とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第三十三話





 チンクの持つ先天固有技能ランブルデトネイターは一定時間、手で触れた金属にエネルギーを付与して爆発物に変化させる能力である。

警護には向かない能力だと本人は卑下しているが、こうした戦地において非常に有用な能力である事に違いない。これほどの戦闘機人が味方であることに、何よりの強運を感じられる。

ただし、この強力な能力にも欠点が存在する。巨大な金属塊の場合、爆破に必要な力が拡散して爆発に到らないのだ。付与出来るエネルギーには限界があるのである。


分かりやすくいうと、サイズ制限がある。


「申し訳ありません、陛下。我らの車両を爆発物に変化させましたが、敵車両の鎮圧には至りませんでした」

「足止めが目的だ、問題はない。車道を爆破できただけでも上出来だ」

「お褒めに預かり、恐悦至極に存じます。我が能力、存分にお役立て下さい」


 恐縮した様子で成果を報告するチンクに、戦果であると断言して称賛。深夜であるというのに、少女騎士が喜色に染める表情は明るかった。

車両は爆破できなかったが、車道は爆破できた。公道の爆破も大概問題ではあるのだが、テロリズムの拡大を防ぐ行為であったと釈明するしかない。

ただの車両であれば車道を爆破すれば行動不能となるのだが、改造車である以上戦闘不能にまで持ち込めたかどうかは怪しい。俺の予想では爆破した公道を火力で更地にして、進んでいくるだろう。


一方こちらは足を失ってしまったが、俺も何の考えもなく足を破壊したのではない。


「トーレ、飛空能力のない人間をあんたの能力で運んでくれ」

「承知」


 トーレの持つ先天固有技能ライドインパルスは、戦闘機人特有の頑強な素体構築と全身の加速機能による飛行を含む超高速機動能力である。

最大速度は人間の視認速度を凌駕し、高性能レーダーの追尾をも振り切る加速を誇る。腿や足首、手首付近から出力されるエネルギー翼インパルスブレードによって発動する。

元廃棄都市まで一直線に運んでもらい、時間を短縮。チンクの能力による足止めもあって、大幅に距離と時間を稼ぐことが出来た。実に、素晴らしい能力だ。


全員を運び終えても、トーレの表情に疲労はなかった。


「戦闘機人――聖王教会と時空管理局よりある程度の情報は開示されていましたが、実際に目の当たりにすると皆さんの優れた実力に改めて感服させられます」

「ありがとうございます。彼女達は、私にとっても自慢の騎士達です。是非とも今宵、聖地を守る我が騎士団の真価をご堪能下さい」


 心からの本音のつもりだったのだが、称賛を受けたトーレは感銘したかのように頭を下げている。任務である以上実力を発揮するのは当然だとしても、誇りは満たせられる。

騎士団長であるセッテは自慢の姉達に鼻を高くしており、誇らしげに頷いていた。人間の子供は遊びの中で喜びを見出すが、戦闘機人の子供は戦場の中で実感を得る。

元廃棄都市は海沿いに面しており、市街地からも遠く離れている。本来であればこの場所こそ第二の都市となる予定だったのだが、今はもう周囲には何もない。


今度の敵はなりふり構わず、俺を殺しに来ている。自分では敵わないと白旗を上げた以上、指揮権を譲渡した相手に全てを託して最善を尽くす他はない。


「秘匿していた能力も含めて、全てを提供しましょう。白旗に救援を求めますので、指揮をお願い致します」

「敵は貴方本人のみならず、貴方の足場も含めて破壊するでしょう。聖地には一定の戦力を置き、抑止を図って下さい」

「分かりました、よろしくおねがいします」


 市街戦への拡大を避けるためには、過剰な戦力で対抗するのは悪手だ。戦果は容易く拡大して、民を巻き込んでいくだろう。敵の思う壺であった。

我が白旗において、抑止力には最適な存在がある。ユーリ・エーベルヴァイン、永遠結晶「エグザミア」を核とするシステムならば聖地の抑止力となり得る。

幸いにも今、あの子にはナハトヴァールがついている。ナハトがついていれば、何があろうとユーリは大丈夫だろう。もしかするとこの状況を、野生の本能で察したのかもしれない。


俺が襲われていると知り、優しいユーリは抑止となるのに大いに渋った。


『出撃の許可を下さい、お父さんを襲う車両は全てわたしが全て破壊します!』

「本当に出来るだろうから、やめてくれ。敵は何が出てくるか分からない、ビックリ箱なんだから」

『優しいお父さんを殺そうとするなんて、許せません。全てを破壊すれば、止められるではありませんか』

「コラコラ、頭に血が上って過激な思想になっているぞ。その力は今、聖地を守るために使ってくれ。
お前の力は聖地に認知されているからな、強大な力を見せつけても周辺の混乱は少ない。聖地における統率は、ディアーチェに任せる」

