とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第十九話
聖王教会の執行者と、時空管理局の派遣責任者。聖地における両名を会談に招き、ユーリ・エーベルヴァインの仕事について存分に話し合った。
報酬以上の仕事を行わなければいい話なのだが、組織のトップに立つ三名全員が真っ先に棄却した。
プロである以上、仕事を妥協するなんて以ての外である。論外だった。
「両者の意見は、よく分かった」
ユーリの単価を下げるというエテルナの意見は、仕事全体の価値を下げてしまうというオルティアの指摘で却下。
ユーリの仕事を制限するというオルティアの提案は、治安組織からの不当な弾圧というエテルナの反対により撤回。
その他続々と意見や提案が出たのだが、総じて言える点は仕事に対する彼女達のプロ意識である。白旗への牽制を行う絶好の機会よりも、職務意識を尊重している。
目的が異なり、目標が違えても、今目の前にある仕事に対する姿勢は猟兵や傭兵においても同じ。
戦争とはそうした美意識を飲み込んでしまう、恐ろしい手段であるのだと再認識させられた。
「だったら、双方の提案を採用させていただこう」
「いいとこ取りするなんて、気分が悪いんだけど」
「女性関係にだらしない男性は、嫌われますよ」
「何故その点においては意見が一致するんだ、あんたら!?」
ただ手段や結果に違いが生じている為、見解が違って意見の相違が生まれている。エテルナとオルティア、紫電と怜悧の美女が睨み合っていた。
こうした関係につながりを持つ事が、白旗のトップに立つ俺の責任である。
「最初に言った通り、今回の件についてはあんた達を尊重させていただこう。
前々から申し出のあった時空管理局と聖王教会、両組織の仕事を一部ユーリが引き受ける事にする」
「そ、それは願ってもない事だけれど……ユーリという子の仕事に対する報酬価値を下げることにはならないでしょう」
「現在行われている仕事の価値を全体的に底上げすることで、不公平感を無くしていくんだ。
そもそも俺達のような仕事の平均価値を担っているのは、おたくらの組織だろう。両組織の業務をユーリが担えば、価値観そのものを押し上げられる」
以前より、時空管理局と聖王教会から多くの打診があった。ユーリに限らず、我が白旗陣営全員に対して必死の引き抜き工作が行われている。
その代表格がユーリ達であり、所属を拒むと両組織からの仕事の依頼が送られてくる。仕事を斡旋して個人への関係を強化し、仕事を任せる事で職務意識を与える。
こうした仕事のやり方は、別段特別でも不思議でもない。それこそ祖国日本の現代社会でも、当然のように行われている。
日本で行われていることであれば、日本で生まれ育った俺にだって提案できる仕事のやり方というものがある。
「考え方としては悪くありませんが、不公平感そのものは無くならないと思います」
「完全になくせるとは、そもそも思っていない。俺が今日この場を設けたのは、ユーリ・エーベルヴァインが特別という意識を共有するためだ。
その上であの子の真実の姿を説明することで思い込みや勘違いを無くし、正しく評価してほしいと思っている。
エテルナとオルティア、あんた達二人ならば正しく判断してくれる」
「敵であったアタシらの何を信じるというのよ」
「あんたの敵だったレヴィが、あんた本人を信じてこうして会いに来ているだろう」
「! シュテルさんが、今日お越し下さったのは――友人である私を評価してくださったからですか!」
「友人とまではいっていませんが……まあ、一応。意外と図々しいですね、貴女」
とはいえ異世界ミッドチルダで立身出世している女傑二名相手に、半年前まで浪人生活していた剣士が勝てる道理はない。
そこでレヴィやシュテルといった、気心の知れた相手を呼んだのである。
接待じみたやり方ではあるが、これもまた日本で長らく使われてきた友好関係を結ぶ手段である。俺のような凡才でも人脈があれば出来る、ありがたいやり方であった。
お偉いさんへの接待なんて昔の俺が一番嫌っていた手段だというのに、実の娘であっても平然と利用している自分が少し寂しかった。
なりふり構わず勝つ事は剣士として当然なのだが、ほんの少し疑問を感じるくらいには人間らしくなれたのだろうか。
「聖王教会には一旦持ち帰ってみるけど、教会そのものはあんたの提案なら反対しないでしょう。願ったり叶ったりだしね。
