とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十八話




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 難しい話は抜きにして、二人で対戦をして勝敗を決める。

勝ったら敗者への命令権を獲得する。

ノエルはその辺を嫌がったが、嫌なら願わなくてもいいからと無理矢理納得させる。

相手にも必死になってもらわないとつまらないが、ノエルが相手だと無理強いは出来ない。

野郎相手ではないので、対応のさじ加減が分からないのが困りものだ。

妙に頑固で意思が強いからな、ノエルは……

フレンドリーなノエルなんて想像も出来ない。


「このゲーム、やった事あるよな?」

「……忍お嬢様と」


 ―――納得。

俺が出来るゲームは例の格闘だけなので、空いている対戦台を選んでそれぞれ対面に座る。

この格闘ゲームは人気があるのか、何台も対戦台が設置されている。
他のゲームセンターに入った事が無いのでよく知らないが、幸いだったと思っておこう。

俺は我が分身たる黒サムライを選択。

対するノエルは―――


「……へえ、カラクリ人形か。
変わったのを選ぶな、ノエルって」


 両手にブレードを持ち、攻撃力の高さと素早さを発揮する女型の戦闘人形。

時代考証や日本式な雰囲気を考えて「人形」と銘されているが、ようするにロボットだ。

なのはの話だと、万能型だが操作が複雑で人気は薄いらしい。

俺も一度なのはの家で使ってみたが、確かに扱い辛いキャラだった。

巧みな操作性を必要とするこいつより、単純だが戦闘力が高い黒サムライを俺は愛用している。

人形を選んだノエルの実力が気に掛かるが、戦ってみれば直ぐに分かる。


「戦場は何処でもいいよな?」

「宮本様に御任せ致します」


 実に分かりやすい返答だった。

俺は遠慮なく自分の好みの場所を選んで、戦闘モードに入った。

なのはや月村に負けて、最近いいとこがない俺様。

ここは一つ、勝ち星をあげたいところだ。


『ラウンド1、ファイト!』


 先手必勝―――

俺は即座に人形に斬りかかった。
















「申し訳御座いません、宮本様」

「……謝られると、余計に惨めになるのでやめてくれ」


 ―――惨敗。

主従関係とゲームの腕は一切関係が無い事を思い知る結果となった。

ゲーム台に力なくもたれかかりながら、画面に映る『YOU LOSE』の文字を見つめる。

ノエルは月村よりも強かった。

一生懸命戦ったつもりだが、ノエルは俺の手立てを全て見抜いた。

技を出そうとしてもタイミングを見破られ、攻撃は常に先手をうたれる。

防御は防御で思ってもみない攻撃手段で見事に遅れ、全弾的中。

カラクリ人形と同化しているんじゃないか、こいつ……?

まるでコンピューターのように計算高い戦闘手段で倒された。


「……俺の知り合いって全員怪物か何かか、くそー」


 何でこう倒されるんだ?

ノエルはゲームを趣味にしているとは思えないし、娯楽を楽しむタイプには見えない。

月村の為に従事尽くすのを信条とし、仕事を随一とするのがノエルだ。

つまり―――月村との相手をしていたその何回かでここまで強くなった。

それはもう異常だ。

そう考えないと、悔しくて仕方ない。

とりあえず、もう戦う気にはならないので離れる。


「ノエル、行こうぜ。あっちももう終わったかも知れないし」

「分かりました」


 ギャラリーが集結しているので、ゲームセンター内はガラガラである。

だからこそ、ノエルは目立たずにすんでいるのだが……

俺とノエルは対戦台から離れ、正面側に見える観衆の方へと向かう。

盛り上がっているみたいなので、勝負は一回や二回で終わっていないのだろう。

相手が強ければ強いほど粘りそうだからな、二人とも……

ふと隣を見ると、ノエルは変わらず感情の無い瞳で目の前を見ていた。


「あのよ、ノエル。俺に頼みたい事とかないのか?」


 約束事は守らないといけない。

そのルールを破るようでは、戦いに望む資格も無くなる。


「……御気持ちだけ受け取ります。ありがとうございます」

「いや、そうじゃなく……」


 何かこう……心が見えないな、こいつは。

月村も月村で謎めいた感じはあるが、特にこのノエルは何も見えない。

丁寧な態度と俺への配慮は本物なのは疑いようが無いが、いつもこいつは一歩引いている。



こいつはきっと・・・・・・俺と正反対の存在。



自分本位な俺とは――――


「―――よーし、ノエル!」

「はい……?」

「お前に、俺から特別にプレゼントをやろう」


 ゲーセン暦半日の俺でも知っているゲームはある。

ノエルの承諾を得ずして、俺はソレが設置されている場所へと向かう。

ゲームセンターなら、何処でも一台はあるあのゲーム。

入り口の傍まで行くと、ソレは沢山並んでいた。





「UFOキャッチャー……ですか?」

「俺もやった事は無いけどな」





 大人でも子供でも誰でも出来るこのUFOキャッチャー。

アニメ・ゲームのキャラや動物関係のマスコット、変り種ではキーホルダーやお菓子なんてものまである。

手軽に贈れるプレゼントだと、我ながら思う。


「宮本様、私は―――」

「いいから、いいから。お前は黙って見てろ」


 反論を許さない俺。

欲しい物はあるか、と聞いてもいらないと答えるのは予想済み。

ノエルの好みなんて知らないが、一つだけ心当たりがある。


「……あった」


 ゲームキャラを模倣した縫い包みシリーズ。

先程俺を無残に敗北させた憎き敵が、本物の人形となってガラス張りの中に無造作に置かれていた。

好きかどうかは別にしても、あれほどやり込んでいるキャラだ。

思い入れの一つや二つあるだろう。

適当に可愛いのを選ぶより、ノエルにはこっちの方がいい気がする。


「鮮やかにすくい取ってくれるわ」


 コインを投入して、俺は果敢に挑んだ。










今日の教訓―――

もう絶対にゲームセンターには近付かない。










 空っぽになったポケットと心―――

どれだけ投入したか、考えたくも無い。

買った方がよかったんじゃないか?と心が叫んでいるが、無視する。


「願い事は無いとは言ってたけど……これ、俺の気持ち。
……いらないなら、俺の見ていない所で捨ててくれ」


 ノエルの手を取って、チンマリした人形を乗せる。

俺の気持ち―――ただそれだけだ。

相手がどう思おうと知った事ではない。

受け取らないだろうけど・・・・・・俺の気がすまないからだ。

でもちょっとだけ――――期待しなかったと言えば嘘になる。

男として情けないけど……





「捨てたりしません」





 ―――え?




「……大切にします、宮本様」


 ノエルの―――小さな微笑み。

ぎゅっと抱き締められている人形が、どこか幸せそうだった。



























































<第十九話へ続く>

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