『安心して下さい。状況を聞いて、ディアーチェはすぐに飛び出していきました。お父さんの後継者として、成すべきことは分かるのだと思います。
事態を聞いたレヴィも、忍さんのお家を守ってくれていますので心配しないで下さい。今のところ特に何もなく、皆お父さんを心配していました』

「必ず無事に帰る、そちらは頼んだぞ」

『はい! それと、お父さんに連絡がありましたよ』

「連絡……?」


『フローリアンさんという依頼人より、本日の約束があったと』

「うーん……」


 忘れていた訳ではない、そもそも夜になって聖地へ戻ろうとしたのはフローリアンさんとの約束があったからだ。今思いっきり、邪魔されているのだが。

もはや約束の時間には間に合わないが、俺が悩んでいるのは約束を遅らせるか、約束を破棄するか。遅刻の連絡を入れるか、キャンセルするか、悩ましいところであった。

状況を見ればキャンセルするしかないのだが、両親が命の危機にあるフローリアンさんも切実だ。しかも奇跡を起こせないのである以上、それ以外の面では出来る限り誠実でありたかった。


話を聞きつけたシュテルが、耳打ちしてくる。


「父上からの連絡は不要です、私が容赦なくキャンセルしましょう」

「お前は本当に役目に徹底するやつだな、少しは人に嫌われるのに躊躇してくれ!?」

「父上こそ、美しい体の女性に心を奪われるなどハレンチですよ!」

「すごい視点から反論してきた!? お前は今回の戦いの要なんだから、ビシッとしていろ! 仕方がない、本当のことを伝えて待ってもらうとするか」


 なんぞと親子で仲睦まじく言い争いしている間に、車両群が元廃棄都市に向かって押し寄せてきた。うおおおお、本当に車両の大群が恐ろしい速度で向かってきやがるぞ!?

銃火器のある大型車両は戦車と変わらないと傭兵団のリーダーが評価していたが、納得の分析である。一応トラックに偽装しているが、全車両に凶悪な銃火器が装備されている。

オルティアさんの采配により配置についた各陣営は、恐怖も躊躇もなく武装を構えている。その中で際立っているのは我が娘、シュテル・ザ・デストラクター。


「疾れ、明星すべてを焼き消す炎と変われ――フルドライブバースト"真・ルシフェリオンブレイカー"」


 轟熱滅砕、強大な炎の噴射による広範囲攻撃は車両群を問答無用で吹き飛ばした。妹さんにより無人であることは判明しているので、火力を惜しまず注ぎ込んでいる。

それでも全軍を破壊するには至っていないが車両という特性である以上、先行車が破壊されてしまうと後続車が続かなくなってしまう。

銃火器があるので吹き飛ばすことが出来るだろうが、勢いは十分に殺せる。連射して撃てない欠点こそあるが、それゆえに一撃は強力無比であった。


思う存分見せつけた戦果を持って、シュテルが胸を張る。


「父上、これからの時代は美しい炎の女の子ですよ」

「私に触れれば火傷するぜとキザに言えば、惚れていた」

「くっ……わたしとしたことが!」


「真面目にやらないと変型しますよ、あの車」

「何だって!?」


 親子のバカなトークに付き合わず、というより付き合ったせいで冷静になれたオルティアが指を指している。思わずみやって、絶句させられた。

――人型である。冗談のように言っているが、真剣だ。先行車を完膚なきまでに破壊された後続車が一斉に変型して、人型兵器となってしまった。

映画にあるロボット兵器、人類に反旗を翻したロボット達の反乱。子供の頃誰もが恐れて憧れた、人型兵器が今目の前に爆誕した。


その数は圧倒的、破壊された先行車を踏み潰して襲いかかってくる。


「隊列を乱さず、全火力を持って破壊して下さい。面積は変われど体積まで物理的に変化できない筈なので、耐久力はむしろ弱まっています!」

『了解!』


 なるほど、的確な判断と観測力である。事故防止対策のある車両は耐久力に優れた機体、その車両が人型になってしまえば構造上の耐久力を破棄した事になるという理論だ。

人型兵器への変型という常識外の事態であるのにも関わらず、動揺もせず判断できるのは見事であった。彼女の指揮に納得して、セッテ達も指示に従った。

そもそも戦闘機人は対人戦にも優れており、人型兵器はむしろ相性の良い敵である。的確に一体ずつ破壊して、数を減らしていった。


射撃能力に長けているオルティアさんも、素晴らしい戦闘力を有している。指揮官として出しゃばらず徹底してフォローに回り、的確に射撃して戦果を上げていた。


猟兵のノアは戦場でこそ発揮する戦士、手榴弾などの爆発物を多種多様に使いこなしている。ナイフ使いのチンクとの連携が良く出来ており、二人して人型兵器を破壊して回っていた。

