とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第四十三話






 シュテル・ザ・デストラクター、レヴィ・ザ・スラッシャー、ロード・ディアーチェ、ユーリ・エーベルヴァイン、ナハトヴァール。闇から暁へと変わりゆく、紫色の天を織りなすもの。

闇の書と呼ばれる魔導書に酷似した蒼天の書から誕生した彼女達は、プログラムの使命として主を探して聖地へと降臨。紫天の盟主を求めて、戦乱の舞台を彷徨い歩いていた。

魔導書の最深部に眠っていた旧きシステムの活動と、聖王のゆりかご起動の時期が重なった事からも、両者の関連が強い事が推測される。ただし推測であり、確かな証拠はない。


聖地を渡り歩いていた彼女達が同時期、聖地へ訪れた良介と対面。後に"聖王"と呼ばれる男を主と見初めて、偉大なる父であると認識。両者は家族となって、今に至る。


「――という訳だ」

「肝心な部分が全て憶測と推測でしか成り立っていないぞ、宮本」

「何度も言うように、俺に聞かれても困る。そもそもの話、聖地では何から何まで全て誤解でしか成立していないじゃないか。
最後の最後まで俺への誤解が解けなかったんだぞ、聖地では。俺も諦めて、ローゼとアギトの安全を確保すべく今在る立場に収まっただけだ」

「むっ……」


 露骨に困った顔をする、クロノ執務官。ガバガバ過ぎて大変申し訳無いが、これでも一応彼らへの誠意は見せている。なるべく嘘を付きたくないので、急所となる部分は誤魔化した。

実際あの魔導書は法術で改竄されてしまい、既に原型を留めていない。魔導書のシステムもシュテル達の起動で完全に書き換えられてしまい、既に別物と化してしまっているとの事。

俺と家族となる事がシュテル達の使命だという点も、本人達が心の底から望んでくれた生き方なので間違いない。聖王関連との繋がりについては、言葉通り推測だとまで報告している。


魔導書のシステムについて何も話していないが、そもそも俺も理解していないので嘘ではない。固有名詞を聞かされても、詳細を把握していないのであれば、知らないのと同じだ。


「しかしディアーチェさんのお話だと、リョウスケさんを魔導書の主として認識しているのは間違いないのですね」

「我ら全員、父として尊敬申し上げている。この感情をどう呼ぶのか、お前達の判断に委ねるとしよう」

「魔導書のシステムとして自律行動が許されているとしても、魔導書本体から命を受けているでしょう。それはどうなの?」

「我らを生み出した魔導書からは、何の干渉も受けておらぬ。ゆえに我らも自らの使命を持って、生き方を定めておるのだ」


 次元潜航艦アースラの提督であるリンディや、地上本部の辣腕捜査官であるクイントから鋭い指摘を受けても、ディアーチェに動揺はない。見事な貫禄で、堂々と対応している。

リンディ達の指摘は本来、俺がシュテル達に追求しなければならない事だ。夢とも呼べる精神世界の中でシュテルからの強制的な接触があり、法術を使うように脅された。

脅迫によって生み出された彼女達は約束を律儀に守って、俺を父と呼んで慕っている。折角法術を使ってまで誕生したというのに、彼女達は人生を謳歌するのみだった。


彼女達の指摘はむしろ俺が聞きたいくらいだったが、ディアーチェの返答は何も変わらなかった。今更真意を疑ったりしないが、この子達はうちの子でいいのだろうか。


「類似点が多くある以上、提督や執務官が疑ってかかるのは当然だ。ただし関連性が現状正確に見出だせない以上、捜査を行うのは難しい」

「引き続きで申し訳ないけれど、今後もリョウスケの協力を得るしかなさそうね」

「待て。どうして俺個人に協力を求めるんだ、手順を踏むのであればまず聖王教会に捜査協力を申し出るべきだろう」

「その提案事態は正しいが無茶を言ってやるなよ、息子よ。ウチのカミさん含めて全員、左遷されちまった身だ。教会へ協力を求めるのは厳しかろうよ」


 難しい顔をしているゼスト隊長やメガーヌ捜査官に一言言ってみるが、親父を名乗るゲンヤから苦笑いで反論されて黙り込むしかなかった。左遷組の悲哀とでも言うべきか。

まあ左遷は脇に置いておくにしても、聖王教会と時空管理局の現在の関係は繊細かつ微妙だ。"聖王"の降臨と聖王のゆりかごにより、聖王教会は歴史上かつてない隆盛を誇っている。

