とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十六話
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静まり返るゲームセンター。
衆目は唖然とした顔で口を閉ざし、俺は俺で不覚にも呆気に取られた。
現状を理解しているのはなのはだけ。
何を思ったか、月村に挑戦状を叩き付けた。
「わたしと勝負してください、月村さん」
「え、え……その……」
対応に困っておろおろしている月村。
俺も同じ立場だったら、多分同じ顔をするだろう。
「わたしが負けたら、何でも言う事聞きます。
宿題やれって言われたらやります。お掃除だってします!」
何気なく小学生レベルな命令だな、おい。
普段は大人しいなのはには見られない、真っ向からの戦う姿勢。
精神的になのはが一歩有利だ。
「ま、待って。なのはちゃん、あのね……
別に私は侍―――なのはちゃんのおにいちゃんを苛めようとか思ってないから」
「え、そうなの?」
「さ、侍君はちょっとだけ黙ってて!」
意外な事実に驚いた俺に、何故か顔を赤くして怒る月村。
絶対理不尽な命令をされるのだとばかり思っていたぞ、俺。
月村はなのはの前に屈む。
「私はただ、おにいちゃんと一緒に遊ぼうかなって―――」
「お、おにーちゃんはわたしと遊んでるんです!」
弁解する月村を黙らせるなのは。
おおーい、あの純情な少女は何処に行ったんだ!?
「勝負してください」
「で、でも……」
「勝負してください」
「う、うーん……」
「勝負してください!」
……おいおい、すごいぞまじで。
どこにこんな気迫が眠っていたのか、なのはは闘志を漲らせて月村に迫る。
その辺の中坊や小僧共なんぞ足元にも及ばない強さ。
武道を志していないとはいえ、恭也の妹である証かもしれない。
なかなかに頑固だった。
―――水をさす言い方だが、なのはの申し出は的が外れている。
俺が負けたのだから、俺が条件を飲むだけ。
仮になのはが勝負で勝って釈放されても、俺が負けた事実に変わりは無い。
それどころか、ガキに助けられたという屈辱が残る。
本来なら躊躇無く殴り飛ばす。
いらんお節介だと罵倒する。
―――この強さを見せなければ。
俺には俺の考えがあるように、なのはにはなのはなりに主張がある。
自分でも変だと思うが、そんななのはが妙に可愛く見えた。
ガキが可愛いなんて庶民的でむかつくので、気の迷いだと思っておく。
なのはは退かない。
月村はじっとなのはを見つめ返し、立ち上がって俺を見る。
「いいの?」と、最終確認をしている目。
短い間だったが、俺といっしょに戦った間柄だ。
俺の性格をよく知っている。
自分のプライドとなのはの誇りを天秤にかけて、俺は・・・・・・・しっかりと頷いた。
それで充分だった。
「……分かった。勝負しよ、なのはちゃん。
おにーちゃんを賭けて!」
「はい、ありがとうございます!」
『おおおおおおおおおおっ!』
盛り上がる二人、吼える観客。
初めての感覚だった。
周囲に取り残されるこの孤独は―――
勝負内容は簡単。
自分の持ちキャラで戦って、二ラウンド先取した方が勝ち。
勝者は俺を手に入れる権利を獲得。
負ければ権利は剥奪される弱肉強食ルール。
ゲームセンター内のテンションは最高潮だった。
何しろ話題の美人ゲーマー(こんな単語覚えたくなかったが)と美少女の対決だ。
男共のみならず、女達まで黄色い悲鳴を上げている。
写真を取る連中までいて、俺は馬鹿馬鹿しさに溜息を吐くしかない。
観客達の勝敗の予想は十中八九月村の勝利だろう。
だが、それはなのはの実力を知らない浅はかな予想だ。
実際に二人と戦ったから分かるが、実力は伯仲している。
経験は双方共に多分同等。
この戦いは二人の腕と戦略に左右する戦いとなる。
大賑わいする周りに比べて、二人は黙って硬貨を投入する。
キャラを選択し、フィールドをランダムに。
終始無言のまま、戦闘意欲だけを高まらせて二人は対峙した。
ゲームという名の戦場―――
互いに相手を殺す気でいる。
容赦は微塵もせず、相手に心からの敗北を味あわせる。
『ラウンド1』
無機質なコンピューターの声が―――
『ファイトッ!』
―――戦いのゴングを鳴らした。
白熱する勝負。
両者共に激しいバトルを繰り広げている最中、俺は―――
「ノエル・・・・・・?」
観衆から離れてこちらを見つめる視線に気付いた。
<第十七話へ続く>
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