とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第二十話
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<第二十一話へ続く>
俺がこの町に来て二ヶ月くらいになる。
忌々しいあそこを飛び出して、ずっと一人旅を続けて来た。
家族の温もりも、友達の温かさも知らない俺にとって他人は邪魔なだけだった。
剣に憧れを抱いたのは何時だっただろう?
無力なガキが求めた力。
鬱陶しい他人を蹴散らす為に必要な武器として、コイツを選んだ。
剣と共に人生を歩み、いずれ誰よりも強くなる。
その志に一片の迷いも無かった―――
カキンッ
宙を舞う竹刀。
主人から離れた剣は力を失って、失速して地面に転がる。
乾いた音を立てて寝そべったまま、竹刀は二度と動こうとはしなかった。
「……」
「……?何や、ぼぉーとして」
「うっせ」
この早朝稽古も今日で一週間目。
連日連戦でレンに挑んでいるが、生憎と勝敗はいつも決まっていた。
「また引き分けか、くそう」
「その言い訳もいい加減聞き飽きてきたわ」
「ほっとけ」
朝焼けの中で楽しそうに笑うレンに、俺は毒づく。
ここ最近朝・昼・夜と挑んでいるのに、こいつに黒星をつけられない。
自分で言うのも思いっきり嬉しいが、強くなってきているとは思う。
俺は天才だし。
一週間前と比べても、数秒で倒される事は無くなった。
だが、そんなもん―――倒せなければ何の意味も無い。
「何で一発も当たらないんだ、くそ……」
「実力の差」
「お前、絶対泣かしてやる」
労わりの気持ちとかないのか、こいつは。
俺にも無いけど。
「後は……気持ちの向き方かな」
「あん?」
戦いに心もくそも無い。
勝つ気で挑み、気合と根性で相手にぶつかる!
これっきゃないだろ?
俺の疑問に、レンは真っ直ぐな眼差しで答えてくれる。
「戦いに取り組む姿勢は悪くないし、上を目指すのに必死なのはよう分かった。
でも―――」
「?何だよ、思わせぶりな言い方しやがって」
こいつや高町兄妹に勝ちたいとは本気で思ってる。
レンやあいつ等が本物の実力を持っているのはよく分かった。
悔しいが、本当に強い。
だからこそ勝つ、その気持ちに間違いなんぞない。
「そもそも、あんた―――なんで強くなりたいん?」
「何でって……」
「どれくらい強くなりたいん?」
「そりゃあお前、誰よりも強くなりたいに決まってるだろ」
「何の為に?」
「何のって……男が強くなるのに理由なんていらないじゃねえか」
「そうやって考えるのを止めるん?」
……。
「強くなるのに理由はいらん。自分は誰よりも強くなれる―――
そう信じ込んで、そこから何も生み出そうとせん。
いつまで経っても進歩ないで、そんなんやと」
「お前、この前は強くなってるって―――」
「うちが今指摘してるのはあんたの中身。はっきり言うたろか?
毎日こうやって戦ってるけど負けるとは少しも思わんよ、うちは。
あんた―――何も怖くないもん」
「て、てめえっ!!」
掴み掛かろうとするが、足が一歩も動かない。
おいおい、どうしたんだ俺。
これじゃあまるで―――こいつが正しいって認めてるみたいじゃねえか……
「……おししょーも美由希ちゃんも、剣に想いを抱いてる。
二人の到達点はそれぞれ違うけど―――志は同じや。
あんたがいくら強くなっても、根本的なとこで負けてしもてる」
「……」
剣に―――想いを?
好きとか嫌いとかではなく、もっと深い意味で二人には根付いている何かがある。
……俺にはそれがねえってのか……?
転がった竹刀を手に取って、レンは優しく俺に手渡した。
「うちは人に教えられる程偉くないから、言えるのはこれだけや。
……悪ぶってるけど、あんたがアホやないのは分かってる。
ちゃんと答え出せたら、また戦ったるから。
……ありがとう。うちの気持ち、大事にしてくれて」
へ……?
何のありがとうかを問い返す前に、レンはほんのり赤味が増した頬を隠すように背を向ける。
愛用の物干し竿を手に、中庭へと戻っていった。
……それが居場所を聞くのを断った件だと気付いた時、俺はお喋りなゲーム娘の頬を抓った。
何の為に強くなりたいのか――?
強くなる為。
何の為に?
強くなる為。
何の為に?
強くなる為―――
永遠に続く質疑応答。
こんなのに答えなんか無い、と俺が確かに思い込んでいた。
男が強くなるのに理由は要らない。
では―――理由の無い強さを求めているのだろうか、俺は?
レンは俺を怖くないと言った。
それは決して俺があいつより弱いからじゃないだろう。
アイツは他人を見下す奴じゃない。
何の為に……?
……何の為に……?
…………何の為に……?
強い奴を倒したい。何故?
強くなれるから。
何の為に強くなる……?
「―――駄目だ、振り出しに戻る」
初春の午後。
朝稽古を終えて、そのままブラブラと町を歩いていた。
高町家にはレンとなのはしか居ないし、あの二人の相手は気が滅入る。
気晴らしにと散歩しているのだが、結局色々考えてしまう。
元々頭を使うのは苦手なんだよな……
「……あー、もう!思わせぶりな事いいやがって!!」
無視する訳にはいかなくなっただろうが!
……駄目だ、一人で居ると余計に悩んでしまう。
かといって、あの家には戻りたくない。
何処かに行こうにも、金はこの前のゲームセンターで全くこれっぽっちも無い。
一緒にいて、疲れない相手。
金がかからない、落ち着く場所。
となると……
「―――フィリスだな」
突然押し掛けたら絶対驚き、困り果てるだろう。
おろおろするフィリスの顔を思い浮かべて、俺は内心にやついて病院へ向かった。
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