今でこそ自治領に甘んじているがこのまま勢力が拡大していけば、ミッドチルダ全土にまで宗教的影響力が広まっていくだろう。国教とまで発展するかもしれない。


無論権力を手にして胡座をかくような宗教組織ではないにしろ、片方の勢力が拡大すれば自然と対等な関係も変わってくる。国家間とも呼べる繋がりがあれば、特に。


そんな宗教組織に捜査協力なんぞ申し出てしまったら、時空管理局側の上層部をさぞ刺激する羽目になるだろう。関係を見直している今の段階で、独自の判断で接触すれば尚の事だ。

まして左遷組が協力を申し出たとあれば、上層部からどんな処罰が飛んで来るか分かったものではない。最高評議会も今ピリピリしているだろうし、イタズラに刺激するべきではない。


――何しろ連中の戦力であったジェイル・スカリエッティや戦闘機人に加えて、資金や支援者達まで丸ごと俺が奪ってしまったからな……自分でやっておきながら、気の毒になってきた。


「リョウスケさん。私達は貴方の事を一民間協力者ではなく、我々の仲間であるのと同時に大切な友人だと思っています。ゼスト隊長や捜査官の方々は貴方を命の恩人だと、感謝もしているわ。
その事を前提として率直に伺いますが、何故ディアーチェさん達の事を今まで私達に隠していたのですか?」


 なるほど、信頼しているからこそ誤魔化した事は不問に付してくれた。シュテル達の事は孤児のような言い方をして、これまではぐらかしてきたからな。

秘密だからといって、全てが企み事ではない。さりとて隠し事である以上、疑いを向けるのは当然。その疑いこそ、信頼を前提とした感情であるとリンディは胸の内を明かしてくれている。

額面通り取れば単に疑われていると警戒の一つもしていたのだろうが、リンディの真意をすんなりと受け入れることが出来た。案外、これも信頼といえるのかもしれない。


ならばせめて、この点については本音で語るべきだろう。俺は、素直に打ち明けた。


「ディアーチェ達の事については、先ほど説明した以上の事は俺にも分からない。となると、彼女達は言わば当時のローゼやアギトと変わらない立場である訳だ。
あんた達には打ち明けて相談しても良かったのかもしれないが、不確定なままで憶測を話すのは避けたかった。

そもそも当時、彼女達から意味も分からずに慕われたんだ。突然お父さんと慕われても、喜ぶどころか困惑してしまうよ」

「半ば押しかける形となってしまったからな、父には迷惑をかけてしまった。だがそれでも我らにとって、父と呼べる人間は一人しかいなかったのだ」


「では今になって、話せるようになったのは?」

「親権問題」

「なるほど、確かに養子縁組する君に娘達がいるのであれば身元を確認するのは当然の義務だ」


 当事者であるクイントやメガーヌを筆頭に、クロノ達から大いに納得されてしまった。まさか親権問題からこうして、魔導書やシュテル達の話にまで及ぶとは俺も夢にも思っていなかった。

自分の決断がこうも状況を進展させるとは、人生とはつくづく分からないものだと思う。こうして考えると養子縁組を決めたのは、むしろ幸いだったかもしれない。

親権問題に絡めなければ、シュテル達の事を打ち明けるタイミングはなかっただろう。クロノ達に先にバレてしまうよりも、自分から話せる機会が得られたのは幸運だった。


そして機を見るのに長けているうちのアリサは、ここぞとばかりに切り込んでくれた。


「皆様のお話ですとディアーチェ達本人よりもむしろ、その魔導書について警戒されているようですね。闇の書だと仰っていましたが、お聞かせ願ってもよろしいですか?」

「君達が疑問に思うのは当然だ。ただこの案件についてはロストロギア関連でありつつ、君達が捜査協力してくれている一件とはまた別となる。
僕も口を滑らせてしまい反省しているが、出来れば追求は控えてほしい」

