とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第九話






 オットー、茶色の短い髪の少女。ディードと同時期に博士より造り出された戦闘機人で、あの子とは双子の姉妹である。俺の遺伝子を受け継いだ実子であった。

セインが捕らえたリーゼロッテは、彼女の技能によって捕らえられている。プリズナーボクス、魔導師の結界と同等の性能を持った優れものである。

対象者であるリーゼロッテを、檻外への移動や逃走を物理及び魔力両面で阻害して閉じ込めている。次元世界広しといえど、これほど優れた対象捕獲技能はなかなかない。


テキパキと職務をこなした男装少女は、作業を終えて首を傾げている。


「お父さん、僕に名誉ある任務を与えてくださったのは非常に嬉しいのですが」

「うむ」

「出来れば、ディードにも戦功を得る機会を頂けませんか。機会さえあれば、きっとお父さんの期待に応えられます」

「家族を思うお前の気持ちはよく分かる。だが、お前を選んだのには理由がある」

「と、申しますと?」


(お前の能力は、誰にも知られていない。今後あらゆる方面における切り札となり得る)

(僕と同時期に造られたディードも知られていませんよ)

(あいつの能力は、戦闘スタイルで推測が出来る。お前の固有能力は多岐に渡るので、敵が誤認してくれる事も期待できる)

(なるほど、プリズナーボクスを見せ札とするのですね。感服いたしました、さすが僕とディードのお父さんです)


 オットーの『先天固有技能』は、レイストーム。実のところ俺も見たことはないのだが、結界能力を構造拡張した能力で、広域攻撃を為せる光渦の嵐であるらしい。

膨大な光量による光の渦はレーザーの如く掃射されて、敵を一掃する能力。なるほど、拡張した結界能力とはよく言ったものである。広域範囲攻撃というわけだ。

射撃用として使用する場合、右掌から幾本にも拡散された光線が発射される。エネルギーの運用はミッドチルダ式の魔法に酷似しており、魔導師としての偽装も行える便利な能力。


