とらいあんぐるハート3 To a you side 第四楽章 月影の華桜 第一話







 四月。

桜が咲き、新鮮な春を感じさせるこの月。

天気も快晴、気候も穏やかとなれば、誰でも大なり小なり気持ち良い気分で一日を始められる。

そんな季節。



――俺は今日も今日とて、高町家で温かい御飯を堪能していた。

 
「……何で俺、この家で飯なんか食ってるんだ」 
 

 この世のミステリーを感じまくる俺。


「バクバク食べといて何言ってるねん。不味かったんか?」

「いや、美味いけどさ」


 こんな飯食えるかとでも叫んでやれば面白いかもしれないが、料理人にたたき出されるので素直に答えておく。

けっ、得意げな顔しやがって。


「俺は勝負を挑みに来たの! それなのに家事が忙しいとか言いやがって」

「学校始まったからしゃーないやん。
それに美由希ちゃんが代わりに相手してくれたんやろ」

「俺はまずお前に勝ちたいんだよ!
それにこの女との勝負。一時間踏ん張ったのにカスリもしないし」


 そうなのだ。

俺の隣でへらへら笑って御飯を食べてる眼鏡女は、レンの言う通りで本当に強かった。

ありとあらゆる剣戟が弾き返され、剣筋を読まれて逆襲される。

隙を見せれば瞬間的に竹刀が身体を食い込み、殴る・蹴るまで混ぜ込んできやがる。

剣士のくせに乱打とは卑怯な、などとちっぽけな事は言わないくらいに俺は大人になった。


「あ、あはは……で、でもすごく強くなってましたよ!
先生との試合の時とは段違いです」


 お世辞言いやがって、とは思うがほんの少し気分は良いので黙っておく。

美由希と最初に会ったのはあの道場破りだった。

あの時に比べたら、俺も少しは強くなっているのだろうか?

今だあの爺さんとの戦いを思い出す度に、正面切って対峙したあの時の緊張が蘇る。

俺はから揚げをぱくつく。


「ウチが毎日鍛えてやってるんやから当然や。
少しは強くなってもらわんと時間の無駄やし」

「ふん、ここ最近引き分けばっかりじゃねえか。
そろそろ俺の白星は近いぜ」

「ちょっと手加減したったらこれや。すぐいい気になりよる」


 互いに睨み合う。

フィリスとの約束を賭けた勝負から、俺は一回も負けなくなった。

一本は相変わらず取れないが、致命的な一撃も食らわない。

変幻自在の攻撃に見えたが、戦う度に穴が見えてくるようになった。

問題はその穴が細密で、針の穴に糸を通すより遥かに難しい事だ。

頭で考えて攻略法を編み出し、それから動くのでは間に合わない。

打突を防ぎ、その上で剣を繰り出す。

隙が見えても、追えなければ意味は無い。

結局、まだまだあらゆる意味で強さが足りない。


「へぇー、この緑カメを相手に奮戦してるっすね。
俺とも後で勝負してくださいよ!」


 男のような言葉の女、晶。

レンと仲が悪いのか、よくいがみ合っていて――個人的に気が合いそうな気がする。

退院後はすれ違いで殆ど会えなかったが、最近顔は合わせている。

一回も勝負した事は無いが、強いのか?

レンに似た小柄なガキなのだが――チビだから弱いという俺的法則はレンで叩き潰された。


「空手やってるんだっけ? 三月も朝から頑張ってたよな」

「春休み、道場でしっかり鍛えましたから」


 どっかの小生意気なコンビニ娘とは違って、元気の良い丁寧さがある。

男勝りだが容姿も悪くないし、なのはとは違ったタイプで他人に好かれやすいのではないだろうか?

美由希に散々やられた鬱憤を晴らす良い機会である。

それに確かこの後は――


「いいぜ、道場でやろうか」

「本当ですか!? やったー!」

「あー!? ちょっと待ってください!」


 ――ち。


「どうしたの、なのは」

「良介おにーちゃん、御飯食べたら一緒に遊んでくれるって約束しましたぁ」


 無視すればいいものを律儀に聞き返す美由希に、不満げな顔で不平をこぼすなのは。


「そんな約束したっけ? 俺、覚えてないな」

「ひどいです! わたし、ちゃんと覚えてますよ!」


 ゲームだけが取り得のくせに、なかなか物覚えの良いガキである。

俺はお茶を飲んで気分を落ち着けると、


「別に俺じゃなくてもいいだろ。
ほれ、その辺の外人さんとか暇そうじゃん」

「ひどいですぅー、フィアッセって呼んでくれるって約束しましたぁー」

「なのはみたいな言い方するな!」

「あはは、ごめんね」


 能天気な外人さんめ。

にこやかに俺となのはの様子を見守っていて、フィアッセ本人はすこぶるご機嫌だった。

何がそんなに楽しいのか、さっぱり分からない。


「おにいちゃん、約束は約束です! 守って下さい!」

「いやー、でももう約束しちゃったし」

「お、俺は別にいいっすよ、明日でも」


 そう言う余計な優しさはいらないから!?

しかも何だ、その引き攣った笑顔は!

何でなのはなんぞに遠慮するんだ!

大人――じゃないけど、貫禄を見せてやれ。

こういう年頃のガキは甘やかすとろくな大人にならんぞ!

――おまえが言うなとか言われそうなので、心の中だけで叫んでおく。


「おにーちゃん! 約束!」

「どうせゲームの相手だろ? 母親に頼め、母親に」

「ごめんなさい。お店の集計で忙しいの」


 ……ほんとかよ。


「じゃあフィアッセ。お前、一緒に遊んでやれ」

「ごめんね。桃子の手伝いがあるから」


 ……国際問題に発展するくらいに殴ってやろうか。

くそー、じゃあ高町の兄貴――うわ、無言で首を振りやがった。

妹はあからさまに目をそらしている。

お前ら、それでも家族か。


「おにーちゃん!」

「うがああああ、分かった、分かったよ! しつけえガキだな。
余程俺様に倒されたいようだな」

「おにーちゃんに負けた事ありません」


 よく言った。

弱肉強食という大自然の掟を、今夜その小さい脳に刻んでくれる。

勝利を確実にする為に、俺は身体に栄養をたっぷり送る。


「レン。御飯お代わり」

「はいはい、遠慮のない食べっぷりでうち感激やわ」


 呆れたように嘆息しながらも、きちっとよそってくれる。

口は悪いがなかなか面倒見の良い奴だった。

温かい茶碗を受け取って食べていると、


「……春休み、俺達が家を留守にしている間に随分皆と仲良くなったんだな」
「なのはもすごく懐いてるし、私ちょっと驚いちゃった」

「うん。良介君、ずっとなのはと一緒に遊んでくれてたの。
明るくて元気で――本当にいい子だわ」


 …もしかして、それは俺の事を言っているのか?

言っておくが、なのはと遊んでたのはあくまで賭けに負けたからだからな。

俺の不平不満を無視して、高町家は話を進める。


「お花見にも一緒に来るんだよね、良介さんって」


 花見?

初めて聞く話に、俺は箸を止めた。
























































<続く>

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