「その口ぶりから察するに、単にあたし達が民間人である事だけが理由ではなさそうですね」

「出来れば僕達の知る魔導書と、君達の知る魔導書との繋がりを立証してから改めて説明したい。僕達も今、調査中の段階でもあるからね」


 口を濁すクロノ達を責め立てることはできなかった、お互い様というやつだ。だって俺達も、シュテル達や夜天の魔導書について深く説明していないからな。

こういう点が、交渉の難しいところだ。情報を得るには、情報を与えなければならない。だからといって等価交換を望むのは、お人好しのみ。大抵は手札をさらけ出さず、相手の札を見たがる。

交渉を間違えれば、交渉は打ち切られてしまう。政治家や商人はよくこんな交渉を毎度粘り強くやれるものだ。俺なんて毎回、頭が痛くなるというのに。


我が事であれば面倒がって逃げ出すのだが――自分の娘達と、大事な家族である守護騎士達の命運がかかっている。ヴィータ達を守るには、彼らから情報を得なければならない。


「仮にあの魔導書がお前達の言う闇の書だとすると、その主とされている俺は大丈夫なのか? あんたらの顔色を見る限り、少しも安心できないんだが」

「貴方の不安はとてもよく分かるわ、リョウスケさん。だからこそ何とか立証したいの」

「繋がりがなければ一安心だし、繋がりがあるのだと判明すれば早急に手を打たなければならない。君の力を借りてばかりで申し訳ないが、何とかあの魔導書を調べたい」


 ――彼らの善意につけ込む形で少し心が痛むが、チャンスだった。提督や執務官、次元世界を管理する優秀な人達が些細ではあるが弱みを見せたのだ。

罪悪感が芽生えるが、時空管理局が隙を見せたのであれば、剣士としてはここぞとばかりに切り込まなければならない。剣を振るしか出来ない剣士は、敵を斬ることでしか仲間を守れない。

交渉事において相手の要求を先に知れるのは、大いなるチャンスである。相手の望みさえわかれば、いくらでも付け込める。


「分かった、聖王教会には俺から直接申し出てみよう。徹底的に魔導書を分析させて、調査結果をあんた達に届けさせよう」

「本当か!? "聖王"である君の申し出とは言え、あの魔導書は聖遺物として扱われている。交渉には難儀させられるのではないか」

「クロノの指摘はもっともだ。だからこそ、あんた達も闇の書とやらの魔導書の詳細を提供してほしい。仲介する上で、照らし合わせるのに必要だからな。
勿論ロストロギア関連の情報とあれば、民間人である俺本人に直接渡すのは問題だろう。リーゼアリアを経由する形で、白旗に届けてほしい。

俺の立場を保証してくれる三役の方々が情報の秘匿を保証してくれれば、あんた達も安心だろう」

「なるほど、確かに御三方であれば確実だ。君個人への情報開示となると、どうしても秘匿性の問題は生じてしまうからな」

「はは、人の上に立つ立場となって随分気が回るようになったじゃねえか。頼もしい限りだ」


「さんざん痛い目にあったからな、いい加減学ぶさ。アリサ、細かい手続きなどはお前に任せる」

「はいはい、アリアと相談しておくわよ」

「教会への交渉については我に任せてくれ、父上。我が蹴り飛ばしてでも、重い腰を上げさせてみせようぞ」

「頼もしいな。ディアーチェが段取りしてくれるのであれば、俺は聖地の白旗に連絡を取って御三方に今の話を伝えるよ」


「君の協力に感謝する――宮本」

「な、何だよ、改まって」



「君がもし闇の書の主に選ばれたのだとしても、僕はどんな事があっても君の味方でいるつもりだ。その事をどうか、忘れないでほしい」



 そんなに恐ろしいブツなのか、あの魔導書。だったらむしろ、法術で改竄されまくったのは良かったんじゃないだろうか。過去に滅茶苦茶怒られた事が、納得できなくなるぞ。

とりあえず、アプローチの仕方は見えてきた。守護騎士達の立場を守るためには、魔導書の安全性をまず証明することから始めよう。

その上で闇の書についての詳細を時空管理局から引き出せれば、しめたものだ。交渉するにあたって、何事も情報がなければ始まらない。


簡単には解決しそうにない問題ではあるが、少なくとも一歩前進した。ただやはり気になるのはクロノが心底恐れている、闇の書の主。



八神はやて――管理局が恐れる危険な魔導書の影響が持ち主にすら及ぶのならば、あの子の体を調べたほうがいいかもしれない。















「はやて、ちょっと裸になってみてくれ」

「何や、その率直なセクハラっ!?」













<続く>








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