女の子に秘密兵器と表現するのは父親としてどうかと思うのだが、オットーは頬を紅潮させて俺を褒めちぎっている。最近の女の子の価値基準がよく分からない。


「あたしをこのまま捕らえてどうするつもりなの、時空管理局関係者への拉致監禁は重罪よ」

「クロノを呼んで不法侵入者として引き渡せば、あっという間に崩れ去る脆い反論だぞ、それ」

「だったら早く呼びなさいよ、不愉快だわ」


 俺としては身内しか呼べない状況、さりとて身内を呼べば処罰は甘くなる実態。状況と背景を読んでいるからこそ、この女は強気に出られる。

単純な話、俺も強気に出れば幾らでも状況は切り替えられる。あらゆる人脈や権力を行使すれば、リーゼロッテを屈服させることは不可能ではない。だが、それでは意味がない。

この女の背後にいるグレアム提督を何とかしなければ、結局の所どうにもならない。八神はやてが闇の書の主だと睨んでいるのであれば、本腰を入れて取り組む必要がある。


奇手に甘んじることはない。この程度の局面であれば、今の俺ならどうにでもなる。少なくとも、こいつは俺の敵ではない。本命は、あのおっさんだ。


「もう既に呼んでいる」

「だったら、大人しくしているからここから出してよ。今更逃げたりしないわ」


「呼んだのは、リーゼアリアだ」

「出して、ここからすぐに出して!? 夜空の彼方まで逃げるから!」

「ちなみにお前の引き取りをお願いしたら断られたので、ナハトが夜泣きしていると言って呼び出した。二秒で行くと、息巻いていた」

「こらー、アリアーーー!」


 これで作戦自体は成功なのだが、夜はまだまだ長くなりそうだった。予想外の大物まで釣れて収穫は大きかったのだが、厄介な事実まで判明して手を焼きそうだ。

どうやって突き止めたのか分からないが、闇の書の在り処と主まで知られているのであれば、グレアムも手を引く事はないだろう。あの男の執念もよく分かる。


どうすればいいのか、悩ましいところだった。

















 ディード。剣士としての俺を引き継いだ、長い髪の女の子。生まれ持った端正な容貌と、自然に育まれたたおやかな礼節の大和撫子。近接戦では最強の才能を持った、戦闘機人。

ディードの持つ先天固有技能は、ツインブレイズ。オットーにも先程説明したが、能力名と同じ名称の固有武装を使用して行う近接空戦技能である。

瞬間的な加速により敵の死角を奪取し、死角から急襲して倒す、一撃必殺スタイルが基本。暗殺や不意打ちに適した能力であり、夜襲に非常に向いている。


つまり監視や暗殺を行う側の行動に沿った思考が行える戦闘機人なので、防衛側である今回では作戦の立案側に回ってもらった。


「作戦成功、おめでとうございます」

「ありがとう、ディード。うちは特に異常はなかったようだな、よく守ってくれた」

「皆様の働きにより、被害はございません。次にご機会ありましたら、私の剣をお使いください」


 戦闘機人達の中では誰よりも女の子らしい美人さんなのだが、誰よりも俺によく似た少女剣士であった。斬る機会があれば神でも殺すと言わんばかりに、目を輝かせている。

この子の眼の前で致命的な敗北を喫すれば幻想も覚めるかも知れないが、そんな事態になればこの子にも危害が及ぶので考えものである。

思えば俺は自分の剣のみ邁進しており、自分の子供に剣を継がせるかどうかなんて考えた事もなかった。一子相伝なんて堅苦しい考え方はなく、唯自分の剣が強くなれればよかった。


子供が出来てから悩むというのもどうかと思うのだが、少なくともディードは俺の剣を継ぐつもりでいる。それでいてとても女らしい子でもあるので、すごく悩める子だった。


「リーゼアリアは到着したのか」

「おもちゃ箱を担いで、先程参られました」

「……自分の姿に一切の疑問も持たないのか、あの女」


 自分で呼んでおいてなんだが、どうやっておもちゃ箱を担いで管理外世界へ来れたのだろう。入国審査局も大量の玩具を担いだ女に呆れて、相手をしたくなかったのだろうか。

作戦終了の後始末を皆にお願いして、俺は妹さんとディードを護衛に連れて、捕らえたリーゼロッテとリーゼアリアを対面させた。

オットーとディードを双子と表現したが、この二人もまた実によく似た使い魔であった。理知的なリーゼアリアと行動的なリーゼロッテ、性質の違いが互いを隔てたのか。


一室で対面させると、早速リーゼロッテが噛み付き始めた。


「一体全体、どういうつもりよ」

「それは私が貴方に聞きたいわ。貴方が騒ぎ立てたせいで、ナハトヴァールを起こしたそうじゃないの」

「濡れ衣が早速出てきているんですけど!?」


 ふふふ、お前の暗躍に行動理由をつけてやったぞ。他ならぬ仲間に怒られて焦ったリーゼロッテは、こちらを鬼のように睨みつけて来る。ふはは、ざまをみろ。

それにしてもこいつら、一切連携がなかったんだな。リーゼアリアを最初に呼びつけた時も、リーゼロッテの名前を出しても知らん顔をしていたしな。

連携していたことは以前のリーゼアリアの態度を見れば、簡単に推測出来る。変貌したのはナハトヴァールを出会ってからで、あの子の面倒を見るようになってから不審な点が消えた。


ただそれは俺達から見た視点でしかなく、グレアム側から見れば意味不明な心変わりでしかない。


「最近全然連絡が取れなくなっていて、あたしだって焦っていたのよ!」

「問題ないと、定期的に報告していたわよ」

「何を聞いても問題ないとしか言わないじゃない!」

「だって問題ないもの、あの子は日々健やかに過ごしているわ」

「ちがーう、あの子の育成日記じゃなーい!」


 絨毯が敷かれた客間で、リーゼロッテは下品に地団駄を踏んでいる。リーゼアリアは何故怒っているのか分からないと、おもちゃ箱を担いだままキョトンとしている。いいから、おろせ。

リーゼロッテの口振りからして、リーゼアリアはやはり俺達の監視を主目的に行動していたようだ。それは分かりきっていたが、事実が判明すれば、俺への監視は半ば陽動だった。