ただ仕事の調整を行うのがアタシである以上、条件があるわ」
「分かった、聞こうか」
「ふっかけるつもりはないから、安心して。この子も貸してほしいだけ」
「レヴィ? どうしてこの子まで手伝わせるんだ」
「真剣勝負に負けたことについては心底悔しく思っているけど、負けは負けだから認めるわ。滅茶苦茶腹が立っているけど、この子の実力も認める。
だから単純に、一緒に仕事をしてみたいのよ。アタシ一人じゃ手に余る仕事もあるし、人手不足だから頼みたいわ」
「悔しさがにじみ出ているぞ、あんた!? まあ、本人の意向と仕事の内容次第で引き受けよう。レヴィもいいか?」
「いいよ。エテルナおばちゃんは、アタシも好きだしね」
「あんたね……ハァ、もういいわ。貴重な人材を借りる代わりと言っては何だけど、ノアをそちらへ行かせるわ。
あんた、最近あの子と連絡していないでしょう。延々とぼやかれているから、いい加減機嫌をとって」
「うわっ、そういえば近頃こっちに来てないから全然チェックしていなかった」
後でメールとか確認するけれど、大量に送られていそうでゲッソリする。あいつ、無駄にメールとかしまくるからな……連絡先を教えてしまった、自分が憎い。
考えてみると戦争でエテルナはレヴィと戦い、ノアは俺や妹さんのコンビと戦ったんだよな。あいつにとっては、俺こそ因縁のある相手ということか。
猟兵としてはとびきり優秀な子なので、ベルカ自治領の仕事の価値を底上げするという意味では、あいつが希望の星となるかもしれない。
白旗のエースがユーリであるように、教会側のエースをノアとすれば、極端な差別化は下がるかもしれない。いい提案だった。
「時空管理局から厳命が受けておりますので、提案自体は通るでしょう。
地上本部から直々に御用達もありますが、本部そのものへの出向は不本意でしょうから、私の方で調整いたします。
あくまで私の裁量で行える範囲で、管理局からの仕事を一部お任せいたしましょう。その点は、ご安心下さい。
ただ、私からも幾つか条件があります」
「了解した、あんたの裁量は信用しているのですべて任せる。条件は、やはりシュテルか」
「まず一点は、その通りです。戦争時においてシュテルさんからも話は持ち掛けられています。
それに理想は違えど、ある程度目的は互いに一致し合えると思うので、彼女にお願いしたいですね」
「申し訳ありませんが、私は父上の右腕として――むぐぐ」
(マイペースに断らないでくれ。ちょっとでいいので、彼女を手伝ってあげるんだ)
(しかし父上は私が居ないと、寂しくて死んでしまうでしょう)
(俺はどういうウサギなんだ、おい。俺の人生で、お前の居ない期間のほうが圧倒的に長いんだぞ)
(これからずっと一緒なので記録は塗り替えられますよ、ふふふ)
(うおおおおお、確かにそうだぁぁぁぁぁぁーーー!)
最初は断られたのだが、俺を言い負かせて気分が良くなったのか、結局引き受けてくれた。くそっ、父親より頭の良い愛娘というのは本当に厄介だ。
それにしても親が悪ければ子も憎いとはならないものだろうか。俺は蛇蝎のごとく嫌われているのに、シュテルは信頼できる友人として評価が高い。
過去に俺の知らぬ間にお見合い相手に選ばれた挙げ句、身勝手に断られた経緯があるようだ。カリーナお嬢様のせいで散々な目にあっている。
この誤解を、どうにかして解けないだろうか。
「ではシュテルさんを派遣していただく代わりに、こちらからも――」
せめて、機会があれば――
「私が出向しますので、貴方の仕事を手伝わせて下さい」
……は?
「俺の仕事と、今言った?」
「はい」
「『白旗』の仕事ではなく?」
「貴方の仕事です。実力も含めて、貴方という人間の仕事について見せて下さい。それが条件です」
――やばい。俺の実力を直接見られるのは、やばい。
今更メッキが剥がれてもこいつ一人が騒いだところでさほど影響はないのだが、あくまでそれは世間に対する評価である。
俺個人が嫌われているところに、俺の実力がないと知られてしまうと、より一層圧力が強くなる可能性が出てくる。
色眼鏡がまったくない赤の他人から、俺という男が一体どのように見られるのだろうか?
久しぶりの仕事は、早速気が進まない展開となりそうだった。
<続く>
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