とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第六十一話
                              
                                
	
  
 
 
 最初から結果の見えた勝負だったのに、ギル・グレアム提督の登場で随分と危うい橋となってしまった分析作業。神の気まぐれとでもいうのか、何とか事なきを得た。 
 
自分の命運を他人に託すという剣士としてあるまじき所業で冷や汗をかかされたが、終わってみれば御の字だった。ジェイル・スカリエッティは自分の仕事をしてくれた。 
 
蒼天の書は、闇の書ではない。その結論は結果としては正しく受け止められず、時空管理局は分析データを持ち帰る事となった。ご苦労な事である。 
 
 
両者共に本来は本局所属ではあるのだが、事実上本局へはクロノ達が――地上本部へ、ギル・グレアム提督が分析データを持ち帰った。 
 
 
「闇の書とは指定遺失物、ロストロギアとして認定された融合型デバイスの事だ」 
 
 
 聖王教会が厳重に管理している蒼天の書、聖王家の聖遺物として認定されたデータの持ち出しは本来は厳禁。データの見返りとして要求されたのが、闇の書に関する詳細情報。 
 
蒼天の書の分析作業を終えた俺達は、早速クロノ達から闇の書に関する情報を連携される事となった。関係者一同が集まって、正式に情報が提供される。 
 
こちらもまた捜査情報として管理されている秘匿データ、一民間人に提供されるような情報ではない。だからこそ手に入れるのが困難だったのだが、ようやく取引が成立した。 
 
 
八神はやてと、守護騎士達。随分と恩を受けた彼らの生活を守るべく、俺は今こそ彼らの秘密を知らなければならない。 
 
 
「闇の書の本来の名は、『夜天の書』。主と認められた者と共に旅をして、偉大な魔導師達の技術を収集して研究するために作られた代物。 
言わば、収集蓄積型の巨大ストレージと言うべきか。情報管理のみならず、情報収集も行える専門書と言えるだろう」 
 
「自分から貴重な情報を集めてくれるとはまた、画期的な本だな」 
 
「僕も君達の文化について近頃興味が出て勉強中ではあるが、書籍というカテゴリーに押し込められる本ではないかもしれないな」 
 
 
 実に義理堅いと言うべきか、分析作業に同行したクロノ執務官は早速と言わんばかりに情報を連携してくれている。出し惜しみしないその姿勢は、評価したい。 
 
ヴィータ達が頑なに否定していたので半信半疑だったのだが、夜天の人リインフォースが言っていた正式名称が正しかったようだ。夜天の書と、管理局からは呼ばれているのか。 
 
呼び名なんてどっちでもいいとは思っていたのだが、こうして事実が明らかになってくると意外と重要な事だった。蒼天の書と闇の書で揉めた後であれば、特に。 
 
 
せっかく話題になってくれたのだ、遠慮なく質問させてもらうとしよう。 
 
 
「正式名称があるのなら、そっちで呼べばいいんじゃないか。わざわざ何で闇の書なんぞと呼んでいるんだ」 
 
「いい質問だ、宮本。勿論、呼び名が異なるのには重要な意味がある。僕達も明白な理由があって、名称を区別している。 
その理由を今から説明しよう――提督、宮本にすべて明かしますがかまいませんね?」 
 
「許可します、クロノ執務官。彼はもう一民間人ではない。私達の大切な友人であり、運命を共にする正しき仲間です。情報を提供しましょう」 
 
 
 親子なんだからツーカーでいい気がしたのだが、すぐに自重する。単なる業務確認じゃない、これは正当なやり方に基づいた正しい儀式なのだ。 
 
次元空間航行艦船アースラの会議室、此処は公式の場だ。ここで民間人への情報提供を許可するのは、時空管理局からの正式な承認に等しい。組織が個人を認めた形となる。 
 
同席している地上本部捜査チームである、ゼスト隊長達からも反対の声はなかった。ロストロギアという、超一級秘匿情報が開示されるのは重要な意味を持っている。 
 
 
自分が認められたというより、自分の行った行動が評価された。彼らは、応えてくれたのである。 
 
 
「夜天の書は古来より存在する歴史永き魔導書で、かの聖王家が存在する古代ベルカ時代にも登場している。先程説明した通り、本来は収集蓄積型の巨大ストレージだった。 
ところが、持ち主の何人かが夜天の書のプログラムを改竄してしまったんだ」 
 
「か、改竄……!?」 
 
 
 俺と同じように魔導書を改竄した奴が、昔にもいたのか――ガフッ、驚愕が全身を突き抜けたその瞬間、横腹から猛烈な痛みが飛んできた。 
 
横目で睨むと、何十倍の眼力でいつも通り秘書として同席したアリサが睨み返してきた。何なんだこいつという怒りは、自分の迂闊さによってあっと言う間に後悔に変わった。 
 
改竄というキーワードに極端に反応を示すのは、分析作業が終わったこの直後だとヤバイ。彼らが俺を信じてくれているのは、改竄なんてしないという信頼である。 
 
 
そんな俺が改竄の事実に右往左往したら、グレアムと同じ疑念を彼らに与えてしまう事になる。くそっ、俺は馬鹿か!? 
 
