とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十九話
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「前々から思ってたけど、侍君って本っ当に自分勝手だよね。
こう何と言うか、場の雰囲気を読んでくれないっていうか……」
「……だから、悪かったって言ってるだろ」
「誠意が足りないよ。例えば―――私にもプレゼントくれるとか」
「自分で買え」
「うう……冷たいお兄ちゃんだね、なのはちゃん」
「あ、あはは……」
妙に絡んでくる月村。
その場から立ち去ったのは確かに悪かったが、絡んでくる奴だ。
俺とノエルが話している間に戦いは終わったそうだ。
軍配が上がったのは―――なのは。
経験値はほぼ互角だったとすると、やはり純粋に腕の差でなのはが上回ったのだろう。
普通こういう場合もっとドロドロしそうなものだが、二人は勝敗に関係なく仲良くなったようだ。
内容の濃いバトルにギャラリーは大満足。
二人の熱きプレイヤーに拍手喝采を送り、宴は終了したらしい。
で、俺が居ないのに気付いたこいつは早速文句を言ってきた。
怒っていると言うか……なんか拗ねているような感じも……
「別に俺が居なくても平気だっただろ?」
「賭けの対象は侍君だったんだから、普通あの場に居るべきだと私は思うな」
「立ってるだけじゃねえか、俺。つまらん」
「……それでノエルと遊んでたんだー、ふーん、ふーん」
「し・つ・こ・い・ぞ」
「いたたたたたっ!」
こめかみにグリグリすると、月村は端正な顔を歪めて痛がる。
野郎なら竹刀で張り飛ばしているが、さすがの俺も月村にそんな真似は出来ない。
それなりに力を込めてかましてやって、一応黙らせた。
「たく……何がそんなに不満なんだ、お前は」
「うー、侍君って私には冷たいのに、ノエルには優しいから」
「?……そんな事無いよな、ノエル」
「はい。宮本様はどなたにでもお優しい方です」
「お前はお前で何を勘違いしてる!?」
よっぽど気に入ったのか、ノエルは縫い包みを抱きかかえたままだった。
優しさがどうとか言うより、賭け事の延長みたいな感じであげただけなんだが。
女に容易くプレゼントするような安っぽい男じゃないぞ、俺は。
そんな俺達の様子を間近で見ていたなのはは、キラキラした瞳で言う。
「おにーちゃんと忍さんは仲がいいんですね」
・・・・・・忍さんってお前、ちゃっかり名前を・・・・・・
「全然。限りなく他人」
「即答すぎるよ、侍君!
あのね、なのはちゃん……おにいちゃんは実は私が大好きなのよ。
恥ずかしくて言えないだけなの」
「捏造するな!フィリスみたいな事を言うな!」
っていうか、肯定すると俺とお前は仲良しになるんだぞ。
その辺の意味が分かっているのかどうなのか、月村は笑顔でなのはと話している。
すっかり仲良くなったな、こいつら……
何かどっと疲れてしまった。
子供や女の相手は苦手だ。
「そろそろ帰るか、なのは。夕飯食いそびれるぞ」
思わぬ形で月村とノエルに出会い、数時間は余裕で過ぎている。
正確な時間は分からないが、そろそろ帰らないと心配するだろう。
レンとの再戦も控えているしな。
「え、もう帰っちゃうの……?」
「俺一人ならともかく、なのはも一緒だからな。
夜遊びさせたら、俺が文句言われる」
ぺしぺしと、なのはの小さな頭をこついてそう言う。
月村は何故か少し名残惜しそうだった。
「うーん、そっか……それじゃあ仕方ないよね。
残念だけど、今日は切り上げよっか。
侍君にまた会えただけでも良かったし」
「……変な奴。何がそんなに嬉しいんだか」
「ふふ……」
ま、こいつも相変わらずって事で。
この街にはまだ居る予定だし、また会う機会もあるだろう。
メイドさんにも挨拶はしておく。
「ノエルもこいつのお守り、頑張れよ。
面倒くさくなったら、見捨ててもいいし」
「いえ、私はいつまでも忍お嬢様と共にします。
―――今日は本当にありがとうございました」
礼儀の見本のように、綺麗なお辞儀をするノエル。
……思ってた以上に喜んでくれたな。
縫い包みはノエルに大切にされるだろう。
俺も軽く挨拶して、なのはとゲームセンターを出て行く。
月村とノエルも車を外の駐車場に停めているからと、一緒に後から来る。
その途中―――
「侍君って高町君の家に住んでるの?」
「うーん、住んでいるというか最近世話になってるだけ。
すぐ出ていくよ」
「で、出て行っちゃうんですか!?」
おいおい、どうしてそこで驚くんだなのは。
「いつまでも居る訳にもいかないだろうが。
とはいえ、レンやお前の兄貴と決着つけてないからな。
また訪ねるよ」
あのまま引き下がってたまるか。
俺の話を聞いて、月村が少し考え込んだ顔をする。
「意外だね……侍君だったら一緒に行くと思ったのに」
「……?何の話だ」
「何のって―――高町君と妹さん、修行に行ったんでしょう?
侍君も一緒だとばっかり―――」
「……待て。何でお前がそんなに詳しく知ってる」
なのはを見るが、慌てて首を振っている。
こいつが話した訳じゃない。
不思議に思って尋ねると、月村があっさりと言った。
「だって、前に朝会ったから。二人一緒だったよ。
えーと、何処に行くって言ってたかな……」
「何処に行くって言ってたんだ!?」
「ちょ、ちょっと侍君!痛い、痛い!?」
おいおい、まさかこんな所から居場所が分かるとは思わなかったぞ。
さすが俺、運すら味方につけている。
やはりあれだね、たまにはボランティアもするもんだね。
良い事をすれば必ず見返りがある。
ちびっ子に付き合った甲斐があったってもんだぜ。
くっくっく、レンよ……貴様の努力は無駄だったな。
お前以外に知っている奴がいたぜ、わははははは!!
わははは……は……
……。
…………いや、でも。
浮かれていた気持ちを沈まる。
ここで月村に場所を聞いたとしよう。
それって―――レンに負けた事にならないか?
これじゃあ、実力では勝てないから他の奴に聞いたのと変わりない。
何か情けなくないか……?
天下を取ろうって奴が、敵を勝ったままにさせておくのか?
―――駄目だ、きっとこれは駄目だ。
「やっぱいいわ」
「……え?」
「ごめん、変な事聞いた。忘れてくれ」
あくまでも―――レンの口から吐かせてやる。
俺は再度目的を定めた。
<第二十話へ続く>
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