周囲への被害を恐れずに済む今の状況は、少数精鋭の我々でも有効的に働いていた。一人一人が一騎当千の強者達、火力を振るえるのであれば破壊できる。


――問題があるとすれば敵の目的はあくまで、俺一人だという点である。


「剣持っていない剣士に銃で撃ちまくるか、普通!?」

「いいから、そこを動くな!」


 一言で言うと、全く動けなかった。


人型兵器の大群はチンク達については専守防衛、俺に対しては徹底殲滅で襲いかかってきている。オルティアさんの優れた指揮を全く考慮せず、俺を殺せればそれでいいという恐ろしさであった。

何体破壊されようと俺を殺したら勝利という無慈悲ぶりは、戦力が長引くに連れて場を焦燥させる。人型兵器の恐るべき火力の全てが、俺一人に向けて発揮されるのだ。

この場で唯一対抗手段がない俺は撃ちまくられると、隠れるしか出来ない。銃火器の数は圧倒的であり、弾丸が埋め尽くされるほどに撃ちまくられている。


「チンクさんの防御外套であるシェルコートに加えて、私が展開しているヒートヘッド。
固有武装によるバリアシェルと炎の防衛網で、父上をガードしているのでご心配には及びません」

「絶対にその場から動くんじゃねえぞ」

「……姿を見せるだけでも囮役にはなっているからな」


 こちらも敵の目的は理解しているので、ガードについては徹底している。ただ銃火器による火力が凄まじいので、どうしても怯んでしまう。

遠距離攻撃が主としたチンクとシュテルが防御してくれているので無傷ではあるのだが、車を盾にすれば容易く穴だらけにさせられ、アギトがシールドを張れば壊れるまで撃ちまくられる状態。

突撃されるとまずいので今、妹さんが全力でガードしている。


「妹さん、大丈夫か」
「剣士さんは私が必ず守り――っ」


 "声"を聞けばあらゆる攻撃を先読み出来るが、圧倒的な数で撃ちまくられたら先読みも何もあったものではない。妹さんは全魔力を解放して襲いかかる車を破壊し、弾丸を撃ち落としていた。

炎で弾丸を焼いて、氷で弾丸を凍てつかせ、雷で弾丸を破壊し、土で弾丸を防御し、風で弾丸を跳ね返して、光で弾丸を飲み込み、闇で弾丸を潰す。全ての才能が、夜の王女を際立たせていた。


戦略級兵器であろうと、夜の王女は倒せない――俺という足手まといがいなければ。


「陛下、すずかさん!?」

「防衛に回らないで下さい、聖騎士様。それでは、敵の思う壺です」

「分かってはいますが――」


 鋼鉄の兵器であろうと、剣一本で切り裂いている聖騎士の実力。その力は味方を守るためではなく、敵を殺すために使うべきだという、オルティアの判断。

非情ではあるが、実に有用な決断である。事実戦局的に見れば、こちらの有利に回っている。あの人が最前線に出て切りまくっているからこそ、突破口が開けている。

大量の銃火器を前にして剣士が防衛に回るのは、悪手である。数では負けているのだ、徹底的に前に出て切り払ってもらわなければ、ジリ貧になるだけだ。


戦術も、戦略も、的確に効果を発揮している。窮地に立たされているのは、俺一人だった。


「アギト、ユニゾンしてくれ」

「お前に必要とされている時に言いたくないけど、断る」

「あくまで、念の為だ。作戦を台無しにするつもりはない」

「アタシとユニゾンしたら、お前は絶対に前に出る。お前はここにいて我慢していれば、勝てる場面なんだ。皆を信じると言ったのは、嘘なのか」

「それはそうだが……」


 シュテルとチンクがカバーしてくれているが、とにかく数が多い。防衛に回っている妹さんが傷付いているが、悲壮感は微塵もなかった。その意味するところは、理解している。

俺を、信頼しているからだ。俺がここにいる限り勝てると、信じているからだ。どれほど辛くても、俺の判断を疑っていない。信じて頼ってくれたその信頼に応える、それだけで勝てると思っている。

辛かった、分かっていたとしても辛い。何も出来ないのに勝てるのであれば、俺がここにいる意味はない。けれど、この場にいる以上は、戦いなのだ。


耐えることもまた、大切なのだ。心を削られても、守ってくれている妹さんを信じ続ける。


「何とか、俺がここで我慢していれば勝て――あっ!?」

「前に出るのは絶対に駄目だぞ!」

「違う。ここで耐えるというのは俺の判断、俺の思考――敵が、剣士の上を行くのであれば!?」


 ――その考えは、読まれている。


俺が立ち上がろうとしたその瞬間、今まで俺を狙っていた銃火器の全てが――



突如、月村すずかに集中した。



「妹さん!」



 全ては、一瞬――"声"を聞く間もない、刹那。

専守防衛、俺を守るべく才能の全てを費やしていた少女は――唯一自分の防御を後回しにしてしまい、倒れた。


全身を、穴だらけにして。
顔中から、噴煙を上げて。



夜の王女は、陥落した。















<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.