 
「どうしたんだ、宮本。顔色が悪いぞ」 
 
「ご主人様がリンディ提督に見惚れていたので、肘打ちをかましてみました」 
 
 
「まあ、良介君ったら……うふふ」 
 
「……頼むから真面目に聞いてくれ」 
 
 
 お、お前ら、こんな理由で納得するのか……? 評価されていると思っていたのに、まだ案外俺のことは軽く見られているようだ。うぐぐ、日頃の態度が物を言うのか。 
 
アリサにしてはふざけた理由だったが、この場にいる全員が納得してしまっているのが理不尽だった。クイントやメガーヌなんて母親の顔で、クスクス笑っている。殺したい。 
 
 
まあ、取り繕えたのでよしとする。驚き慌ててしまったが、それくらい重要な情報だったのだ。 
 
 
「過去のマスターが夜天の書をいじくり回してしまったために、闇の書へと変貌してしまったのか」 
 
「ユーノが詳しく調べてくれた。元は健全な資料本であろうと、古代魔法であれば破壊の力を行使する闇の書へと変化させるのは可能だという見解だ」 
 
 
 平和な歴史の遺物が、悪しき歴史の遺産へと変貌してしまった。技術運用や転用については、世界会議でカレンが技術革命を企んでいた例もあったからな。ローゼのアホが研究所を破壊したけど。 
 
リインフォースの存在を思うと、納得できる話だった。彼女は出逢った頃こそ俺を敵視していたが、本人は理性的な女性だった。常々、力の悪用について訴えていたような気がする。 
 
彼女が法術による改竄を危険視していた理由も、判明した。昔、同じようにや天の書を改竄した馬鹿がいたのだ。そりゃあ、同じ事をされたら敵視するよな。 
 
 
 
まさか自分以外に同じことをする連中が―― 
 
 
 
 
 
(――同じ事を、している? まさか、俺のような法術使いがミッドチルダの歴史に登場していたんじゃないのか!?) 
 
 
 
 
 
 ローゼのアホにかかりきりだったのでなかなか話を持っていけなかったのだが、そもそも俺が聖王教会へ出向いたのは『聖典』が目的である。あんなアホの為だけじゃない。 
 
自分の法術の事を知りたかったのに、アイツのせいで聖王なんぞに祀り上げられてしまったのだ。何で自分の事より、アホの身体を心配なんぞしなければならないのか。 
 
ようやく終わったと思ったら、次は妖怪道中記である。いいかげんにしろと言いたい、声を大にして言いたい。俺は、自分の事に集中したいんだ。 
 
 
夜天の書を改竄した過去の魔導師が、実は法術使いだったということは十分考えられる。力を欲するという願いを、叶えればいいのだから。 
 
 
(よし、クロノ達に早速要請を――あっ、だめだ!?) 
 
 
 手掛かりを掴めたと喜び勇んでいたのだが、肝心要の事を忘れていた――夜天の書を法術が改竄しているという実在例を、説明できない。 
 
むしろどうやって説明するつもりなんだ、俺は。実は法術で夜天の書の書き換えが出来るのだと、笑って話せというのか。バカも休み休み言え、グレアムが喜々として飛んで来るぞ。 
 
あいつの事だ、夜天の書を蒼天の書に法術で書き換えたのだと訴えてくるに決まっている。まったくもって事実なだけに、ぐうの音も出ない。 
 
 
うぐぐ、これが嘘をついた代償だとでも言うのか。事実を話せないから、真実を掴められなくなっている。 
 
 
(時空管理局のデータベースを、なんとしても調べたい。クロノ達が調べた闇の書のデータの中に、法術使いに関する情報がある可能性が出てきた。 
クロノ達が気付かなかったのは、そもそも法術で夜天の書を改竄していた事実を知らなかったからだ。この事実を前提として再調査すれば、法術について出てくるかもしれない。 
 
うおお、目の前に貴重な情報があるのに掴めないなんて……!) 
 
 
 トンデモナイ事が判明してしまった。知らなければ諦められていたのに、知ってしまったせいで歯痒さが出てきてしまう。 
 
どうしよう、こうなったら事実を話すか。リスクはあるけれど、リターンは非常に大きい。法術使いの存在が判明すれば、法術の使い方も分かるかもしれないのだ。 
 
 
今のように勝手に起動するのは、問題だ。シュテル達、愛する我が子達の為にもきちんとした制御法がほしいのだ。こいつらの存在を確立させているのは、法術なのだから。 
 
 
ユーリが言っていた。俺のおかげで、強大な力をコントロールできるようになったのだと。自分が女の子になれたのは俺のおかげだと、涙ながらに感謝していた。 
 
我が娘のあんな顔を見せられてしまったら、今更ちゃぶ台返しになんぞさせられない。法術の効力が切れてしまったら、あいつは再び怪物となってしまうのだ。 
 
 
制御法を知る鍵は、目の前にある。 
 
 
(だがそれはユーリ達の持つリスクを下げるために、八神はやてのリスクを高めることになる――俺は、何を取ればいいんだろうか) 
 
 
 同じ家族である。同じく血が繋がっていないのに、同じく家族のように接している。両方共に、かけがえがなかった。だからこそ、悩んでしまう。 
 
戦ってきた連中の、忠告が突き刺さる――剣への情熱を失ったのは、守るものが出来た為。取り戻すには、斬らなければならない。 
 
 
 
命あるものを斬る――斬るという決断を下さない限り俺は自分の剣を、力を取り戻せない。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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