が預かる施設に収容。あの人、ナノマシンだのヴァリアントシステムだので身体を弄り回しているでしょう。
体中全部隅々まで分析して、改造手術するそうよ。無力化するだけじゃなく、二度と復活できないように細工もするんだって。

施設から出たら独房いり、その後裁判で重罪施設へ島流しされるだろうけど――その頃にはもう日常生活も満足に送れなくなるわね」

「……そうか」


「経緯は全部イリスから聞いたわ。悪いけど、自業自得でしょう」

「まあ、同情する気にはなれんな」


 日常生活も満足に送れなくなるということは、とどのつまりそういう事だ。自身を兵器にするということは、戦えなくなれば終わりなのだ。

剣士だって同じだ。戦えなくなれば、存在意義などありはしない。侍や武士もそうして不要となり、時代から消えていったのだ。

あの男も言っていたが、俺はやつと変わらない。戦えなくなれば、剣士として成り立たなくなってしまう。立つことも出来なくなり、そのまま消えていく。

武装の全てを奪われれば、あの男の価値はなくなる。俺がもし戦えなくなれば、どうなるだろうか――そこまで考えた上で、アリサは同情もしないと言ったのだ。

俺にはアリサがいるが、あいつにはいない――最後に、イリスにまで切り捨てられた。


「イリスはオルティア副隊長が仕切って取り調べている。余計な干渉は入らないから、その点は安心していいと思う。
捜査にも協力的だし、罪を認めて反省もしてる。マクスウェル所長に操られていたのは事実だしね、真犯人がここまで世間様にバッシングされていてあの子のことは何処からも出ていない。

以前からの司法取引通り、ミッドチルダからの追放で収まるでしょうよ」

「島流しされるのは事実だからな。俺さえ管理して悪ささせなければ、レジアス中将もどうでもいいだろうよ。今やウハウハだからな」


 一応実体化には成功しているが、イリスの本体はテラフォーミングユニットである。真犯人を捕まえた以上は、わざわざ吊し上げする必要はない。

俺には悪態ついていたが本人は心から反省しているらしく、オルティア副隊長の前では全て赤裸々に話した上で、泣いて頭を下げたという。自身の破壊も含めて、いかなる処分を受け入れると。

俺はもう何とも思っていないが、俺自身に八つ当たりしていたことをオルティアは怒っており、きちんと叱責して彼女を専用留置場へ送ったという。


まず更生プログラムをオルティア自ら徹底して行い、彼女を更生するのだと言う。あいつの教育、厳しそうだな……


「実行犯のキリエさんは土下座行脚」

「何させてんだ、お前ら!?」

「本人の希望よ。あの子は真犯人の操り人形に唆されたという末端扱いで、もう釈放済み。実際、最後の決戦で大活躍して、真犯人逮捕にまで貢献したからね。
一応自由行動は禁止で、教会より依頼されたうちの聖騎士さんが一緒に行動してる。壊滅した教会騎士団や怪我した人達、関係者全員に頭を下げて回っているわ。

保護者代わりにアミティエさんが一緒に行動して、反省させてるようよ」

「……あの二人。俺より遥かに重傷なんだけど、もう退院しているのか?」

「ド派手に怪我してたけど、ご飯たらふく食べたらすぐ回復したそうよ。ナノマシン治療を促進する効果があるんだって」

「何故俺にそれを教えないんだ!? ナノマシン活動させまくった反動で、起き上がれないくらい疲労したのに!」


「あたしが黙らせた。元気になっちゃうとあんた、ジッとしないでしょう」

「どんな権限持ってるんだ、お前!?」


 フローリアン姉妹はイリスに唆されていたとはいえ、現場を荒らしたことを反省して、各方面を歩き回り頭を下げて復興作業に従事している。

イリス同様犯行に及んだことを深く反省して、肉体労働に励んでいるようだ。キリエについては時空管理局や聖王教会も目くじらを立てず、本人の反省で済ませている。

騎士団壊滅はむしろ騎士たちの奮起を促したようで、聖王騎士団のセッテ達にお願いして模擬戦闘しつつ鍛錬しているようだ。


以前決闘した団長さんも割といい人だったので、騎士団もすぐに立て直せるだろう。聖地やミッドチルダの被害もついても、キリエ達が頑張って補修を行っている。


「それで?」

「何が?」

「あたしとこうして二人っきりになって上げたんだから、そろそろ教えなさいよ」

「だから、何がだ」



「リインフォースとオリヴィエさん――あんたが殺したとは思えないから、正直に何したか言いなさい」















<続く>








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