とらいあんぐるハート3 To a you side 第三楽章 御神の兄妹 第十五話
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……何かと縁があるな、こいつとは。
事件から入院先に退院パーティと、あらゆる所で出会いっぱなしだ。
周囲に群がるギャラリーを一瞥して、引き返すのも無理だと分かった。
仕方が無いので、話し掛けてやる事にする。
「……またお前かよ」
「むー、何か嫌そうに聞こえるよ。侍君」
当然、嫌だからな。
ゲーム機の前に陣取る月村はラフな私服姿で、俺を見上げている。
この町で何人もの女と関わり合った俺だが、やっぱりこいつの瞳にはどこか引き付けられる。
飾り気の無い服装も抜群なスタイルを強調し、こいつの魅力を惹き立てている。
……ギャラリーに男女問わず多いのは、月村だからかもしれないな。
ゲームが上手いだけでは人は寄せられない。
むう、何か腹が立つな。
「随分目立ってるじゃねえか」
「うん……私もちょっとびっくりしてる」
本気で言ってるのか、周辺を見ては困惑の色を深めている。
「ゲームの女王とか言われてたぞ、お前」
「そ、そんな事言われても困るよ。私はただゲームを楽しんでるだけだから。
そうだ!侍君、私のガードしてガード」
「いやじゃ、ぼけ。自分の身は自分で守れ。
第一全員お前のファンだろうが。
下手にお前に関わったら、俺がこいつらに殺される」
勿論万が一そんな事態になったら、俺はこいつら全員叩きのめすけど。
あっさり断ると、月村は形の良い唇を尖らせた。
「侍君って本当に冷たいよね。
ちょっと前は共に一夜を過ごした仲なのに」
『ざわ・・ざわ・・・ざわ・・・!』
こ、こら、誤解を招く言い方は止めんか!
お前に群がる周りの面々の目がきつくなるだろうが。
……よく見れば、男だけではなく女達もかなり居る。
こいつの人気は男女問わずのようだ。
―――女もってところはあえて追求するのはやめておく。
「ちょっとお前の別荘に寝泊りしてただけだろ。
ノエルだっていたし」
「うんうん、美人のメイドもいて幸せそうだったよね。
ノエルもまた会いたがってたよ」
『メイド・・メイド・・・メイドさん・・・!』
何なんだ貴様ら!
さん付けする価値まであるのか、メイドに!?
むしろお前らのその熱気と興奮は何だ!
とりあえず月村の首を絞めて、こいつの暴走を黙らせる。
「アホな事ばかり言ってないで、俺と勝負しろ」
「勝負?侍君相手に戦えないよ、私。ひ弱な女の子なんだよ?
ノエルだったら全然大丈夫だけど」
「誰が喧嘩すると言った!」
それにノエルなら大丈夫だって何だよ。
あいつだって西洋風の美人で、お前と同じ女じゃねえか。
俺と喧嘩して勝てるわけがねえだろ。
「戦いはするが、あくまでゲームの中でだ。
お前の今プレイしている格闘ゲームで俺と勝負しろ」
『えー・・・おいおい・・・馬鹿だ・・・』
……何だ、貴様らのその哀れみに満ちた視線は!
まるで俺が負けるのを確定しているかのような目じゃねえか。
当の本人もまさか俺がゲームで挑むとは思ってなかったのか、目を丸くする。
「さ、侍君……ゲームなんて出来るの?」
「ふ、馬鹿にしてもらっては困る。
俺の黒サムライにかかれば、お前がどのキャラを選ぼうとも瞬殺だ」
なのはに一度も勝ってないが、それは別。
ガキのくせに鬼のような連携技と素早さを駆使するので、なかなか勝てないのだ。
そのなのはに鍛えられた俺。
例えゲームの女王と崇められているこいつでも、今の俺には勝てない。
お前の人気は今日で終わりだ。
この戦いが終われば、周りの連中の視線が俺に釘付けになるだろう。
ふっふっふ……
不敵に挑む俺を月村はふーんと見つめ、少し微笑を濃くする。
「そうなんだ、自信があるんだね」
「勿論!」
「じゃあさ、じゃあさ。私と賭けをしない?」
「賭けだぁ?」
一昨日の俺なら燃え立つ提案だが、今日の俺はちょっと違う。
賭け事に関しては、昨日から痛い目を見ている。
「そ、賭。私がもし負けたら、今日一日侍君の言う事何でも聞いてあげる。
侍君の忠実なド・レ・イ」
『えええええっ!!……なんだって!?……キャーお姉様!! 』
怒ってるのか喜んでるのかはっきりしろ、観客!
「その代わり、私が勝ったら今日一日侍君が私の命令を聞くこと。
どう?」
「むうう……」
俺が負けたら、今日一日レンと月村に振り回される羽目になる。
なのはも一緒だから、俺の苦労は二倍三倍に膨れ上がる。
しかし逆に俺が勝てば、この馬鹿は俺の言う事を聞く。
くっくっく……愚かなり。
今日一日俺の奴隷として、なのはの面倒アーンドレンの厄介事を押し付けてくれるわ!
ついでに俺の肩でももんでもらうか、うははははは。
「いいぜ、その条件呑んでやる」
「成立。そっちの席に座って」
向かい側の空いているゲーム機を指差す月村。
すっかりその気になっているのか、月村は得意満面の笑顔だ。
俺をお前が今まで戦った雑魚と一緒にしたのが運の尽き!
意気揚々と対面のゲーム機に座ると、不意に裾がをくいくい引っ張られる。
「なのは?どうした」
すっかり忘れてたが、なのはが俺の傍に近付いていた。
その表情は不安に満ちていて、俺は柄にも無く戸惑ってしまう。
「なんだよ、俺が負けるとでも思ってるのか」
「……あの人、強いです」
……なのはが認める実力?
俺の実力はなのはが良く知っている。
そのなのはを不安にさせる強さを月村が持っているのか?
―――しかし、今更後にはひけない。
「安心しろって。俺も侮らずに挑むから」
「―――がんばって、良介おにーちゃん」
まだ心配そうななのはに俺は少し乱暴に頭を撫で、画面と向き合う。
俺はコインを投入した―――
『YOU LOSE』
「……」
画面の前で真っ白になる俺―――
ハッキリ言おう。
月村忍、こいつは評判以上の実力だった。
第一戦・第二戦共にあっさり勝利を持っていかれた。
情けなさを承知で言えば、俺は手も足も出なかった……
「ふふふ、約束は覚えているよね侍君?」
ひょっこり顔を出して、満面の微笑みで俺に問い掛ける月村。
男を虜蕩にしそうなその笑顔も、俺には屈辱でしかない。
しかし、ここで頑なに拒絶すれば男の誇りを失う。
悔しさに歯軋りしながらも俺は頷―――
「……な、なの……は?」
俺を庇うかのように、なのはは月村の視線上に立つ。
小さなその背中がやけに大きく見えてしまうのは、俺の気のせいか?
なのははすうっと一呼吸して、
「わ、わたしと勝負してください!」
……そんな事を言った。
<第十六話へ続く>
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