本命は俺に繋がっている、八神はやて。闇の書の主と睨んでいるあの子の行動を、俺から見ていたのだ。あの子に何かあれば俺が動く、そうした繋がりを利用していた。

俺があの子を養護していたので、グレアムとしても好き勝手出来なかったのだろう。ローゼの保護をやけに嫌がっていた理由も、これでわかった。


「自分の使命を忘れたんじゃないでしょうね!?」

「忘れていないわよ、ベビーシッターの資格は取ったわ。近日チャイルドマインダー試験を受講して、専門的に学ぶつもりよ」

「もう完全に忘れているわよね、それ!」


 俺よりよほどプロの子育てママになりつつあって、呆れながらも感心してしまった。元々優秀な頭脳を持っている才女である、やる気に目覚めれば何でも出来るようだ。

聖地で合流してから今まで数ヶ月、ナハトヴァールの面倒を見ながら必死で勉強していたようだ。時空管理局の職務とか大丈夫なのか、心配だった。

次元世界とでは時差はあるが、今年いっぱいでもしかすると本当に管理局を辞めるかも知れない。エリートコースを歩んでいた彼女の人生を狂わせたみたいで、心苦しかった。


家族同然の仲間としても、断じて見過ごせない事態なのだろう。


「いい加減、きちんとしてよ。世界の危機に繋がりかねないのよ!?」

「どの辺が?」

「どの辺って――」


「闇の書は彼らの手元にはなく、八神はやては全く主として目覚める気配がない。兆しが見えれば私も見過ごせなかったけど、何にも起こらないわ。
この状況で私に何をしろと言うのよ、ロッテ」


「だ、だからきちんと監視をしてほしいと言っているのよ!」

「しているわよ。問題ないと言っているでしょう」

「うぬぬ……」


 真実を全て知っている俺からすると、二人の言い分は実によく理解できる。どちらも全く間違えていないので、悲しいまでに平行線だった。

リーゼロッテの追求は、分かる。八神はやてが主なのは本当であり、マスターとしても既に目覚めている。闇の書が危険な代物なのは、こちらも認識している真実であった。

リーゼアリアの指摘も、分かる。八神はやてには何の問題もなく、闇の書も手元には本当に無い。既に改変された蒼天の書は、安全な代物なのだ。


どちらの言い分も正しいのでどちらもひけない、困った事態なのである。うーむ、どうしたものか。


  「リーゼロッテ。お前達は八神はやてが闇の書の主だと、あくまでもそう主張するんだな」

「事実だもの、誤魔化そうとしても無駄よ」

「証拠は?」

「証拠って――」


「時空管理局員だろう、証拠があってこそ犯人を追求できる。まさか憶測で逮捕でもするつもりか」

「……っ」


 分かる、分かる。明白な証拠がないからこそ監視しており、今回のような強行にも出たのだ。かつてあった証拠の数々は全て、消えてしまっている。

闇の書は既にこの世界から無くなっており、八神はやては魔法を必要としていない。魔導師としての覚醒より、人間としての育成を自ら望んでいる。

どれほど資質があっても、本人が望まないのであれば宝の持ち腐れである。覚醒さえしなければ、はやては何処までいってもただの人間である。


自分の状況が不利だと理解させたところで――



この際俺は、思い切った手段に出ることにした。



「明白な証拠がほしいのであれば、真正面から戦おうじゃないか」

「どういう意味よ」

「聖王教会が厳重に保管している、蒼天の書。実は、俺やクロノはあの本こそが闇の書だと思っている。
俺が教会に交渉してやるから検証しようじゃないか、今度は時空管理局の施設を使って」

「なっ――!?」


 聖王教会での検証は、博士が加わっていたから何の問題も出なかった。しかし時空管理局側の施設を使って徹底的に検証すれば、痕跡が出てくる可能性もある。

でも、それでも問題ない。アリサの戦略により疑いの目はスライドしていっており、蒼天の書が闇の書だと発覚しても、魔導書自体に問題なければこの件は解決だ。


――そして。


「もしもこれで本物だと分かれば、状況から考えて明らかに俺がマスターということになってしまうな」

「あんた……どういうつもりよ!?」


 闇の書が危険だと思っているリーゼロッテからすれば、明らかに捨て身の作戦。自暴自棄になったと誤解されても無理はない。

ただ安全だと分かったとしても、無罪放免とならないのも分かっている。闇の書が過去危険な代物だったのは、歴史が証明している。今は安全なので放置とはならない。


それを大義名分に、必ず奴らは俺をどうにかするべく動き出す。グレアム提督――そして、最高評議会。



闇の書を巡って、膠着していた事態を動かしてみせた。













<続く>








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